鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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「えっと、白鳥先生。本当にこれで良かったのでしょうか?」

 

「良かった、とはどういう意味かしら更識さん?」

 

 私は現在3年に当たる更識楯無さんと会話している。

 話す内容は特に周りに聞かれても問題ない内容であるため私は椅子を用意し、更識さんを座らせ、会話している。

 更識さんだけではなく、織斑先生や山田先生が私の周りに集まっているのだ。

 私が入れたコーヒーを一口飲み、ため息を吐いてコップを机の上に置く更識さん。

 

「分かっているはずでは?態々簪ちゃんに嘘の情報を掴ませて、先生を探らせるようにするって、本当に良かったんですか?あの様子だと、白鳥先生への警戒が強まると思いますよ?」

 

「それでいいのよ。専用機持ちで代表候補なら、情報収集能力やら観察眼の他に発想力と推理力がないといけないわ。国を背負うと言うのに、単純で短気で単細胞のバカが代表になったら笑い話にもならないわよ。誰達の事かは言いませんけども」

 

「あ、あははははっ。はっきりと言うんですね、白鳥先生」

 

「まぁ、白鳥先生の言う事も確かだ。いついかなる時、絶対に仲間と一緒とは限らない場合もある。一人一人の能力の質を上げておくのに損はないだろう」

 

「その点で更識さんは賢いわね。あ、勿論貴方の事よ?私の『本当の』情報を掴んだのは生徒では貴方が初めてよ?」

 

 数日経っても全然専用機持ちの子達が来ないあたりかなり悩んでいるようだけども。

 まぁ、頭を軽くひねらない限りは難しいわよね。

 何せ――――――

 

「あれには驚かされました。まさか遊びのつもりでGoogle検索したら、白鳥先生の父親のブログがあるんですもの。簡単に家族構成とかも書かれていますからね。まぁ、最初に調べた情報の殆どが嘘じゃないというのも分かりましたけども」

 

「でも、更識さんは良かったんですか?妹さんに偽情報を渡して。本当の事を知ったら絶対に恨まれちゃいますよ」

 

「そうなんですよ!でも……………これも簪ちゃんの成長のためだって何度も何度も悶絶した結果嘘の情報を渡す事にしたんです。はぁ、絶対に簪ちゃんから怒られるだろうなぁ……………」

 

「その時は私が弁護してあげるわよ。偽情報を流してほしいって頼んだのは、私個人なんだから。一緒に嫌われようじゃないの」

 

「先生、言い方が酷いです。というか、嫌われ前提は嫌ですよ!?」

 

 職員室内で、そんな他愛のない話が繰り広げられていた。

 この学園に赴任して来て思ったことだけど、学園に在籍する生徒のレベルが少々低いと思った。女だけしかISを動かせないという優越感もあるだろうが、他の事を言わせてもらえば若干無知なのではと言う部分もある。ISを操縦する、専用機を持つと言う重さを全く知らなさすぎる。

 

 

 選ばれた者だけしか受け取る事が出来ない専用機を欲しいと言う欲望は結構だが、専用機を持つことは国や政府、人を守る責務が負わされる。生半可の知識と実力でどうこう出来る様なものではないのだ。そういう所が、IS学園に来た時に想った欠点である。

 まぁ、1年は仕方ないとして2年生はこれから知る事になるから重点的に教え込めばいいだけだろう。3年になってもそれが分からない様であれば留年させる手もあるが。

 

「先生、物凄く恐ろしい事を考えてませんか?」

 

「あら、山田先生。恐ろしいなんて、ただ専用機を持つという意味が3年になっても分からない様な生徒がいるのであれば分かるまで留年させるって考えていただけですよ?」

 

「………………うわぁ、今年はたぶん地獄を見るんじゃないかしら」

 

「留年、か。なるほど、それも一つの手だろうな」

 

「いやいやいやいや、織斑先生?さすがに生徒達が可哀想ですから止めてくださいね?白鳥先生も、絶対にやめてくださいね!?」

 

 ふふふ、それは生徒次第よ山田先生。

 まぁ、流石に専用機を持つ事の意味と責務、重大さが分からない生徒はこの学園にはいないでしょうね。

 

「そういえば話が変わりますけど。白鳥先生って付き合っている男性とかいますか?」

 

「あ、それ私も気になってました!白鳥さんの様な綺麗な女性なら、学生時代とかでモテてたんじゃないですか?」

 

「それを言うのなら、織斑先生や山田先生、更識さんも言えないんじゃないかしら?私からすれば、貴方達も十分イイ女よ?」

 

 すると私の言葉に照れたのか、山田先生と更識さんは頬を若干赤らめて苦笑いする。

 織斑先生はそれほど照れていないのは分かっていたが、女にイイ女と言われて照れる二人が少し意外だと思ったけど。

 

「話を戻すけど、別に付き合ってる男はいないわね。まぁ、基本的に私に対して話しかけずらいだけだろうけど」

 

「あぁ、確かに。白鳥先生って、少し言葉遣いが高圧的ですからね。女尊男卑の風潮を気にしてる男性はやっぱり話すだけで難易度が高いでしょうし。あれ?でも、一夏君って初対面の白鳥先生に凄く懐いてますよね」

 

「それは私も気になっていたところだ。実際にどうなんですか、白鳥先生?」

 

 何故か織斑君の話題になった途端に織斑先生がズイッと身を寄せ訪ねてきた。

 あぁ、やっぱりそう思いますよね。少し、異常だとは思うのよ。

 私の赴任前の時に学園を見学していた時に出会って、他愛のない会話をしただけなのに今では他の子達とは少し違った感じで接して来るのよね。

 

「私が赴任する前くらいに一度会って、他愛のない話をしただけだから、多分そのせいで懐いてるんじゃないかしら?彼、からかうと凄く面白いから」

 

「いえ、でも………………あの懐き方は少し異常かと」

 

「もしかすると一夏君、白鳥先生の事が好きだったりとか?」

 

「ぷっ、あはははははははははっ!」

 

 更識さんの言葉に、思わず大笑いした。

 大笑いするところ初めて見せたため、周りが少し驚いている。

 

「いや、笑いごとですか白鳥先生?」

 

「いや、だって、あははははははっ!織斑先生、幾らなんでも一夏君が私を好きになるって………ふふふふ、おかしいじゃないですか。幼馴染や同じクラスの生徒、それに更識さんに好かれているのにもですよ?彼女達は結構レベルの高い女なのに、初対面の私に好意を抱くなんて、漫画じゃないんですから」

 

 あぁ、おかしいわね本当に。どれくらいだろうか、こんなに笑ったのは。

 しかし、織斑君が私に好意を抱いているねぇ。

 彼の周りには私ほどでないにしろ美少女揃いなのに、後から現れた私に惚れるなんてそれこそ漫画である。まぁ、彼が漫画や小説の主人公と同じだったら別だけども。

 現実でそれは有り得ないでしょ。

 

「でも、白鳥先生。もしも仮に織斑君から告白されたらどうしますか?あ、あくまで仮にですよ?さすがに教師と生徒との交際は拙いですけども」

 

「断るわよ?」

 

「「「え?」」」

 

 え?なにその反応?

 貴方達の考えていた反応とは全く違うって事なの?

 

「てっきり、はぐらかすとばかり」

 

「私もです」

 

「私もだ……………一夏に不満でもあるのですか?」

 

「織斑先生、少し怖いですよ。別に弟さんに不満があるわけじゃないですから」

 

 不満があるわけではない。むしろ彼は優良物件にも等しい人材だ。

 学歴を見てみたが、入学前の実力テストはかなり酷い点数だったのだが第一回のテストでは学年上位、10位以内に食い込みそれ以降は一桁に上り詰めている程の頭脳明晰。

 加えてトレーニングやIS訓練を人一倍効率よくやっているせいか、がっしりとした男らしい肉体をしている。それに本人から聞いた、というよりも本人が勝手に言っていたことだが料理や家事が得意との事である。

 まぁ、最後はどれくらい得意なのか分からないのだけれどもね。

 

 

 しかし、だからと言って付き合う理由にもならない。

 不満が無い訳ではないが、私は別に織斑君を異性として見ている訳でもないので仮に付き合ったとしても私のプライドが許しはしない。

 絶対に私が惚れて、相手も私の事を愛しているというなら問題なく付き合っている。

 だから私は前述通り、織斑君を異性としてでなく生徒として見ているので付き合うつもりは無いのだ。と説明したのはいいのだけれども――――――

 

「白鳥先生って、かなりロマンチストですねぇ」

 

「中々可愛らしい考えをお持ちで」

 

「これから私、身体を動かしたいのだけれど二人とも付き合ってもらえるかしら?地面版犬上家を体験したいと思わない?」

 

「「いい、いいい、いえ結構です!!」」

 

 私はからかうのは好きだけど、からかわれるのは嫌いよ。

 まぁ、好きな人の相手の前ではどうか分からないけどね。

 人間、恋をすれば変わると聞くし、私も恋をすれば変わるのかしら?

 などと思いながら、話はこれにて終了し各自解散することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 解散した後、私は自分の仕事を終えていたので誰かの仕事を手伝おうと思っていたのだが、教員の誰もが焦って遠慮するので無理に奪うのは止めて散歩することにした。

 手伝えば早く終わるのに、なんであんなに焦って断ってたのかしら?

 

(とまぁ、そんな事よりも…………あんな事を言ってみたのはいいもののなんでこんなに苦しいのかしら)

 

 あんな事とは、『織斑君が私に好意を持っているのでは』という話である。

 3人にはあんな風に否定していたのだが、何故か否定するたびに胸が苦しくなる。

 私が彼に惚れている?でも出会ってまだ1か月くらいしか経っていないのよ?

 でも、彼と会話していると楽しく感じるし、それに居心地が良いと感じたりする。

 

「心理士の資格を取っても、分からないものね」

 

「何がですか?」

 

「っ…………いきなり現れるなんて非常識よ織斑君?」

 

「あ、すいません。鍛錬途中に白鳥先生を見かけたから、つい」

 

 ……………なぜだろうか。彼に『白鳥先生』と呼ばれると悲しくなってくる。

 私は彼の事を知らないはずなのに、何故なのかしら?

 私は……………彼に会ったことがあるのだろうか?

 

「ねぇ、織斑君。少しいいかしら?」

 

「え?はい、なんでしょう」

 

「試しに一度私を、名前で呼んでみなさい。先生は付けなくていいから」

 

「……………分かりました。―――――シロナ」

 

 …………~~~~~っ!?

 思わず身体と顔が熱くなってきた。

 彼に名前を呼ばれた途端、急に心臓の鼓動が速くなる。

 でも、嫌という感情ではない。身体が嬉しいと感じているのだ。

 

「え、えっと、白鳥先生?」

 

 な、なんで?私、彼の事は全く知らないのになんで?

 今迄こんなこと、一度たりとも無かったのに?

 あ、あぁぁ、身体が何だかジンジン――――――――

 

「――――あっ」

 

「しらっ―――――シロナ!!」

 

 突然私はバランスを崩し、倒れそうになる。

 しかし、織斑君がすばやく私を抱き寄せてくれたので頭を打つことも無かった。

 でも、今はそれより織斑君が私を抱きしめている事が問題である。

 彼の体温と鍛錬していた時に流れた汗の臭いが伝わる。

 体温に関しては少し暑苦しいけど、臭いに関しては臭くないし何故か落ち着く良い匂いである。

 

「お、織斑君…………その…………」

 

「あ、すいません。汗臭かったですよね?」

 

「いえ、その………良い匂いだったわって、違っ」

 

 私は何を口走っているのだろうか。

 私の言葉に織斑君はキョトンとした表情をしている。

 絶対に変な女だと思ったに違いないだろう。

 あまりの恥ずかしさに両手で顔を隠していると次の瞬間、急に体が宙に浮いた。

 

「ちょ、織斑君、これって…………!」

 

「少し我慢してください。とりあえず、芝生の所まで移動しますんで」

 

 そう言って織斑君は芝生の方へと私をお姫様抱っこしたまま向かった。

 芝生にはシートが敷かれており、水筒とタオル、刀が置かれてあった。

 私をゆっくりとシートの上におろし、タオルで自分の汗を拭い、拭い終えると私の隣に座り何やら自分の膝をポンポンと叩いている。

 

「さ、白鳥先生。どうぞ」

 

「え、えっと…………なにがどうぞなのかしら?」

 

「疲れているときは、休むのが一番です。枕は無いですし、俺の汗で濡れたタオルを枕代わりにするのはどうかと思いますので、俺の膝を使って休んでください」

 

「いや、私は別に疲れている訳じゃ―――――」

 

「人間、知らない部分を使っているから分からないんですよ。ほら、頭を乗せて仰向けになってください」

 

「………分かったわ」

 

 流石に私の決まり文句を盗られたのだから、休むことにした。

 私はヒールを脱いで、織斑君の膝の上に頭を乗せ仰向けになる。

 筋肉が良い感じの柔軟さを持っているので、低反発枕みたいな感触がする。

 それに空が雲一つもない晴天だから、何だかとても癒されるわ。

 

「楽になりましたか?」

 

「えぇ、とっても………なんだか癒されるわね。これでマッサージが有れば、最高なのだけれども………」

 

「あ、じゃあやりましょうか?俺、これでもマッサージも得意なんですよ」

 

「調子に乗るんじゃないわよ、小僧」

 

「あたっ」

 

 脚を上げて織斑君の頭を蹴る。

 マッサージがあれば最高だとは言ったけど、別に貴方にしてほしいという意味で言った訳じゃないわよ。

 セクハラで訴えるわよ?

 

「それと、さっき私を助けるときに名前で呼んでたけど、なんで呼んだの?私は一度って言ったはずだけど?」

 

「い、いやその………なんとなく」

 

「なんとなくで、貴方は許可なく年上の女に呼び捨てするわけ?」

 

「うっ……………す、すいません………」

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

「……………………ふ、ふふふっ、あははははっ!」

 

「え、えっと白鳥先生?」

 

「ごめんなさい。貴方の反応がついつい面白いから、思わずイジメたくなっちゃったのよ。全然怒ってないから、そんな顔しないで。ふふふ」

 

「ひ、ヒデェな白鳥先生。生徒をからかうなんて、それでも教師ですか?」

 

「あら?そんな決まりは何処にもないわよ?行き過ぎてなければ問題ないわ」

 

「そういう問題ですか………………」

 

 ホント、彼をからかうのが楽しく感じる。

 他の生徒をからかうけれども、こんなにも心躍るのは初めてだ。

 やっぱり私は、織斑君とどこかで出会っているのだろうか?

 もしもどこかで会っているのだとするならば、織斑君が懐いているのは私に好意があるからなのではないのだろうか?

 もしかすると――――『私の知らない事』を知っているのではないのだろうか?

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 ダメだ、聞き出せない。言葉が、口から出せない。

 何故だか分からないが、知ってしまうのが怖い。

 でも、聞いておかないと損をしてしまう気が―――――

 

(あっ…………)

 

「~~~♪」

 

 無意識だろうか、織斑君は私の髪を鼻歌まじりで優しく撫でる。

 手つきが手馴れている様に撫でてくるので、とても心地よかった。

 そして彼の鼻歌の曲が、とても聞き覚えがある。

 

(あぁ、でも……………いまそんな疑問は後でいいわね)

 

 彼と一緒にいるのが落ち着いて、居心地が良い。

 いまは少し、ゆっくり休むとしよう。

 今はこの暖かい温もりと、居心地のいい雰囲気を堪能しよう。

 私はそう思い、織斑君の鼻歌を聞きながら眠りに付くのである。

 

 




次回は一夏VS白雫の戦いの話にしたいと思います。

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