「ふぇぇ…………。凄いですねぇ、織斑君」
「あぁ。思いのほか、上手く回避しているが……………」
「当然です。一夏は普段から出来る男なのですから」
ピットでリアルタイムモニターを見ていた3人がそう呟いた。
モニターにはセシリアの攻撃をギリギリ、掠りもすることなく上手く回避する一夏の姿が映し出されている。
途中意味のない場所へと急降下したり、壁に加速したりなど変な行動が見受けられたりするが、セシリアの攻撃は全て回避している。
「織斑君って、何かやってたんですか?」
「アイツは小学校まで剣道はしていたが、4年生あたりで辞めてからそれっきりだ」
「でも、凄いですよね。小学校の時に剣道をしていただけなのに、あんなふうにオルコットさんの攻撃を全部避ける事は出来ませんよ」
「そうだな。おい、篠ノ之。織斑とやった訓練メニューはなんだ?」
「只管私と打ち合いをして、グラウンドを走っただけですけど」
(だとすれば一夏がオルコットの攻撃を全て回避できるのは妙な話だ。出撃する前に一夏は幽霊がいると言ったが……………………バカバカしい。幽霊など存在するはずがない。となると、極限状態に発揮する力?スポーツマン、人間だれしも極限状態に追い込まれれば力を発揮すると言うが、これなら説明がつくな)
何やら千冬が一夏の回避が全て疲れによる極限状態から出る力だと結論付けたが、生憎と一夏がセシリアの攻撃を全て避けきれたのは幽霊、もとい白式に憑依した白雫のお蔭なのであり、盛大に勘違いをしている千冬。
「あ、織斑君がついにオルコットさんの方へ!」
「ついに反撃か!」
「まぁ、アイツが浮かれていなければいいのだがな」
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(『あれ?なんですか白鳥さん?スッゲェ、良い笑顔なんですけど…………なんか嫌な予感がするんですけど………………』)
な、なんかスゲェ良い笑顔でこっち見てるし、めっちゃ嫌な予感がするんだけど。
良い笑顔なのに、良い笑顔なのに!
なんかめっちゃ嫌な予感がするんですけど!?
(『ねぇ、織斑一夏。少し私に良い案があるんだけど』)
(『え、えっと、その良い案って、具体的になんなんでしょうか…………』)
(『とりあえず、貴方は彼女に突っ込んで私が言った通りの言葉を彼女に言いなさい』)
(『あれ?それだけなんですか?それだと俺、的にされるんじゃ………』)
(『えぇ、それだけよ。簡単でしょ?もし攻撃されたら私が避けてあげるから。それじゃあ行くわよ』)
白鳥さんの言葉に俺は従い、セシリアを見る。
セシリアは回避している俺に苛立っているようで少し表情が険しい。
それより、さっきの嫌な予感はなんだったんだろうか?
白鳥さんの案は、なんの変哲もない特攻作戦。
セシリアの攻撃に関しては、白鳥さんが回避してくれるって言ってるけど。
とりあえず、白鳥さんの言葉を信じるしかない!
(『いくわよ!『シケた遊びしてはしゃいでンじゃねーよ三下!!』。はい、復唱!』)
「はい!『シケた遊びしてはしゃいでンじゃねーよ三下!』…………って、これって挑発ですよね!?」
「あ、遊び?わたくしとの決闘が遊びですって!?それに、三下?初心者の貴方がわたくしを三下呼ばわりとは、随分と自信があるようですわね織斑一夏!いいですわ。ならこのセシリア・オルコット、貴方を『徹底的に』!『完膚なきまで』!二度とわたくしに歯向かえない様にしてさしあげますわ!」
(『オィィイイイイイイ!?相手めっちゃキレてますよ!?無茶苦茶キレてますよ白鳥さん!?セシリア、眉間に皺を寄せてライフル構えてますよ!?』)
(『コンビニ行ってくるわね』)
(『オィイイイイイイイイイイイイイイ!?』)
(『それよりも今!ピットを攻撃!』)
(『っ!』)
白鳥さんの指示に我に返ると、白式が勝手に動いてセシリアのピットまで向かっていた。我に返った俺はとりあえず白鳥さんの声に従い、近くにあったピットを破壊する。
そして2番目に近かったピットを両断するのであった。
「なっ!?ティアーズが!?まさか貴方、わたくしを油断させるために!?」
「…………………へっ。さぁ、どうだろうな」
「くっ、調子に乗らないでもらえませんこと!わたくしのエネルギーが減ったわけでもありませんし、それにまだ二機が残っておりますわ!」
そう言って残りの二機で俺を狙うが、これくらいの攻撃なら俺でも避けられる。
それにしても白鳥さんは凄い事を考えたな。
挑発する事で生まれる隙を狙い、セシリアのピットを破壊する。
挑発するセリフは兎も角として、セシリアの沸点の低さを利用した作戦。
俺でも考え付かないぜ、そんな事。
(『スゲェよ白鳥さん!挑発する事で生まれた隙を利用するなんて、伊達に天才を豪語してるわけじゃないんだな』)
(『当然じゃない。セシリア・オルコットはイギリス人で、貴族生まれ。プライドも高いと来たなら挑発が一番いいのよ。それより、セシリア・オルコットの癖や機体の弱点は分かったかしら?』)
(『え?』)
癖と、弱点?
(『だから、セシリアの癖や機体弱点よ。まさか、貴方……………』)
(『ちょ、ちょっと待ってくれ!』)
セシリアの癖と機体の弱点って言われても、どこにあるんだよ。
射撃武装がメインで、ブルーティアーズっていうピットがあって、そんで挑発すると直ぐに怒る沸点の低さと、後はえっと……………………
(『はぁ。仕方ないわね。セシリア・オルコットとISの弱点、それはピット操作中は他の攻撃は出来ない。そして他の攻撃をしている間はピットで攻撃出来ないという機体の弱点があり、セシリア・オルコットの癖に関してはピットに指示を出す時に一時ライフルを数十度くらい下に下げる癖があるのよ。これくらい分かりなさいよ』)
(『そ、そう言われてもなぁ………………でも、ありがとう。本当なら俺が見抜くはずなのに、態々白鳥さんに任せちゃって』)
(『べ、別に……………私はただ負けるのが嫌なだけなの。それだけよ』)
そう言って照れた様にそっぽ向く白鳥さんが可愛い。
っと、それよりも今は試合だった。
「く、初心者の癖に20分以上も持たせるなんて!」
「そう簡単に落ちるつもりはないんでな!」
千冬姉や箒が応援してくれた。
それに、白鳥さんが自分の為とはいえ俺に相手の弱点などの情報を見つけてくれた。
簡単に負けるわけにはいかないし、負けるつもりなどない。
(『白鳥さん、これからは俺とアイツの勝負。だから余計な手出しはしないでくれ』)
(『………………まぁ、そういうことなら仕方ないわね。でも、無様に負けたら承知しないからね?負けたら次使うときに標高3千メートルから地面にダイビングよ』)
(『こわっ!?……………まぁ、そうならない様に勝つよ。だから、見ててくれ』)
(『そうね。期待しないで見ておくわ』)
そう言って何も言わなくなった白鳥さんを尻目に、俺はセシリアを見る。
相手はピットを構え警戒しており、こちらの様子をうかがっている。
どうやらピットを破壊されない様に警戒しているのだろう。
あれ?そういえば白鳥さん、さっき『次使うとき』とか言ってたけど、使ってほしくないとか言ってなかったっけ?
きっと心境が変化したのかもな。もしかして、操縦者として認めてくれたとか?
だとすると、嬉しいな。
「な、何を笑っているのです織斑一夏!」
「いや、なに。さて、始めようじゃねぇかセシリア・オルコット!こっからは俺による快進撃だ!」
「迎え撃ってさしあげますわ、織斑一夏!」
そんなもん全部避けてやるよ!!
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織斑一夏が単独、もとい私無しでセシリア・オルコットに向かっていった。
向かってくる織斑一夏にセシリア・オルコットは適格にレーザーを放つが、織斑一夏もまた適格にそれを回避する。
私が避けている間、身体で慣れたのか一発も攻撃を受けていない。
受けたとするなら、壁を踏み台にしたときくらいだろう。
(1分間に消費するエネルギーが1で、壁を踏み台にしたときの衝撃で10以上20以下。だとすればライフルによる消費は60、いえ、当たり所が悪ければ100は確実ね)
それに加えてピット攻撃が壁を踏み台にした衝撃×2だったなどと私はダメージ計算を行っていた。
正直、私は色々と口出ししたいし白式を動かしたいのだが無粋な事はするなと言われた。何が理由で、彼女と戦うのか知らないがこの戦いは織斑一夏とセシリア・オルコットによる戦いである。
元々私が茶々入れて良いような場面はなかったのだ。
(余計な事だったかしら。いくら白式に憑依したから負けたくないと言って、私に関係ない戦いなのに余計な茶々を入れるなんてお門違いよね。まぁ、もうすでに過去のことなんだけど)
今更どうしようもない事だろう。
などと思っていると、織斑一夏が全てのピットを破壊していた。
「これでアンタの切り札は全部落としたぜ。これで、終わりだ!!」
(『って、ちょっと待ちなさい!まだ相手には!』
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
聞けよ主人公!
織斑一夏は私の言葉を無視し、セシリア・オルコットの方へ突撃する。
ピットを破壊したのはいいのだが、まだ『全部』破壊されていない事を忘れている。
「かかりましたわね!生憎とブルーティアーズは6機あってよ!」
「弾道ミサイル!?」
ドカァアアアアンッ
腰から放たれたミサイルは見事に直撃。お蔭でシールドが半分も減ってしまった。
全く、仕方ないわね本当に。ちゃんと相手の武装の事を確認しないさいよね。
内心愚痴をもらしながら、私の目の前に表示されてあるコマンドを押すのであった。
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「一夏っ…………!」
モニターを見つめていた箒は、思わず声を上げt。
千冬や真耶も、爆発の黒炎に埋まった画面を真剣な表情で注視する。
すると黒煙が晴れていくなかで、千冬は鼻を鳴らす。
「ふん。機体に救われたな、バカ者め」
どことなく安堵の表情をする千冬。
次の瞬間、画面に映る煙は弾ける様に吹き飛ばされた。
そしてその中心には純白の機体がいた。
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(な、なんだ?)
意識に直接データが送られると同時に、目の前に現れるウィンドには『確認』と書かれたボタンがあった。
とりあえず、訳も分からず押してみると更なる情報が流れ込んでくる。
いや、これは正確に言うと整理されていると言えばいいだろう。
(『まったく、世話を焼かせるんじゃないわよ』)
白鳥さんの声で俺は目を見開くと、俺のISが劇的に変化していた。
新しく形成されたIS装甲は薄らと光を放ち、前の白い装甲とは違って本当の白、『純白』の装甲が目に入る。
「ま、まさか………一次移行!?あ、あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたのですの!?」
(『白鳥さん、もしかして……………』)
(『仕方なくよ、仕方なく。貴方が不甲斐ないせいで、ついやっちゃったじゃないのよ』)
白鳥さんの言葉に、俺は笑みがこぼれる。
そうか。これで、これでやっとこの機体は俺の専用機に。
………いや。白鳥さんと相棒になれたのだろう。
そして変わったのは機体だけではないと、俺は気づく。
接近特化ブレード・≪雪片弐型・白雫(しらしずく)≫
日本刀、もしくは太刀に近いその剣の刃は白く美しかった。
水で濡れたように艶と光を放っており、正しく芸術的、神秘的と言える代物。
しかしその反面、途轍もない切れ味を持っている雰囲気が漂う。
そう、この剣はまるで白鳥さんそのものに近い感じだ。
それに、雪片か。
「ホント、俺は世界で最高の姉さんと相棒を持ったよ」
「は?貴方、何を言って――――――――」
「俺も、俺の家族を守る。とりあえずは、今は千冬姉の名前を守るさ!」
「だからさっきから、なんの話を………あぁもう!面倒ですわ!」
ピットを再装填し、セシリアはピットに命令を下す。
ピットを操作している間は他の攻撃が出来ない。
ピットの動きの速さは俺でも読み取ることが出来る。
(勝てる!!)
迫りくる攻撃を回避し、俺はピットを一つ一つ切っていく。
両断されたピットを俺は横を通り過ぎると同時に爆ぜた。
センサーの解像度はさっきよりも分かり易くて使いやすい。
「これで―――――――――――」
「くっ、インターセプト!」
「終わりだああああああああああああああああああああ!!」
キィイイインッと俺に答える様に雪片の刀身が光を帯びる。
千冬姉が使っていた状態と同じ状態の攻撃。
振り上げた剣を俺はそのままセシリアへと振り下ろし、切り裂いた。
『試合終了。勝者――――――織斑一夏』
エネルギーの刀身がセシリアのエネルギーを一撃で根こそぎ持っていき、俺への勝利宣言が下されるのであった。
結果、俺はこの勝負に勝つ事が出来たのである。