鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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混浴イベントなど存在しなかった


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 一夏が使用人に風呂へと案内されている頃、ジョシュアと百合香が居間でお茶を飲みながら、談話していた。

 

「ふふふっ、意外だったわ。ジョシュアさんの事だから、もう少し長く引き延ばすかと思っていたのだけれど」

 

「私はあの爺さんみたいに頑固じゃないさ。あの爺さんみたいに頑固だったら、今頃はあの小僧を殴り飛ばして死合をしているころだ」

 

 ジョシュアはそういって湯呑をテーブルに置いて溜息を吐く。

 あの爺さんというのは、シロナの祖父であり百合香の父親の事である。

 

「ホント、二人は微笑ましいわ。ジョシュアさんがプロポーズしてきた日を思い出すもの。性別は反対だけど、昔のわたくしたちを見ているようだったわ」

 

「私があの小僧みたいな優男では無かったはずだが?」

 

「あの頃の貴方は、シロナそっくり。でも立場は織斑君よね」

 

 そういって百合香は昔の事を思い出す。

 ジョシュアと百合香との出会いは、それは偶然でしかなかった。

 軍人であるジョシュアと由緒正しき家系に生まれた百合香に接点なんてものは存在しないし、ありはしないだろう。

 

 

 しかし、出会いは本当に偶然だった。

 まるでラブコメ的な展開だったとでも言えばいいだろう。

 

「ふふふっ………思い出すわね、あの時の貴方ったら急に土下座してプロポーズするだもの。正直ドン引きだったわ」

 

「言わないでくれ。あれは少し行き過ぎたと、私は後悔しているのだから」

 

 出会いはそう、百合香が町行事で舞を踊る事になった時である。

 偶然そこにジョシュアが通りかかり、百合香の舞を見て一目惚れしたのだ。

 いままでジョシュアはどんな女に言い寄られても靡くことも体を交える事もしなかった厳格で、仕事一筋の堅物野郎の見本とも言える男だ。

 

 

 しかし、ジョシュアにとって百合香は女神、今まで見たことないくらい美しい、いやむしろ言葉など不要と言わんばかりの気持ちでいっぱいであった。思わず舞台で舞っているにも関わらず、ジョシュアは舞台に上がり土下座して告白したのである。

 

 

 傍から見れば、長身のオッサンが多少身長が高い小学生に土下座してプロポーズする犯罪臭漂う光景にしか映らないだろう。

 

『ご無礼は承知だが、申し訳ない!!どうか、どうか私と結婚してくれ!』

 

『ふぇ!?』

 

「しかしあの時の君の間の抜けた声と顔も可愛かった。今でも鮮明に覚えている」

 

「も、もうジョシュアさん!からかわないでくださいまし!」

 

 珍しく赤面する百合香にクツクツと笑うジョシュア。

 しかし、その時は舞の途中であったためそれからが大変であった。

 

 

 家の伝統に重んじ、そして手塩にかけて育て愛した百合香を百合香の父がジョシュアを舞台から放り出し、二度と近づけない様に家の周りに警備員で固めたくらいだ。

 流石にやり過ぎだと百合香が説得したため、数日間で済んだことであるが。

 

「いま思い出すだけでも腹が立つな、あの頑固爺さん」

 

「それだけわたくしの事を大切にしてくださっているのですから。さすがに警備員を家の外で配置させたり、わたくしを箱入りするのはやり過ぎですけど」

 

「あれはもう狂気の領域だな。まぁでも、本当に根気よく頑張ったかいがあったものだ」

 

「ふふふ、あの時の貴方の態度は正しく織斑君ですもの」

 

 百合香が舞をした数日、ジョシュアは仕事とは関係なく私情で百合香に会いに行くようになった。しかし、門の前では悉く百合香の父が立ちはだかっているため何度も対立したことやら。

 

 

 最初は口喧嘩だったのだが、段々と殴り合いやら決闘やらと喧嘩が激しくなるのだが、ついには一周回ってトランプや双六と言ったもので勝負をするようになり、まさに子供の喧嘩としか言えない光景だった。

 

 

 根負けしたのか、それとも止めるのを諦めたのか百合香の父はジョシュアを敷地内に入る事を許可した。しかし、だからと言って百合香との結婚が許されたわけではない。

ジョシュアは例え駆け落ちになってもいいという覚悟で百合香に何度もアプローチを駆ける。

 

 

 だが、そこはシロナの母親と言うべきかジョシュアのアプローチなど露ほどのものでしかないような反応。逢引を約束しても、『買い物ですか?』という始末。

 プロポーズの意味が込められている花や宝石をプレゼントしても『あの、誕生日はまだですよ?』と、意図を理解されないままデート終了。

 

 

 終いには勇気を振り絞り精一杯百合香の容姿を褒め、良い雰囲気になったところで再び告白するが『ふふふ、欧米ジョークならぬ独逸ジョークですか?そういう事は本当に好きな人にするべきですよ?』と若干赤面はしたものの、それで終わり。これはシロナの母というだけでなく、ある意味では一夏と同じでもあるだろう。

 

「君の鈍感さには、毎度頭を悩まされたよ」

 

「だってぇ、まさか本当に一目惚れだとは思いませんでしたもの」

 

「しかしまぁ、それでも諦めなかったお蔭でこうやって」

 

「きゃっ」

 

「君を抱きしめられるのだから」

 

「もうっ、ジョシュアさんったら……………うふふ」

 

 抱きしめられる百合香は、力強い腕に手を添えて微笑む。

 ジョシュアは小柄な百合香の温もりをかみ締め、優しい笑みを浮かべる。

 

 

 告白が実ったのは出会いから数か月、丁度シロナが学園を散歩している頃であり一夏がシロナと再開した日と同じ日付、同じ時間であった。

 百合香は何時しかジョシュアのひたむきな愛情と熱意ある行動、見た目とのギャップに惹かれていき何時しか恋していた。

 そして二人はお互いに想いを伝えあい、結ばれた―――――――――

 

「のだが、結局最後まで爺さんは認めなかったな」

 

「お母様が黙らせなかったら、きっと今頃は駆け落ちだったでしょうねぇ。ふふふ、愛の逃避行も悪くありませんわ♪」

 

「ふふふ、確かに。その展開も、悪くないだろう」

 

「「『君/貴方』となら、どこへでも幸せなのだから」」

 

 例え百合香が家を出て行くことになって無一文になろうとも、ジョシュアはそれでも 百合香を愛し続ける。金でも家柄でもなく、百合香本人を愛しているのだから。

 余談であるが、百合香の父はシロナが生まれた途端に打って変わって娘を可愛がり、多少ジョシュアの事を認めてようにはなった。

 

「ちょっとお母さん!いったいどういう事なのよ!」

 

「(ふふふ、今夜あたりかしらね)はいはい。何かしらシロナ?」

 

 

 

 

 

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「いやぁ、随分と広い風呂だった」

 

 俺は風呂から上がり用意された衣類、浴衣に着替え廊下を歩く。

 本来なら私服のままでも良かったのだが、既に洗濯機に取り込まれていたのであきらめることにした。因みに下着はジョシュアさんのものだそうである。

 他人の下着を穿くって、スゲェ違和感があるんだな。うん。

 

(それにしても………………やっぱりバッタリハプニングは起こらなかったか)

 

 風呂場か脱衣所で着替えもしくは混浴の展開を望んでいたのだが、シロナは既に上がっていたので風呂場にも脱衣所にもいなかった。

 臨海学校の時みたいな展開をもう一度起こってほしかったんだけどなぁ。

 

「まぁ、焦らずゆっくりだな」

 

 とりあえず、部屋に戻る事にしよう。シロナの部屋に行ってみたいという願望があるが、案内されなかったから絶対に来てほしくないって意味があるかもしれないし。

 しかし、部屋に戻るのは良いのだが寝る間まで何をするべきだろうか?

 

 

 テレビを見るって言ってもなぁ……………………やはりシロナの部屋を探すべきか?

 百合香さんやジョシュアさん、使用人の人達に聞きたいところだが、初めて会った男に親切丁寧に教えてくれないだろう。

 

 

 となると気配察知して、部屋を探すしかない。

 シロナの事だから、自分の部屋にいるに違いないからな。

 とりあえず少し時間が掛かると思うけど、シロナの気配を探し当てていればそのうち見つかるだろう。

 

 

 言っておくがストーカーとか泥棒じゃないぞ?

 純粋な探求心だ!

 そう思って用意された俺の部屋の前を通りかかった瞬間だった。

 

(あれ?俺の部屋に誰かがいる?)

 

 使用人の人だろうか? きっと布団を用意しているのだろう。

 

 

 流石にそこまで手を煩わせるわけにはいかないし、手伝わなきゃな。

 シロナの部屋探しは、終わってからでも出来るだろうし。

 

「って、え?白鳥、先生?」

 

「……………………」

 

 襖を開けると、シロナが布団の上で正座していた。

 風呂上がりのせいか、それとも赤面しているせいか少し湯気が昇っている。

 それによく見ると、シロナの来ている衣類は薄い布切れ、つまり浴衣である。

 

 

 豊満な胸が帯の上に乗っかっているため一段と強調されており、幽霊の時よりも髪が伸びており、アップヘアと言えばいいのだろうか? ポニーテールとは少し違う髪型をしている。

 普段のシロナも綺麗で美しいのだが、いまのシロナは普段以上に素敵だった。

 思わず、喉を鳴らすくらい。

 

「あ、あんまりジロジロ見るんじゃないわよ。失礼でしょ」

 

「す、すいません。え、えっと、思わず見惚れてしまって。あと、普段の髪型もいいですけど、いまの髪型はかなり良いです」

 

「そ、そうなの………………それは、よかったわ」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「……………………ほ、ほら。さっさと部屋に入りなさい。寒いじゃないの」

 

「そ、そうですね。で、では失礼します……………」

 

 季節はまだ夏手前なのに寒いもへったくりもないのだけども。

 とりあえず俺は部屋に入り、襖を閉めてシロナのすぐ近くに座る。

 しかし、会話が全然出てこない。

 

 

 すぐ近くにシロナがいるのに、言葉が出ない。

 シロナの方をチラリと見ると、シロナの顔は未だ赤いままである。

 無言のままだと息苦しいので、俺はシロナに話題を振る。

 

「そ、そういえばなんで俺の部屋に?それに………何故か一つの布団に枕が二つも」

 

 明らかに、不自然。

 というか、意図が丸分かりである。

 

「お、お母さんの仕業よ。私の部屋を物置代わりにされてるから、織斑君の部屋で一夜を過ごしなさいって……………もう、お母さんは」

 

「は、ははははは。茶目っ気がすぎますね」

 

 俺自身、嬉しいか嬉しくないかと聞かれれば断然前者を答える。

 しかし、流石に意中の相手に想いを伝えていないのにいきなりベッドインするのは……。海外映画では告白より先にベッドインするシーンがよくあるけど、俺はまず順序だててからベッドインを果たしたいなぁ。

 

 

 でも、流石にあの百合香さんがまさか此処まで許しを得るとは思わなかった。

 てっきりジョシュアさん辺りが止めるのかと思ってたんだけど……………押し通られたのだろうか?

 

 

 それともジョシュアさんも納得して、いや、流石に今日認められたからって流石にここまでする事は望んでいないだろう。

 百合香さん、見た目とは裏腹に中々黒い部分を持ってるな。

 などと内心苦笑いを浮かべていると、何やらシロナが俺の袖を掴んできた。

 

「織斑君…………その………聞きたい事があるのだけれど。やっぱり、こんな事を聞くのは少し抵抗があるから………一度しか言わないわ。………私のこと、好きなの?」

 

「――――――――はい。好きです」

 

 俺はシロナの問いに断言した。

 するとシロナはだんまりと口を閉ざしてしまった。

 そして何やら体を震わせながら、口を動かす。

 

「……………それは、異性として?」

 

「勿論、異性としてです」

 

 そう言った途端、シロナは顔を俯かせる。

 そんな質問を問われのが、俺は驚きだった。

 てっきり気づいていないのか、それとも気づいていたけど、言えなかったとかそういうのだと思っていたのだが、いま聞いてくるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして顔を俯かせていたシロナが顔を上げて、俺を見つめる。

 するとシロナの頬にポロポロと涙が流れ落ちている。

 

「ど、どうしたんですか!?どうして、泣いて――――――――」

 

「分からないのっ!貴方に、貴方に好きと言われると………申し訳なくて…………嬉しくて……………わけが分からなくなるんだもの………っ!男から幾度となく『好き』って言われても、なんともなかったのに…………まだ知り合って1か月しか経ってない貴方に『好き』って言われると、胸が苦しいの…………!」

 

 シロナは俺の胸に飛び込み、胸の中で涙を流す。

 ぽつぽつとシロナの口から出る言葉に、俺は胸が苦しくなり、抱きしめる。

 『あぁ、そうなのか』と思ってしまった。

 

「ねぇ…………織斑君、教えて。…………貴方は………私の何を知ってるの?」

 

「聞きたいのですか?」

 

 本当なら、少しずつ明かしていこうと思っていた。しかし、シロナ自身が自分で違和感を持ち始めていたのだ。頭では忘れていようとも魂や心に記憶が刻まれている。

 

 

 いきなり貴方は別の世界の記憶を持って転生してきたと言っても、信じてもらえないだろうと思う。それに仮に知ったとしても、辛い思いをしてしまうかもしれない。

 だから、今はまだ聞かなくていいのだと思っていたんだけど。

 シロナは……………強い目で見つめている。

 

「………聞かせて」

 

「分かりました。でも、あんまり期待しないでくださいね?俺にも分からない所があったりしますから」

 

 俺の言葉に、シロナは小さく頷いた。

 そして俺はシロナに、全てを打ち明けるのである。

 

 

 

 

 シロナと最初に出会った場所、出会いがしらのセリフの事。

 

 セシリアの時との最初の戦いの時の会話や出来事。

 

 鈴との試合の時に見せた、虫嫌いの反応の事。

 

 初めてのデートの時の嫌そうな表情や訪れた公園での出来事。

 

 鈴とセシリアを驚かして、いやらしく笑っていた時の事。

 

 二度目のデート行けなかった時に、変わりに異世界の音楽を演奏し、歌って聞かせてくれた夕暮れの音楽室での事。

 

 シャルルとの一件で、甘えている俺に説教してくれた事。

 

 ラウラの試合での事件で優勝できなかったついでに、隠し部屋に案内してくれた時の事や、そこで俺が破廉恥な妄想をしていた事など。

 

 態々俺の為に剣術を創ってみないか?と言ってくれた事。

 

 そして何よりも嬉しかった、二度目のデートでプレゼントを喜んでくれたことや俺へのプレゼントを選んでくれたこと。そして―――――――帰りにキスしてくれたこと。

 

 他にも臨海学校で一緒に風呂に入ったりして、名前で呼んでくれたこと。。

 

 

 

 

 本当に、嬉しくて楽しい思い出ばかりであった。

 ハードな特訓を朝と放課後に受けても、疲れなんて吹き飛ぶくらいだった。

 シロナといる時間が何よりも心地よくて、ずっと続けばいいと思っていた。

 でも、そんな時間はずっと続かなかった。

 

 

 福音の暴走により、俺は自分の弱さを叩きつけられた。

 そしてもっと早く、気づくべきだったと思い知らされた。

 福音との戦闘後―――――――――――シロナは死んだ。

 ただ一つのメッセージを残して、笑って空へ帰った。

 

 

 俺は自分の弱さと、何も出来ず無力な自分を呪ったほどであった。

 でも、だからと言って立ち止まる訳にはいかなかった。

 シロナの残したメッセージの約束を守るために、俺は強くなろうと頑張った。

 非公式戦でのIS戦闘は勿論、大きな大会で優勝するのであった。

 

 

 どんなにシロナを求めても、会えないと分かっている。

 それでもなお俺は、強くなり続けた。

 約束を守るために。強く生きるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、俺が知っている白鳥………いえ………シロナの全てです」

 

 本当は、なんで消えて数か月後に現れたのかについては分からない。

 神様がまたこの世界に転生させたというのは分かるが、流石に俺より年上のまま現れるのは予想外だった。

 でも……………それでも嬉しい事には変わりない。

 

「………そっか……………だから貴方と初めて出会った時、どこかで出会ったことがあるって思ったのか…………………なんだかスッキリしちゃった」

 

 そういって涙をぬぐい、普段通りの様子になるシロナだった。

 あまりの呆気ない反応だったため、思わず俺はシロナに問う。

 

「なんとも思わないんですか?その、『ありえない』とか」

 

「そりゃあ、有り得ないとは思ったわ。でも、私の心がアナタを知っている。ドキドキしているんですもの。それに貴方が嘘なんてつくようには見えないからね。そうでしょ?」

 

「そうですけど……………」

 

 事実、嘘なんて一つもついてない。

 寧ろシロナに対して破廉恥な妄想を繰り広げていたことまでバラしたからな。

 しかし、ドン引きされるかと思っていたんだけどな。

 寧ろなんか嬉しそうだけど。

 

「まぁでも……………消えて数か月後にまた生き返っているのは少し疑問に思うわね。私の記憶には、ちゃんとこの街で生きて育った記憶はあるんだし

 

「きっと神様の仕業では?ほら、記憶改竄とかそういうの」

 

「あぁ出来そうね、そういうの」

 

 まぁ、実際に会ったことないから分からないんだけどね。

 でも、シロナの反応を見る限り安心した。

 少しは取り乱すかと思っていたのだが、良かった良かった――――――――――。

 

「ちょっ、白鳥せん―――――――」

 

 急にシロナが俺の膝の上に向き合う様に座る。

 腕を俺の首の後ろに回しているため、シロナと俺の顔はキスしてもおかしくない程の距離だった。そしてシロナは俺の口を人差し指で押さえる。

 

「名前で呼びなさい、『一夏君』」

 

「いやでも、それは前のシロナであって今は……………」

 

「今だろうが前だろうが私は私よ。それとも…………んっ」

 

「んっ!?」

 

 シロナが唇を押し付けて来た。

 自分の舌を俺の舌と絡ませ、舐め回す。

 

 

 最初のキス、二度目のデートの帰りのされたキスよりも濃厚だった。

 シロナの甘酸っぱい匂いと唾液の味で、興奮してくる。

 思わず俺も抱きしめてしまい、自分からキスする様になっていた。

 

(あ、頭が蕩けそうだ…………それに、柔らかい………これが、大人のキス)

 

「ぷはぁっ……………ここまでされて、名前で呼ばないつもりかしら?」

 

「はぁはぁはぁ……………………いいん、ですか?」

 

「いいのよ。それとも、私の言葉が信用できない?キスじゃ足りなかった?自分からしてたのに?だけど―――――――『ここは』正直なようね」

 

「あ、うっ…………」

 

 シロナは手を自分のお尻に当たっている俺の息子を手で撫でる。

 キスのせいで、息子がたってしまったようである。

 

 

 俺は思わず苦笑いすると、シロナは俺の腕を取り、俺の腕を――――自分の浴衣の隙間に突っ込んだのである。

 

「ひぅっ……」

 

(っ!?な、なんだこれ!?め、めっちゃ柔らけぇ!)

 

 突っ込んだ先はシロナの胸だった。

 俺の手からはみ出る豊満でマシュマロの様に柔らかい胸が俺の手の中にっ!

 

 

 可愛らしい声を小さな悲鳴を上げたシロナにも興奮したが、いま手にはみ出るほど大きな胸に一番興奮している!

 は、はやく手を、手、手を退かなくては。

 

「んぁっ!爪が、あんっ」

 

 ……………………

 

 …………………

 

 ………………

 

 ……………

 

 …………

 

 ………あ、もうこれはダメだわ。

 もう俺、我慢しなくてもいいよね?

 良いんだよな?ここまでされてるんだ。OKって事だろJK!?

 

「来て………一夏君」

 

 両手を広げ、はだけた浴衣を直すこともなく、照れながらも笑みを浮かべて誘うシロナ。俺はもう、理性にストッパーを掛け続けるのを止めてカギを開ける。

 そして今日俺は―――――――――――シロナを俺色に染め始めるのであった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 一夏とシロナが部屋でやっている最中、壁の向こうにあるジョシュアと百合香の部屋では二人が聞き耳を立てていた。壁の向こうからシロナの甘くて切ない喘ぎ声が聞こえてくる。二人とも赤面していた。

 

「あらあらあら、とうとうやり始めたわね二人とも♪」

 

「認めたのはいいが、普通今日でおっぱじめるか?いくら俺でも、そんな事はしなかったぞ………………」

 

「いいじゃないですか。今は昔とは違うのですし、それにお互いに了承しあっているのですし♪」

 

「いや、それでもだな。仮にも日本人男児なら、順序立てて―――――――」

 

『シロナ、気持ちいいっ! シロナの『なか』、キツく締め付けてくるっ!』

 

『あっ……あぁっ!……しゅ、しゅごいのぉ!一夏くんのがありゃってひぅっ!?』

 

「あらあらあら~♪」

 

「はぁ…………」

 

 大変お盛んなようですねぇ、と百合香が笑う反対にジョシュアは少し額を押さえて溜息をもらす。

 今の時代、好きな男と女がこういう事をするのは昔とは変わらない。

 しかし、いささか昔よりも貞操観念が低いのでは?とジョシュアは思った。

 

(これも時代の流れなのだな)

 

 そう自嘲気味に笑みをもらした。

 とりあえず、少々主にシロナの甘く切なくそして淫靡な声が気になるが我慢すればいいと思い、布団の中に入るジョシュア。

 しかし、布団に手を伸ばそうとした瞬間に百合香から手を掴まれた。

 

「ゆ、百合香?」

 

「ジョシュアさん…………その………わたくしも、したくなっちゃいました」

 

 そういって一夏達と同じ寝間着である浴衣をまくり上げ、下着を見せる。

 子供の様な外見とは裏腹に、目を疑いたくなるような下着を穿いていた。

 

「ねぇ、ジョシュアさん…………」

 

「ゆ、百合香…………私は明日仕事が……………」

 

「だめ?」

 

「くっ!」

 

 首を傾げ、涙目で上目遣いをされてしまえば幾ら堅物なジョシュアと言えど墜ちてしまう。しかも、愛している女性からそのような事をされてしまえば尚の事。

 故にジョシュアは、浴衣を剥いで百合香を抱きしめた。

 

「手加減せぬぞ、百合香」

 

「はい♡ 来てくださいまし、『ジョッシュ』さん♡」

 

 最後の最後で、あだ名は卑怯だろとジョシュアは内心苦笑いする。

 屋敷では二人の女性の甘く切なく、そして淫らなあえぎ声が屋敷中に響いたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 あれからどれくらい経っただろうか。

 シロナと身体を重ね合わせ、何度も愛し合った。

 もう汗などの液体でベトベトしていていたので、二度目の風呂に入っている。

 勿論、シロナと二人きりでだ。

 

「ふぅ、気持ちいいわねぇ」

 

「そうですねぇ………」

 

「それにしても……………ふふふ、一夏君ったらとても激しかったわ。世界最強というのも、実力だけじゃなく息子も伊達じゃないわね」

 

「からかわないでくださいよ、もう」

 

 でも、よく続いたよな本当に。

 いったい何回出したか覚えていない。

 シロナのテクニックと気持ちよさしか思い出せない。

 

「ねぇ、一夏君」

 

「なんです、じゃなかった。…………なんだ、シロナ?」

 

 さっきもそうだったが、どうも敬語になってしまう。

 もう取り繕わなくていいのだが、どうも敬語が定着し過ぎてしまっている。

 内心では普通に出来るのに。

 

「貴方が言ってた、私との約束だけど……………今でも守ってる?」

 

「勿論だ。俺は約束通り、強く生きているよ。シロナと再開するまで、一度たりとも忘れてなんか―――――――――ひろな?」

 

 するとシロナが俺の頬を引っ張っていた。

 痛くはないんだが、なぜ引っ張っているのか理由が分からない。

 

「もう、全然約束を守れてないじゃない。ちゃんと『幸せになって』って約束、守れていないわよ」

 

「いや、それは………………」

 

 その約束は、シロナを忘れると言う事になってしまう。

 忘れたくなかった。楽しかった日常を、愛おしかった刹那を忘れたくなかったから俺はその約束だけは守ろうとはしなかった。

 

「私の事は忘れたくないのは嬉しいけど、貴方が幸せじゃなきゃ意味ないのよ?」

 

「そ、それはそうだけど…………」

 

「だからね。―――――――――『今度は私と一緒に幸せになろうね』」

 

「あ………………」

 

「この約束、守れる?」

 

 そう言って笑うシロナ。

 俺は思わず、シロナを強く抱きしめ涙を流す。

 これは悲しいからじゃない、嬉しさから来た涙である。

 

「あぁ……………もちろんだ」

 

 今度はちゃんと、君との約束を全部守るよ。

 俺は絶対に君を幸せにして、そして俺も幸せになるから。

 

 

 

 

 愛してる。

 

 誰よりもずっと。

 

 君の事を片時も離したりしない。

 

 どんな苦難に立ち向かっても、君を守ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――― シロナ………愛している ―――――

 

  ――――― 私も愛しているわ、一夏君 ――――

 

 

 

 




とでも言うと思っていませんでしたか?
すり替えておいたのさ!(なにと?)

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