妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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逢着

先程まで居た廃墟のある場所から十分に距離を取ることができたと判断した俺は静かに着陸する。

どうやらあの若いクレイモアは追ってきていないようだ。

妖気から判断するにまず回復を優先させていると思われる。

 

「ふぅ」

 

安堵の息を漏らす。

地面にへたり込む。

まだ安心できないが取り敢えず逃げる事はできた。

しかし、危なかった。

疾いし、強い

今回は上手く行ったから良いが、もし正面からやり合う事になったらどうなる事やら……

まだ、幾つか切り札や手があるとは言えかなり厳しい事になっただろう。

大分強くなったから今ならジェシカとだって勝てないにしてもやり合えると思っていたのだがな。

 

「……まだまだ、か」

 

生死の境を彷徨った所為か全身から重い疲労感を感じる。

だが、悪くない。

盗賊共を殺す時のような嫌な疲れ方じゃない。

どこか気分の良いとさえ言えるような疲れだった。

気合を入れ直し足の修復に入る。

どうにか切り落とされた先を回収する事ができたからそう難易度は高くない。

傷口をしっかりと合わせて妖力を解放する。

傷口から妖力を伸ばすようにしてくっつけていく。

こんな生活を始めた当初は傷を負う事なんて日常茶飯事だった。

既に切り落とされた部位の修復はお手の物だった。

さして時間も掛からずに当面問題ない程度に修復される。

 

再度妖気をしっかりと探るが、未だにクレイモアは先程の場所から動いていない。

どうやら傷の修復は慣れていないらしい。

これ幸いと妖気を限界まで抑え街道へと歩き始める。

 

「さて、これから何処に行くか……」

 

選択肢は幾つかある。

まず、当初の予定通りに近隣の盗賊を叩きに行く

次に、砕かれてしまった剣の代わりを手に入れに行く

それともさっさと隠れるか……

まぁ、盗賊を叩きに行くのはないだろう。

偶然か必然かまだ分からないがクレイモアに狙われているのだ。

しばらくは大人しくしておくべきだ。

とは言えただ隠れると言うのも面白くない。

いつ見つけられるのかとビクビクしながら過ごすなど御免被る。

ふむ、しばらく盗賊は放っといて剣を手に入れに行くか……

 

そう決めると目的地もハッキリしてくる。

北にあるディアンかラボナか、やはりこの大陸で剣と言ったらこの二つの街の名が上がるだろう。

鉱山の街でもあるディアンは良質な鉄とそれを扱う製鉄のメッカとでも言うべき街だ。

実用性に富んだ戦闘用の武器が欲しいならディアンだと言われている。

大してラボナはこの大陸の叡智が集まる場所だ。

その中には当然武器の知識だってある。

何より大陸有数の武装集団である聖域守護兵団を抱えている事は大きい。

何せ安定して武器が求められる環境なのだ。

巡礼者も護身用に聖別された短剣を手に入れていくと聞いている。

若干儀礼色が強く装飾が華美な物が好まれるようだがディアンの剣にも引けは取らないだろう。

 

どちらに行くか?

目的に沿っているのはディアンだ。

しかし、ここは大陸の南端、ディアンは当然北の果てだ。

どうせラボナの近くを通ることになる。

ならば取り敢えずラボナを目指す事にする。

ラボナで良い物が無ければディアンへと足を伸ばすことにしよう。

そう決めて歩き出す。

時間はさして問題ではない。

それよりもクレイモアと遭遇しない事を優先するべきだろう。

できれば黒服などの組織の人間にも気付かれたくない。

ならば騒ぎを起こさないように慎重に妖気を探りながら行こう、そう思う。

 

が、計画は早々に破綻する。

街道に出てすぐの事だった。

小規模なキャラバンに行き会ったのだ。

それだけなら見つからないように迂回するだけの話だ。

しかし、そのキャラバンに子供の入った檻が含まれていたのだ。

そうこのキャラバンは奴隷商人の物だった。

方向から察するに俺が全滅させた組織の可能性が高い。

倒すべきだろう。

とは言え妖気を解放する訳にはいかない。

時間を掛けるのもマズイ。

距離があるとは言え近くにあのクレイモアが居るのだ。

さして護衛の数も居らず本来であれば問題ではない。

しかし、妖気を解放なしかつ疲労した状況では若干厳しい。

が、囚われている子供を放っておく訳にもいかない。

 

「……やるか」

 

とは言え馬鹿正直に正面からやり合うつもりはない。

そこで後ろを気にしながら恐怖に引き攣った顔でヨタヨタと走る。

すぐにキャラバンの護衛が気付く。

しかし、こちらは一人な上に何かから逃げている様子、俺に対する警戒はさして大きくない。

 

「おい!どうしたんだ?」

「よ、妖魔だ!!妖魔が出たんだ!?助けてくれ」

 

いかにも助かったと言った表情で泣きながら護衛の一人にすがり付く。

俺の言葉を聞いた護衛が焦りだす。

仲間に合図を出し集める。

 

「妖魔だと!?」

「そうだよ!!妖魔が出たんだ!!俺を追ってきてる!?きっとすぐそこまで来てるんだ!?」

「何だと!?」

 

俺が真剣な顔で今走ってきた道の先を指差す。

護衛が集まってきて対応を話しだす。

恐怖を感じているようだがそれに飲まれていない。

なかなか優秀な護衛のようだ。

しかし全員の視線は妖魔が来ると言われた道の方に向いていた。

俺は一瞬だけ妖力を解放し爪を伸ばす。

完全に注意が削がれた背後から護衛の心臓を一突きにする。

護衛は8人、一人に一本使ってもなお爪は余っていた。

 

「なっ!?……キサマが、キサマが!妖魔だったのか!?」

 

護衛の一人が血反吐を吐きながら叫ぶ。

護衛が取り落とした剣を拾い、まだ生きていた護衛の首を刎ねる。

後ろで震えていたブクブクと太った商人に剣を突き付ける。

 

「鍵を開けろ」

「ヒィ!?い、命だけは、命だけは」

 

命乞いするだけで動く様子がないので再度鍵だ、と言いながら少し剣を首筋に食い込ませる。

するとその肉団子のような外見からは想像できない程俊敏に動き、鍵を開ける。

中から数人の子供が出てくる。

が、その瞳は恐怖に染まっており、解放されるやいなや一目散に逃げ出していく。

そのいつも通りの様子に少しだけ落ち込む。

 

「どうか命だけはお助けを!!」

「……ハァ、ダメだ」

 

剣を振るう。

おちおち落ち込む事もできやしない、そんな事を思う。

いつもなら後始末もちゃんとしていくのだが僅かとは妖力を解放したし、早くここから立ち去るべきと判断する。

足早にキャラバンから離れようとする。

 

「待って!!」

 

子供の声に呼び止められる。

気付いていなかったが檻の中にまだ逃げていない子供が居たらしい。

檻の中から二人の子供顔を覗かせていた。

男の子と女の子、よく似た顔立ちをしていた。

おそらく兄妹だろう。

どうやら男の子の方が足に怪我をしているようだ。

檻にしがみつくように立っている。

怪我の所為で逃げ遅れたのだろう。

 

「兄ちゃんって、今噂の正義の味方だろ!?」

 

何か用なのか無言で待っていたらそんな事を言われる。

 

「……正義の味方?」

 

自分とは程遠い呼称に唖然とする。

 

「そうなのです。正義の味方なのです」

「今、話題何だぜ!!悪党を倒す正体不明の正義の味方って!!で、兄ちゃんがその正義の味方なんだろ?」

「確かに盗賊を倒したりはしたが、俺はそんな人物じゃ……」

「ほら!やっぱりそうなんだ!!うわぁ~正体見ちゃったぜ!!」

「テッド兄、正義の味方さんが困っているのですよ。そんなにはしゃがないのですよ」

 

何やら自分の行動が変な噂になっていたようだ。

勘違いを解こうとするが子供達は聞く耳を持っていない。

しかし、こんな肯定的に受け入れてくれたのは初めての事だ。

 

「怖くないのか?」

 

気付いた時には俺はそう聞いていた。

聞かれた二人はキョトンとした表情で聞き返す。

 

「何でだ?正義の味方の兄ちゃんは助けてくれたんだろ?」

「ダメダメなテッド兄にしては良い意見なのです。助けてくれてありがとうございますなのです」

 

それは今までにない不思議な感覚だった。

だが、悪い物ではない、そう素直に思えた。

 





次回更新も近い内にします。
と言うかして見せます。

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