鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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Another End 誰ガ為ノ世界

 

 

 福音の暴走を止める作戦が開始してから数十分、俺と箒は福音に苦戦を強いられながらもあらゆる策を用いて福音に挑んだ。

 流石軍用機と言うべきだろうか、圧倒的なまでのスペックを備えており第4世代の紅椿を操る箒ですら苦戦する程なのだ。

 

 

 時間が経つほど不利になるのはこちらなのは明確。

 俺はこの時、零落白夜を使って福音を落とす賭けに出た。

 箒が福音を相手している今、その隙を逃したりはしない。

 零落白夜を発動し、俺は福音の元へと駆ろうとしたその時だった。

 しかし、俺は視界の端で船を見つけた。

 先生たちが海域を封鎖しているはずなのに、船が浮いているのだ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「何をしている!?せっかくのチャンスを――――――」

 

「船がいるんだ!海上は先生たちが封鎖しているはずなのに!!」

 

(『ちっ、密漁船ってわけね…………』)

 

 白鳥さんが苦い声をもらす。そう俺達の真下には船が浮いていた。

 このままでは福音に狙われてしまうだろう。

 しかし、だからと言って見殺しなんて出来るわけがない。

 

「馬鹿者!犯罪者などをかばって………。そんな奴らは――――――」

 

「箒!!」

 

「っ―――――!?」

 

「箒、そんな――そんな寂しい事は言うな。言うなよ。力を手にしたら、弱い奴のことが見えなくなるなんて………どうしたんだよ、箒。らしくない。全然らしくないぜ!」

 

「わ、私は……………」

 

 明らかに動揺をその顔に浮かべ、隠すかのように手で覆う。

 その時に落とした刀が空中で光の粒子へと消えたのを見て、俺はぎくりとした。

 しかし、俺の言葉よりも早く、白鳥さんが反応するのであった。

 

(『今すぐポニーを突き飛ばしなさい!射線上よ!!』)

 

(『っ!?』)

 

 福音は砲口を箒に向けており、そして36砲口から光の弾丸を放つ。

 咄嗟に俺は瞬時加速で箒の元へと向かうのである。

 あの光の弾丸を全て受けてしまえば、いくら第四世代と言えども操縦者を殺してしまいかねないだろう。

 

「間に合ええええええええええええええ!」

 

 俺は白式のスラスターに全エネルギーを注ぎ、加速させる。

 もうすぐそこに光の弾丸が押し寄せてきており、俺は腕を力いっぱい伸ばし、箒を力強く突き飛ばした。

 

「のあっ!?」

 

 突き飛ばされた箒はそのまま遠くに飛んでいく。

 そして福音から放たれた光の弾丸は俺へと向かってくる。

 

(くっ、こんな所で!!)

 

 白鳥さんと約束したんだ!

 生きて帰ってこようって、約束したんだよ!

 こんなところで、こんなところでくたばる訳にはいかねぇんだよ!!

 

「うぉおおおおおおおおおお!!」

 

(『っ、織斑君、やめなさい!』)

 

「はああああああああああああああ!!!」

 

 飛来する光の弾幕を俺は切り落とす。

 出来るだけ最小限の被害で済むように、ただただ切り落としていく。

 しかし、量と速度が圧倒的なまでに俺の動きがついて行けない。

 威力の高い光の速度で追いかけてくる弾幕が俺を襲い掛かるのだ。

 

「あああああああああああああ!!」

 

(『やめなさい、織斑君!!もう、引きなさい!!』)

 

「引くわけには、いかないんです!生きて、生きて帰るためにも!!」

 

 下には船、遠くにいる箒に被害を出さない為に、守らなきゃいけないんだ!

 しかし、そう思っている矢先に更に福音は弾幕を張った。

 高エネルギーの弾幕を弾くだけで腕に疲労が大きく負荷をかけているので、もう俺は白雫を振るうほどの筋力は残されていなかった。

 

「がぁあああああああああああああああ!?」

 

(『織斑君!?』)

 

 光の弾幕が、俺へと襲い掛かる。

 一撃一撃が俺の身体を抉るように爆破する。

 何とか意識を保とうとしたのだが、意識が段々遠くなってくる。

 この……………ままじゃっ!

 

「一夏!!」

 

 箒が現れ、俺を担いで福音から距離を取る。

 意識が消えそうなとき、箒が俺を助けてくれたのだ。

 あれ…………なんだか……………腕の感覚が…………。

 

「い、一夏…………私なんかの為に、こんなになるまで…………」

 

「ほう………き?」

 

「っ………とりあえず、一時旅館へ戻るぞ―――――」

 

「うぐっ!」

 

 急に動き出したので、両腕に痛みが走り出す。

 福音が俺達に襲い掛かってきたのだろうか、箒は俺を担いだ状態で福音の攻撃を回避している。俺を担いでいる為、武器を展開させることが出来ない。

 俺は痛む身体を動かし、激痛が走る腕で白雫を展開し握りしめる。

 腕が焼けて、鼻に嫌な臭いが広がって……………気持ち悪い。

 

「なっ、一夏!?」

 

「ほう、き…………俺は大丈夫っ………まだ、戦える!」

 

「無理だ!そんな身体や腕では、福音は倒せない!一旦旅館に戻って―――」

 

「だとしても福音が追いかけてきたら、両方共倒れだろ!ここで仕留めなくちゃ、意味がないんだよ!!」

 

「一夏……………」

 

 そうだ。ここで止めなきゃ、逃走途中で俺や箒が撃ち落とされる可能性だってある。

 仮に旅館に戻れたとしても、旅館を攻撃されるかもしれない。

 ならば、ここで仕留めたほうが得策なのだ。

 この体や腕がどれだけ激痛が走ろうが知った事ではない。

 俺は約束したんだ。

 白鳥さんと………………生きて帰ると!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私は…………貴方にそんな事をさせるために、約束したわけじゃないわよ』

 

 

 

「え?」

 

 

 白鳥さんの声がした瞬間―――――――――白式は解除されたのだ。

 

 

 

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 私は、こんな戦いなど見ていられなかった。

 織斑君は、私の約束の為に重傷を負ってしまった。

 全て、私の責任だ。

 サポートすると言いながらも、私は織斑君を守れなかった。

 

 

 …………………私のせいで、彼は。

 

 

 また私は一人の人間の人生を終わらせるのか。

 また私は何食わぬ顔で、人を傷つけるのか。

 また私は、私という存在のせいで誰かを踏み台にするのか。

 

 

 ………………ふざけるんじゃないわよっ。

 

 

 そんな事、させはしない。

 絶対に、彼を殺させなんかしない!

 彼にはいくつもの可能性を秘めている。

 彼にはこれからも生きてもらわないと困る。

 彼には、私以上に才能も可能性を備えているから。

 だから―――――――――――――

 

「白鳥さん、なんで!?」

 

「それよりも、貴様は何者だ!なぜ、一夏の白式を―――――」

 

『黙りなさい!!』

 

「「っ!?」」

 

『篠ノ之 箒。私を置いて瀕死になりかけている織斑一夏を今すぐ旅館に連れていきなさい。それともこの場で全員死にたいわけ?』

 

「っ…………」

 

「なっ!?白鳥さん、まさか―――――」

 

『早くしろ!!!』

 

「っ、すまない一夏!」

 

「は、離せ箒!白鳥さん!白鳥さん!!」

 

 篠ノ之箒は織斑一夏を担いで海域から離れた。

 私は白雫を展開し、手を握る。

 白式は自分自身だから、実体化して纏えるのではないかと思っていたが案の定纏えることが出来た。しかし、ISを動かすのは今日で初めてである。

 

 

 織斑一夏をサポートしていた時とは違い、自分の身体と脳で動かすのだ。

 福音相手に、どこまでやれるか。

 

「ふっ、ふふふ……………何を勘違いしているかしら、私は。この私、白鳥白雫が敗北する?どこまでやれる?バカを抜かすなんて、私もついに末期ね」

 

「La♪」

 

「福音、喜びなさい。この私、頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗の完璧な女が相手にしてあげるんだから。精々足掻く事ね!!!」

 

 私は白雫で突きを放つ。

 福音は難なく回避したが、私は体を軸にして素早く旋回し追撃を放つ。

 追撃の斬りは、福音はガードできずに受けたが零落白夜を発動していない為ダメージはそれほど受けた訳ではない。

 

 

 しかし、私は福音の反応速度を確かめただけであった、いまの一撃で仕留めるつもりではない。どれほど福音が動くのか、どれほどの反射速度なのか確かめただけ。

 でも、シールドエネルギーの限界もあるため長期戦は拙い。

 

(ここは、シールドエネルギーを解除するべきね)

 

 そうすればダメージを受けてもシールドエネルギーを削らずに零落白夜を1秒でも長く発動することが出来る。そして私は実体化をしているが幽霊だ。

 肉体が破損しようとも、直ぐにくっつくだろうし痛みなどない…………はず。

 

(でも、肉体が損傷しようと痛かろうと…………私にはもう関係ないのよね)

 

 私の身体から僅かに漏れ出す光を見て、苦笑いする。

 もうすぐ終わりが近い。

 私はもう、消えようとしている。

 彼の為にも、ここで福音を逃すわけにはいかない。

 だから―――――――――――

 

「くっ!」

 

「La♪」

 

「ぐっ……………まだ、まだぁああああああああああ!!」

 

 放たれる光の弾幕を紙一重で回避する。

 シールドエネルギーを解除しても、絶対防御が存在するが絶対防御が絶対に守るとはかぎらない。

 光の弾丸を避けても、速度と量が桁外れなので全て避けれるわけがない。

 

 

 弾丸が白式の装甲を抉り、破壊していく。

 ダメージレベルDを超えようとしている。

 ここでEとなれば、『完全緊急停止』が掛けられ私が指示しても動かなくなるだろう。

 

「零落白夜ぁあああああああああああああ!!!」

 

 蒼白い刃が展開され、私は弾幕を張る福音へと向かう。

 向かってくる私に、更に弾幕を広げる福音。

 弾幕で装甲が破壊されていき、ついには霊体である私の身体を破損させていき、私の死が更に加速する。

 

 

『白鳥さん!』

 

 

『……………白鳥さん』

 

 

『また今度、聴かせてください』

 

 

『生きて帰りましょう!』

 

 

 ――――あぁ。

 どうして今になって、彼の顔を思い出すのだろう。

 覚悟はできていたはずなのに、どうして彼の声や顔が浮かんでくるのだろう。

 死にたく、なかったのだろうか?

 やっぱり………………生きていたのだろうか。

 

 

 それもそうでしょうね。

 何せ私は――――――――――――――――彼を愛しているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ≪エネ………ルギー…………消………失……………≫

 

 ≪ダメージレベル・Eにより、完全緊急停止≫

 

 

 バイバイ

 私がもっとも愛したただ一人の(ひと)――――織斑 一夏君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「離せ、箒!俺は、俺は行かなきゃならないんだ!」

 

「ダメだ!今のお前は、動ける身体ではないんだぞ!」

 

 箒に旅館まで連れていかれた後、医療班に抑えられ医療室へと運び込まれた。

 目覚めたころには既に2時間は経っており、俺の身体に包帯が巻かれていた。

 特に一番酷かったのが腕だったのか、ギブスまでされてある。

 しかし、そんな事はどうでも良かった。

 白鳥さんが、白鳥さんが福音と!!

 

「織斑…………」

 

「千冬さん!一夏を止めてください!」

 

「千冬姉、行かせてくれ!早く、早く福音の元に―――――――」

 

「福音の暴走は治まった。作戦は――――――完了された」

 

「――――――――――えっ?」

 

 千冬姉の言葉に、俺は何を言われたのか理解できなかった。

 作戦は、完了された?

 それって―――――――

 

「白式は!白式は何処ですか!」

 

「千冬さん、あの………………」

 

「……………………」

 

 千冬姉の表情は優れなかった。

 その時、俺は嫌な予感がしたので千冬姉の横をすり抜ける様に走り出す。

 

「一夏!」

 

「止めるな、篠ノ之……………行かせてやれ」

 

 俺は走る。

 身体や腕から激痛が走ろうとも、我慢して走る。

 向かう場所、目的のものを探すために俺は必死に旅館の中を走り回った。

 

 

 何処の部屋にも俺が探しているものは何処にもなかった。

 立ち止まった時、痛みで倒れそうになったが必死に痛みを押さえつけ立ち上がる。

 

 

 白鳥さんの……………白鳥さんのところ、に……………っ!

 

 

 そして最後に向かった場所は、浜辺であった。

 もうここしか残されていないと思い、浜辺へと俺は向かった。

 痛む身体を引きずりながらも、俺は浜辺へと向かった。

 そして浜辺へ着くと、そこにはブルーシートの上に置かれた白式の装甲の破片があった。

 

「あ、あぁぁ…………………白鳥さん!!」

 

 シートの上に乗せられているバラバラになった白式の装甲を手に取る。

 翼や腕、脚などの装甲の破片が散らばっている。

 それだけでなく、白雫が真っ二つに折られている。

 必死に白式の残骸をあさりながら、白式のコアを、白鳥さんを必死に探す。

 

「はぁはぁはぁはぁ………………白鳥、さん……………」

 

 ようやく、見つけた。

 残骸の底に、小さくて球を見つけた。

 球は一部欠けて、罅が入っている。

 優しく球を持ち上げ、白式の残骸から少し離れた場所へと移動する。

 

「白鳥さん………………白鳥さん…………………」

 

 名前を呼んでも、反応が返ってこない。

 何度も、白鳥さんの声が返ってくるまで呼びかけるのだった。

 分かっているはずなのに…………分かっているはずなのにもだ。

 手に持っているコアを抱きしめ、涙を流した。

 

 

 なんで俺はこんなにも弱いのだろうか。

 なんで俺は愛している女性すらも守れなかったのだろうか。

 なぜ世界は彼女に優しくないのだろうか。

 俺は何のために強くなったのだろうか。

 俺は………………俺は……………………

 

「うぁあああああああああああああああああああああああああああっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――なぜ、泣くことしか出来ないのだろうか。

 

 

 

 End

 


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