妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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まさかの1万UA!!
こんなに読んで貰えるとは全く思っていませんでした。
マイナーなジャンルだし1000ぐらいかなーとか思ってましたが、こんなにいくとは……
評価も想像を遥かに超えて良いみたいなので作者は喜びすぎて死にそうです。
読んでくれた読者のみなさんに限りない感謝を!
ありがとうございます。


妖魔と殺人事件 Ⅳ

「142、143,144,145,ッ146,147,148、149,1ッ50ッ!……ふぅ、次はスクワットでもするか……」

 

牢屋に入ってから2日間、俺は暇を持て余していた。

最低限、伝えるべき事をグリアさんに伝えた俺にできる事はもうほとんど何もなかったからだ。

外ではグリアさんを初めとする気の良い同僚達が事件解決に奔走しているはずだ。

なのにこの中に居てはできる事などほとんど何もない。

必死に思考を巡らせて新たな気付きを探す事もいい加減やり尽くした感があった。

自分にできる事はやり尽くしたはず、それでも、いや、だからこそ俺は焦燥感に駆られていた。

強大な敵がすぐ側に居るのに手を出す事ができない。

……例え身近な人達が犠牲になろうとも助けに行く事すらできない、そんな状況が俺を焦らせる。

そんな落ち着かない状況でやる事もないから、俺はひたすら筋トレを行っていた。

スクワット、腹筋、腕立て、背筋、懸垂、素振り(棒は貸してもらった)、ランジ、カーフレイズ、リバースプッシュアップ、レッグレイズetc……

思いつく限りの筋トレをやった。

ちなみに筋トレやった事ない人には聞いた事もないようなのが混じっているが、いずれも道具なしでできる筋トレだったりする。

昔、学生だった頃肉体改造なんてやってみた事があるから知っていたのだが、こんな所でやる事になるとは思いもしなかったな……

ひたすら筋トレをやり続けているが、いつ何が起こるか分からない状況だ。

動けなくならない程度には手加減しながら、軽い筋トレを延々続けるという事をやっていた。

 

「298、299、300ッと、さて次は何やるかな……ん?」

 

かれこれ3週目のスクワットを終わらせ、汗だくの身体を拭きながら次に何をやるかを考えていると慌ただしく誰かが走ってくる音が聞こえる。

何か起こったのかと耳をすましていると、やって来た誰かが見張りの兵士に何か告げながらも足を止める事無くこちらに向かってくる。

 

「……ぉぃ、待……それ…本当…!?」

「本当だ、……から……アイツを……」

 

僅かに聞こえてくる声からは状況がよく掴めないが、やはり何か起こっているらしい。

やってきた誰かと見張りの兵士が何か言い合いながら近づいてくる。

やってきたのはグリアさんの部下の一人で、この前、俺を呼びに来た兵士のセネルだった。

同僚の中で足が速いからこう言った仕事をよく任される……本人はこんな雑用みたいな仕事、と不満のようだが

 

「レイさん!おやっさんからの命令です。牢屋から出て私に付いて来て下さい」

「……何があったんだ?」

「詳しい話は後です。事態は急を要しています。説明は移動しながらします」

 

そう言うので、俺は急いで準備をする、とは言っても単にそのまま牢屋から出るだけだったが……

牢屋から出たら、セネルがフル装備が必要だと言うので牢屋に隣接している詰所に移動する。

そこで、鎖帷子を着込み制服を着用しレザーアーマーを身に付け支給品の安物の長剣を手にする。

自分の剣が欲しいが、どうやら街の中心部に近いいつもの詰所に置いてあるらしい。

 

「……これで我慢するしかないか」

 

そう呟き、待っているセネルの元へ向かう。

待ちかねていたセネルに遅いですと文句を言われながら、走って修道院に向かう。

修道院に向かう最中にセネルから町長が夜遅くに抜け出した事、尾行していた兵士から緊急の狼煙が上がった事などが伝えられる。

まさかこんなにあっさりと尻尾が掴めるとは……せいぜい怪しい人物を絞り込むぐらいの効果しかないと思っていたのだが、運よく容疑者を特定できてしまったらしい。

 

「……皆、無事でいてくれよ」

 

そう静かに呟く

グリアさんもだが、他の同僚達が心配だ。

相手が妖魔となるとグリアさん以外の兵士が戦力になるかどうか怪しいからだ。

グリアさんにしても不意打ちを食らえばあっさりとやられてしまう可能性がある。

正面からならそれなりにやってくれると信じているが……

 

 

 

 

修道院に近づくにつれて豊潤で香り高い血の匂いが強く匂って来ていた。

その事に不安を覚えながらも俺は必死に走る。

ようやく修道院に辿り着いたとき、そこには傷を負い呻きながらも動けないらしく倒れている同僚達がいた。

そして、その奥では数人の兵士が妖魔と相対していた。

今、この瞬間にも負けてしまいそうなぐらい劣勢だった。

急いで加勢しなくては!

そう思い妖魔に向かって駆けていく

今なら妖魔は後ろを向いているから不意を衝けるかも知れないそう思い静かにしかし素早く接近していく

その途中でまた一人妖魔の爪で兵士が斬られてしまう。

クッ、全力で向かっていれば助けられた……?

そんな自責の念で同僚が斬られた事からつい目を逸らした先で俺はさらなる衝撃を受ける。

血塗れで今にも死んでしまいそうな傷を全身に負ったグリアさんが居たのだ。

 

「グリアさん!?」

 

呼びかけるが反応はない。

まさか死んで……?

イヤ、そんな事はない!まだ助かるはずだ!!

俺はそう思いながらも心臓を掴まれたような気分になる。

それでも、今この瞬間はまず妖魔を倒さなければならないそう思い妖魔に再び妖魔へと向かう。

どうやら叫んでしまった事で俺の存在に妖魔と同僚達が気付いたらしい。

 

 

「レイ!来てくれたのか!?」

「ギギギ、雑魚がまた増えた。何人増えても無駄無駄、お前ら全員死ぬんだよ、ギシシシ」

「……うるせぇ、グリアさんをやったのはお前か?……許さねぇ」

 

俺は激情に身を任せて妖魔に向かって突撃する。

途中でセネルや他の同僚に止められたような気がするが、そんな事よりもグリアさんを傷付けた妖魔が許せなかった。

グリアさんが居なければこの街でこんな風に過ごす事はできなかった。

そんな恩人を傷付けたのだ、この妖魔は許せる訳がない。

全力で踏み込み全身全霊を込めて長剣を振り降ろす。

今までで剣を振って来た中でも最大の威力を秘めていたであろう一撃、だがあっさりとかわされてしまう。

グリアさんの教えを守らず隙も見えていないのに激情に身を任せ初めから大ぶりをしてしまったからだ。

体勢を崩した俺を妖魔は思いっきり蹴飛ばす。

俺はなすすべもなく蹴飛ばされ修道院の扉を打ち破り、聖堂の中に飛び込み、いくつか椅子を巻き込んで転がりようやく止まる。

 

「……ギシシッ、何だぁ?アイツ、俺に蹴られに来たのか?ギシシシ」

 

遠くから微かにそんな妖魔の声が聞こえるが全身を酷く打ちつけた所為でしばらく立ち上がれそうにない。

外から剣戟の音と悲鳴が聞こえてくる中、俺は言う事を聞かない身体を動かそうと四苦八苦していた。

ようやく少しは動けるようになった頃、剣戟の音はいつの間にか止んでいた。

そして、壊れた扉をさらに破壊しながら巨大な人影が修道院の中に入ってくる。

妖魔だ。

外に居た仲間達は全員やられてしまったのだろう。

……俺が無謀に突っ込んだ所為で余計な被害が!?

 

「クソッ……反省は後だ!今は冷静になるんだ」

 

そう自分に言い聞かせ無理矢理気を静める。

そういった事もグリアさんには教えて貰っていた……実践はまだまだできていないが

 

「ギシギギギ?生きてるとは思ったが元気そうだな?」

 

後は止めを刺すだけと思っていたのか妖魔は俺が立ちあがり剣を構えているのを見てそう言う。

 

「ハッ、お前が弱いだけだろ?」

「……一撃で吹っ飛ばされてよく言うな、ギギギ」

「お前、修道院の人間はどうした?」

 

強がりついでに煽ってみるが妖魔は全く動じた様子がない。

どうやら即、止めを刺そうとは思っていないようなので時間稼ぎついでに気になっていた事を尋ねる。

どうにか剣を構えているとは言え、まだ若干痺れが残っているのだ。

それに、時間が経てば援軍が来る可能性が高いはずだ。

 

「ギシシシ、見られちまったから殺したよ」

 

あっさりとそう言い放つ、

本当は静かに一人だけ喰うつもりだったのにあの兵士達の所為で全員殺る羽目になっちまった、そう妖魔は続けて言う。

その事にまた怒りが込み上げてくるがどうにか押さえつける。

……予想はしていた事だし、ある意味俺にとってもありがたい事だからだ。

 

「お前、何か美味くなさそうだな?」

 

そんな事を妖魔が呟く

俺が妖魔だからだろう

俺も目の前にいる妖魔がとても不味そうに感じる。

そして、何より強烈に感じる妖魔の気配、何故今まで感じられなかったのか分からないぐらいにはっきりと感じられる。

同時に他の感覚も鋭敏になっているらしく、修道院の中には生きている人間が誰も居ない事も分かる。

俺は何も答えないまま妖魔の姿へと変身する。

漂う血の匂いがより鮮烈に感じられる。

飛び散った肉が例えようも無い程に美味そうだ。

……だが、まずはアイツからだ

 

「ギギギ!?貴様、同類だったのか!?」

 

無言で妖魔を斬りつける。

不意打ち気味かつ今までとは比較にならない速度での斬撃に妖魔はあっさりと腕を斬り落とされてしまう。

 

グギャァアアアアアアアアアアアアア!!

 

聞くに堪えない耳障りな絶叫が聖堂に木霊する。

俺は真っ二つにしてやろうと思ったのに避けるから腕だけになってしまった。

舌打ちをしながら続けて頭に向かって振り上げる。

が、妖魔はバックステップでどうにか回避し、そのまま逃走しようと背中を見せる。

 

「ハッ、逃がすかよ」

 

逃げ足はどうも相手の方が速いようなので剣を妖魔に向かってブン投げる。

技術もなにもない、力任せの投擲だったが妖魔の胴体に直撃し妖魔はバランスを崩し倒れる。

俺はゆっくりと近づき剣を引き抜く

安物の長剣は投げた衝撃で折れてしまっていたが、止めを刺すぐらいはできるだろう。

そう考え折れた剣を振り上げる。

 

「ちょっ、待っ、俺達、仲間じゃ……」

 

妖魔が戯言を言っているが一切気にせず剣を振り降ろす。

 

グゲッ?

 

そんな情けない断末魔を残して妖魔の頭部は真っ二つに斬り落とされる。

勝利の余韻もなく俺はすぐに人間の姿に戻りグリアさんの元へと向かう。

修道院の扉を抜けた瞬間、突然声を掛けられる。

 

「へぇ、珍しいね?人間を助けるために妖魔を倒す妖魔なんて……まるで小説みたいだね?」

 

そんな事を軽い調子で言われる。

その内容もそうだが、声を掛けられた瞬間から冷や汗が止まらない。

声を掛けてきた相手が圧倒的な妖気を放ち始めたからだ。

声の主を探しているとこっち、こっちと声を掛けられる。

声の主は木の枝に腰掛け、こちらを満面の笑顔で見つめていた。

いつから見ていたのだろうか?そこには銀色の髪、銀色の眼、白いマントを羽織り、大剣を背負った女、クレイモアが居た。

自分よりも遥かに強い、そう感じさせるクレイモアに恐怖を感じながらも問いかける。

 

「……お前は何者だ?何故ここに来た?」

「私?私はあなた達の敵よ?何でここに来たかって?探ってたら、街の中に居るのにいつまでも人を襲わない妖魔がいるじゃない、で、その妖魔が別の妖魔と戦い始めたりなんかしているから見に来たのよ、要はあなたを見に来たの」

 

どうやら依頼されてここに居る訳ではないようだが、相手はクレイモアだ折角見つけた妖魔を見逃す事はないだろう。

そう思い、じりじりとクレイモアから距離を取る。

ただでさえ勝ち目がないだろうに今は全身ボロボロで武器もまともにない、こんな状況で勝てる訳がない。

なら、逃げるしかないだろう……どれだけ絶望的だろうと

 

「あら?逃げるの?」

 

ッ気付かれた!

その瞬間に全力で大地を蹴り、逃走を開始しようとする。

が、いつの間に近づかれたのか気付いた時には首に手を回すように抱きとめられてしまっていた。

一見まるで恋人同士がじゃれているようにしか見えないが、この体勢ワンアクションで首を折られる!!

間近に迫った死の恐怖で冷や汗すら出ない、声も出せずに震えていると

 

「ふふふ、あの人まだ生きてるみたいだけど?」

 

そう言いながら女はグリアさんを指差す。

 

「えっ?……本当だ……よかった」

 

良く見てみると本当に僅かだがグリアさんの胸が上下しているのが見て取れる。

とは言えこのまま放っておけばいずれ死んでしまうだろう。

迅速な治療が必要だ。

俺は無意識の内にグリアさんの方向に向かおうとする。

 

「ふーん、やっぱり助けに行くんだ?」

 

その声に俺は今どんな状況にあるのかを思い出す。

 

「頼む、俺は……どうなってもいいから、グリアさんをあの人を助けてくれ」

 

死ぬのは怖い、だがそれ以上に恩人であるグリアさんに死んで欲しくない。

その一心でクレイモアに懇願する。

 

「イヤ」

 

しかし、にべも無く断られてしまう。

それでも、諦めきれずに言葉を続けようとするがその前にクレイモアの女が、

 

「あなたが助けなさい。ふふふ、この場は見逃してあげるわ」

 

そう言い

俺を開放する。

そしてまたね、とだけ言い残してクレイモアは一瞬で去っていく

呆然とそれを見送る。

……どうやら助かったらしい

そんな安堵にへたり込みそうになるが、気力を振り絞ってグリアさんと仲間達に応急処置を施していく

応急処置を施している内にようやく援軍が到着する。

俺は最低限の報告を隊長にすると同時にスイッチが切れたように倒れてしまう。

いい加減体力も気力も限界だったのだ。

この街に来て初めての大事件はこうして終わりを迎えたのだった。

 




ようやくこの話が終わりました。
長かったです。
何故かどんどん長くなって書いても書いても終わらなくて大変でした。
ちなみに力関係としては
レイ(人間)<ベテラン兵士<グリア<レイ(妖魔)≦妖魔(町長)<クレイモア
みたいな感じです。
圧勝みたいな感じになってますけど、不意打ちと動揺、それに連戦の疲れとグリアによる傷などがなければ6:4ぐらいで負けます。
ちなみに今回の妖魔はラキの兄に化けていた妖魔ぐらいの強さです。
レイは妖魔の中でも弱いです。
私は人を喰えば喰う程妖魔は強くなると思っているので、基本的に人間を食べていないレイは弱いです。
その分を剣術を学んだりして補うんですが、まだ剣術初めて1年、それなり憶えが良くても大して強くありません。

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