妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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何故こんなに長くなった……
軽くジェシカ視点をと思っただけなのに

前話、予想はしていましたが人気がありませんでした。
鬱々と暗い話が続いた所為だと思うのですが、物語には必要な話だと思っています。



鬼胎

side ジェシカ

翌日、私達は再び歩いていた。

一見昨日までと全く変わらないように見える。

だが、明らかに違った。

昨日までのあの気不味い雰囲気がなくなっているのだ。

確かに昨日と同様に会話はない。

しかし、それを互いが気に病んでいる気配がないのだ。

最大の原因はレイの変化だろう。

何故か昨日までの鬱々とした雰囲気が一転して明るくなっているのだ。

おそらく昨日の模擬戦の後に言った事でレイは何かを得たのだろう。

それが正しい物であると良いのだが……いや、それは私が言うべき事ではないのだろう。

そう、街を見捨てた私が言うべき事では断じてない、そう思う。

私にできる事はレイが正しい道を歩む事をただ願い祈るだけだ。

それに今にも自殺しそうなぐらい暗かったのが悩みが吹っ切れたのか明るくなったのだ。

それが悪い事である筈はない。

自分の所為ではない事を抱え込んで苦悩しても間違った方向に行くだけなのだから……

 

それにしてもこの地方から離れる事になったからその前にちょっと会おうと思っただけだったのにな……

偶然、そう言って良いのだろう。

私はほんの気まぐれでレイに会いに行ったのだ。

そして見てしまった。

盗賊が街を襲撃するのを

そこに有ったのは人間の悪意の発現だった。

 

もっと楽をしたい

ひたすら奪いたい

より金が欲しい

ただ弱者を虐めたい

さらに暴力を振るいたい

 

そんな悪意が街中に溢れていた。

街の兵士達は悪意の奔流を必死に押し留めようとしていた。

しかし、多勢に無勢、押し流されてしまう。

助けられなかった。

例え盗賊のような悪人であろうとも人を殺していけない。

助けたい

とは思わない(・・・・)。思ってはならない(・・・・)

思えば潰れてしまう。

この大陸に人の悪意は溢れていた。

こんな悪意は見慣れた、ありふれた物だった。

 

だが、ただ悲しいとは思った。

この世に悪意が溢れている事はただ悲しい。

私には既にそれに抗う意志はなかった。

……いや、初めからなかったのだろう。

ただ悪意に流されここにいる私には……

 

だが、だからこそだろう。

妖魔でありながら悪意に流されずに抗う(レイ)を好ましく思った。

その時も必死に抗っていた。

その胸に正しき怒りを抱き、ただ抗っていた。

それに手を貸したいと思った。

しかしそれはできない。

私は私が可愛いかったのだ。

だから私はただ見続けた。

見続けることしかできなかった。

 

終わった。

そう思った。

レイが妖魔となって戦い始めたのだ。

いや、蹂躙と呼ぶべきだろうか?

怒りに身を任せ暴虐に力を振るっていた。

しかし、決して街の兵士は傷付けていない。

中には妖魔と分かるや盗賊を放ってレイに挑んでいる兵士も居たにも関わらず、だ。

刃を向けてきた者を傷つけずに無力化する、この難しさは語るまでもないだろう。

それを囲まれている中で行っていたのだ。

……実力が足りないにも関わらず。

今も剣を無理矢理止めなければ体勢を崩さずに済んだのに……

無理をしているせいで自分は無闇に傷を負っていた。

悪意の中にあっても、自らが傷つこうとも、それでも尚自らの正義を貫く、その姿は眩しかった。

傷つきながらではあるが既に大勢は決していた。

この調子でいけば盗賊は殲滅されるだろう。

……だが

レイはこの街に居ることはできなくなった。

この歪ながらも妖魔と人間が共存していた世界は崩壊したのだ。

 

 

それをレイも理解していたのだろうか?

街の住人に囲まれ傷だらけになりながら血の海に立ち尽くすレイは唐突に逃げ出したのだった。

私はレイを追いかけた。

 

疾い

 

傷だらけで今にも倒れそうなのに圧倒的に疾かった。

少し本気を出さなければ付いていくことが難しいほどだ。

さっきの蹂躙の時も想像以上に良い動きをしていた。

それ以前の戦いとは別人と思えるほどに良い動きだった。

おそらくあれがレイの限界の動きなのだろう。

あの動きは私とほぼ同等と言っても過言ではないぐらい良かった。

まぁ、妖力解放すれば敵ではないが、末恐ろしいとは思った。

成長すればナンバー10ぐらい倒せる可能性があるという事なのだから……

だが、同時にそれが楽しみだとも思った。

願わくばこの悪意に満ちた世界に風穴を開けて欲しいと思った。

……さすがにそれは願いが過ぎるだろうか?

 

力尽きたのかレイが前触れもなく倒れた。

私の目の前に傷つき倒れたレイがいた。

見れば見るほどボロボロだった。

まず左腕が根本から無い。

斬られて千切れかけた腕を剣が振れないなら、と腕自体を振り回したのだ。

当然数度で引き千切れた。

腹には剣が突き刺さったままだ。

あれは盗賊から兵士を守った時にその兵士に突き刺されたモノだ。

他にも兵士を庇った所為で全身傷だらけだ。

そんな姿のレイに私は近付けなかった。

傷を恐れた訳ではない。

纏っている雰囲気が近付けさせなかったのだ。

 

「ジェシカか……」

 

レイが私の名を呼んだ。

その声にゾッとした。

この世の空虚がそのまま音になったような何も感じさせない声だった。

 

「殺してくれ」

 

レイは絶望しているのだろうか?

望み通りにした方が良いのだろうか?

彼が生きていて良いかなど私には分からなかった。

だが……私は生きていて欲しい。私には彼を殺せない、そう思った。

その事をただ伝えた。

 

「……そうか」

 

それだけ今にも消えそうな声でレイが言った。

その時レイが何を思い、何を感じていたのか、私には理解らない。

彼の慟哭は私の胸に染み込むように広がっていった。

私には何もしてやる事はできなかった。

ただ……彼が眠るまで側にいる事ぐらいは許されるだろう。そう思った。

 

眠ってしまった彼にそっと手を置いた。

妖気の流れが酷く乱れていた。

その流れを出来る限り正常に近い状態に治した。

……ここまで乱れているとすぐにまた乱れてしまうだろう。だがやらないよりはマシだ。

少し安らかになった寝息を聞きながら近くにあった山小屋に彼を運んだ。

山小屋に置いてあった治療セットを利用して手当てを施した。

未だに突き刺さったままの剣を引き抜き溢れる血を抑え包帯を巻いた。全身の傷も同じように手当てを施していった。

 

「これは……」

 

腰の所だった。

普通の傷だと思っていたのだが……

鈍器、いや切れ味が極度に鈍った刃物だろうか?

そんな物で強く打ち据えたらしくズボンとそこに着けていた巾着が体内にめり込んでいた。

それが中途半端に回復しているせいで半ば複雑に絡み合っているのだ。

 

「切る、しかないか……」

 

できる限り痛みを感じさせないように注意しながら傷口を切り取った。

仲間に刃を向ける。

その行為は今までやってきた暗殺染みた粛正を思い起こさせた。

そして皮肉にもその経験があるからこそ誰よりも上手く痛みを感じさせずに切り裂く事ができたのだ。

因果な事であると思った。

妖力を同調させ痛みから意識を逸らし安らぎへと誘う。

そして安心しきった無防備な寝込みを一撃。

人は苦痛には耐える事ができても安らぎに逆らう事はできない。

私はそんな安らぎを悪用していた。

……それは許されるべき事であろうか?

 

「……感傷、ね」

 

一人呟き手当てを続けた。

巾着の中身は幾ばくかの金銭と血にまみれた御守りだった。

後に聞いた話だがあの子(アリス)が作ってくれた物だそうだ。

 

一通り手当てを終え、再び妖気の流れを整えた後静かに外に出た。

深い深い闇の中、空は雲に覆われていた。

何もない、それでもその場に立ち尽くした。

虫の羽音がした

ネズミの蠢く音も

風が吹き、木々がざわめく

何もない訳ではない。そう思った。

もう一度空を見た。

雲の切れ間から小さな星が輝いていた。

 

レイが目覚めた。

当然だがまだ癒えていないようだ。

肉体的にも精神的にも

少しでも気が紛れたらとイタズラでもしてみる事にした。

全身の痛覚を一気に治してやった。

思いの外痛みが酷かったらしい。

ベッドの上でのたうち回ってしまった。

……イタズラだった事は黙っておく事にしよう。そう思った。

 

お詫びに妖力操作を教える事にした。

左腕を再生させるにはどちらにしろ知らなければいけないことだ。

元々頼んで来たら教えようと思っていた。

それを前倒しするだけの話だ。

……それではお詫びにならない気もするが気にしないことにした。

 

妖力操作を教えてみると想像以上に筋が良い。

聞いてみると人間の姿になる訓練をした時と似ているらしい。

その話を聞いて私は驚いた。

妖魔が人間に化けるのは捕食した相手の皮を被る、とでも言うべき行為だ。

それに対し、レイは自らの肉体を操作することで成し遂げていたと言うのだ。

難易度的には私も練習すればできなくもない、とは思った。

しかし、それを行おうと思い付く発想と実現させる執念に私は驚きを隠せなかった。

何せできるかどうか分からない事を、それももっと簡単に実現できる代替手段があるにも関わらずやり遂げたのだ。

その上さして役に立つ技ではない。

何せ普通(皮を被る)よりも妖気を探知されやすい上に消費も大きい筈だからだ。

利点は人を喰らう必要がないことだろうか?

まぁ、その技を習得しようと試行錯誤したお陰で妖力操作がスムーズに進んでいる事は間違いなかった。

 

動けるようになったレイはすぐにこの場所から離れたがった。

ここが街からあまり離れていない所為だろう。

いつ街の住人がここを訪れるか分からない。

それが嫌なのだろう。

私もこの後の予定が詰まっていた。

いつまでもレイに関わっている事は許されない。

思惑は一致していた。

だからだろうか気付いた時には私はレイに同行しないか尋ねていた。

急がなくてはいけない。

しかし、レイを放っても置けなかった。

そしてまだ一緒に居たかった。

そんな思いがつい口から漏れてしまったのだろう。

 

承諾してくれたレイを連れ私達は道なき道を突き進む。

完治していないとは言えレイは妖魔だ。

多少無理をさせても大丈夫だろう。

そう思い目的地までの最短ルートを行った。

途中にある小さな村は全て無視し直接目的地の街を目指した。

無言で歩いた。

不安な事はいくらでもあった。

しかし、私にはそれを聞くことはできなかった。

一日歩き続け夜、私は本当に最低限の伝達しかしていないことに気づいた。

さすがにこれはどうなのかと思った。

勇気を出して夜に模擬戦を提案する。

レイは承諾してくれた。

レイとの模擬戦、私の気分は高揚していた。

レイが勝つとはその時も思わなかった。

まだまだ経験も技術も私の方が遥かに上だからだ。

だが、盗賊との戦いで見せてくれたあの動きであればなかなか期待できるとも思っていた。

 

……私はレイに大剣を突き付けていた。

意気揚々と模擬戦に挑んだのにレイは何もすることなくあっさりと剣を吹き飛ばされたのだ。

いくらケガしていて本調子ではないとは言え余りにも不甲斐ない結末だった。

私は怒りすら感じた。

だがすぐに気がついた。

あの動きは本能に任せていたからこその動きなのだと。

今の人間のための剣術では枷になるだけだとすら思った。

だが、これを伝えるべきなのか私は迷った。

唯でさえ危惧するべき事の多い旅路であったにも関わらず、この事でも迷い続けた。

 

ようやくどうなるか分からないが伝えるべきだ、と決心が付いたのは翌日には目的地に着こうかという時だった。

日課に成りつつある模擬戦の後、私はレイに自分の戦い方を探すべきだと伝えた。

あまり否定的にならないように気をつけたつもりなのだが、どうにも私は口が上手くない。

こういう時にどう言うべきだったのか今でも分からない。

だが、今日のレイの様子を見る限り伝えた事は正しかったのではないか、と思う。

兎にも角にも沈み込んでいたレイが明るくなったのだ。

この変化は好ましい物であると思う。

 

周辺の風景が変化する。

森から平原へと

平原から田園地帯へと

目的地であるバイナプラの街が見えてくる。

残念ながらレイとはここでお別れだ。

私はこの次の村で黒服と合流し、また何処かへと任務に赴くことになる。

これ以上一緒に居ては組織に目を付けられてしまう。

どうにか今の所は組織から注目されていないのに無意味にリスクを負うべきではない。

ならばここで別れることが最善であると思う。

沈み込んでいる状態で放置するのはどうかと思うが明るくなったのだ。

若干その明るさに不安を覚えないでもないがそれはレイの道だ。

私が干渉し過ぎるべきではないだろう。

 

バイナプラへと到着してしまう。

ここで別れることは旅に出るときに伝えていたので特に問題もない、その筈だ。

 

「……ここまでね」

「ああ、世話になった」

「これからレイは……やっぱり、いいわ」

「何だ?………まぁ、いいや、ジェシカここまでありがとう」

「ええ、元気でね?」

「大丈夫さ、ジェシカもな」

 

結局何も聞くことができないまま私達は別れる。

この時私はまた時間が空いたら会いに来ればいいと軽く思っていた。

しかし私は知らなかった。

レイと再会できるのは想像以上に先の事であることも、その状況も。

そして再会のきっかけが意外な所からもたらされる事もこの時は知らないのであった。

 




よく感想に出てくる”強さ”の話題ですが、私は基本的に戦士も妖魔も誕生した時のスペック的にはそう変わらないと思っています。と言うか同じ物をベースにしているんですからそう違いがあったらおかしいと思います。では何故戦士が妖魔に勝てるのか?大きいのはまず武器だと思っています。武器の優勢はそう簡単には覆りません。そして次に戦闘に対する熟練度です。狩りしかしたことがない妖魔に対し戦士たちは専門の戦闘訓練を受けています。この差も大きいと思います。そこいらのチンピラと軍人が戦ってどっちが勝つって話ですから。そして最後に地味なことですが戦士たちは最下位のナンバー47ですら基本的に訓練生達よりも強いのです。200人から適当に選んだ妖魔と200人が競いあい、そして選抜された47人、同じ土俵でも選ばれた方が強いのは当然です。なお上位ナンバーは1万人に1人とかの才能の持ち主が実戦で叩き上げてきたので非常に強いのです。
以上のことを踏まえた上でこの作品内での強さです。
まずジェシカです。
彼女は半覚醒前のジーンとほぼ同じぐらいの強さです。相性の問題で一対一ならジェシカが勝利します。しかし、覚醒者相手ならジーンの方が圧倒的に有利になります。ごく普通の才能の持ち主が辿り着ける限界ぐらいの強さだと思っています。
次にレイです。
妖魔としては普通より恵まれた才能の持ち主です。でも異常な程ではありません。たまにいるちょっと手強い妖魔程度です。そんな程度ですが生き残りたいと鍛錬します。これがその内大きくなる予定です。ユマだって7年鍛えた事で10番代を圧倒しました。現状では初期クレア相手にいい勝負をしてもしかしたら勝つかもぐらいです。

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