妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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鬱展開です。
人がどんどん死にます。



襲撃と慟哭

街が燃えていた。

子供達をセネルに任せ一足先に街に戻ってきた俺の目に入ったのは燃えている街だった。

悲鳴が聞こえる。

絶叫が聞こえる。

剣戟が聞こえる。

呻き声が聞こえる。

アリスは?グリアさんは?街のみんなは?

無事を祈って街へと走りだす。

南門から街に入る。

盗賊によって打ち壊されたのか門の一部が破損していた。

付近には死体が転がっていた。

盗賊に注意しながら街の中へと進む。

いつもなら人が行き交っている大通りが今は地獄だった。

しばらく進むと一際ボロボロになっている通りを見つける。

盗賊と兵士がやりあったのだろう。

そんなに時間は立っていないようだ。

その時視界の端で何かが動いたような気がした。

その方向をよく見る。

 

「グリアさん!?」

 

壁に凭れ掛かり辛うじて立っているグリアさんの元へと俺は走る。

不幸中の幸いだろうか?

近くに動く事のできる盗賊の姿は無い。

激しい戦闘があったのだろう。

敵も味方も等しく地に伏し、誰一人として動く者は無い。

そんな中を俺は走る。

近づくに連れてグリアさんの傷の様子が明らかになってゆく。

朱く染まった身体、一人の人間から流れ出たとは信じられない量の足元の血溜まり。

 

「……グリア、さん……」

 

立っている事自体が信じられないような状況だった。

もうダメだ。

そう理解ってしまう。

 

「……レ、イか?」

 

それなのにグリアさんは俺が来たことに反応したのだ。

か細く聴き逃してしまいそうな程小さな声だった。

それでも確かに反応したのだ。

 

「はい!!レイです。あなたの弟子のレイです」

「……うる、せぇ、聞こえてるよ」

 

それは奇跡だった。

生きていることすら信じられない状況で力ないとは言え確かに会話しているのだ。

一瞬でも気を抜いたら死んでしまう。

そんな中、気合だけで話しているのだ。

グリアさんの根性が生んだ小さな奇跡だった。

「……俺、はもうダメ、だ……アリス、を頼む……」

「そんな、グリアさん……」

 

最期の気力を振り絞ったのだろう。

グリアさんはそれだけ言い残すと苦しげに噎せ、力無く倒れる。

俺は咄嗟にグリアさんを支え、出来る限り優しくその身を横たえる。

茫然とグリアさんの手を握ると振り払おうとする。

しかし、その手には既に力はなく振り払うことすらできない。

 

「さっさと行け!……まだ終わっ、てないん、だろ」

「……は、い!!行ってきます」

 

俺がそう言い確かに離れていく事を確認したグリアさんはゆっくりとその目を閉じるのだった。

同時に心臓の鼓動も静かに止まったのだった。

この時ほど自分が妖魔であったことを恨んだ事はない。

妖魔で無ければ寝ているのだ、と自分を騙す事もできた筈なのに。

この敏感すぎる聴覚は心臓の鼓動が止まった事を容赦なく自分に伝えてきた。

それはグリアさんの死を否応もなく実感させるものだった。

その事を振り払い走りだす。

 

 

 

「アリスーーーー!!!」

 

アリスを探し俺は街中を走り回る。

その過程で女を襲っていた盗賊を二人ほど切り捨てた。

女に集中していた盗賊を俺は何の抵抗もなく切り捨てる。

助けた女を最低限の対応で逃がす。

盗賊に襲われていた姿にアリスを重ねてしまい気ばかりが焦る。

 

「アリスーーーーーーー!!!!」

 

南から街に入り既に北門も近い。

襲撃から逃げようと思ったならば北門を目指している筈だ。

盗賊達も北門に近づく程その人数を増やしていた。

近くから剣戟の音が聞こえる。

街の兵士が盗賊と殺り合っているのだろう。

俺は音のする方へと走っていく。

 

そこでは10人の兵士が30人程の盗賊と殺り合っていた。

兵士の後ろには逃げ遅れたのであろう女子供が数人蹲っていた。

兵士達は既にボロボロだった。

住人を護るという確固たる目的がなければとっくの昔に敗走していたであろう。

逆に盗賊側は人数を生かしいたぶるようにじっくりと攻め立てていた。

中心にはこの盗賊のボスであろうか一際巨大な男が大声で指揮を執っていた。

 

同僚の兵士達が俺の存在に気付いた。

同時に俺は比較的手薄だった敵左翼に飛び出す。

 

「走れ!!」

 

目の前の盗賊の頭を切り飛ばし叫ぶ。

後ろに居た兵士達は住人を連れ走りだす。

突然の事態の変化に盗賊は反応しきれていない。

即座にもう一人盗賊を切り捨てる。

 

「ギャアアアアアア」

 

盗賊の絶叫が辺りに響く。

その声に驚いたのか前線にいた盗賊が一瞬気を逸らす。

その隙を逃さず兵士達が盗賊を一気に切り倒し左翼へと走りだす。

住人を逃がせるだけの隙ができたと判断した俺はそのまま敵のボスへと突撃する。

間にいた盗賊を斬る。

剣を避けようとしたのか咄嗟に尻餅を付く、剣が盗賊の腕を切り裂く

浅い

だが、十分だ。

盗賊のボスへと渾身の突きを放つ

が、さすがボスと言った所だろうか、咄嗟に片刃の曲刀で突きを逸らされてしまう。

即座に距離を取る。

不意打ちに失敗したのなら囲まれる前に下がるべきだからだ。

追撃すればボスを討てたかも知れないが、それよりも囲まれて殺される可能性の方が高い。

ボスは悠々と頬に滴った血を指で拭い舐める。

どうやら先程の突きは掠ってはいたらしい。

左翼を突破した兵士と住人に合流する。

 

「レイ、助かった!」

「おう、他の奴らはどうした!?」

「北門付近で住人達を守ってる!」

「そうか、アリスもそこに居たか?」

 

ボロボロになっていても気合は十分らしく、躊躇なく剣を構え盗賊と相対する。

住人達は逃がしたとは言え盗賊達を放っておけば追いつかれるかもしれないし、それでなくとも他に被害が出てしまうだろう。

ならば、どれだけボロボロであろうとここで逃げる選択肢はない。

そして、どうやら生き残っている者達は北門に集合しているらしい。

アリスもそこに居るのではないかと兵士の一人に尋ねる。

 

「……いや、残念だが俺は見ていない」

「俺もだ……」

「そうか、いや、分かった。とりあえず奴らから街を護るぞ!!」

「おう!!」

 

兵士達はアリスが北門に居たかどうか知らなかった。

この混乱だ。

人一人見逃していてもおかしくはない。

……アリス、そこに居てくれよ?

 

「ヘッヘッヘ、やるじゃぁ、ねぇか」

 

ボスが腹に響くドスの利いた声で言う。

盗賊側も態勢を整え終わったらしい。

仲間が殺されたって言うのにニヤニヤと嫌な笑いを貼り付け、盗賊どもがこちらと向かい合う。

人数は盗賊の方が多い、さらに兵士達は既にボロボロだ。

ならば、イニシアチブを相手に渡すのは愚行だろう。

そう思い、不用意に近づき過ぎていた盗賊の一人に斬りかかる。

盗賊は慌てて対応するが、僅かに遅く太ももを切り裂く。

それを合図に戦闘が始まる。

 

「ヤロォ、テメェら殺っちまえ!!」

 

盗賊のボスが喚くように指示を出す。

それに従い盗賊どもが迫ってくる。

人数では圧倒的に負けているが、こちらは兵士として訓練を受けている。

個人としての練度も連携も盗賊を上回る。

と言うか盗賊達は連携なんて全く考えずに動いているらしく、所々で互いに邪魔をしあい隙を晒している。

それからの戦いは厳しいものだった。

こちらは基本的にひたすら凌いでいるだけだ。

その中でたまに生じる隙を突いて確実に一人ずつ殺していく。

最初の内は順調だったが、元から限界が近かった仲間達は既にいつ倒れてもおかしくない状況だった。

それでも戦局は膠着していた。

当初与えた被害に盗賊どもがビビったからだ。

そのおかげで攻めに必死さがない。

だからこそ辛うじて戦線を維持することができていた。

 

その状態に痺れを切らしたのかボスが出てくる。

ボスに良い所を見せようとでも思ったのか恐怖からかは知らないが攻撃が激しくなる。

今も一人やられかけたが辛うじてフォローが間に合った。

疲れきってミスをしてピンチに陥り俺が無理にフォローする。

結果別の所で無理が出て……

そんな悪循環に入りかけているのを妖魔の力を部分的に一瞬だけ開放する事で凌ぐ。

妖魔であることを隠しながら戦うのはそろそろ限界だった。

それでも俺は……

 

ボスと剣を交える。

先程からボスも前線に出てきていた。

既に盗賊の数は半減している。

だが、こちらも一人が無理な攻めをした結果倒れてしまった。

不幸中の幸いか盗賊二人を道連れにすることができた。

 

「やるじゃねえか、何でそんな頑張るんだぁ?……もしかしてお前、"レイお兄ちゃん"かぁ?」

 

戦いの最中、盗賊のボスが言う。

嫌な予感が背中を奔る。

戯言だ!

そう振り払い袈裟懸けに打ち下ろす。

が、大振りになってしまっていたのか、ボスに曲刀で逸らされてしまった結果大きな隙を晒してしまう。

 

「……クソっ」

 

急いで態勢を立て直すが相手の次の一撃が早い。

死を覚悟する。

……俺はこんな所で死ぬのか?

まさかクレイモアの世界に来てクレイモアや覚醒者じゃなくて盗賊に殺されるなんて……

そんな事を思う。

曲刀が振り下ろされる。

その軌道は確かに俺を切り裂く筈だった。

間に腕が差し出される。

予定していない衝撃に曲刀の軌道が変わる。

腕を切り落とし俺のすぐ脇を曲刀が掠っていく。

兵士の一人が俺の危機に身を投げたのだ。

 

「レイ、後を、街を頼む!」

 

壮年の兵士だった。

よく俺を飲みに連れて行っては奥さんの愚痴に付き合わせた。

娘の結婚式を見るまでは死ねないって言ってたのに……

俺は彼のおかげで態勢を立て直す。

そして見てしまう。

俺を救ったために彼が殺される瞬間を。

激しい衝動が湧き上がる。

衝動のままに飛びかかりそうになるが、必死に自制する。

ここでこのまま衝動に任せて動くのは彼の死を無駄にする事だ。

そう言い聞かせる。

彼の死は俺の責任だ。

俺のミスが彼の死を招いた。

だが、だからこそ俺は生きて盗賊達を倒してみせる。

そう誓う。

 

「ヘッヘッヘ、死んじまったな?なぁ、"レイお兄ちゃん"よぉ」

 

盗賊のボスが癪に障る声で宣う。

嫌な予感、いや確信がある。

聞きたくないそう思う。

ボスは俺の心境なんて気にせずに続けて言う。

 

「そういやぁ、あの娘も"レイお兄ちゃん、レイお兄ちゃん"って言ってたなぁ、なぁ"レイお兄ちゃん"?」

「何を、言ってる?」

「アリスとかいう娘だったかぁ?お兄ちゃんが助けてくれるってうるさく抵抗するからつい殺っちまったんだよねぁ」

 

なかなか可愛かったのに勿体無かった、そう盗賊のボスが嗤いながら続ける。。

それを聞いた瞬間には既に俺は盗賊のボスへと飛びかかっていた。

頭には街を守るという意志も誓いも吹っ飛んでいた。

ただコイツを生かしておけない、そう思った。

 

「バカが!」

 

ボスが嗤う。

必殺の一撃が振り下ろされる。

腕で無理矢理逸らしてそのまま切り裂く。

今までの戦いで限界を迎えていたのか剣が折れる。

 

「なっ!?」

 

想像していなかったのかボスは唖然とした表情で傷を見る。

まだしぶとく生きていた盗賊のボスの頭を丸呑みする。

盗賊のボスの記憶が流入してくる。

……不快だった。

ありふれた不幸から楽を求めて盗賊へと身を落とす。

同情の余地が無いほど殺して奪う。

この街には妖魔討伐用の資金を狙ってやってきたらしい。

なるほど、あれはかなりの大金だ。

その大金を用意したにも関わらず使わずに妖魔を倒したからそれを狙ってきたのだ。

……俺のせいか?

折れた剣を捨て、腕に刺さったままだった曲刀を引き抜く。

腕が痛い。

だが、すぐに気にならなくなる。

再生したのだ。

 

「グァアアアアアアアア!!!!!」

 

咆哮する。

驚く声が聞こえる。

いつの間にか妖魔の姿に戻っていた。

だが、そんな事は既に興味がなかった。

近くに居た衝動のままに盗賊へと斬りかかる。

そこからは記憶が曖昧だ。

分かっているのは傷つくことを全く気にせずにひたすら戦い続けたことだけだ。

 

気付いた時には周囲は血で朱く染まっていた。

盗賊の死体が散乱している。

幸い兵士の死体はない。

俺はどうやら最低限のラインは守っていたらしい。

自分の身体を見下ろす。

ボロボロだった。

再生した腕は肩からなくなっていた。

腹には剣が突き刺さったままだった。

傷がない場所がない、と言ってもいい程傷だらけだった。

そんな俺を遠巻きに人々が囲んでいる。

団長がいる。

同僚の兵士がいる。

武装した街の住人がいる。

ごく少数ではあるが盗賊もいた。

いずれも恐怖に目が濁っていた。

盗賊から街を守ろうとしたなんて事実は関係ないらしい。

明確な敵意の基、手に持った武器を俺に向けていた。

人間の敵が現れたら今まで襲っていた盗賊とでも手を組む。

……人間は強いな

自嘲とともに呟く

深い虚無感が俺を襲う。

何のために戦ってきたのか?

既にグリアさんもアリスも死んだのだ。

死んでしまったのだ。

団長が俺を最大限に警戒しながら慎重に近寄ってくる。

その目もまた強い恐怖と敵意を宿していた。

じっと見つめ合う。

沈黙が痛い。

耐え切れなくなった俺は走り出す。

逃げ出したのだ。

 

「あっ、おい、待て!!」

 

慌てた団長の声が聞こえる。

振り向かずに走り抜ける。

街から飛び出す。

当てどもなく走る。

気付いた時には暗闇の中倒れていた。

 

茫然と空を見上げる。

呆れるほど空はいつも通りだった。

その時ようやく近くに気配があることに気づく。

ジェシカだった。

何でここに居るのかは知らない。

だが、ちょうどいい。

そう思った。

 

「……殺してくれ」

 

そう頼む

耐え切れずに逃げ出したが、これ以上生きている意味なんてない。

あそこで死ぬべきだったのだろう。

ジェシカが近づいてくる。

黙ったまま大剣を振り上げ振り下ろす。

それをただ見守る。

鈍い音と共に大剣が頭の横の地面に突き刺さる。

 

「何で……?」

「イ・ヤ・よ、あなたを殺すなんてね」

 

どうやら殺してくれないらしい。

クレイモアのくせに妖魔を殺さないらしい。

妖魔を殺さなかったクレイモア

妖魔を受け入れてくれた少女

不審者を鍛えてくれた老人

人を守ろうとした妖魔

全てがおかしかったのだ。

ただ夢が覚めてしまったのだろう。

それでも今この瞬間俺はまだ生きている。

 

「……なぁ、俺は生きていて良いのかな?」

「そんな事は知らないわ」

「そうか」

「……でも、私はあなたに生きていて欲しいわ」

「……そうか」

 

止めどなく涙が溢れてくる。

慟哭が空へと溶けていく。

 




ここまででようやく一章です。
8話ぐらいでここまで進めようとしていたのに長くなってしまいました。
私は思いついたシーンや書きたいシーンを書いてからその間を書くという書き方をしているのですが、ようやくその一部を書くことができました。
想定が甘い所為でだいぶ変わってしまいましたが

まだまだ物語は続きますので、これからもよろしくお願いします。

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