Muv-Luv Alternative×創世奇譚アエリアル とある確率分岐世界    作:†バレット†

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シミュレーター訓練 sideヴァルキリーズ2

理性の欠片すら感じさせない赤い獰猛な瞳。

危険な色をその目に宿しながら、その集団は鋭利な牙が生え揃った口をガチガチと噛み合わせながら此方に真っすぐに向かってくる。

 

(――この速度、一刻の猶予もないか)

 

生物に出し得るとは到底思えない速度で飛来してくる蟲共を映像越しに一瞥し、部隊長である伊隅は即時に決断した。

 

「ヴァルキリー1よりヴァルキリーズ各機へ。状況は理解しているな?これはBETA相手にも言える事だが、奴等のデータが無いからといって狼狽えている暇は無いぞ?奴等の狙いは間違いなく私達だ」

 

網膜投影に部隊内の全員の顔が表示され、明らかに動揺している新人達に対して念を押す。

動揺してしまう気持ちも分からなくもない。

なんせデータに無い蟲のような生物かどうかも怪しい存在がシミュレーター訓練中に介入して来たのだ。

 

本当の実戦で無いだけマシではあるが、帝国が誇る第三世代機である不知火の最高速度と同等の速度で、蟲のような奇怪な存在が此方に肉薄してくるなんて悪夢でも見ているかのような気分なのだろう。

 

「都合の良い事に補給は先程終えているし、周囲に光線級も居ないから高度も取れる。それに見た所飛び道具の類は装備していないようだ。確かに速度は中々の物だ。だがそれは直線上での話、小回りは此方の方が上な筈だ、上手くいなして背後を取れば十分に討ち取れる。いいな!」

 

『了解!!』

 

「ギギッギギギギギギギィッ!!」

 

「来たぞ!全機散開!」

 

ギシギシとした耳を塞ぎたくなるような音が蟲から発せられ、濁流さながらに此方へと向かって一直線に突っ込んでくる。

 

正にロケットのような凄まじい速度、この速度で体当たりされたらただでは済まない。

 

しかし、予想通りといった所か、奴等には飛び道具は持ち合わせてはいないようで多少の追従はして見せた物の、不知火なら何とか避けられるレベルではあった。

 

しかし……

 

 

「うわあああああぁぁぁっ!!?」

 

「よ、鎧衣さんんんんんっ!!」

 

避け切れなかったのは自身の小隊員である鎧衣美琴。

 

蟲の追従を避け切る事の出来なかった彼女の不知火は左腕を肘辺りから食い千切られ、バランスを崩した所を新たに現れた蟲により正面から体当たりを喰らい大破してしまう。

 

だが惨事はそこで終わってはいなかった、大破した不知火の元に数匹の蟲が降り立ち、何かゴソゴソと蠢いている。

 

「嘘……そんな、鎧衣さん……」

 

そう、奴等は強靭な顎を使い、機体のフレームごと管制ユニットがある場所の周辺を戦車級と同じように喰っていたのだ。

 

「珠瀬っ!!シミュレーターとは言え戦場でボーっとしてる奴があるか!その調子では貴様も鎧衣同様戦死するのがオチだぞ!」

 

「もっ、申し訳ありません伊隅大尉!!」

 

自分の行為を客観的に見直したのか、申し訳無さそうに謝意の言葉を口にする珠瀬。

その彼女に迫る蟲を私は撃ち落としながら浅く頷く。

 

「……誰もが通る道だ、切り替えろよ」

 

「はい!」

 

瞳に力強い光を宿した珠瀬を見て、もう大丈夫だなと確信した私は再び敵の動きを見切り、背後から穿つ作業に戻る。

 

幸い5、6m近く体高を持ち、金属のような体表を持つ規格外な蟲ではあるが、特に弾かれる事も無く36m弾を数十発も喰らわせてやれば問題なく黙る事が分かった為、こっちとしては幾分冷静に対処出来る。

 

これで弾丸が利かなければ厄介極まりない作戦でも立案しなければならない所だった。

 

「大尉!かなり数も減って来ましたね。他の連中も最初に比べたら危なげなくなってきましたしこのまま殲滅しきってやりましょうよ!!」

 

「速瀬……喜ぶのは結構だが楽観視は……っ!?なんだ!!」

 

速瀬を注意してやろうかと伊隅が口を開きかけたそんな時だった。

 

残り7、8体と蟲共の数が減り始め、終わりが見えかけた時点で奴等の体が眩く発光する。

 

「全機警戒しろ!奴等何か仕出かすつもりだぞ!!」

 

『了解!』

 

唯一の犠牲者である鎧衣以外のヴァルキリーズ各員が気合の籠った声で返答する。

 

それは、蟲の癖に高スペックで色々と驚かされたが、此処まで数を減らし、今更何をされようとも対処して見せるという彼女等の自信の表れでもあった。

 

「……ッ!?あれはッ!」

 

宗像の彼女らしくない驚きの声を耳に捉えながら、伊隅自身も絶句していた。

 

「なんなのよ……あれ……」

 

「これは……変形とかの次元ではないな。不可解極まりない……」

 

ヴァルキリーズ全員に驚きと少なからずの動揺が走る。

無理もない、先程まで蟲のような外見だった奴等が何がどうしてそうなったのか、光が収まったその場には戦闘機としか思えない物が存在していたのだから。

 

「……ッ!ヴァルキリー1よりヴァルキリーマムへ、敵の姿がいきなり変わったがシミュレーターの異常か?」

 

「……ヴァルキリーマムよりヴァルキリー1へ、シミュレーターは正常、訓練を続けよとの副指令からの命令です」

 

(……っく!!やはり今回のこれは副指令の差し金だったか!あの人の含み笑いが目に浮かぶよ全く)

 

「伊隅大尉!あの戦闘機……ミサイルを積んでます!」

 

「それは本当か柏木!」

 

「ええ、勿論ですよ。もしもあれがただの飾りだってんなら話は別なんでしょうけどね~」

 

いつも飄々としている柏木だが今回ばかりは未体験の連続のせいか、あまり余裕が無いようにも見て取れる。


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