妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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ありがとうございます。
こんな拙い作品を読んで頂いて、そしてこんな評価して頂いて感無量です。


揺光

ジェシカとバイナプラの街で別れてから早一週間、俺は山の中にいた。

バイナプラはこの大陸の北東部にある最大の街だ。

この大陸は歪な十字架の形をしているが、その十字がクロスしている部分、付け根付近にある。

区分としては中央部ートゥルーズーの最北東である。

地図上から見ると北部と東部そのどちらにも近いこの街だが、実際には険しい山脈に阻まれ北部との繋がりはない。

そして、東部も組織があるためか大きな街などは存在せず小さな村が所々に点在するだけである。

そのために地域間の繋がりは薄く中央からの距離と比べると辺境の地、と言った趣である。

 

同時に自給できるだけの資源と産業が整っているため比較的余裕があり他の地域とは若干違う文化を持つ。

その最たる物が主食であろう。

大陸の大半が小麦を中心としたパン食であるのに対しここ北東部では豊富な水資源を利用した米食が中心なのである。

このバイナプラの街も米を主とした穀物を生産する穀倉地帯であり北東部の食糧を賄っている。

ついでに言えばカタントの街は鉱山がある街と海に面した村を繋ぐ交通の要衝であり工芸品や織物などを供給している工業の街である。

 

バイナプラの西部にはピエタ、そして北部へと繋がる街道がある。

街道とは言っても多少歩きやすい程度の山道だ。

北部へ向かうには山脈の切れ目にあるピエタの街を通過するのが一般的である。

と言うかそれ以外のルートは人が踏破するには厳しい峻厳な山並みを通ることになる。

そんな山脈を迂回してピエタに向かう街道なのだが、山脈を全て迂回できる訳ではない。

むしろ街道のほとんどが険しい山の中を通ることになる。

そのためにバイナプラと北部の貿易は決して盛んではない。

しかしそれでも通る商人の数は少なくはなかった。

 

俺はそんな街道の近くの山の中にいるのだった。

何故こんな山の中にいるのか?

その理由は簡単だ。

ここに盗賊ー山賊と言うべきだろうがーの根城があるからだ。

元々街道には野党や追い剥ぎといった盗賊が出没する。

この山の中にいる奴等もそう言った輩だ。

盗賊退治が頻繁に行われる程交易が盛んではなく、かと言って人通りが少ない訳ではないこの街道が盗賊共にとってちょうど良かったのであろう。

 

盗賊や山賊と言った輩は全く生産性がない連中だ。

ただ奪うだけなのだ。

暴力団やマフィアのような一種の必要悪な場合もある存在ですらない。

ただのゴミと言っても過言ではないだろう。

そう、俺はゴミを掃除しようと言うのだ。

 

盗賊退治で一体何が難しいだろうか?

それは隠れている盗賊を見つけることだ。

しかし俺にとって盗賊を見つける事は容易だった。

妖魔の力を使えば良いのだ。

妖魔の力の内一体何が恐ろしいか考えたことがあるだろうか?

戦闘力?

再生能力?

否、確かにそれは恐ろしいだろう。

しかし、それらは鍛えれば普通の人でも倒すことができる程度の物だ。

 

では何か?

簡単だ。

人に化けることだ。

住人に成り済まし人を襲う、これが恐ろしいのだ。

そしてもう一つ妖魔には恐るべき能力がある。

成り済ました相手の記憶や思考パターンを再現できるのだ。

さて、この恐るべき能力は一体何に最も役立つだろうか?

諜報活動だ。

尋問や拷問など必要ない。

成り代わって記憶を手繰るだけで良いのだ。

ほとんど何の労力もなく隠していた秘密を知ることができる。

俺はこの能力を最大限に利用したのだ。

 

盗賊であろうとも襲って奪ってそれで終わりとはいかない。

売却する必要があるのだ。

それが食糧や金貨ならさして問題ないであろう。

実際小規模な食うに困った程度の盗賊ならそれで満足するだろう。

しかし、ある程度規模が大きくなり、職業としての盗賊を行う者はどうだろうか?

その他の金品、例えば宝石、あるいは織物など換金しなければ役に立たない物も狙いたいと思うのは当然だろう。

そして狙うならば当然そう言った盗品を扱ってくれる商人がいるのだ。

 

少量であれば普通の商人でも扱ってくれるだろうが大量に怪しい品物を扱いたいと思う商人は少ない。

盗品を扱うことはリスクを伴うからだ。

いくらこの大陸に統括された警察組織がないとは言え、街ごとの自警団などは存在するのだ。

それに警察組織が未熟だからこそ信用が重要になってくる。

盗賊と繋がっているなど知られたら深刻なダメージを負うことになる。

 

だからそ普通の商人は扱ってくれないような怪しげな物でも利益のために扱うような悪徳商人を確保しておく必要がある。

そしてそう言った悪徳商人を探せば他の盗賊と繋がっている可能性も高い。

何故ならばそんな悪徳商人が数居ても儲けは少なくリスクだけが大きくなるからだ。

であれば悪徳商人を一人見つければいくつかの盗賊団もまた見つかれる可能性が高い。

 

そして悪徳商人を見つければ喋ってくれなくても問題はない。

悪徳商人の記憶に聞けば良いのだから……

 

この方法を思いついたのは偶然だった。

カタントの街を襲った盗賊共の事を思い出すと今でも腸が煮えくり返りそうになる。

しかし、その盗賊共がいたからこの方法を思いついたのだ。

……とは言え盗賊が居なければこんな事をする必要もなかったのだが

 

盗賊共を駆逐した時に何人か頭を丸かじりしたのだが、その際にごく僅かではあるが盗賊の記憶が流入してきたのだ。

そして、運が良い事にー悪いのかも知れないがー喰ったのが会計のような奴だったらしく取引している商人に関する記憶があったのだ。

かなりあやふやで断片的な記憶だったがそれでもどこの商人で何て名前なのかぐらいは分かった。

後は簡単だ。

その商人を探しだして他の盗賊の情報を得るだけだ。

 

そして悪徳商人を探すのも簡単だった。

何せバイナプラに居たのだから。

まぁ、考えてみれば当然なのかも知れない。

街を襲った盗賊はカタントに大金がある事を知って襲撃して来たが、元から近隣に居た盗賊だったのだ。

じゃないと大金の情報も手に入らないし、妖魔事件の傷が癒える前、こんなに迅速に襲撃される事はできなかっただろう。

 

そして、バイナプラは近隣では最大の街だ。

いくら何でも小さな村に盗品を扱うような商人はいない。

ならばカタントと街道が繋がっており近隣では最大の街であるバイナプラを拠点にしている事は何もおかしな事ではないのだろう。

バイナプラでなければカタントの可能性が高いのだがそうなると困ったことになるのでここで良かったのだろう。

 

まぁ、ともかく俺は悪徳商人を見つけたのだ。

そして、闇夜に紛れて襲撃したという訳だ。

ここまでは順調過ぎる程順調に進んだ。

せいぜいこの前の一件からほとんど人を殺すことに抵抗がなくなっていることに気づいて化け物(妖魔)なのだなと再認識して落ち込んだ程度だ。

 

ここで問題が起きた。

と言うか問題に気付いた。

前回の事から脳を丸ごと食べてもごく一部の記憶しか分からない事は分かっていた。

だが、今回は完全な記憶が欲しいのだ。

どんな盗賊等の悪人とどこでどんな取引をして、その悪人共が一体何処にいるのかまで知りたいのだ。

 

そのための方法は何となく理解る。

身体を乗り換えれば良いのだ。

そう実行前は特に何も考えずにそう思っていた。

しかし、いざ実行する段階になるとある疑念が頭をもたげる。

 

……果たして身体を乗り換えて俺は俺のままでいられるのか?

 

分からない。

俺という存在が一体何なのか俺には分からない。

何故妖魔なのに人間としての意識があるのか?

何故前世の記憶など持っているのか?

何故この世界に居るのか?

全てが分からなかった。

それでも俺は生きていたかった。

俺は俺として生きたかった。

俺は自分が自分でなくなる事が恐ろしかった。

だから妥協した。

 

許されざる妥協だ。

俺は情報と自己の保身その両方を最大限に追求するために他の全てを蔑ろにする事にしたのだ。

悪徳商人を尋問ーいや拷問と言った方が正しいかーした後に部分的でも記憶を得るためにその脳を丸ごと喰らったのだ。

 

いくら盗賊と取引していたとは言えこの商人自体は悪事に手を染めていた訳ではない。

染めていたとしても拷問されて恐怖と絶望の中殺される程では決してない。

……いや、例え許されざる”悪”であろうとも俺に裁く権利などない。

理解っていた。

だが、それでも俺はそれを選択したのだ。

 

だからこれは自業自得なのだろう。

確かに当初の目論見通り情報を得る事ができた。

商人の記憶も部分的ではあるが手に入れた。

 

問題はこの記憶(・・・)だった。

商人の記憶が俺に流入した……いや、混入したと言うべきだろうか?

混ざり合い自分の記憶と区別することができないのだから。

僅かではあるが自分が誰なのか曖昧になったような感覚がある。

今はまだ問題ない。

しかし、こんな事を続けていれば何れ自分を見失ってしまうだろう。

確かにこれは問題ではある。

しかし、今すぐにどうにかなるという話ではない。

 

では何が問題なのか?

記憶の中身(・・・)

混入した記憶には俺が行った拷問の記憶もあった。

当然だろう。

最も新しく最も鮮烈で苦痛に満ちた記憶なのだ。

 

だが、俺はそれを全く予想していなかった。

だから何の覚悟もなく脳を喰らった。

……最悪の気分だった。

商人が抱いた苦痛が憎悪が自分の事として感じられるのだ。

自分で自分を敵として憎悪する。

味わったことのない、二度と味わいたくもない最悪の体験だった。

 

だが、分かった事も多い。

当然盗賊共に関する情報も得られた。

何より他の街に居る悪徳商人の情報も得られた。

これでこの商人が知らなかった盗賊の情報を得る手掛かりも得られたのだ。

 

俺は確信した。

部分的な記憶の流入ですら自分を見失うかも知れない危険性があった。

ならば身体を乗り換えたりすれば俺は俺ではなくなるだろう。

長生きしたいのなら無理をするべきではないと思う。

だが、今はこの全てを焼き尽くそうとする怒りに身を委ねていたい。

 

山の中にあった盗賊のアジトを発見する。

どうやら自然にできた洞窟を利用しているらしい。

奇襲するのは困難な地形だったが元から5人程度の小規模な盗賊だ。

寝静まった頃を見計らって見張りに躍り掛る。

完全に気が抜けていたのかほとんど何もできずに切り捨てることに成功する。

しかし、断末魔が山に響きわたってしまう。

さすがにこれで気付かれてしまっただろう。

もう一人ぐらい殺っておきたかったのだが……

そう思うが気付かれてしまったものは仕方ない。

割り切り洞窟内に侵入する。

どうやら思いの外洞窟は広いらしい。

人が横に二人並んで余裕がある程度の幅と剣を振ってもまず引っかからない程度の高さがある。

中がどうなっているのか分からないので慎重に歩を進める。

しばらく進むとドタドタという騒ぎが聞こえる。

 

「おい!さっきのは何だ!?」

 

奥から盗賊の仲間が出てきた。

人数は4、情報通りだ。

やはり先程の悲鳴で気付かれていたようだ。

しかし、まだ事態は把握しきれていない。

押取り刀で出てきた盗賊に一人に突きを繰り出す。

出会い頭の先制攻撃に盗賊は為す術もなく一突きにされる。

 

「グギャッ、ぁあああアアア!!」

「ア、兄貴!?」

 

まだ生きているようだが、しばらくは動けないだろうと判断し、剣を抜くために蹴り飛ばす。

態勢を整えるために一歩後退し剣を構え直す。

ようやく事態が飲み込めたのか盗賊共もそれぞれの武器を取り出している。

 

「キサマ!何モンだ!?どっかの自警団か?雇われの傭兵か?」

 

盗賊の頭らしき人物が凄んで来るが気にせずに再び突きを放つ

が、掠る程度でいなされてしまう。

反撃が飛んでくる。

しかし、まだ動揺しているのか腰が入っていない。

軽く避けてそのまま返す刀で小手を斬る。

浅い当たりだったがそれでも(妖魔)の力からすれば十分だ。

ざっくりと筋まで押し切る。

たまらず剣を取り落とす盗賊

これで残り2人

そこまで減らされてようやく自身の窮地を実感したのか急に盗賊の動きが良くなる。

見事な連携で斬り掛かってくる盗賊達

僅かな時間差での別方向からの攻撃は最初の袈裟斬りを受ければ次の下段からの斬り上げをモロに喰らうことになる。

だからと言って袈裟斬りを受ければ斬り上げを喰らい、避ければ大きく態勢を崩す事になる。

態勢を崩しても避けるべきだろうか?

 

 

人間であればその選択肢しかないだろう。

しかし俺は妖魔(化け物)だ。

ならば化け物らしい手段で押し通る。

行った行動は二つ

指を伸ばして袈裟斬りにしようとしていた盗賊を壁に貼り付ける。

同時に一歩前に踏み出し斬り上げの動き始めを小手で受ける。

カキン、そんな硬質な物を叩いたような音をさせ斬り上げが止められる。

驚愕した表情の盗賊を返す刀で切り捨てる。

 

いくら勢いが弱いとは言え本来であれば切り裂けた筈だった。

その筈なのに弾かれた。

タネは単純だ。

単に小手を硬化させただけだ。

覚醒者の中には大剣(クレイモア)でさえ弾くような硬い覚醒者もいる。

基本的に妖魔も覚醒者と同じ材質でできている筈だ。

ならば身体を操作する事の応用で硬くする事だってできる。

それを行っただけだ。

要は某鋼で錬金術なマンガに出てくる強欲な人の能力を想像すると大体合っているだろう。

 

最も硬度はまだまだ実用性に欠ける。

勢いもない、力もないナマクラな剣の斬り上げがせいぜいだ。

大剣(クレイモア)など喰らえば何の問題もなく切り裂かれてしまうだろう。

だが、方向性は理解った。

 

妖魔としての力を最大限に発揮出来れば十分に戦える。

その高揚感を感じながらまだ生きていた盗賊共に止め刺していく。

漂う芳醇な血の匂いに食欲を刺激される。

しかし、我慢する。

限界まで俺は人を喰らわない。

そう決意したからだ。

俺は化け物ではあっても人を喰らう化け物に成りたくはないのだ。

意味のない枷なのではないかとも思う。

しかしそれでも俺はそう決めたのだ。

これは罪の意識なのだろうか?

自分でも分からない、それでも……

俺は動く者の居なくなった洞窟の中、揺れ動く心を抱えたまま立ち去る。

そしてその姿は深い闇に飲まれて消えていくのだった。

 

 




軽いアンケートです。

1. 組織を打倒して欲しいですか?(クレイモアの物語に介入して欲しいですか?)

2. ジェシカに生きていて欲しいですか?

3. レイに幾つか技を覚えさせようと思っているのですが、その候補の一つに装甲悪鬼村正の正宗から正宗七機巧の幾つかを覚えさせようと思っているのですが、それについて意見あるいはこんなのの方がという提案

4. こうすればもっと良くなるよ、あるいはここが変、嫌い、改善点など

5. ご自由にご意見

以上を聞かせて頂けると幸いです。

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