鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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「ぜぇ…………ぜぇ……………」

 

「では、今日はこのあたりで終わる事にしましょう」

 

「お、おう……………」

 

「ふん。鍛えてないからそうなるのだ」

 

 いや、さすがに二対一でこっちは初心者ですよ?

 これで息を乱さないってどんだけだよ俺に無理難題を要求するだって話である。

 でも、得るものは得られたし、白鳥さんも訓練中に少し褒めてくれたし良しとしよう。

 

(『お疲れ様。死なないのが残念だったわ』)

 

(『少しは疲れている俺を労ってくれません!?』)

 

(『これくらいで疲れているんじゃ、私の指示なしで勝てるのは程遠いわよ。貴方の最終目標は私の指示や操作なしで勝利する事が目的なの。そんなんじゃ何時まで経っても初心者のままよ』)

 

(『さすが白鳥さん。隙の無い正論と胸にくる言葉です……………』)

 

 事実訓練中も白鳥さんの操作も加わってたからな。

 出来れば俺自身で操縦できるようになる事が先決だな。

 だとすれば、どうするべきだろうか。未だ白式の性能に身体がついてこれてないし、地味な筋トレとかが重要だろうか。

 そこの所は白鳥さんに朝のトレーニングメニューを聞いてみないとな。

 

「大体一夏は無駄な動きが多すぎる。だから疲れるのだ。もっと自然体で制御できるようになれ。……………って、聞いているのか一夏!」

 

「え?あぁ、悪い。少し考え事をな」

 

「全く。どうせくだらない事だろ。少しは私の話を聞け」

 

 いや、全然くだらなくないんだけど、反論しても不毛な口論になるだろうなぁ。

 

(『ポニーはああ言ってるけど、私から見れれば、団栗の背比べ、目くそ鼻くそなんだけどね』)

 

「ふふっ、なんですかそれ…………」

 

 まぁ、白鳥さんから見れば俺も箒も差ほど変わらないのか。

 思わず笑ってしまったじゃないか、白鳥さん。

 

「ぐほっ!?」

 

「おい、一夏。私の話のどこに笑う処があった?」

 

「い、いや、別に箒の話で笑った訳じゃないんだ…………ただ、思い出し笑いをしてしまっただけで、箒とは関係ないんだ…………」

 

「……………ふん。ならいい」

 

 って、謝らないんですかい。せめて勘違いしたなら謝ろうぜ箒。

 疲れている中、腹に手刀を入れられるとかなり痛く感じるんですけど。

 まぁ、笑った俺も悪いんだけどさ。

 

(『今からポニーに指を指して大笑いしてみれば?『勘違いm9(^Д^)プギャー』的な感じでバカにするように』)

 

(『今度は木刀で殴られる未来が見えるのでやめておきます』)

 

(『残念。まぁ、次は別の機会で弄るとしましょう』)

 

 出来ればSAN値がギリギリの時じゃない時でお願いしますね。

 SAN値がギリギリだと、余計な事を口走りそうなんで。

 って、なんで箒はここのピットに来るんだ?セシリアと同じ所へ向かえばいいのに。

 

「一夏っ!」

 

「っと、鈴」」

 

「おつかれ。はい、タオル飲み物はスポーツドリンクでいいよね?」

 

「お。サンキュー!」

 

 鈴のお蔭で助かった。

 汗まみれの顔は鬱陶しいからな。おまけに水分補給のドリンクが付いてきている。

 いやぁ、本当に助かるなぁ。

 

(『本当ならカフェインを摂取するほうが良いのよね、こういう時は』)

 

(『え?そうなんですか?』)

 

(『スタミナ重視の運動やスポーツ、訓練は多くの電解質と炭水化物を消費するからね。今の場合はカフェインを摂る方が良いのよ。別にスポーツドリンクを摂るのが悪い訳じゃないんだけどね』)

 

(『なんかその話を聞くと、せっかく持ってきてくれた鈴に悪いなぁと思う』)

 

(『飲んだんだからその厚意を無駄にしないようにね』)

 

(『分かってますって』)

 

「変わってないわね、一夏。若いくせに体のことばかり気にするとこ」

 

「不摂生してたら、後で泣くのは自分だからな。俺がしっかりしてないと」

 

 じゃないと千冬姉が不摂生で自堕落な生活を送ってしまうだろうからな。

 千冬姉の部屋を見たら、絶対に一人暮らしさせられないぜ。

 

「ジジくさいわね」

 

「うっせー」

 

 それにしても、やっぱり鈴にも白鳥さんが見えていないんだな。

 鈴の周りをユラユラと浮かんで観察しているのに、全然気づいてない。

 やっぱり白鳥さんは俺だけにしか見えないのかな。

 でも、なんかそれはそれで嬉しい。

 『二人だけの秘密』的な感じで。

 

(『なに私を見て笑っているのよ気持ち悪い。顔面整形してきてくれないかしら?』)

 

(『そうしなければならないほど笑ってたんですか俺!?』)

 

「一夏さぁ、やっぱり私がいないと寂しかった?」

 

「え?なに?鈴、何か言ったか?」

 

「だから!私がいなくて寂しかったのか聞いてんのよ!人の話を聞きなさいよねこの健康馬鹿!」

 

「け、健康馬鹿って………まぁ、遊び相手が減るのは寂しかったと言えば寂しかったかな」

 

「そうじゃなくってさぁ」

 

(『じゃあどういう訳なんだよ。なぁ、白鳥さん。白鳥さんなら分かりますか?』)

 

(『朝にも言った言葉、思い出してみればいいんじゃない?』)

 

(『いや、だから………鈴は別に俺のことを異性として見てないだろうし、俺はその………………』)

 

(『俺は、何よ?まさか貴方―――女じゃなくて男が趣味な方なの?』)

 

(『いや、違いますからね!俺は健全ですから!普通に女の子が好きですから!』)

 

(『┌(┌^o^)┐』)

 

 なんですかホモォ┌(┌^o^)┐って。空中に文字を書いて表現しないでくださいよ。

 というか、万能ですね幽霊って。空中でそんな事も出来るようになったんですか。

 

(『まぁ、貴方が下手に女を傷つけたくない、半端な気持ちで付き合いたくないのは分かったけど、少しは相手の気持ちを理解してやりなさい』)

 

(『そうは言われても……………』)

 

「あー、ゴホンゴホンッ。一夏、私は先に帰る。シャワーは先に使わせてもらうぞ」

 

「あ、そうか。じゃあな、箒」

 

「じゃあ、また後でな、一夏」

 

 しっかし、やけに『また後で』を強調してなかったな?

 最近気のせいが多い気がするが………………うん、多すぎる。

 

「………一夏、今のどういうこと?」

 

「え?どういう事って、何がだ?」

 

「どうもこうも!あの女が言ってたことよ!まるで、その…………い、一緒の部屋にいるみたいな、やりとりだったじゃない……………」

 

「あぁ、俺と箒は一緒の部屋だぞ」

 

「は?」

 

「いや、俺がここに入学すること自体有り得ない事だろ?だから部屋が用意されてなくてな、それで箒と一緒になったんだよ。でも助かったぜ。見ず知らずの相手だったら緊張して安眠できなくなるからな」

 

「……………………」

 

「うん?どうした?」

 

「…………つまり、幼馴染なら、いいわけね…………」

 

「??」

 

「だから!幼馴染ならいいわけね!?」

 

「うおっ!?」

 

 俯いたと思ったら、今度はいきなり顔を上げて大声を出してきた。

 もうちょっと近かったら、俺の顎に鈴の頭部が当たっていたかもしれない。

 危なかったぜ……………。

 

(『チッ。当たらなかったか』)

 

(『白鳥さんの舌打ちとかは何度も聞いて聞きなれましたけど、そういうのって普通は聞こえないようにするものじゃないですか?』)

 

(『あら、知らないの?イジメというのは、イジメる本人に聞こえる様に、分かり易い様にやる事なのよ。その方が精神のダメージは大きいの』)

 

(『……………もしかして、誰かをイジメたことがあるんですか?』)

 

(『さぁ、どうかしらね?』)

 

 そう言って有無の真偽が分からない笑みを浮かべる白鳥さん。

 出会ってからあんまり時間は経ってないけど、白鳥さんがイジメなんてする様には見えない。

 いくら前のセシリアの様に高飛車で偉そうでも、白鳥さんは前のセシリアとは違う性格、感性の持ち主だ。

 前に白鳥さんに、女尊男卑の話題をしてた時のことだけど―――。

 

『誰が偉くて、誰が優れているのかは物で決まるわけじゃない。勝者か敗者を決めるのは自分のやってきたことだけよ。だから私はこの世界の女が酷く醜い化け物にしか見えないわね』

 

『何もしていない癖に偉そうに振る舞う人間ほど、愚かしいものはないわね。本当に偉そうにしていいのは実績を残し、周りから初めて尊敬されてこそやっていいことなのよ』

 

『ISを動かせるからなに?たったの467個しかない機械の塊に選ばれる確率は約33億人分の467人なのよ?もっと言わせてもらえばね、195国しかないのに配分すれば一か国2個しか貰えないし、余りは国に有数の企業が存在すれば、その国は2個以上コアを手に入れることが出来る。それでも一国に僅か数人しか乗れないのよ?自分が選ばれたわけでもないのに女どもは偉そうにしているのが同じ女として恥ずかしくなるわ』

 

『それに男も男よ。たかが一国数人しか乗れないからって威張っている女にビクビクと下を見て歩いてんじゃないわよ。男なら堂々として、胸を張りなさいよ』

 

『何もしていないのに通報されそうになった仕事を辞めさせられたからなに?そんなもん大いに笑って『清々した!』、『アンタの顔を見ずに済む!』、『それがどうした!』って言ってやればいいじゃない』

 

 と言っていた。

 あのセリフに俺はどれだけ感動しただろうか。

 他の男性たちが聞いたら、どれだけ勇気を持っただろうか。

 世界は別でも、同じ女性なのに女尊男卑を完全否定する口振りと男らしいセリフ。

 

「一夏!幼馴染は二人いるってこと、覚えておきなさいよ!」

 

「っ、きゅ、急にびっくりしたな鈴。いきなり大声で叫ぶなよ」

 

「じゃあ、後でね!」

 

「って、人の話を……………足速いな」

 

 何時の間にか鈴はピットを飛び出していった。

 なんか最近、人の話を聞かない人が多いよな。

 それに最近、後でって言葉を何度も聞いた気がする。

 今年の流行語大賞は『後で』になるんじゃないか?

 

(『それよりも白鳥さん。スポーツや訓練後に飲む飲み物についてと、朝のトレーニングメニューで聞きたい事があるんですけど、部屋に戻ってシャワー浴びた後に聞いてもいいですか?』)

 

(『いいわよ、別に。まぁ、来客が来なかった場合はだけどね』)

 

(『来客?』)

 

 誰か来るのか?

 そういや、鈴が後でって言ってたし、もしかして鈴が来るのかな?

 

 

 

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(『ヘルプお願いしm――――――――――』)

(『嫌よ。なんで私が貴方の問題事に関わらないといけないのかしら?少しは自分の頭で考えて解決してみたらどうなの、織斑一夏(ホモガキ)』)

 

(『ゴミ屑より上になったような気がするけどそっちの方がキツイ!』)

 

 時刻は8時。

 夕食を済ませ、織斑一夏といつも通り会話をしていた時のことだった。

 何やらツインが現れ、ポニーに部屋を変わってほしいと交渉を始めだす。

 で、いまだその交渉が続いており、扉の前でツインとポニーが織斑一夏と一緒に居られる部屋を巡って睨み合っていた。

 

(『何がいいのかしらね、そんなに。部屋を変わったところでこの男と仲が発展する訳でもないのに……………』)

 

(『え?なんです?』)

 

(『貴方が救いようのないバカでゴミ屑って話よ』)

 

(『いつもながら理由のわからない理不尽な言葉の暴力が俺を襲う……………兎も角、二人とも仲良くなってもらいたいけど、鈴は我が道を行く性格だし、箒は箒で頑固だし』)

 

(『貴方は貴方で最低のゴミ屑だし。とりあえず、貴方が決めればいいんじゃないかしら?その方が話は早く済むわよ?どっちを選んでも文句は言われるでしょうけどね』)

 

(『結局八方塞がりじゃないですかやだー………………』)

 

(『でも、ツインの方は何とか最低限怒らせないで済ませる方法はあるわよ?』)

 

(『え?本当ですか!?教えてください白鳥さま!』)

 

(『っ~~!?気持ち悪っ!?貴方が私に様付けで呼ばれると虫唾が走るわ』)

 

(『いつもながら酷いっすね白鳥さん!?』)

 

 諦めなさい。これが私の性格なのだから。

 でも、こういうのは原因であるこの男が自分で考えて治めるのが普通なのよね。

 私ばかり頼ってても、真実に到達するどころか遠ざかっていくばかり。

 この男は少しでも周りから好かれているという事に敏感になってもらわないとね。

 

(そう言えば、学生時代に恋愛シュミレーションゲームばかりやってて、恋愛したこともないくせに何故か恋愛相談が得意な知り合いが居たわね。そいつが居れば、この男を任せられるのに)

 

(『とりあえず、貴方はどうしたいわけなの?ポニーと一緒がいいの?それともポニーが暴力的だからツインに変わってほしいの?』)

 

(『いや、別に箒が嫌ってわけじゃないし、だからと言って鈴が良いなんて言えないし…………ホント俺、優柔不断ですね』)

 

 それが分かっているならさっさと選びなさいよね。

 なんで肝心かなめの所は気づいていないのかしら、この男は。

 

「ところでさ、一夏。約束覚えてる?」

 

「え?約束?」

 

「む、無視するな!ええい、こうなったら力づくで…………」

 

「って、馬鹿――――――――」

 

 何やらポニーがベッドの横に立てかけてあった竹刀を握りしめ、織斑一夏がそれに気づいて止めようとするのだが、止める暇も無かった。

 ポニーは防具も付けていない相手に目掛けて、竹刀を振りかざす。

 

 バシィインッ!!

 

「大丈夫か鈴!?」

 

「大丈夫よ。今のあたしは―――――代表候補生なんだから」

 

 そう言って笑みを浮かべるツイン。

 ツインは右腕にISの部分展開させ、竹刀を受け止めていた。

 

(『へぇ、なるほど。国の代表候補だけあって名前負けしていないというのが分かるわ』)

 

(『確かに。俺もそれは分かりました。箒の攻撃は素人が土壇場で対処できるレベルじゃないのに、鈴はそれを普通に受け止めれた。鈴が強いのは分かります』)

 

(『まぁ、受け止めたのが候補生で良かったけど、他の子じゃ大怪我、あの位置なら普通に頭に当たって脳震盪を起こしているわ。良かったわね織斑一夏。もしあの子が一般生徒だったら、ポニーは間違いなく犯罪者よ』)

 

(『……………箒に出来るだけ、暴力は控える様に言っておきます』)

 

 どうせ言っても火に油、貴方自身に火の粉を浴びることになるだろうけどね。

 今の法律上、高校生でも暴力を起こせば豚箱行き決定ですからね。

 まぁ、どうせ篠ノ之束の妹だからと言って学園や政府が罪を抹消するでしょうけど。

 

(『それより貴方、ツインから約束とか言われていたんじゃないの?』)

 

(『あ、そうでした!でも、さすがにこの気まずい空気で切り出せるかどうか』)

 

(『男がウジウジしてるんじゃないわよ。待ってるわよ、彼女は』)

 

(『そ、そうですね…………』)

 

「鈴、約束っていうのは…………」

 

「う、うん。覚えてる…………よね?」

 

「……………………」

 

 どうやら覚えていないらしい。

 約束をしたのが大昔、小学生の時かもしくはどうでもいい約束だったかのどちらかなのだろう。人間の脳って10パーセントしか使われていないって言うけど、実際はそうでもないらしいのよね。グリア細胞説とサイレントエリア説で誤解されがちだと聞いたけど、よく覚えていないわ。

 まぁ、知らない私が偉そうに言えることじゃないのだけれどね。

 

「えーと…………もしかしてあれか?料理の腕が上がったら毎日酢豚を―――――」

 

「そ、そうっ!それよ!」

 

「奢ってくれるってやつか?」

 

「はい?」

 

「だから、鈴が料理できるようになったら、俺に飯をご馳走してくれるって約束だろ?」

 

(『……………有り得なくない?なんでそうなるわけ?』)

 

(『いや、俺の記憶ではそうなってるんですけど…………』)

 

(『ふつうそこは、漫画みたいに『料理の腕が上がったら、毎日貴方の為に味噌汁を作ってあげる』とかじゃないの?』)

 

(『いや、小学生でそんな約束はしないでしょ』)

 

(『最近の小学生、舐めない方が良いわよ?最近の小学生はマセガキばかりだから。無駄にチャラチャラした服を着たり、生意気にも化粧までするガキもいる。最悪援交とかにも手を出すガキもいるんだから』)

 

(『マジですか!?…………で、でも、鈴がそんな意味を込めて約束するとは思えないし………それに俺は………………』)

 

(『とりあえず、右頬注意よ』)

 

(『へ?』)

 

  パァアンッ!

 

 織斑一夏は頬をひっぱたかれ、盛大な音が鳴り響いた。

 彼女なりの全力なのであろうが、私にとっては足りない。

 甘いわね。私だったら続けて脛を蹴って、蹲った処で腹に膝を入れて、地面に倒れた処で頭を足で踏みつけるのに。

 

「最っっ低!女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けない奴!犬にかまれて死ね!」

 

 そう言ってバターンッ!と勢いよく扉を閉めてツインは出て行った。

 台風みたいな子よね、あの子は。絶対に私、気が合いそうにないわ。

 後、一つ言わせてもらうけど――――――――――。

 

(『普通そこは『後で殺してやる!』ってのが確実性があっていいんじゃないかしら?犬にかまれた程度で死にはしないわよ。狂犬病なら話は別だけど』)

 

(『真面目に考察してる場合じゃないですよ白鳥さん。はぁ、やっぱり俺のせいなんですかね、今回も………………』)

 

(『さぁ。私からすれば、あの子にも非があると思うわよ』)

 

(『え?俺が約束を間違えてたのに、ですか?』)

 

(『貴方とあの子が約束したのは、何時かしら?その酢豚云々の約束』)

 

(『たぶん、小学生の時くらいです。あんまり覚えてませんけど』)

 

(『それよ。小学生の時の思い出を細かく覚える人間なんて滅多にいないわよ。しかも人間、小学生は一番印象に残った、感銘を受けた。嬉しかった、悲しかった、辛かった記憶を良く覚えているものなのよ。貴方が小学生の時の一番記憶に残る思い出を詳細に言える?』)

 

(『えっと、学習発表会の前とかですか?皆で力を合わせて遅くまで学校に残って作業したりするのが楽しかったです。あと、6年生の時に言った修学旅行でしょうか。旅館に泊まって夜遅くまで先生に隠れてゲームしたり、話し込んだりして、いつ先生が来るかワクワクして楽しかったです。あぁ、いま思い出せばホント楽しかったなぁ』)

 

(『それが普通なの。だから、あの子の言う約束は貴方の一番印象に残った思い出にとってその程度の記憶しかないのよ。頭脳明晰の私でも小学生の時の思い出なんて、殆ど覚えていないわ。だからあの子自身、そんな昔の約束を引っ張り出してきても何なの約束か覚えていないのに怒るのはお門違いなの。まぁ、どっかのゴミ屑が曖昧な記憶を頼りに怒らせたのは論外だけど』)

 

(『………はい。誠に申し訳ないです。じゃあ、俺はどう答えるべきだったんでしょうか?』)

 

(『そういう時は、素直に覚えていないって言って、謝るのよ。そしたら、彼女だってあんな風に怒らずには済んだでしょうけど』)

 

(『……………………素直に覚えていないって言ってればよかったなぁ』)

 

 しかし、小学生の時にそんな約束をしていたなんてね。

 漫画のお決まりの様に主人公が覚えていれば別だけど、生憎とこの世界は漫画じゃないのよね。毎回思うのだけれど、そんな約束を小学校、幼い頃に交わす主人公の頭ってどうなってるんでしょうね。

 基本的に覚えている事が多いけれど、普通覚えていること自体異常なのよ。

 

 

 毎度私は恋愛ものを読むたびに思うわね。

 この主人公、頭おかしいって。

 

(『で、どうするの?今から追いかけて謝りに行く?』)

 

(『そうしたいですけど、いま謝って怒りを抑えるどころか話を聞いてくれないですし………………日を改めて、謝りに行こうかと』)

 

(『さっきの様子だと最低数日、最悪1週間以上は怒っているわよ』)

 

(『マジですか…………………』)

 

(『まぁ貴方が根気よく『放っておいて』とか言われても謝罪しにあの子の所に通い続ければ少しは心境も変わるんじゃない?』)

 

(『そうでしょうか………………よしっ!俺、明日から鈴に謝りに行ってきます!』)

 

(『あっそ。さて、話しが変わるけど明日の朝のトレーニングについてだけど』)

 

 全く、本当に世話が焼けるんだから。

 まるで学生時代に戻った感じだわ。

 ……………………でも、不本意だけど少し悪くないと思ったのは内緒よ。

 

 

 


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