Muv-Luv Alternative×創世奇譚アエリアル とある確率分岐世界    作:†バレット†

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会合2

――――――横浜基地通路

 

イリーナ・ピアティフと名乗った金髪のクールビューティーという言葉がぴったりと似合いそうな女性が、表情を変えずに僕達を先導して通路をカツカツと歩いていく。

 

その中を無言でついて行く僕とエインズレイ長官とブライアン艦長。

人払いでもされているのか、大きな基地であるにも拘らず、今まで他の人とすれ違う事は一度も無かった。

 

不意に一つの部屋の手前で立ち止まり、此方へと振り返るとピアティフ中尉が口を開く。

 

「この中で基地司令と副司令がお待ちです、よろしいですか?」

 

「ええ、お願いします」

 

エインズレイ長官がそう答えると、ピアティフ中尉はこくりと頷いてからドアをコンコンとノックする。

 

 

「イリーナ・ピアティフ中尉です。エインズレイ長官、ブライアン艦長、東郷少佐をお連れしました」

 

「……入りたまえ」

 

重々しい男性の声が扉の中から帰って来て、緊張感が一段階高まったようにも感じられる。

 

ガチャリとドアを開けたピアティフ中尉が僕達を促すように開けたドアの傍へと立ち位置をずらす。

どうやらピアティフ中尉はこの中までは入ってこないようだ。

 

その様子を見て、エインズレイ長官とブライアン艦長は堂々とした足取りで部屋の中へと入って行く。

僕もDM戦闘部隊の代表として来ているんだ、恥ずかしい真似は出来ない。

 

二人に送れないように中へと入ると待っていたのは三人、一人はAXIAから映像のデータが回ってきたから知っている、香月夕呼副司令だ。

 

後の二人……褐色の肌を持つ大柄な男性、この人がまず間違いなくこの基地の司令官だと思う、だってもう一人の人物は軍服のような物こそ来ているものの、明らかに軍人とは思えない少女なのだから。

 

銀色の長い髪をうさ耳のような髪飾りで纏めている少女、何を考えているのかまるで伺えないその無表情さに僕は凪の面影が見えたような気がした。

 

(凪…………)

 

 

「東郷少佐……大丈夫ですか?」

 

「へっ?……っ!」

 

エインズレイ長官に言われてようやく気付けた、僕はいつの間にか涙を流してしまっていたようだ。

 

凪を残して地球を発ってから約三年、それ程の月日が経つというのに僕は彼女に対するこの一点だけは今だに成長することが出来ていなかった。

 

彼女を強く連想させる事が起こると、どうしても抑えられない涙が無自覚のうちに零れ落ちてしまうのだ。

 

(情けないなぁ。地位だけどんどん偉くなってこんな体たらくじゃ凪に呆れられちゃうよ)

 

そんな事を考えながら涙を袖で拭っていると、目の前の少女がうさ耳をピクンと動かすと、そそくさと香月副司令の元へと擦り寄り何事かをぽそぽそと喋っている。

 

まぁ、初対面の人にいきなり面と向かって泣き出されたら驚きもするよね。

 

告げ口したとしても別段おかしくもない。

 

とにかく今確かなのは、僕がいきなりやらかしてしまったということだけだ。

これじゃあ待機を命じている涼子さんに合わせる顔がないよ……

 

 

こくりと頷いた香月副司令、報告という名の告げ口が終わったのか、少女はその場から少しだけ離れる。

 

 

「さて……と、そろそろ話し合いを始めましょうか、どうぞソファにお掛けください」

 

僕の方をちらりと見た香月副司令は、今だに突っ立ったままの僕達をソファへ腰を降ろすようにと促し、エインズレイ長官を先頭にソファへと腰掛けた。

 

此方がソファに座った事を見届けた相手方もソファへ対面するように座ったのだが、僕の目の前には件の少女が座している訳だ。

 

そりゃ司令や副司令殿が目の前に座られたらもっと困るんだけど、この子はこの子でさっきの事案があるから何だか気まずい。

 

それなのに、この銀髪の無表情少女はじーっと僕の事を見つめ続けて来る。

笑えばいいのか、見つめ返せばいいのか、視線を反らせばいいのか、はたまたもう一度泣けばいいのだろうか?

 

何が正解なのか分からない、まるで一人でに泥沼にハマって行くような嫌な気分だ。

 

「パウル・ラダビノット准将……当横浜基地の司令官を勤めています」

 

「香月夕呼、階級は中佐、当基地の副司令よ。こっちは社霞臨時少尉、私専属の助手とでも言っておきましょうか」

 

 

僕が一人で困惑している間に、簡単な自己紹介は済まされた。

 

此方も改めて自己紹介をしようとしたエインズレイ長官だったが、それを香月副司令が止める。

 

此方の名前と立場は事前に渡されているデータで既に把握しているとの事で、自己紹介は必要ないそうだ。

 

……深く息を吐いて、ゆっくりと吸い、酸素を取り込む。

 

私情を挟むのはここまでだ、社さん……の事は一度置いておこう。

 

ぐっぐっと数回膝の上で手を握りしめ、意識を完全に切り替える。

 

次の瞬間には、シルフィードに搭乗した時のような張り詰めた緊張感のようなものが身を包み、知覚が鋭敏に研ぎ澄まされて行き、ゆっくりと深い集中状態へと移行していく。

 

 

これでいい。

 

この会談は言うなれば、僕と凪が本当の意味で初めて会ったあの深夜の緑地公園と同じなんだ。

 

アエリアルに乗るか否かの選択、そしてそう遠くない将来に訪れるという、苦しみも悲しみも一瞬で終わるという慈悲深い滅亡か、それとも長く果てしない苦難と忍従と犠牲の先に見出せるかもしれない微かな希望かという選択肢。

 

 

そして僕達は後者を選び、これ以上ないというほどに貴重な犠牲の上に立ち、あの地球を脱出したんだ……

 

 

それと恐らく同等の……それ以上かもしれない選択肢がここで叩き付けられるような予感が何故だか僕には感じられた。


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