今日はとても良い青が広がる晴天。
気温は私には感じないけど、周囲の反応を見れば夏の様に熱くないのだと判断できる。絶好の買い物日和、ピクニック日和だろう。
(『なんか転校生が来るそうなんですけど、白鳥さんはどう思います?』)
(『そうね。転校生なんて、私の世界では海外から留学する子くらいしかいなかったわ。転校生なんて、滅多にない出来事ね』)
(『いえ、そうではなくて。どんな子なのかなとか、どこから来たのかなとか』)
(『どうでもいいわよ、そんなの。知ったところで実際に会うまで何が出来るって言うの?どんな事を話すか会話の下準備?そんな事している暇があるなら常に自分を高める事を考えるわ』)
(『なんか夢がないですねぇ』)
(『そもそも転校生なんて、どうせ貴方に関係している事でしょうけどね』)
(『え?なんでそうなるんです?』)
(『それよりも。貴方は転校生よりも自分の事を考えたらどうなの?もうすぐクラス代表トーナメントがあるそうだけど、貴方の実力で勝てる自信はあるわけ?』)
(『うぐっ、痛い所を………………』)
昨日の実習訓練を見る限りでは、基本動作で負ける可能性だってあるわね。
相手と距離を取る時に勢いよく加速して壁にぶつかったら笑い話よ。
ドリル(セシリア)とポニー(箒)と訓練をしているようだけど、ちっとも進んでいないじゃない。世話が焼ける男よね、此奴は。
「というわけで、織斑君、頑張ってね!」
「フリーパスのためにもね!」
「デザート無料券の為に!」
「今の所専用機を持ってるクラス代表って1組と4組だけだから、余裕だよ」
(『なんかクラス代表なのに、良いように扱われてないかな俺って?』)
(『頑張りなさい、男の子。精々周りの期待に応えられるようにね』)
「―――――その情報、古いわよ!」
((『うん?』))
何やら入口付近から知らない声がした。
視線を向けると、そこには小学生くらいの身の丈をしており、IS学園の制服を身に纏っているツインがいた。
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に優勝できないから!」
(『あれって、まさか…………鈴?』)
(『誰?また貴方の毒牙に掛かった被害者?』)
(『まるで俺が遊び人みたいな言い方やめてもらえません!?幼馴染ですよ。小学生の時、箒が転校した後から俺の学校に入れ替わるように転校して来たんです。中二まで一緒だったんですけど、両親の都合で中国に帰国して……………』)
(『なるほど。つまり第二の幼馴染という訳ね。可哀想に。この男と知り合った時点で泣けてくるわ。とりあえず世の女の為にも死になさい』)
(『酷い言われようっすね、俺……………でも、懐かしいな。中学の頃とあんまり変わってないぜ』)
(『それ、どういう意味で言っているのかしら?場合によってはぶん殴られるわよ?』)
(『え?なんでです?こう言った方が無難じゃないんですか?』)
はぁ、呆れたわ。
この男と付き合う女って、絶対に色々苦労する羽目になるわね。
(『あのね。仮に貴方に好きな人がいたとするわ。その好きな人は幼馴染、そして貴方の事が好きで相思相愛。日本人と外国人のハーフ。幼いころから隣に住んでいてけど仕事の事情で海外にわたる事になりました。これまでは分かるわね?』)
(『はい。纏めると、仮に俺とその人が相思相愛で、その女の人は日本と外国のハーフで、その女の人の両親が仕事の事情で海外に引っ越す事になってって事ですよね?』)
(『その通り。そして数年後、その女は貴方に会いたいが為に日本の学校、貴方のいる学校へと転校することにした。その女は貴方が思っている以上に綺麗になっていて、身体も成長していた。性格は昔と変わらないままだけど、その女は少しでも貴方に綺麗な自分を見てほしかった。なのに貴方はそんな女の考えを無視する様に、ただ『久しぶり!』『お前全然変わってないな!』とか言った。その子は傷つかないと思うかしら』)
(『…………………思わない』)
(『でしょ?だから絶対に、あの子に『見た目とか変わってないな』、『昔のままだな』とか言わない方がいいわよ。幼馴染なら、少しくらい気の利いたセリフを言ってあげた方がいいんじゃないかしら?』)
(『…………………』)
(『………………何よ』)
(『あ、いえ。ただ、白鳥さんってよく俺に助言してくれるから感謝しきれないなと思って。やっぱり、白鳥さんはスゲェよ。マジで尊敬する』)
(『ふんっ。これくらい誰にでも分かる事よ。貴方が女心を理解していないだけだわ』)
(『あ、あはははは。ご尤もです』)
それで少しは進歩すれば、さぞ周りの子が気楽になれるでしょうね。
まぁ、無理だろうけど。
「ちょっと一夏!何時まで無視してんのよ!さっきからずっと呼んでるのに!」
「っと、ごめんごめん。久しぶりだな、鈴」
「ようやくこっちを向いたわね。そうよ。中国代表候補生、凰 鈴音。今日は宣戦布告に来たって「ホント久しぶりだよな。昔より可愛くなったな」ふぇ?」
『!!??』
「あと、改造制服似合ってるぜ。」
「ふぁ!?(い、い、いいい、一夏が私のことを可愛いって、それに制服似合ってる……………い、一夏が私を褒めた!?)」
(『で、こんな感じで褒めたけど、どうかな?』)
(『いいんじゃないの?ただ、後で痛い目みると思うけど』)
(『はい?』)
(い、一夏が私のこと、可愛いって言ってくれた……………鈍感な一夏が、私を…………ほ、本当なら少しカッコつけようと思ったのに、一夏が急に褒めるから台無しじゃない!……………で、でも…………エヘヘヘ。一夏に可愛いって言われちゃった♪)
((一夏(さん)…………)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
私の助言のせいで、織斑一夏に意味のない災厄が降り注ぐことになったわね。
二番目の幼馴染は幸せそうに笑ってるけど、ドリルとポニーが擬音を発しながら睨み付けているわ。
きっと他にもこの男の毒牙にやられた女がまだまだいるのでしょうね。
その後、背後から現れた織斑姉が幼馴染もといツインの頭部を叩いて、自分の教室に戻れと指示した後、ツインが織斑一夏に笑顔で『また会いましょう』と言い残して去って行った。
そして現在織斑一夏と言うとドリルとポニーに迫られる事になっている。
(『し、白鳥さん、箒とセシリアがスゲェ怖かったんだけどなんでですか!?なんか俺、悪いことしましたっけ!?』)
(『さぁ。強いて言うなら、貴方の鈍感さのせいね。それでも分からないのなら自分で考える事ね』)
(『そんな!?なんか二人とも、『覚悟しておけ』と言わんばかりの目で席についたんですよ!?絶対に休み時間か昼休み殺される未来しか見えません!』)
それは良かったわね。
少しくらい痛い目を見ないと分からない事もあるのよ凡人には。
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午前の授業が終了し、セシリアと箒からお前のせいだ!と言われてしまった。
何それ理不尽。全く身に覚えのない暴言が俺を襲うってどうなのよ。
二人は山田先生に五回注意され、千冬姉に三回叩かれているのを俺のせいと言う訳?白鳥さんは俺の鈍感さのせいって言ってるけど、俺はそこまで鈍くないんだけどなぁ。
まぁ、二人から殺されないだけマシか。
とりあえず箒とセシリア、あと数人のクラスメイトと一緒に学食に来ると鈴がトレイを持って待っていたので、せっかく待ってくれていたので一緒の席に座る事になった。
「中国じゃ元気だったか、鈴?」
「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」
「どういう希望だよ、そりゃ」
(『死ねって事じゃないかしら?』)
(『白鳥さんは白鳥さんで俺をどんだけ殺したいわけ!?』)
「あー、ゴホンゴホンッ!一夏。そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」
「そうですわ!一夏さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるのですか!?」
「べべ、べ別に私は付き合ってるわけじゃ……………」
「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。だだの幼馴染だよ」
「…………………」
「?何睨んでるんだ?」
「なんでもないわよっ!」
(『いっその事、付き合ってるって言えば?少しは貴方の被害は減ると思うわよ』)
(『いや、ダメでしょ。例え幼馴染でも、好きでもない奴と付き合いたくないだろうし、それに鈴が俺の事が異性として好きってわけじゃないだろうし』)
(『……………なんでそういう処だけシッカリしているのよ』)
(『ははは。ありがとうございます』)
(『私は褒めたつもりはないわよ
(『なんで貶されたの俺!?』)
もう訳が分からないよ。
それにしても、俺が付きあえば少しは被害が減る、かぁ。
白鳥さんの言う通りなら、きっとそうなるだろうけど、好きでも無い奴と付き合うっては相手に失礼だと思うんだよな。
鈴だって、好きでもないのに付き合いたくもないだろうし。それに俺は…………。
「一夏。ねぇ、一夏聞いてる?」
「え?あ、あぁ。悪い。なんの話だ?」
「はぁ、全くアンタは。アンタ、クラス代表なんでしょ?よかったらISの操縦を見てあげてもいいけど?」
はぁ、それは助かるが白鳥さんがいるからな。
訓練の時、セシリアと箒が口論している間に白鳥さんが俺のダメな点を的確に指摘してくれるから、見てもらうよりも訓練を手伝ってほしいな出来れば。
などと考えていたらセシリアと箒がテーブルを叩いて、勢いよく立ち上がった。
テーブルを叩いた拍子に置かれていた茶碗が浮いたけど、味噌汁が入った茶碗を手に持っていて良かったぜ。
汁が零れる処だった。
「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ!」
「貴方は二組でしょ!?敵の施しは受けませんわ!」
「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」
「か、関係あるぞ!私が一夏にどうしてもと頼まれているのだ」
いや、どうしてもとまでは言っていないんだけどなぁ。
でも、訓練と言っても二人からまともな訓練を受けてないし、どちらかと言えば白鳥さんからの訓練が多い気がする。
あれ?思えばセシリアと箒って、結局のところ理論(?)だけしか俺に教えてなくね?
(『偉そうに二人はああ言ってるけど、少なくとも長ったらしいセリフと擬音しか言ってないわよね?』)
(『そうなりますね。せっかく一緒に訓練するんだし、喧嘩しないでほしいなぁ』)
(『………………はぁ』)
なんでため息を吐かれたのか分からないけど、うん。
とりあえず俺は白鳥さんに呆れられたのは分かった気がする。
俺にどうしろって言うだよ、この状況を…………………。
放課後の第三アリーナ。
今日も白鳥さんとセシリアにIS操縦を教わる予定だったのだが、アリーナには箒が打鉄を纏って待ち構えていた。
そして何故かセシリアと箒が争いをはじめる結果になった。
どうしてこうなった。
(『原因は貴方にあるわね。さっさとどちらか一人を選べばいいじゃない』)
(『それが出来れば苦労しませんよ。絶対に一人を選んでも、もう片方が怒ることは目に見えてますし…………………』)
(『ならいっそ二人とも選んでみればいいじゃない』)
(『代表候補生のセシリア+箒って、俺、死にますけど!?』)
(『今の貴方に負ける負けないは二の字よ。今の貴方に必要なのは経験と熟練度よ』)
(『と、言いますと?』)
(『ドリルはポニーや貴方より経験豊富だし、それに射撃タイプ。ポニーは貴方と同じIS操縦に関しては初心者に毛が生えた程度で、私からしてみれば団栗の背比べだけど剣に関しては少し貴方より上になるわね。二人に追いつく、もしくは追い抜くには経験と効率的な訓練しかない。私からすれば二対一の訓練が効率的で経験値が稼げると思うのだけれど?)
なるほど、確かにRPGだと効率的で経験値が稼げるし、確かに訓練になるな。
でも、箒は兎も角セシリアまで付いてくるとなるとキツイな。
試合の時は白鳥さんのお蔭で勝てたんだし、正直二人同時相手に勝つのは。
(『誰も勝てとは言ってないわ。負けて得る事だってあるもの。何がダメだったか、どこを改善した方がいいのか、どこをどうすれば最善の勝利に導けるのか考えることが大事なんだから。何のために前の訓練で私がダメ出ししたと思っているのよ』)
(『そうですね。なら、今日から毎日二対一の訓練方法で行くって事ですね?』)
(『そう毎日とは行かないわ。訓練機だって、借りたい生徒がいて許可が下りない可能性だってあるし、それに放課後訓練以外でも朝のトレーニングメニューを考えているんだし、そう毎日二対一の訓練をしていたら貴方の身体が耐え切れなくなるわ』)
(『え“!?朝もやるんですか!?』)
(『当然よ。それに貴方は言ったじゃない。『俺は世界で最高の姉さんと相棒を持ったよ』、『俺も、俺の家族を守る』とか言ったのは所詮その場凌ぎの言葉なの?言葉の綾ですませるのかしら?』)
(『それは…………………分かりました。朝のトレーニング、ちゃんとやります!』)
(『それでいいのよ。私を使うからには、半端は許すつもりはないからね』)
そう言って笑みを浮かべる白鳥さん。
ホント、負けず嫌いだよな白鳥さんって。
でも、そこが良い所なんだけど。
…………………やっぱり白鳥さん見せる笑み、何だか心が癒されるなぁ。
「一夏!聞いているのか!?」
「一夏さん!聞いていますの!?」
「は、はい!なんでございましょうか!?」
「お前はどうしたいのだ!」
「貴方はどうしたいのですか!」
「え、えっと、その………………に、二対一での訓練をしよう!俺が箒とセシリアを相手にするから!!」
(『ふふふ。頑張りなさい、男の子』)
えぇ、頑張りますとも。
白鳥さんに褒めてもらえるように、頑張ってみせますとも。
その後、俺VS箒&セシリアとのIS戦が行われることになった。
結果は勿論俺のボロ負けで終わった。やっぱり二人を相手するので、数分しか持たなかったけど得られるものは得られた気がする。