とある夏の月での一日、主人公の家に、少年少女が泊まりに来た。

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晴天の日の事

 本日は晴天なり。空はよくよく晴れていて、雲一つ浮かんでいない。柔らかく優しいお日様の光は、畑一杯に広がる作物を美しく照らし、その存在を祝福しているように見えた。今僕がいる場所は、畑の中のトマトを育てている区域だ。炎を連想させるほどに真っ赤に染まった実は、繋がっている体全体をしならせるほどに大きく育っている。下に手を添えるだけで、ずっしりとした感覚が肌を押してくるのだ。

「兄ちゃん、兄ちゃん!取れたよ、ほら!」

 横に顔を向けると、ようく熟れたトマトを両手で抱えるぐらいにたくさん採っている金髪の少年、マルコがいた。笑顔を浮かべ、自分の成果を自慢するようにはしゃぎながらこちらへと向かってくる。

「私も私も!」

 その後ろからもう一人、特徴的な帽子をかぶった少女が駆けてくる。キャンディだ。両手で一個ずつトマトを掲げながら、ニコニコと花のような笑顔を咲かせている。そんな微笑ましい光景を見て和んだ僕は、近くにある籠を指差して二人に指示した。

「うん、じゃあ、あそこにある茶色の籠に入れておいてくれるかな?」

 はーい!と元気よく返事を返して、二人は僕が指さした場所へと向かっていった。僕もトマトを収穫して、籠へと歩く。

 籠の中には二人が入れたトマトの他にも、南瓜やとうもろこしといった色とりどりの野菜が綺麗に入っている。

「よおし、これでみんな収穫できたかな。それじゃあ、ちょっと井戸の所まで行こうか」

「ん、わかった!」

 ふん、と力を入れて籠を抱え、井戸へと足を進めた。僕の後ろをとてとてとマルコとキャンディがついてくる。後ろを振り向いて二人の顔を見てみると、次は何をするのかを楽しみにしているようで、僕の背中を期待の篭った眼差しで見つめていた。それにこそばゆくなりつつ、井戸の所までたどり着いた僕は籠を下ろし、先程二人が収穫したトマトを手に取る。水で周りの土を落として二人に渡した。

「はい、どうぞ」

 そのまま食べてみるように勧めてみるが、二人は首を傾げただけだ。どうやら説明が足りなかったようだ。これは、実践して見せたほうが早いかな? そう考えて、籠から一つトマトを取り出す。水で洗い、二人に見本を見せるように大きく口を開けて齧り付いた。

 じゃくん、と歯が赤い実を切り裂く。ツルッとした皮と、じわりと流れ出た果汁が舌に触れる。そのまま口の中で咀嚼し、身を口の中で崩していく。プチプチと潰れる種の食感。身を潰すたびに溢れる甘味とほのかな酸味。ジューシーに流れる爽やかなトマトの果汁。それぞれが脳を刺激し、僕の体へと染み渡っていった。

 ゴクリと飲み込み、息を一つふう、と吐く。歯型のついたトマトの断面からは、僕が噛みしめた時に出てきた果汁が少しずつ流れ出ていた。うん、美味しい。上手に作ることができた。思わず頬が緩み、にっこりと笑顔になっていく。

 再度、二人を見てみる。僕が一気に齧り付いたことにびっくりしたのだろうか、目を見開いて僕の顔を見つめている。硬直から抜け出すと、僕の行動の意を察したのか。二人共顔を見合わせ、頷きあった後に、真剣な表情で手に持っているトマトを見つめた。――そこまで抵抗でもあるのかなあ。まるで何かを決意したような表情の二人を見て僕は心の中で苦笑し、頑張ってと応援する。

 覚悟ができたのだろう。目を瞑り、二人は口を開けてトマトを食べた。かぶりゅ、とでも効果音が聞こえそうなほどに、勢いよく食べてくれた二人。目を瞑りながら、ぐにぐにと口を動かして咀嚼している。

 すると、驚くように目を見開き。直ぐに笑みを浮かべていく。マルコはまだ口の中に残りがあるにも関わらず、トマトへと齧り付いた。キャンディは同じように齧り付きはしなかったが、ゆっくりと賞味し、口を動かすたびに笑みを深めている。そうして、トマトの味をじっくりと堪能し、ごくんと飲み込んだ。

「美味しーい!!」

 心の底から思ってくれたのだろう。畑一杯に広がるその言葉は、僕にとってとても嬉しかった。

「んんっ、はぁ~!本当にうめえ!」

 マルコも続いて声を一つ。すっかり食べ終わったのだろう。右手にはトマトのヘタだけが綺麗に残されており、キャンディと同じように素晴らしい笑顔を見せてくれていた。口の周りはトマトの汁で赤く染まっている、汚れるのも気にしないほどに夢中になっていたのかな。とても微笑ましい。

「ね、美味しいでしょ? ようく熟れてて、甘くできたんだ」

「うん、うん!」

 僕の言葉に、キャンディは元気よく首を振る。一頻り降り終わると、残っているトマトに齧り付いていった。口は最初の時より大きく開けられていて、ばくん、と一気に食べていく。咀嚼するたびに、トマトの味が溢れ出ているのだろう。より頬を緩ませている。とっても可愛い。

 気持ちを切り替え、僕は茶色の籠を持ち上げる。体を出荷箱の方向へと向け、二人に声をかけた。

「じゃあ、これを出荷したら一旦おやつにしようか。そろそろ時間だろうしね」

 朝のうちに作っておいたアップルパイとオレンジジュース。冷蔵庫に入れてあるから、しっかりと冷えているはずだ。キャンディはもちろん、マルコも嫌いってことはないだろう。

 おやつという言葉が心に響いたのだろうか。二人共目を輝かせて、僕の方に走ってくる。そうして僕を挟むように横に並ぶと、期待の篭った眼差しで僕を見つめ、おやつの中身を暴こうとしてくる。

「それは、着いてからのお楽しみ」

 おどけたように誤魔化して、僕は出荷箱へと足を進める。こうしていると、やっぱり二人共まだ子供なんだなあと再認識させられ、同時に二人を預かってよかったと思うのだ。

『すまんが、今日の間、よろしく頼むぞ』

『………………頑張って』

 ドロップさんとカンロさん、二人の言葉を思い出す。隣にいたガネーシャさんと共に、心配そうな表情を浮かべていたのが記憶に新しい。

 ――大丈夫です、二人共とってもいい子ですし、僕も、しっかりやれています――

 今、ここでは届かないけれど、心の中での二人に説明するように思う。そして、僕を急かすように前を歩くマルコとキャンディにおいていかれないように、足を速めた。

 

 

 

 

 

 おやつを食べ終わって――評価はマルコ、キャンディ共に好評のようだった――少し経った後の事だ。僕は二人を連れてモンスター小屋に訪れていた。おやつを食べ終わった後、僕たちは軽く雑談をしていた。その時にマルコが、

「兄ちゃんって時々モンスターを連れて出かけているのを見るけどさ、どうやったらモンスターとあんな風になれるんだ?」

 と、聞いてきた。キャンディも気になっていたらしく、マルコに同調してきた。僕としては、慣れていればモンスターも怖くはない、と知ってもらいたかった。二人がモンスターに興味を持っているなら、できるなら触れてみてほしいと思い、この小屋に連れてくることにした。

 小屋に飼っているのは、バッファロー、モコモコ、シルバーウルフといった、それぞれ、独自の個性を持ったモンスター達だ。僕が入ってきたことに気がついたのだろう。じゃれつこうとでも思っているのか、喉を鳴らして近づいてくる。だが、後ろにいるマルコとキャンディに気づくと、少し離れたところで止まり、僕らをじっと見つめてきた。その視線には、警戒と困惑が含まれているようにも見える。

 二人を見てみる、さっきまではモンスター達と触れ合えることに意気揚々としていたのだが。いざその場面になってみると思うところがあるのだろう。僕の後ろに立ち、半身づつ体を隠している。顔はこわばっていて、緊張しているように見えた。

「大丈夫、怖くないよ」

 二人の恐怖を取るために頭を軽く撫でてあげた後、少し前に歩いて膝を曲げてしゃがみ、一番近くにいるシルバーウルフ――シルバに手招きをした。

「おいで」

 僕の言葉に警戒を解いたのだろう。喉を鳴らして、甘えるように擦り寄ってきた。胸元に体を押しつけてきたり等、全体を使ってアプローチしてくる。

「よしよし、可愛い奴だな」

 最初、これをやられた時には姿勢を崩してしまってまともに動くことができなくなってしまったが、今では大分慣れたものだ。シルバの右脇と左肩を抱えるように手を入れて、こちらからも体重をかけるように体を前に倒す。右足で膝をついてバランスをとり、じゃれてくるシルバの体を支えてやった。当然、背中をなでたり、此方から頬を擦りつけたりして可愛がるのも忘れない。

「いい子だ……さて。マルコ、キャンディ、こっちに来てご覧」

 振り返り、興味深そうにこっちを見つめている二人を呼んだ。それに反応して、僕の真後ろまで近寄ってくるが、まだ少し怖がっているのだろう。顔には多少緊張の色が見えた。

(もう少し必要かな)

 シルバの背中を軽く叩いて地面に降ろす。膝をつく足を左足に置き換え、体を曲げ二人とシルバを対面させた。それに伴って、シルバと二人の目が合う。片方は興味と困惑を混ぜたような目つきで見つめ、もう片方は恐怖の色を滲ませながらも、向かい合った目を正面から見ている。

「大丈夫だよ、ほら、触ってみて?」

 隣のシルバの頭を撫でてあげながら、優しい声で二人に話しかける。緊張が解れたのだろう。恐る恐るといった感じではあるけれど、まずはキャンディが手を伸ばした。シルバの鼻に指の先から軽く、ゆっくりと触れていく。

「………………」

 手の甲まで密着させると、小さく横に動かし始めた。すりすりと撫でてあげているのだろう。キャンディは、顔をこわばらせながらも、シルバの目をじっと見つめ、マルコは、キャンディを心配している。

 そうして少し経った後だ。クゥンと鳴き声が小屋に小さく響き、シルバは気持ちよさそうに、ゆっくりと目を閉じていった。

「…………ふふっ」

 それを見たキャンディは緊張を解き、次第に微笑みを湛えていく。撫でる範囲も、鼻先だけではなく、筋から頭のてっぺんまで。広く、優しくなでている。

 マルコも感化されたのだろう。首の付け根あたりをゆっくりと、擦るように撫で始めた。サラサラしていて、こっちも気持ち良くなるんだよなぁ、あそこ。

「おぉ…………」

 優しく微笑みを浮かべているキャンディに対し、マルコは呆けたような表情で撫で続けている。何を考えているのかはわからないけれど、きっと悪いものではないんだろうなあと察する。

 二人を眺めていると、背中にボールがぶつかったような衝撃が走る。何かと思って顔を後ろに向けてみると、そこにはモココ――モコモコにつけた名前である――が、肩の辺りまでよじ登っていた。頬に綿毛が当たってふんわりと柔らかい。

「きゅう、きゅう」

「あはは、ごめんな。ここにいるのはシルバだけじゃないもんな」

 悲しそうにこちらを見つめながら、寂しかったぞー、とでも主張するように、体を擦り付けてくる。綿毛が擦れて気持ちいい。

 よく見てみると、モココ以外にもバッファローのモーが近づいてきていた。その目はモココと同じように悲しみを湛えている。全く。朝にブラシはしたのに、甘えん坊だなあ。

「お前もおいで」

 呼んでやると、モウ、と嬉しそうに鳴いた後、此方に近づいてきた。そして前足をあげ、僕に覆いかぶさるようにのしかかって――――

「ってひゃあっ!重い、重いって!」

 当然僕の力では遥かに重いモーの体重を支えきれるはずもなく、そのまま押しつぶされた。重みで苦しくなるなんてことはなかったが。地面にこすりつけられるのはよろしくない。何とか抜けようともがいてみる、が、やはりというかなんというか、全く動かない。

 こりゃダメだと諦めて、自分のことは後に回す。マルコとキャンディはどうなってるのか。

「こ、こら、やめろって!もう!」

「うわぁ、柔らかあい、ふわふわしてる」

 なんとも言い難い光景が広がっていた。シルバは後ろ足で立ち上がってマルコにじゃれ付き、頬をペロペロ舐めている。マルコの方も口ではともかくまんざらではないようで、声色は明るい。表情も嫌がっているどころか、笑顔に近い。いつの間にか僕の肩から降りていたモココは、キャンディに飛びついていた。その綿毛たっぷりのもこもことした体を押し付け、心地良さを存分に堪能しているようだった。

 ……本当、良く懐いているなあ。会ったのは初めてではなかったかもしれないけど、こんなに触れ合うのはなかったはずなのに。思っていたよりもずっとあっさり打ち解けていることは喜ばしいが、どこか複雑だ。

「…………ははっ」

 まあ、二人が楽しそうにしているのを見て、思わず笑ってしまったところから、それ程悪くは思ってないのだろう。特に、悪影響があるわけでもないしね。

 そう思っていると、背中の重みが消え、体が動かせるようになった。満足してどいてくれたのか。ふうと息をつき、軽くモーの頭を撫でた後立ち上がる。

「やっぱり汚れちゃってるな、まあ、仕方ないか」

 考えてみれば、今は夏である。体中から吹き出した汗は、服にべっとりと染み込んでいる。又、濡れた服に砂埃や葉がくっついていて、少し気持ちが悪かった。二人も、同じように汗をかいているのではないのだろうか。

 ……そうだ、せっかくだしあそこに行こう。僕はやることを一つ決め、今もモンスター達とじゃれ続けている二人に声をかけた。

「二人共、ちょっといいかな――――」

 

 

 

 ざぶん、と水に沈んだ音がする。同時に温かいお湯が疲れをほぐし、その中にへとに溶かしていく。僕を包んでいるのは、汗の様な不快感を押し付けてくるのではなく、疲労を溶かしてくれる快感を与えてくれる。湯に沈んだ右手を、左手の人差し指でなぞってみる。意味もなくやってみたけれど、くすぐったくて、気持ちよかった。

「ふぅ~、いい気持ち」

 溜息とともに零れる声。やっぱり、お風呂はとても良い物だ。体を包む温もり、海を泳ぐのとは違う、水中での独特な浮遊感。それらが僕の体と心を溶かし、温め、癒してくれる。

「兄ちゃん、じじ臭いぞ」

 そんな僕を老人扱いしてくるのは、首元までしっかりと湯に浸かり、気持ちよさそうに目を細めているマルコだ。濡れた金髪から水滴を落としているその姿は、幼い容貌には似合わない雰囲気を醸し出している。

「いいじゃないか……畑仕事で、疲れているんだから…………マルコもそうだろう?」

「……ん。でも、母ちゃんの手伝いとかしてたから、こういったの慣れてたと思うし、そんなに疲れてないよ……」

「本当かい、じゃあ、僕も年なのかなあ……」

 まあ、実際は僕の方がマルコよりずっと体を動かしていたからだろう。まだ、三十どころか二十にすらなってないのだ、このぐらいでガタが来ては困る。

「……………………」

「……………………」

 そして、何も喋る事無く沈黙した。話題がないわけではないが、ただ、積極的に話していく気になれなかっただけだ。

「……ねぇ、マルコ」

「なぁに、兄ちゃん」

 そんな訳で、喋る時は、なんとなく思った考えが漏れたようになるのだ。隣にいるマルコに、呟くように話しかけた。

「キャンディと一緒に、入りたかった?」

 同時に、こちらに目を向けずに話していたマルコは勢いよく振り向く。その顔は熱と、多分羞恥で真っ赤に染まっていた。

「は、は、はぁあああああ!? 何でいきなりそんな話になるんだよ!?」

「いや、ほら、前お風呂入ってた時、そんな感じなこと言ってなかったっけ、あれ? マルコじゃなくてガネーシャさんが言ってたんだったか」

「あのなぁ! 別に俺は……キャンディと…………」

 先程の落ち着いた雰囲気はどこへやら、あっという間に喧騒しくなったこの空間。最初は大声で否定しようとしていたマルコも、話していくうちにどんどん声量は小さくなっていく。最後の方なんてもはや聞こえやしない、ぼそぼそと何か言っているのがわかるだけだ。

「…………覚えとけよ、兄ちゃん」

 湯気でそう見えてるだけか、本当にそう見えているのか。目元に涙を浮かべながらじっとりと僕を見つめて、恨めしそうに呟いてきた。ちょっとからかいすぎたかなぁ。とりあえず謝っておこうと、僕は口を開く。

「いやぁごめんねマルコ、つい――」

『気持ちいいー……』

 言葉を遮るように、向こう側――女湯の方から声が聞こえた。幼さが残るこの声、キャンディのものだろう。僕らと同じように風呂を堪能しているようだ。声を聞いたマルコは体をビクリと震わせ肩をすぼめている。思わずからかいたくなってしまうが、自重しよう。

『ちゃんと肩まで浸かるのよ』

『わかってるよ、ロゼッタおねえちゃん』

 次に聞こえたのは少し大人びた女性の声、ロゼッタさんの声だ。そういや、キャンディといっしょに入ったんだったな。

『今日はラグナの所に泊まっているのよね』

『うん、トマトとか採ったりしてたの。ちょっと疲れるけど、凄く楽しいよ! 甘くて美味しいし!』

『そう? それなら良かったわ』

 話に花を咲かせているのだろう、楽しそうな声が聞こえてくる。…………さて、そろそろ出ようかな。キャンディ達より早く入ったし、これ以上いるとのぼせてしまう。マルコもそろそろ暑いだろうしね。

『……ロゼッタおねえちゃん』

『うん、なあに?』

 さて、まずはマルコに声をかけないとな、僕はそう考え――――

『おねえちゃんって、足、綺麗だよね』

 ――――――マルコと一緒に風呂をでるために、口を開き、声をだした。

「マルコ、そろそろ」

『……それ、褒めてくれてるのよね? 風呂の中できれいに洗った、ツヤツヤな大根みたいなんていう比喩表現じゃあないわよね?』

『??? うん、本当、綺麗だなあって思ったんだけど…………」

『そう、それならいいのよ。ありがと』

 ああ、そういえば、ミストさんが大根みたいで美味しそうっていってたんだっけな。でも、別にきたないとはいってないし、むしろ。いや、ぼくは何を考えているのだろう。あ、マルコがいつの間にか湯船から出ている、僕も出ないと。

『私も、立派な大人になれるのかなあ……』

『キャンディなら大丈夫よ。髪も綺麗だし、しっかりしてるからね』

 うん、それに可愛いし、将来びじんになることはまちがいないだろう。髪、目、その他etcとか美人になりうる要素があの小さい体につまっている。ああ、キャンディも足がキレイになるのかな、ろぜったさんのように。……やばい、何だかまともな思考ができない。なんというか色々混ざって、うん、よくわからない、早く出ないと。

 視界がぼやける、かおがあつい、ああ、もうだめ――――――

 

 一応、意識を失う前に何とか外に出ることはできたが、すっかりのぼせてしまい、暫くはぼんやりとしたままだった、ああ、もらったミルクが体に染みる……

 

 

 

 

 

 日差しに照らされながら如雨露を振り、目の前の野菜達に水を撒いていく。水がかかった葉っぱには小さな水たまりができて、そこからぽたりぽたりと雫を地面に垂らしていく。

「ふう、これで終わりっと。次は草刈りかな」

 大きく背伸びして、ため息を一つ。ハンカチで額や首元の汗を拭きながら呟いた。天気がいいと野菜もよく育つが、雑草もよく生える。モンスター達に任せっきりではいけないのだ。

「……モンスター、か」

 ふと、小屋での出来事を思い出した。楽しそうに、嬉しそうに触れ合う二人とモンスター達。マルコの顔を舐め続けるシルバ。キャンディから離れようとしないモココ。僕を押し潰したモー。……おかしな出来事だったけれど、どれも、大切な思い出だったはずだ。

「……少し、休憩しようかな」

 あの日――三日前、風呂に入ってから、僕とマルコ達は僕の家へと戻り、夕飯を食べて軽く話していた。僕の冒険についてだったり、引っ越してきた理由とかだったり、内容は様々だ。そうして暫く経つと、二人共眠くなったようで、ベッドへと向かってそのまま寝ていったのだ。

 家に戻った僕は、手に持った鍬などを片付けて、そのままベッドへと向かった。別に眠たくなったわけではない。ただ、なんとなく気になっただけである。

「…………そうか、三日、前か」

 敷かれた薄い掛け布団に手を載せ、あの日のことを懐かしむように僕は目を細めた。……昨日も一昨日もやったことだ、あの時のことが、僕には忘れられなかった。

『んー、兄ちゃん…………』

『お兄ちゃん、どこいくの……? 一緒に、寝ようよ……』

 ベッドに二人を寝かせ、僕はとりあえず床にでも寝てようと思ったのだが、二人は僕の手を掴み、一緒に寝るように引っ張ってきたのだ。

『……仕方ないなあ。ほら、キャンディは一旦降りて、マルコはもう少し左によって』

 夜とはいえ季節は夏、寝苦しくなるかと思った日だったが、思っていたよりずっと心地よく、そして温かった。それは表面ではなく、心を温めていくような。……なんというか、もし、僕に弟や妹がいたらこうだったのかな、なんて思ったのだ。温もりが、忘れられなかった。

「…………よし、いくかな」

 そうして暫くぼうっとした後、やる気を出すように腕を振る。感傷に浸るのも程々にしなければ、まだ、やることはたくさん残っているのだから。そうして僕は玄関へと向かい、農具を取って外に出ようとした。

 ――コン、コン、コン。

 その時、玄関からノックの音が聞こえた。一体誰だろう? 恐らくミストさんあたりだろうか。そう思い、僕は応えるためにドアへと向かう。

「はいはい、どなたですか」

 カチャリとドアを開け、目の前にいるであろう人物に挨拶をする。するとそこには、

「お兄ちゃん、こんにちは!」

「へへっ、こんにちは、兄ちゃん!」

 あの時のように素晴らしい笑顔を見せてくれているキャンディと、マルコがいた。……思わず驚いて、呆然としてしまった。

「ええっと、マルコとね、話してたら、お兄ちゃんの家に遊びに行こうってなったの」

 おずおずと、キャンディが話しかけてくる、どうやら、僕のところに遊びに来たみたいだ、しかし、なんでだろうか? あの時のことがそこまで楽しかったのだろうか。実際、僕はとても楽しかったが、二人もたくさん楽しんでくれたのだろうか。

「あー、ごめん、迷惑だったかな……」

 バツが悪そうな表情でマルコは話しかけてきた。どうやら、僕の沈黙と手に持っている農具を見て、農業の邪魔をしてしまったと勘違いしたのだろう。……いけない、まずは二人に対応しなければ。

「ううん、そんなことはないよ、大丈夫。さぁ、あがって、ゆっくりしていってよ」

 二人に家にあがるように勧めると、ぱっと笑顔になり、お邪魔します、と一礼して駆け足で入っていった。

 悩むのは後、草刈りの仕事も後でいい。今は、この時間を楽しもう。そう思い、僕は農具を片付け、冷蔵庫へと向かう。まずは、二人のお客様に冷たい飲み物でも出そうと、ジュースを取り出しにいった。

(今日は、泊まっていくのかな)

 まだまだ早いけど、夜のことを考えてしまう、だけど、これは仕方がないのだ。だって、とても楽しみなのだから――――




 キャンディのお泊りイベントってあるのかなーとか考えながら書いてました、はい、ストーリーあんまり進んでません。


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