あれからどのくらい歩いただろうか?
未だに周りは一面の森である。
すぐ側で小川を見つけた時はこれに沿って歩けば人里ぐらいすぐ見つかるだろと思ったんだが…
昼も夜もほとんど休まずに歩き続けているのに全く森から抜ける気配がない。
おそらく既に丸二日ほど歩いたと思うのだが…
そしてこの二日間で俺は自分が人間ではない事を実感してしまった。
まず、食事がいらない。
一応小川を泳いでいた魚(生)を食べたりはしたが、全く腹が減らない、そして、一応人間以外の物も食べる事はできるらしい。
未だに本格的な空腹は感じていないのだが、魚(生)を食べたら腹が膨れた感覚はあったから、しばらくは通常の食事で生きていけるのではないかと思う。
次に、身体能力が凄い事が分かった。
まず、二日間ほとんど休まず歩いているにも関わらずあまり疲れていないし、全力でジャンプをしたら周りの木と同じぐらいまで飛び上がる事ができたし、殴ってみれば木が折れた。
走れば信じられないぐらい速かった。
これならオリンピックに出ても独走でゴールできるだろう。
正直、ちょっと妖魔舐めてた。
クレイモアでは雑魚だったから大した事ないと思ってたが、一般人からすれば化け物だって事を忘れてた。
そして、走るのが凄い楽しい。
何というか全力疾走するとすごい臨場感とスリルがあるのだ。
…調子に乗って木に激突して死にかけたりもした気もするがそんな事は気にしない!
体を変化させる事もできるようになった。
まぁ、今の所爪を伸ばしたりできた程度だが…
問題は妖力を感じる事が全くできない事だろう。
これではクレイモアがどこに居るのか分からないではないか!
まぁ、会った事もないモノを初心者が判別できる訳ないとは思うし、これからの成長に期待と言った感じだろう。
さて、そんな事を考えながら歩いていると道らしき物に行き当たった。
草が生え放題になっているが、僅かに轍の後らしき物が見える。
道らしき物の片方は森の中へと続いており、鬱蒼と茂った木々によってどこに繋がっているのか見通す事はできない。
もう一方の道は小川に並行するように続いているらしい、こちらも木々が視界を塞いでいるが、僅かに明るいような気がする。
選択肢は3つ
①森へと続く道を行く
②川沿いの道を行く
③全く別の方向に行く
まぁ、どうしようか悩むまでも無く②だろう。
今まで歩いてきた川沿いだし、何か明るい気もするしというか①とか選んだら元の場所まで戻る可能性もあるし、③の全く違う方向に行くとか選ぶ意味があるのだろうか?
そんなこんなで川沿いの道をさらに歩いて行く、獣道のような道とは言え道があるため、
今までよりも遥かに歩き易く、轍の跡らしき物もあり、この先に人がいる可能性が高いため俺のテンションもつい歌ってしまうほど上がっている。
「ふふふふ~、ふふふっふふ~、ふふふふ~、ふふふ~…ん?」
気持ちよく歌っていながら歩いているとどこからかいくつかの足音が聞こえる。
どうやら人の集団が近くに居るらしい。
「おっ、第一村人発見か?」
久しぶりの人との接触に俺のテンションはさらに上がってゆき、足音がした方向へと俺は駆けていくのだった。
ほんの数十秒ほどで歩いている商人らしき一団を見つける事ができた。
どうやら向こうはこちらに気が付いていないらしい。
「おーい!こんにちわー」
早速声を掛けてみる事にする。
俺が声を掛けると驚いたようで、全員がこちらを振り向く。
さてこれからどうしようかな?とか俺が考えていると、一人がこちらを指さし、青い顔で叫ぶ
「ひぃ!!よっ、妖魔だー!に、逃げろー!」
続いて比較的落ち着いた感じの年配の男が指示を出す。
「カタントの街まで逃げるぞ!あそこまで行けばきっと助かる!重い荷物は捨てろ!今は命を大切にするんだ!!」
同時に商人たちは悲鳴を上げながらも重い荷物を捨て、全力で逃げ始める。
「あっ!ま、待って…行っちゃった」
追いつく事は簡単だっただろうが、逃げられた衝撃で俺は呆然としてしまっていた。
その時ようやく自分が「妖魔」であり「人間」の敵なのだと実感した。
そしてその実感がなかったため妖魔の姿のまま商人達に声を掛けてしまった。
しばらく商人達に逃げられた事に落ち込んでいたがいつまでも落ち込んでいられない。
とりあえず、先に進む事にするが、目の前には商人達が捨てていった荷物がある。
悪いが折角だしこの荷物を漁らせて貰う事にする。
何と言っても自分、真っ裸で何も持っていないのだ。
文化的な生活をしていた身としては服の一着ぐらい着たいのだ。
「…と、言う訳で失礼しますっと」
ちょうどよく男物の服が一式あったのでそれは貰っておく、他にも腰に着ける事ができる小物入れや地図、いくらかのお金などを拝借する。
どうやら反物を扱う商人だったようで色々な布があったが、俺は別に布何ぞ要らないので、適当に元に戻しておく、残った荷物は放っておいても良いのだが、どうせ同じ方向に向かっているのだし色々貰ってしまったお返しに街まで運んであげる事にする。
地図を見ても現在位置がよく分からないが、確か商人達がカタントの街へと逃げていったので、きっとこの先にカタントの街があるのだろうと思う。
このまま街に向かいたい所なのだが、一つ重要な問題がある。
この姿のまま街に向かえばさっきと同じような事が起こるだろう。
そして、俺はどうやれば人間の姿になる事ができるのか分からないのだ。
「…はぁ、色々やってみるしかないか…」
という訳で俺の人間の姿になるための特訓が始まったのだった。
side商人
俺の名はラドル、反物商を営んでいる。
いつも通り仲間達とカタントの街まで商品を運んでいる最中だった。
ふと気付くと遠くから陽気な歌が聞こえたんだ。
その時はそんな事気にしなかったさ、
きっとどこかの商人が大儲けして浮かれているだけだろうと思ったからさ
まぁ、出会いでもしたら話ぐらいしてみるつもりだったがな
で、また唐突に歌が止まったんだよ
俺達は何かあったのかな?と思ったけどやっぱり他人事だからな気にせず先を急いでいたんだよ
しばらくしたら急に後ろから
「こんにちわ」
って怖ろしい声がしたんだよ!
俺達は急いで振り返ったよ
そしたらさ、あいつが、妖魔がニタニタと笑いながら涎を垂らしてこっちを見てるんだよ
もう、あの時は恐怖で錯乱しそうだったよ
荷物運びで付いてきた新人レーキが叫ばなかったら俺が叫んでたね
とは言えレーキが思いっきり叫んでくれたから俺は少し冷静になる事ができたんだ
それで俺は言ったのさ
「カタントの街まで逃げるぞ!あそこまで行けばきっと助かる!重い荷物は捨てろ!今は命を大切にするんだ!!」
てな、そりゃあ商品は惜しかったさ
でもあの時の選択は間違ってなかったと思っているよ
やっぱり命あっての物種だからね
その後?
荷物を捨てて後ろも振り返らずに全力疾走さ
きっとあいつも意表を衝かれたんじゃないかな
結局全員カタントの街まで無事に逃げれたんだからな
まぁ、街に着いたら大騒ぎさ、すぐ近くの森に妖魔が居るってんだからな
戦える奴は全員招集されて夜も昼もなく警戒したよ
幸い数日経っても誰も森から来なかったから、きっとどっか別の場所に行ったか、街の警戒を見て諦めたんだろうよ
まぁ、俺達が知らせてなかったらこの街も襲われてたかもしれないな
そういう意味では、街の役に立てて嬉しかったよ
とは言え俺達は大事な商品を失っちまったから、
これからどうしようって途方にくれてたんだよ。
そうこうしてたら急に兵士に呼ばれたんだよ
で、行ってみたら俺達の商品があるじゃねぇか!
何でもいつの間にか門の所に置いてあったそうでな
きっと哀れに思った神様が助けてくれたんだろうさ
いくらか無くなってはいたが、全て失うのとは天と地の差さ
いや~、この時ほど神様に感謝した事はないね