妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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こんなに長い間お待たせしてしまったのにたくさんの感想ありがとうございます。
これからはできるだけお待たせしないように頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。


審判者の興味 Ⅲ

夢を見た。

懐かしい夢だ。いや空想と言うべきだろう。

こんなに幸せだった事は一度として無いのだから

母が私の頭を優しく撫でてくれている。その傍らにはもう思い出す事もできない父がいる。

何かあったのだろうか?小さな私が頬を膨らましながら父と母に向かって捲し立てている。

それを父が大したことじゃないと笑い飛ばす。母も一緒になって笑う。

そんな父と母の姿に最初はむくれていた私もいつの間にか笑顔になっていた。

夢の中では全員が笑っていた。私も笑っていた。

何の変哲もないごくありふれた日常、喪わなければ気付く事もできないそんな黄金よりも価値のある日常

そんな夢だった。

いつまでも見ていたい、そう思わせる夢だった。

しかし、夢は唐突に終わりを告げる。

父の姿がだんだんと朧に霞んでゆき、あの私を売り払った男の姿へと変わる。

ヘラヘラとした口元が無性に私をイラつかせる。

そんな男の隣りに居る母が冷めた眼で私に告げる。

 

「あの人と一緒に暮らすのにあなたが邪魔なの……死んでくれない?」

 

そう言いながら振り下ろされる包丁

気が付いた時には私は母を突き飛ばしていた。

そのままバランスを崩し倒れる母

打ち所が悪かったのか再び母が動く事はなかった。

 

「……!?」

 

悪夢から私は跳ね起きる。

周りを確認する。

ここは何処だ?カタントの街だ。

私は何だ?半人半妖の組織の戦士だ。

クレイモアをしっかりと抱き締める。

ようやく気分が少し落ち着いてくる。

あんな悪夢を見るのは久しぶりの事だ。

訓練生の時代は毎日のように見ていたが戦士として動くように成る頃にはほとんど見る事はなかったのに……

特にこんな幸せから一転して悪夢何て言うパターンは初めてだ。

 

「あれは過去の話だ!」

 

自分に言い聞かせるように呟く

そうあれは過去の話だ。

私は自分の手で母を殺し、そしてあの男に奴隷商に売られたのだ。

だが、それは過去の話だ。

いまさら取り戻せる事は何もない。

 

気分を切り替えるために街へと繰り出す。

街では妖魔騒ぎの所為だろう閑散としており巡回する兵士ばかりが目立っていた。

雑魚を狩りに行くか?

ささくれ立った心でそんな事を考え雑魚の居る場所を目指す。

しかし雑魚が居たのは街の要人が集まった会議場の中だった。

狩る事はさして難しくもないが、これだけの兵士と要人が居ると面倒だ。

そう思い雑魚を狩るのは止める事にする。

何もかもが思い通りに行かないように感じられさらにイライラしてしまう。

街に居ても仕方がない、そう思い私は一旦街を出る事にする。

外で身体を思いきり動かすのだ。

そうすれば少しは気分も晴れるだろう。

 

郊外の森で身体を動かす。

一振り毎に余分な思考が削ぎ落されて行く。

それでも気分は晴れることがない。

表面的にはいつも通りの動きができているが、心の奥に澱んだ物を感じる。

振り払うように一心不乱にクレイモアを振っていると自分が付けた物ではない傷が木に付いているのが目に入った。

気になったため剣を振る事を一旦止め傷をじっくりと見る。

 

「これは……」

 

太刀筋はお世辞にも上等とは言えない。

しかし、力は常人以上にあるのだろう。

力任せに断ち切ったと言わんばかりに荒い傷が残っている。

そして、その傍には別の傷がある。

こちらは前の傷よりも若干ではあるが上手く斬れている。

そんな傷がここには無数にあった。

傷を見るだけで理解る。

どれだけ鍛錬を重ねたのかが

この傷を残した者は決して才能に溢れている訳ではない。

それでもただ普通の才能の者が諦めずにひたすら毎日を積み重ねたのだ。

最も新しくできたであろう傷を見る。

・・・・・・下級戦士と同じ程度だろうか?

それは私から見ればまだまだと言えるモノだった。

それでも日々の積み重ねは間違いなく実になっていた。

ふとあの妖魔ーレイーが夜中に街を抜け出していた事を思い出す。

おそらくこの場でレイが訓練していたのであろう事に思い至る。

この調子で強くなったら……

そんな考えが頭を過る。

今は問題ないだろう。

だが、この先はどうだろうか?

そんな妄想を弄びながら再び大剣を振る。

いつの間にか心は軽くなっていた。

 

 

ん?動いたか

大剣を振るっていると街から感じる妖気に変化を感じ、そう思う。

私には一旦捕捉した相手であれば大概の事であれば捕捉し続ける事ができる能力がある。

私が妖気を探査できる距離は決して長いとは言えない。

それにも関わらず組織の眼として長く勤めてこれたのはこの能力のおかげだろう。

何せ数が限られるとはいえ知りたい相手が何をしているのかほぼリアルタイムで知ることができるのだ。

組織からすれば普通の妖魔の動向なんて割りとどうでもいいのだろう。

探るように言われているのは私達戦士と覚醒者、それに深淵の者の動向だ。

妖魔のことはそのついで程度の扱いだった。

 

そしてそんな私の感覚が補足しておいた雑魚妖魔の動きを伝える。

町長に成り済ました雑魚妖魔が動き出したらしい。

さて、これから急げば被害を出さずに妖魔を狩ることは難しくない。

しかし、

しかしだ、

ここで私が妖魔を狩ってもいいのだろうか?

組織の方針としては依頼も無いのに無闇に狩ることは推奨されていないからだ。

当然だろう組織の運営は妖魔を倒すことで稼いでいるのだ。

それなのに勝手に組織の戦士が倒してしまったら報酬が手に入らない事になる。

ならばここは放っておくのが正解だろう。

見殺しにする事には罪悪感を感じるが距離の差こそあれど今までもやってきたことだ。

ここは割りきるべきだろう。

 

 

 

……いや、自分を偽ることは辞めよう。

私は罪悪感なんて感じていない。

そして何よりも見たいのだ。

レイがこの事件をどうするのかを

あの人間臭い、いや人間よりも人間らしいあのおかしな妖魔が一体どんな判断を下すのかを私は見たいのだ。

そのためならば人間が何人襲われようと気にもならない。

こんな私はおかしいのだろう。

だが、果たしてこの世界におかしくない人間なんているのだろうか?

人間なんて放っておけば人間同士で騙し合い殺しあう存在なのだから……

 

 

 

眼下では見殺しにしてでも私が見たかったモノ、いやそれ以上のモノが展開されていた。

 

人間を護るために妖魔と戦う妖魔

 

そんな本来はあり得ないはずの光景が私の前で繰り広げられていた。

戦況は今の所はレイが不利のようだ。

それも当然だと言えるだろう。

何せレイは人間の姿のまま戦っているのだ。

能力は大きく制限されている筈だ。

おそらくはアリス以外の人物はレイが妖魔であることを知らないのだろう。

そして、レイは自らが妖魔であるという事を隠しておきたいのだろう。

 

むしろその状態でどうにか持たせていることこそ褒めるべきであろう。

そう言えば先程妖魔に倒された人間の中にレイと同じような技を使う老人がいた。

人間にしてはなかなかやるな、と思っていたのだが彼がレイの師匠なのだろう。

ふむ、そうと知っていたのなら助けた方が良かっただろうか?

いや、関わらないと決めたのだからこれで良いのだ。

それに……うん、まだ生きている。

急がないと危ないけどこの戦いが終わるぐらいまでは持ちそうだ。

そんな事を考えている内に戦いもそろそろ終わりそうだ。

吹き飛ばされ人目がなくなったのを期にレイが妖魔の姿に戻ったのだ。

人間の姿で劣勢とはいえ持たせていた。

それが本来の姿となり能力が上がれば当然レイが優勢になるだろう。

そして結果は思った通りだった。

いや、思った以上にあっさりと決着は着いた。

雑魚妖魔がレイが妖魔であることに動揺した隙に腕を切り落とされるという痛手を食らったからだ。

この段階で勝敗は決していた、と言っても良いのだが

さらに雑魚妖魔は失策を重ねる。

逃走するためとはいえ何も考えずに無防備に背中を晒したのだ。

動揺したのはともかく逃走の判断は明らかに失敗だった。

普通に隙を窺って逃走するのであれば成功した可能性が高かったにも関わらず

恐怖に負けて今すぐの逃走を選んでしまった。

それに対してレイは絶対に許さないという強い意志を持っていた。

要は気持ちの段階で雑魚妖魔はレイに負けてしまっていたのだ。

レイは雑魚妖魔に止めを刺す。

最後の一太刀は見事な太刀筋を描き雑魚妖魔の頭部を綺麗に二つに分割した。

人間の姿に成り、出口へとボロボロの身体を引き摺り、疲労を感じさせる重い足取りで向かう。

おそらく外に居る負傷者達を助けに向うのだろう。

その姿に私は手出しするつもりは一切なかったにも関わらずつい声を掛けてしまう。

 

「へぇ、珍しいね?人間を助けるために妖魔を倒す妖魔なんて……まるで小説みたいだね?」

 

自分のした行為を認識すると同時に妖気を抑えることを止める。

気付かれてしまったのなら妖気を隠しても何の意味もないからだ。

 

「……お前は何者だ?何故ここに来た?」

 

レイは緊張し警戒した様子で私にそう問いかける。

 

「私?私はあなた達の敵よ?何でここに来たかって?探ってたら、街の中に居るのにいつまでも人を襲わない妖魔がいるじゃない、で、その妖魔が別の妖魔と戦い始めたりなんかしているから見に来たのよ、要はあなたを見に来たの」

 

真実の中に嘘を混ぜて適当に返答する。

私が敵であると宣言した時の表情が強張ったのを見てさらに興味を深める。

普通活用していないのか無いのかは知らないが、妖魔が相手の実力を見抜いて怯えることなど無いからだ。

大体自信満々に突っ込んできて返り討ちにあうだけだ。

それなのにレイは私を警戒している。

それも私の実力を感じ取って警戒しているフシがある。

これはイイ妖気探知能力に育ちそうだ。

そんな事を考えているとレイがジリジリと私から距離を取っていることに気づく。

勝てないなら逃げる。

それも相手に気付かれないようにゆっくりとだ。

 

「あら?逃げるの?」

 

声を掛けた瞬間に全力での逃走を開始する。

これもなかなか良い判断だ。

だけど残念ね、彼の足では私から逃げ切れない。

無防備な背中にじゃれつくように後ろから手を回す。

 

「ふふふ、あの人まだ生きてるみたいだけど?」

 

ガタガタと小刻みに震えているカワイイ彼にどんな反応するかとそんな事を耳元で呟き指差す。

 

「えっ?……本当だ……よかった」

 

師匠らしき人物が生きてる事に安堵したのか震えが止まり、逃走から一転負傷者の方向へと向かおうとする。

 

「ふーん、やっぱり助けに行くんだ?」

「頼む、俺は……どうなってもいいから、グリアさんをあの人を助けてくれ」

 

今までの怯えた様子から一変して覚悟ある強い意志を感じさせる言葉でレイは私にそう言う。

その言葉にレイが私の想像していた通りの性格であることを知り満足した私は

 

「イヤ」

 

からかう様に一度そこで言葉を止める。

私の言葉に戦いが避けられないと勘違いしたのか

敵わないと知りながらも挑もうと臨戦態勢に入ろうとしていた彼に

 

「あなたが助けなさい。ふふふ、この場は見逃してあげるわ」

 

そう言い、開放する。

 

「またね」

 

笑いながら私はそう言い、呆然とした様子のレイを残しこの場を去るのだった。




何かあまり上手く書けた気がしないですが、とりあえず投稿です。
つくづく私は女性の心理とかイチャイチャとかが書けないという事を感じました。

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