妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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ありがとう

日も沈みきり暗闇の中を目的地に向け歩いて行く。

既に人通りは絶えていた。

たまに見かけるのも巡回している兵士だけだ。

その度に呼び止められるがセネルと約束があると告げるとすぐに解放してくれた。

 

妖魔の気配も今の所大人しい。

今宵は人を襲わないつもりなのだろうか?

その事に幾分安堵しながら目的地へと歩を進める。

20分程歩いただろうか?

目的地に到着する。

そこは大聖堂から程近い大きな一軒家だった。

 

一度深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

ここでこの町とどう関わるかが決定するだろう。

覚悟を決めノックをする。

するとすぐに若い使用人らしき人物が出てきてすぐに案内してくれる。

きっと事前に俺が来る事を知らせていたのだろう。

全く待つ事なく応接間らしき部屋に通される。

応接間には柔らかく質の良さそうなソファが3つと良い物と一目で分かる机だけが置いてある。

他にある物といったら落ち着いた色合いの風景画と美しい花が飾ってある程度だろう。

部屋の構造も窓はなくドアは一つのみ、そのドアもどうやら分厚く音が漏れにくい作りになっているようだ。

応接間、それも何か秘密の話をするのに向いた部屋らしい。

その事に僅かに緊張する。

 

部屋の中では既にセネルが待っていた。

机に肘を付き、目を閉じジッとしている。

これから話すことでも考えているのだろうか?それとも町の事を?

そんなセネルの姿を見て再び不安に駆られる。

大丈夫だ

そう言い聞かせ不安をねじ伏せようとする。

 

案内されるがままにセネルの正面のソファに座る。

やはり良い物らしく柔らかく沈み込みながらも適度に弾力性を持っており包み込まれるような座り心地だ。

使用人らしき人物が優雅な仕草で退出していくのを横目で見ながら話しかける。

 

「こんばんは、セネル……久しぶり、だな」

 

セネルが目を開ける。

一瞬視線が絡まる。

そこに見えたのは何だったのだろうか?

判別できる前に視線は外れる。

 

「……ああ、久しぶりだな」

 

真っ直ぐと背筋を伸ばし相対する。

セネルも姿勢を正し、続ける。

 

「良く来てくれた。もしかしたら、来ないかも知れんと思っていたが……」

「……古い友との再会だ。時間ぐらい作るさ」

 

セネルがふっ、と小さく笑みを浮かべる。

その顔に重ねてきた苦労が垣間見える。

 

「そうか、いやそうだな。それが普通だな」

「迷子を送り届けたら友人に再会した、俺にとってはそれだけなんだ」

 

言外に俺は何もする気はないと伝える。

同時にお前たちはどうするのだ?と問い掛ける。

セネルは俺が妖魔である事を知っている筈なのだ。

その上で拘束もせずに町へと招いた。

あっさりと解放されたのだってセネルが手を回したためなのではないだろうか?

だからこそ(・・・・・)何か意図がある筈なのだ。

 

「助けて欲しい」

 

一瞬の沈黙の後セネルが絞りだすように言葉を紡ぐ。

無言で先を促す。

 

「……今、この町には妖魔が居る。それを倒す、いや見つけて欲しい」

 

お前ならできるだろうと言外に言われる。

確かに俺ならできる。

そしてここまではある意味予想通りだ。

いや、予想の中でも最良の部類に入るだろう。

どちらにしろ俺はこの町の妖魔をどうにかするつもりだったのだ。

それに要求も想像以上に穏当だ。

もっと高圧的か脅迫してくる事も覚悟していたのだが……

 

「何故クレイモアを呼ばない?そっちの方が良いんじゃないか(・・・・・・・・)?」

 

いくら町を救うためでも、いや救うためだからこそ妖魔である俺よりもクレイモアを使うべきな筈なのだ。

何せこっちは完全な黒、クレイモアはグレーだ。

多額のお金が掛るとは言ってもこの町であれば問題などない。

貧乏な村の全財産程度そこらの司祭が個人で所有しているのだ。

まぁ、予想はしている。

金を払う事自体がダメなのだろう。

妖かしのモノに協力を願う、その行為自体が許せないのではないだろうか?

 

「無理だ、金が出ない(・・・)

「金が出ない?どういう事だ?宗教的な物――妖かしのモノに頼りたくない――とかじゃないのか?」

「確かに教条主義な者がそう言った主張をしているが、それは多数派ではない」

 

どういう事だ?

聖なる都ラボナは一切の妖かしのモノを排除しているんじゃなかったのか?

そう言えば今までも違和感はあった。

認識の違いとでも言うのだろうか?

妖魔は最悪に質の悪い害獣でクレイモアは強欲で不気味な駆除屋、その程度(・・・・・)の悪意しか感じなかった。

もちろん被害者やその周りはもっと憎悪していた。

しかし、それ以外の人間からはそこまでは感じなかった。

漫画ではなく本物の世界だからこその違いなのだと思っていたのだが、そうではないのか?

 

「実際私の義父――司教を務めている――はそう言った主張をしている。とは言え多数の反対派を抑えきれる程強権的に振る舞う事などできない」

「……待て、お前の義父はこの町の実質的なトップ、なのか?……いや、それよりも教条主義者が多数じゃないなら一体何が問題なんだ?」

「だから、金が出ないんだ。ついでに答えておくと義父がこの町の重要人物であるのは間違いないな」

「どうして金が出ないんだ?」

 

セネルがどうしてラボナのトップを義父と呼ぶようになったのかは非常に気になる所だが今は何故金が出ないかだ。

声を顰め、不快感を顕にしながら吐き捨てるように俺に胸糞悪い真実を教える。

 

「……被害者がスラムの住人だからだ」

「……邪魔な人間を殺してくれているから放置しているって事か……」

 

セネルが無言で頷く。

ようやく話が見えて来た。

現在妖魔がこの町に居るが被害はスラムに集中しているのだろう。

そしてスラムに住む人間はこの町にとって利益を生む人間ではない。

むしろ積極的な施しを教義に掲げている所為で負担になっているのだろう。

犯罪率も高く、益もなく負担ばかりが大きい。

そんな人間を勝手に減らしてくれるのだ。

町の有力者からすれば感謝したいような行為、って訳だ……胸糞悪い。

俺がこの町の裏事情を理解したことを見て取ったのだろう。

再びセネルが頼んでくる。

 

「助けて欲しい、例えスラムの住人であろうともラボナの人間なんだ……」

「……分かった。手伝うよ」

「ありがとう、やはりお前は俺の知っているレイなんだな……あの時(・・・)も変わってなんかなかったんだ……」

「……俺は俺だ。俺以外の何者にも成り得ないしなるつもりもない」

「そうか、そうだな……ああ、そうだ、これはもっと早く伝えるべき事だった」

 

そこでセネルは一度言葉を切る。

そして立ち上がり俺の手を取る。

 

「ありがとう」

 

その言葉には長年に渡る万感の思いが篭っているように感じた。

 

「お前が居なければ私は()を永遠に失ってしまう所だった。そして街を守るために戦ってくれた事を感謝する」

 

それはこの町(ラボナ)での事ではなかった。

こちらの世界での故郷(カタント)での事だった。

 

「街の多くの住人がお前に感謝していた。そしてすまない、私達は町を守ってくれたお前を恐れてしまった……」

「そうか」

 

頬を何かが撫ぜる。

いつの間にか涙が零れていた。

今まで感じていた罪悪感が涙に洗い流されたように感じる。

 

「そうか」

 

もう一度呟く。

思いが詰まり言葉が出ない。

 

「ありがとう」

 

ようやく出てきた言葉は感謝の言葉だった。

 

「感謝はこっちがすべきなのだが……もう一度、いや何度でも言おうありがとう、カタントを守ってくれてありがとう、そして今度もまた助けてくれてありがとう」

 

本当の意味で俺達はそこで再会したのだった。

それからの時間はあっという間に過ぎた。

話す事はいくらでもあった。

話したい事もいくらでもあった。

俺達は夜遅くまでいつまでもいつまでも語り合うのであった。




ようやく次回初めての原作キャラが出てくる筈です。
おそらく誰も予想もしていない人ですが(と言うか私も)……

当初の予定ではここまでで10話以内に終わらせようとしていたんですが、倍以上かかってしまいました。
サクサク進めて終わらせるつもりだったのに……

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