鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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 5月から6月の季節は基本的に微妙な季節である。

 気温の高低がやたら激しいし、おまけにやたら雨の日が多い。

 因みに私は雨が嫌である。だって髪の毛がキシキシするじゃないのよ。

 

「はっ………………はっ……………はっ……………」

 

(『あと5周よ。そのまま一定のスピードを保ちなさい』)

 

「は、はい!」

 

(『叫ぶと余計な酸素を使うから手を上げて意思表示しなさい』)

 

「はっ……………はっ……………………」スッ

 

 朝5時以降、織斑一夏は私が指示した通りの朝のトレーニングメニューの一つであるランニングをやっている。

 他にも腹筋、腕立て共に100回3セットもあったり、女子陸上部に混ざって短距離走をさせたりしている。

 最初の頃はランニングだけで簡単にへばっていたのだが、日を重ねるうちに体力が向上していき今ではランニングでへばったりなどしていない。

 因みにランニングは学園のグラウンドであり、距離は織斑一夏の走る速さと時間を考えて1キロは軽くあると見た。

 

「よしっ、これで終わり!」

 

(『水を摂って5分休んだら筋トレに入るわよ』)

 

「分かりました。はぁ、早起きは三文の得ってよく言ったもんですね。最初はそうでもなかったけど、こうやって早起きして続けてみれば気持ちいいです」

 

(『あら。随分と余裕があるじゃない。これからダッシュでグラウンドを走ってもいいのよ?』)

 

「む、無理ですって!グラウンドって1キロもあるし、それをダッシュで10周以上は死にますから!」

 

(『大丈夫。人間多少痛めつけても死にはしないわよ』)

 

「やだ白鳥さんの目がドS丸出し!?そこに痺れる憧れるぅうう!」

 

(『(イラッ)………………話が変わるけど、ツインとは仲直りは出来たのかしら?あれからもう数週間は経ったと思うのだけれど』)

 

「そ、それが………鈴の奴、日に増して機嫌が悪くなるばかりだし、廊下や学食でも、露骨に顔を背けられるし…………謝りに行ってはいるんですけど、全然相手にされてないって言うか………」

 

(『まぁ、仕方ないでしょうね。どっかのゴミ屑が曖昧に答えたせいですもの。怒って当然よ』)

 

「はぁ………とりあえず、諦めたほうが良いですかね?」

 

(『まぁ、それもアリなんじゃないかしら?相手が話し掛けないでほしいと切実に思っているのなら、一度距離を置くのもいいかもしれない』)

 

「そうですか。……………話変わりますけど、白鳥さんって昔スポーツか何かやってたんですか?」

 

(『唐突ね。どうしてそう思ったのかしら?』)

 

「いえ。トレーナーみたいにその人に合った訓練法とか、摂取するべき栄養を知ってる風に話すので、何かしてたのかなって」

 

(『ふぅん。ゴミ屑な貴方にしては珍しい洞察力ね。褒めてあげるわ』)

 

「は、はぁ、ありがとうございます(言葉はあれだけど、まさか褒めてくれるなんて思わなかったなぁ……………)」

 

(『まぁ、何をやっていたかと言われれば色々やっていたわね。水泳、バレー、バスケ、テニス、ソフトボール、サッカー、弓道、柔道、剣道、コーラス等々』)

 

「す、すごい数っすね。疲労で倒れなかったりしなかったんですか?」

 

(『部活の助っ人や大会の人数合わせの様なものだったから、必死になってやるような事じゃなかったわよ。私が本気になるほどの相手なんて、県内でも県外にも居なかったしね。私が出た試合は基本的に圧勝するのが当たり前ですもの』)

 

「そ、そうだったんですか………………あれ?助っ人って事は、ちゃんとした部活とか習い事とかやってなかったんですか?」

 

(『やってないわよ。その時の私は生徒会長だったんですもの。ただでさえ無能な役員のせいで忙しいのに更に忙しくしてどうするのよ』)

 

 まぁ、無能な役員を育てるために、理由を付けてサボったりしてたんだけどね。

 いま思い返せば無能だったわ。何よ計算が出来ないって。

 たかが小中学生で習うような足し算と掛け算程度を間違えるとか高校生で有り得ないわよ。どんな頭してるのよ。

 

「あぁ~。そう言えば1年で生徒会長なんでしたね。でも、それだけ運動が出来るならスカウトとか来なかったんですか?」

 

(『来たわよ。でも、全部断ったわ。スポーツマンには悪いけど、人生をスポーツ塗れで塗りつぶすなんて時間の無駄だと思うのよ。人生自由に生きていたいじゃない』)

 

「まぁ、分からなくもないですけどね」

 

(『さて、5分以上休憩してしまったけれど、筋トレに入るわよ』)

 

「分かりました!」

 

 織斑一夏は、グラウンドから少し離れた場所で筋トレを始める。

 そう言えば最近、やたらと織斑一夏の私を見る視線に熱が帯びていたわね。

 それにやたらと素直だし、まるで主人に縋る犬の様な感じかしら?

 

 

 

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 白鳥さんのお蔭、結構体力と筋肉が付いて来た気がする。

 筋トレやランニングという単純だけど、とても効果のあるトレーニングメニューを組んでくれていた。

 それにトレーニング後、主に朝食の時は必ずカフェイン、コーヒーかお茶を摂るように言われている。

 後、トレーニング前にレーズンを食べるのも良いとも言っていた。ほんと何でも知ってるよな、白鳥さんって。

 

「一夏、来週からいよいよクラス対抗戦が始まるぞ。アリーナは試合用の設定に調整されるから、実質特訓は今日で最後だな」

 

 放課後、今日もまた特訓の為にアリーナへと向かう俺と箒とセシリア。

 そうか、もうすぐクラス対抗戦なのは。早いもんだな。

 

「IS操縦もようやく様になってきたな。今度こそ―――――――」

 

「まぁ、わたくしが訓練に付き合っているんですもの。このくらい出来て当然、出来ない方が不自然というものですわ」

 

「ふん。中距離射撃型の戦闘法が役に立つものか。第一、一夏のISには射撃装備がない」

 

 いや、そうは言ってるが白鳥さんのお蔭で役に立ってます。

 射撃装備は使わない、まぁ、俺のISが使えないんだけど、射撃装備を搭載したISに対抗する手段を教えてもらっているので別に役に立っていない訳ではない。

 銃器の種類によって相手が照準するタイムラグと装填時間に、距離で威力が変わったりするなど白鳥さんが懇切丁寧に教えてくれた。

 

(『因みに言うけど、ドリル相手に今の貴方なら私の指示や操作が無しでも余裕で勝てるわよ』)

 

(『マジですか!?』)

 

(『ドリルの弱点や癖は粗方見切っているんだし、それにライフルの弱点だって把握している。いまの貴方は専用機じゃなくても勝てるんじゃないの?』)

 

(『………なんか白鳥さんにそう言ってもらえると、そう実感出来ます』)

 

「それを言うなら篠ノ之さんの剣術訓練だって同じでしょう。ISを使用しない訓練なんて時間の無駄ですわ」

 

「な、何を言うか!剣の道はすなわち見という言葉を知らぬのか。見とはすべての基本において―――――――」

 

「一夏さん、今日は昨日の無反動旋回のおさらいからはじめましょう」

 

「ええい、このっ――――聞け、一夏!」

 

「あぁ、聞いてるよ」

 

(『飽きないわね、この子達も。何度目かしら、こんな喧嘩を見たのは』)

 

(『もう俺は慣れましたけどね。はははは』)

 

(『まぁ、そう余裕ぶっこいて笑っていられるのも今の内よ。後からもっと酷い光景を目にすることになるだろうから』)

 

 白鳥さんがそういうと、なんか本当にそんな光景を目にしそうで怖いなと思いながら俺は第3アリーナのAピットのドアセンサーに触れる。

 指紋、静脈認証によって解放許可が下りるとドアはバシュッと音を立てて開いた。

 そういやよく白鳥さんが、『学園なのに無駄に技術発達してるわね』とか言ってたな。俺もそう思う。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

 何やらピットに鈴が腕組をして立っていた。

 何やらふふんと不敵な笑みを浮かべているが、ついこの前会ったときは怒り心頭の様子だったが、どういう心境の変化……………いや、白鳥さんの言うように心境も変わったのだろう。

 

(『一人しかいないのにアリーナで、一人で舞ってたなんて随分と暇な子ね』)

 

(『そう言わないであげてください。後、『まってた』の字が違いますからね。それだと鈴がタダの変な子の意味にしか聞こえなくなりますから』)

 

(『え?貴方の幼馴染だから、変人じゃないの?』)

 

(『俺に関係する人たちって基本変人確定なんですか!?』)

 

 だとすれば心外だ。

 箒や鈴、千冬姉やセシリアは別に変人な訳がない。

 少し性格に難があったりするけれど、みんな普通の人だ。

 どちらかと言えば変わっているとするなら白鳥さん―――――――――――

 

(『ISを動かした男。異人さんにつれられて行っちゃった。横浜の埠頭から汽船に乗って、異人さんにつれられて行っちゃった。この元歌を知ってるかしら?』)

 

(『え?いや、知りませんけど…………』)

 

(『赤い靴っていう歌でね、赤い靴を履いた女の子が外国人に拉致されて、売り飛ばされるっていう昔からある歌なのよ。だから貴方もこの歌の様にISを動かした男が外国人共拉致されて、物好きな男色家に……………後は分かるわね?』)

 

(『つまり俺は売り飛ばされろって事ですね分かります…………』)

 

 昔の歌にしては酷い内容だけど、俺の考えを読まれてた。今度から気をつけないと。

 つうか白鳥さん、俺が同性愛者だというネタを引っ張りすぎじゃありません?

 俺は普通に健全ですから。男と恋仲なんて望んでないし、論外ですから。

 ハッテン場は嫌でござる。

 

「で、一夏。反省した?」

 

「え?反省?」

 

「だ、か、らっ!あたしを怒らせて申し訳なかったなーとか、仲直りしたいなーとか、あるでしょうが!」

 

「いや、そうしようとしたら鈴が避けてたから出来なかったんだよ。学校行く前とか休み時間とか訓練前の放課後とか使って毎日謝りに来たのに、無視し避けてたじゃないか」

 

「うっ……………」

 

(『更に言わせてもらうけど、部屋まで行ったのに出なかったですものね』)

 

 それで門前払いときたものだからな。

 あれは酷い。

 

「と、とにかく謝りなさいよ!」

 

 あまりの一方的な要求に、うんと言えない…………とは言えないんだよな。

 俺が約束をはき違えた事が原因の一つなんだし、ここは素直に謝るべきだろう。

 なんかこのまま謝罪しないままだと話が拗れて、また溝が深まるだろうし。

 

「悪かったよ、鈴」

 

「え?」

 

「約束を間違えて悪かったよ。本当はよく覚えていなかったし、曖昧な記憶で答えちまったから鈴を傷つけちまった」

 

「(い、一夏が素直に謝った?)そ、そう…………分かればいいのよ、分かれば」

 

「ホントにゴメン。傷つけない様にうろ覚えでもいいから、覚えてるって言った方が良かったと思ってたんだけど………………」

 

「い、良いのよもう!こうやって謝ってくれたんだし!でも……………約束を覚えてなかったのは少しイラッと来たけど」

 

「で、実際どういう約束なんだ?料理の腕が上がったら飯を食わせてくれるって約束だけど、あれにどういう意味があるんだ?」

 

「え!?あ、そ、いや………………」

 

 ???

 なんでそんなに歯切れが悪いんだ?

 ただ俺はあの約束になんの意味があるのか聞いただけなのに。

 もしかして、白鳥さんが言うように遠まわしの告白だったのか?

 

「そ、そうだ!ならこうしましょう!来週のクラス対抗戦、それに勝った方が負けた方になんでも一つ言う事を聞かせられるって事でいいわね!?」

 

「いや、なんでそうなるんだよ。俺はいま、あの約束の意味を―――――――」

 

「いいわよね!?」

 

「…………………はい」

 

「よし……………」

 

 鈴の声調がドスが利いていた為頷くしかなかった。

 正直情けなさすぎるぜ、俺って。

 この後、鈴はアリーナから出て行った。あれ?もしかして鈴って態々あんな事を言う為にアリーナに来てたのか?

 

(『ふふふ。面白くなってきたじゃないの』)

 

(『それは白鳥さんだけでしょ。理由は聞けず仕舞いだったんですから』)

 

(『あの子の表情を見て分からない様じゃまだまだって処ね。精進しなさい』)

 

 そんな事言われましても……………女の子の心は秋の空って言いますし。

 それに誰も教えてくれないから、このままじゃ分からないことだらけですよ。

 自分で気づけるものなんですかね、女の子の心って言うのは…………。

 

 

 

 


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