Muv-Luv Alternative×創世奇譚アエリアル とある確率分岐世界    作:†バレット†

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二つの案件

二つ……

 

宙空をふわふわと浮かんでいる女神とでも見紛う程の美少女、このスター・ノアのメインコンピュータでもある少女のホログラム、AXIAが神秘的とも幻想的とも言えるような衣装に身を包んだ少女が話した情報。

 

今この場の雰囲気は完全に彼女が掌握していると言っても過言ではなかった。

 

 

「……続けて下さい」

 

少しばかり浮き足立っていた周囲の雰囲気が一瞬にして引き締まる。

 

伊達に三年間に渡ってスプークの襲撃を振り払い、長きに渡る宙間航空を続けてきた強者達ではない、彼女の言葉の重みがどれほど重要かなどはとうの昔に骨身に染み渡っている。

 

固唾を呑んで新たな情報を聞き漏らさないようにしている大人達をAXIAは見渡し、ホログラムであるにも拘らず、柔らかさそうな質感が容易に想像出来そうな唇がゆっくりと動き出す。

 

 

『――一つ目ですが、この世界に存在する精霊力が非常に薄いという事です』

 

AXIAの言葉に皆が皆、一斉に眉を顰める。

 

精霊力、それは間違いなく我々の生命線であり、その精霊力が薄い等という事はAXIAと出会って今迄一度も無かった事態だからだ。

 

 

「精霊力が薄い……どう言う事なのでしょうか? 現状でどのような問題が見られるのです?」

 

 

精霊力が薄い、それはこのスターノアにとって今までで一番大きな死活問題かもしれないのだ。

 

未来人が発見した我々にとっては未だ解明しきれない未知なるエネルギー。

 

スターノアの核でもあるデモンズコアがあらゆる元素に宿る精霊力というエネルギー抽出し取り込み、各種艦設備や武装のエネルギーへと供給されていたのだ。

 

予備の動力が多数存在しているとはいえ、デモンズコアが本調子で稼働出来ないのは痛すぎる。

 

『――当然の事ながら大気圏を離脱することも不可能であり、各種兵装は光学透過モード継続と艦内の各環境及び生活維持システムを継続する限りすべて使用不可能な状態にあります』

 

 

「そう……ですか」

 

各種兵装が使用できないのは痛いが、生活事態に影響は出ないらしい。正に不幸中の幸いといったところだ。

 

 

「AXIA、原因は判明しているかしら?」

 

『――Yes,Ma'am.調査の結果、精霊力減衰の理由は各ハイヴに存在するモニュメントであることが判明しました。世界各地にあるモニュメントが周囲の精霊力を吸収しているせいで精霊力が薄くなっているのです』

 

「モニュメント……香月博士の話に出てきたBETAの基地に存在する巨大な構造物の事ですね。まさかそのような能力を秘めていたとは……」

 

「なるほど……これが人類の知らない一つ目の出来事か。確かに精霊力の存在を知らなければ知りようもない出来ごとだわな。だが何故BETA共は精霊力を集めるような構造物を前線基地に立てているのだ?」

 

 

考えを馳せるように目線を落としたエインズレイ長官の横でコーンウェル司令が唸るような低い声で新たな疑問を持ち上げる。

 

 

『――それは二つ目の案件に直結します。まず最初に、我々未来人はこの世界で言う所のBETAの存在を多少なりとも知っているのです』

 

 

「ッッッ!!」

 

透き通るような美声から驚くべき事実が発せられ、室内の全員が洩れなく息を鋭く吸い込んだ。

 

 

『――あれは未だに星間航行を続けている頃でした。付近の惑星から多数の反応が検知されDM数機で調査に向かった結果BETA……当時でいう所のイーターを発見したのです』

 

「ま、待って頂戴!! イーターって、情報ではSPOOKとは見た目も何もかもがBETAとは違うわよ? それなのに彼らは仲間だとでも言うの?」

 

『――その可能性は十分に存在します。現にその宙域でSPOOKとの戦闘が始まりましたが、BETAは一度もSPOOKの標的にはならなかったのですから』

 

「…………」

 

黙り込む鹿島補佐官、その表情は知りたくもない事を知ってしまったとばかりに暗い。

 

『――戦闘中にBETAが戦線に参加しなかった事と、その後の経過観察からBETAは恐らく資源回収の任が目的とされていると判明しました。SPOOKが戦闘部隊ならば、BETAは資源収集部隊なのでしょう。SPOOKとBETA、恐らくは大きな枠組みの中で共に共存していた存在なのかもしれません……』

 

 

二つ目の案件、それはBETAが資源収集目的が任とされた存在であるという事。それと、SPOOKとの関わりだったのだ。

 

「ありがとうAXIA、貴重な情報だったわ。何にせよ私達のやることは何一つ変わりません。香月博士の補助、そして地球上に存在するBETAの殲滅。それらが当面の目標なのですから」

 

「了解!!」

 

一同全員の声が同調し、空気を震わせる。これから起こるであろう戦いに向けて各員の士気は十分高まっていた。

 

 

『――長官、横浜基地の香月博士からの通信です。こちらに回しますか?』

 

恐らくスター・ノア着陸地点の選定が終了したのだろう。丁度いい、此方も伝えなければいけない案件が何個か出来上がっていたのだから。

 

「構わないわ、AXIAお願い」

 

『――Yes,Ma'am.それでは……』

 

AXIAがスッと華奢な手を振った先に大型のホログラムウインドウが立ち上がり、その中に件の香月博士の姿が映っている。

 

 

どうやらエインズレイ長官は深夜であるにも関わらず、まだまだ眠ることは出来ないらしい……


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