鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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たった一つの想い

 

 

 

 ドイツで行われるISの大きな大会であるモンドグロッソにて。

 男女関係なく会場を埋め尽くしており、観客席から応援の声が響き渡る。

 モンドグロッソ総合部門の最終決戦は他の部門とは違い、大きな声援が送られている。

 その理由は赤いIS、箒と紅椿に襲い掛かる影が原因である。

 

『速い!速すぎる!織斑選手、速過ぎる!速過ぎて篠ノ之選手が手も脚も出ない!』

 

「くっ、一夏!貴様、私を舐めて――――」

 

  ズドオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

『吹き飛ばされたぁあああああ!?篠ノ之選手、地面に吹き飛ばされた!』

 

「喋る余裕があるなら、少しは手を動かしたらどうだ?」

 

『織斑選手、余裕の発言!第四世代を『訓練機』で、『武器』無しで戦うほどの力量を持つくらいだ!流石織斑選手!私たちに出来ない事を平然とやってのける!そこにシビれる!あこがれるぅうう!!』

 

『ちょ、テンション高いですよ。でも、本当に凄いですね織斑選手は!世代の違いを感じさせない圧倒的なまでの機体の乗りこなしと戦闘能力!ブリュンヒルデとも言われた織斑千冬選手を非公式ながらも勝利しただけはありますね!』

 

 アナウンサー二人が一夏を熱烈に語る声が響き、観客からの歓声が更に上がる。

 最も一番反応が良かったのは観客席にいる男性陣なのだから。

 

 

 女尊男卑のせいで日頃の鬱憤を溜めている男性も少なからずおり、一夏がISを動かしたことによりその風潮が薄れ、更には姉である非公式であるが文句なしの勝利をおさめ『最年少世界IS操縦者最強』、『人類最強』のタイトルを持っているので女性陣は男性に大きい顔を出来ないのである。

 つまり、ISが登場する前の風潮に戻りかけているのだ。

 男性陣は一夏が優勝することに、大きく期待を寄せている。

 しかし――――――――――

 

(やっぱり零の型・無手の構えの『紫電清霜(しでんせいそう)』は広すぎない場所が一番だな。次はどの型を使おうか。出来ればいくつか試したいんだが―――箒がそれまで粘れるわけがないだろうからな)

 

 しかし、当の本人は大会の優勝などに興味はない。

 ただ自分が作り上げた技の試し打ちの事しか考えていないのだ。

 決勝までの試合は、白鵠を使わず訓練機である打鉄で戦うというハンデを自分に付けて戦ってきており、しかも決勝戦まで『武器』すら使っていない。

 一夏が大会に出たのは、ただ強いIS操縦者がいるから技の試し打ち相手になるだろうという理由で大会に参加したのである。

 

(『雷光』は一回戦で試したし、『付和雷同』を二回戦目で使ったけど相手が弱すぎるから使わずに終わったし、三回戦の相手にはえっと…………)

 

「余所見をするな!私はまだ終わっていないz――」

 

「あぁ思い出した、『雷霆万鈞(らいていばんきん)』だったな」

 

  バキィィィイイイイイイイイイイインッ!!

 

「な、空裂と雨月が!?」

 

「あ、なんだ…………『居たのか』、箒」

 

 一夏に斬りかかろうとした箒だが、一夏の無意識による攻撃、『雷霆万鈞』という拳から繰り出された技で紅椿の主装とも言える二本の刀の刃が木端微塵となった。

 自分の事など『眼中にもなく』上の空で隙が出来ていたにも掛からわず、一夏に攻撃を防がれるどころか武器を破壊された箒に残された攻撃手段は残り展開装甲のみとなった。

 

「何故だ一夏!なぜお前はそうなってしまっt―――――」

 

「じゃあ、もう試す技は無いから早く終わらせて、ホテルに帰ってまた考えるか」

 

「たのだ―――――」

 

  ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

 

 箒が言葉を言い終える前に、一夏は箒の背後へと回りそのまま殴り飛ばした。

 殴り飛ばされた箒はそのまま高速で地面に落下するかと思えば、地面を抉りながら転がりアリーナの壁に叩きつけられる。

 そしてその瞬間、紅椿のシールドエネルギーは0となった。

 

『し、試合終了!試合開始から僅か3分という短い戦いだった!』

 

『第四世代を訓練機で三分って、もう織斑選手は別次元の存在ですか!?』

 

『しかし、やはり強い!流石ブリュンヒルデを破っただけはある!モンドグロッソ総合部門優勝者は、織斑一夏に決定だぁああああああ!!』

 

 わぁああああああ!!と観客席から歓声が上がった。

 誰もが一夏を称え、称賛する。

 しかしそんな中、一夏は別段嬉しそうな表情などしていなかった。

 ただ技の開発と試し打ちの為に出ただけであった、別に優勝したくて出たわけじゃないのだから。

 

(ホテルに帰るか。マスコミに捕まると、時間を取られるだけだし)

 

 そんな事を考えながら、ピットへと戻るのであった。

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 日本に向かう、日本行の飛行機に乗った俺はただただ窓の外を眺める。

 空港には沢山の人たちが俺を見送っており、大げさにも大弾幕が掲げられている。

 そして飛行機は発信し、空へと飛ぶのであった。

 

「………………………」

 

(帰ったら何するか…………。休む、と言っても暇を潰せることなんてないしな。やっぱり技を開発するべきだろうか………………)

 

「何故だ………………一夏……………」

 

「なんか言ったか、箒?」

 

「だから!何故だと言っているのだ!」

 

 いや、だから何がだと思った。

 主語と述語、あと目的語を入れてほしいのだが。

 

「なぜ大会のときお前は専用機を使わなかった!なぜ本気で戦わなかった!」

 

「俺が何しようと俺の勝手だろ?」

 

「ふざけるな!…………お前は、お前はあの時から変わってしまった!あの時、お前はなぜあのような行動をとった!なぜあんなに泣いていたのだ!」

 

 あの時、とはシロナが消えた日の事だろうか。

 箒の言葉に、俺は少しずつ思い出す。

 あの日から俺は、全てが変わってしまったのだと思う。

 

 

 シロナの死が、心に大きな穴をあけて俺は何日も部屋に閉じこもっていた。

 箒たちが無理やり引っ張り出そうとも、俺は部屋から出る事は無かった。

 部屋でやる事と言えば、ただシロナが残してくれた最後のメッセージと歌を何度も何度も再生させ、シロナが選んでくれたイヤホンで聴いていたことくらいだ。

 栄養すら取らなかったので、千冬姉が毎日食堂の食事を持ってきてくれた。

 

 

 そしてシロナのメッセージと歌を聴き続けていると、少し考えるようになった。

 シロナは俺に幸せになってほしいと望んでいた。強く生きてほしいと願っていた。

 その時の俺の状態は幸せでもなく、強く生きてすらいない弱者でしかなかった。だから俺はシロナの最後の約束を果たすために、幸せになる以外で強く生きていくことに決めた。

 幸せじゃなくていい。ただ、シロナとの約束を守るために。

 

 

 久しぶりに部屋から出ると、箒たちや他の学年の生徒達から心配されたが出来る限り最大の笑みを浮かべて大丈夫だと告げた。でも、頭の中には未だシロナが消える瞬間が映し出される。あの時、シロナは笑って消えていった。

 ………本当は消えたくなかったのに、それでも。

 

 

 だから俺は強くなる事を決意する。多少人に反感を買ったりするかもしれないけれど、それでも俺はシロナとの約束を果たすために強くなる。昨日の大会だって、ハンデを背負って技の開発と試し打ちする理由だけでなく他の強者と戦って強くなるヒントを掴むことも理由に含まれていたのだが、思ったよりも拍子抜けだったと心の隅で思ってしまったのは言うまでもない。

 実際千冬姉の方が、やりがいがあった。

 

 

 でも、だからと言って強くなる事を怠るわけにはいかない。

 シロナだって自分を輝かせるためなら、努力を惜しまなかったのだ。

 シロナに出来て、俺にできないはずがない。

 俺はこれから先も強くなり、俺の大切な全てのものを守ってみせる。

 

 

 でも、実際は難しいものだ、想いを貫くというものは。

 たった一つの想いを貫く、簡単に聞こえるが実際は難しい。

 現に俺はシロナを、守る事も救うことも出来なかったのだから。

 掛け替えのない人のために、俺は何も出来ないまま………ただ泣き叫んだだけだった。

 

「一夏、聞いているのか!」

 

「あぁ、聞いてるよ。それよりも俺は寝るよ。日本まで、結構時間が掛かるし」

 

「あ、おい、一夏!まだ私の話が終わって――――」

 

 俺はイヤホンを耳に引掛け、音楽プレイヤーを流す。

 勿論、流れ出す曲はシロナの演奏と歌声。

 一部シロナが歌っている曲のタイトルを聞いていなかったので、俺が自分で考えて名前を付けている。

 『やさしい両手』、『赤い涙』、『凛として咲く花の如く』などなど。

 そして、初めてシロナが最初に弾いて歌ってくれた―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『たった一つの想い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 一夏と箒が日本へと帰国し、空港には千冬が待っていた。

 大会優勝、2位おめでとうと賞賛の言葉を受ける二人に言うと、箒は千冬に困ったような表情で軽くお礼を言い、一夏は普段通りの反応で礼を告げる。

 そして3人は学園へと戻るのであった。

 

 

 学園までの道中、一夏は特に話すことなど思い浮かばなかったので千冬や箒から振られてくる話題に、音楽を聴きながらある程度を相槌する。

 一夏の態度に千冬は苦笑いを浮かべ、箒は不機嫌そうな表情になる。

 

 

 箒は兎も角、千冬は一夏の態度に特に何も言う事は無かった。

 最初のころ、一夏は何が原因であんな状態になっていたのかと優しく問い詰めたのだが、一夏からは何も聞き出せないままでいたのだ。

 

 

 しつこく追及した時、一夏があまりのしつこさに怒りを爆発させ自分の姉であるにもかかわず攻撃を加えてきた時、流石に千冬は動揺を隠せなかった。

 しかし、怒りはすぐに収まり悲しく掠れるような声で『一人にしてくれ』と言われた時、千冬は一夏を止めることなく、信じることにしたのだ。

 

 

 ただ一夏が少しでも元の状態に戻ってほしいと。

 そして一夏がいつも通りでないにしろ、調子を取り戻し部屋から出てきた時は安心していたのは言うまでもない。

 

「一夏。更識の奴が帰ったらお前に生徒会の座を譲ると言ってるが?」

 

「興味ないって前も言ったんだけどなぁ、楯無さん。俺なんかに譲るくらいなら、別の人に譲った方がいいですよ」

 

「はっはっは、確かに。放蕩者の性格で、抜けてるお前には似合わないな」

 

「放蕩者って……ヒデェなぁ」

 

「…………………」

 

「どうかしたか、箒?」

 

「……………なんでもない」

 

(見つめてたんだから、何か言いたい事でもあったんじゃないか?………あ、桜)

 

 一夏は遠くからだが、窓の外から見えるIS学園の桜の木に視線が映る。

 桜の木にはピンク色の綺麗な花が咲いており、遠めだが満開なのだろう。

 3月の初めなのに、速い満開である。

 そしてモノレールがIS学園に到着し、3人が校門まで付く頃にはIS学園の生徒達が出迎えてくれていた。

 

『織斑君!大会優勝おめでとう!』

 

「ほら、一夏。主役はお前だ」

 

「とっと………はははっ、ありがとう」

 

 優勝に興味がなかったにしろ、ここまでされては流石にお礼を言うしかない。

 手を降る女子生徒に手を降り返し、寮へと向かう。

 行列は歩いても歩いても続いており、下手をすれば寮まで続いているのではないのかと思ってしまうほどだった。

 

『一夏!!やったじゃない!』

 

『さすがですわ、一夏さん!』

 

『なかなかの戦いぶりだったぞ、嫁』

 

『逆に圧倒的過ぎて、思わず苦笑いしちゃったけどね』

 

「ははは…………ありがとう、みんな!」

 

 セシリア達に手を降り、一夏は寮へと進んでいく。

 歩いている途中、握手を求めたりサインを求めたり花束を差し出す生徒がいたりなどしていたので一夏は律儀にも生徒達の希望に答えてあげているせいか中々進まない。

 後ろに待機していた千冬が注意をして出来るだけ進みやすくするのだが、それでもなかなか進まない。

 そしてようやく、寮へとたどり着くのであった。

 

「さすがに寮の中にはいないか。まぁ、お蔭で無駄に叫ばずに済んだがな。さて、私は少し用事があるからな。織斑と篠ノ之はゆっくり休憩するなり好きな事をすればいい」

 

「書類の仕事とかですか?」

 

「いや、なに。来年新しく赴任する教師がいてな、今日学園を見学したいとのことで案内しないといけなくなったのだ。そういう訳だから、急がせてもらう」

 

 千冬は寮を出て、行ってしまった。

 残された箒と一夏は、千冬に言われたとおりに何をしようかと考えた。

 長時間飛行機に乗ったため、若干疲れているので部屋に戻ろうかと箒は考えていたところ一夏は再び寮の外へと出ようとする。

 

「おい、一夏。どこへ行くのだ」

 

「散歩だよ。ちょっと一人で学園中歩き回ってくる」

 

「そ、そうか……………そ、その、お前が良いなら一緒にでも―――――――」

 

 箒が何か言おうとしたときからすでに一夏は寮を出て行った。

 一夏がすでにいないと気づいた箒は、顔を真っ赤にし大声で一夏を罵倒するのであった。

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出来るだけ誰にも気づかれずに寮の裏手へと回り込んで俺は学園中を歩き回る。

 歩きながら談笑する相手もおらず、ただ俺はイヤホンから流れる曲を鼻歌で歌いながら歩くのであった。

 

(…………………一人は、寂しいな)

 

 いままでシロナが隣にいて、ずっと談笑していた。

 特訓だって、シロナが居てくれたから頑張れた。

 でも、もうシロナはいない。

 

「あれから数か月…………いつまで引きずってんだよ、俺は」

 

 もう、俺は約束の為だけに生きると決めた。

 シロナがいなくなっても生きていけるようになると決めた。

 たった一つの想いを、シロナとの約束を貫き通すために。

 

 

 

 

 

 

 

 だけど―――――――やっぱり心に嘘はつけない。

 

 

 

 

 

 

「シロナ………………」

 

 

 

 

 

 会いたいよ。

 

 

 

 

 

 話がしたいよ。

 

 

 

 

 

 抱きしめたいよ。

 

 

 

 

 なぁ、シロナ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………シロナ」

 

  ドンッ!!

 

「きゃっ」

 

「っと、すいません。怪我とかは――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、大丈夫よ。ごめんなさい、広いから思わず色々な物に目がいってしまってね。前を見ていなかったわ。貴方こそ怪我はない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ―――――――――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、本当に唐突だった。

 まるで神様の悪戯とも言えるほどの出来事。

 目の前にいる女性が、何よりも愛おしい人そのものと疑うくらいに似ている。

 

「ホント、ここって無駄に広いわよね。案内してくれる教師が来るはずなんだけど、遅いから私一人で突っ走って迷っちゃったわ。ほんと、どれだけ金をかけたのだがって―――――――貴方……………泣いているの?」

 

 あぁもう、本当に。

 こんなの、不意打ち過ぎるよ。

 俺は心配してくれる彼女を不安にさせない様に、いつも通り―――――前みたいに何事も無い様に言葉をもらす。

 

「だいじょ、ぶ……………その、桜の花びらが目に入ってしまって」

 

「そうなの。てっきりどこか踏んでしまったとか肘が脇腹に当たったのかと思ってたわ」

 

 俺の言葉に彼女は安堵し、笑みを浮かべる。

 あぁ、この笑顔が見たかった。

 この声が聴きたかった。

 このやり取りがしたかった。

 またあの時の様な刹那を………過ごしたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、俺は絶対に手放さない。

 

 

 

 

 

 今度は絶対に、君を失ったりはしない。

 

 

 

 

 

 例え君が俺を知らなくてもいい

 

 

 

 

 

 君という存在は、此処に居るのだから。

 

 

 

 

 

 だから……………今度こそ俺は―――――――――

 

 

 

 

 

「そういえば、自己紹介していないわね。私は来年この学園に赴任することになった――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ―――――――白鳥 白雫です。

 

  ―――――――君を守ってみせるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――― 愛しているよ、シロナ ―――――

 

 

 

 

 

 

 End

 

 

 


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