作戦が開始され、箒に掴まり福音の海域に向かう俺達。
箒に掴まって思ったのだが、改めて第4世代のスペックの凄さが分かった。
ものの数秒で数百メートル地点まで飛ぶ加速力とスピード。
これが第四世代なのかと驚くのもうなづける。
「見えたぞ、一夏!」
箒の言葉に、俺は前方を見つめる。
そこには銀色の全身装甲のISが飛んでいるのだ。
銀の福音。その名にふさわしい全身が銀色をしている。
そして頭から生えた一対の巨大な翼。
(広域射撃装備とスラスターを融合させた新型システムって聞いたけど……………)
いったいどこから射撃をするのか………。
もしかしてスラスター口からだろうか?
――――ともあれ、今はそれどころではない。
今はどうやって高速で移動する福音を仕留めるかである。
「加速するぞ!目標に接触するのは十秒後だ。一夏、集中しろ!」
「おうっ!」
スラスターと展開装甲の出力をさらに上げる箒。
その速度は凄まじく、高速で飛翔する福音との距離をぐんぐん縮めていく。
あと数秒……………4、3、2、1――――
「はぁああああああああ!!!」
福音目掛けて白雫を振りかぶる。
しかし福音は最高速度のままこちらに反転し、後退の姿となって身構えた。
当たらないと分かっていたので零落白夜を展開しなくてよかった。
無駄なエネルギーを使って勝てる相手ではないと俺は踏んでいるからな。
「はぁぁっ!」
回避されても、俺は臆せず福音に攻撃。
このまま攻撃する隙を与えないまま、一気に零落白夜でっ!
「敵機を確認。迎撃モード以降。≪銀の鐘≫、稼働開始」
「っ!」
俺は本能的に危険だと判断する。
オープンチャンネルから発せられた機械音は福音からのもの。
すると福音はぐりん、と身体を一回転させ白雫を弾き、俺から距離を取る。
(『織斑君、出来るだけ冷静になり、本能にしたがって戦いなさい。福音は広域射撃武装が備わってあるから、まずは様子見よ』)
(『了解!』)
白鳥さんのアドバイスに従い、俺は福音を追いかける。
本能的に福音を恐怖したのは言うまでもないが、逃げるわけにもいかない。
相手の攻撃の癖や武装を観察し、隙を見つけることが大事だ。
それにしても、福音の速度が速過ぎる。
それだけでなく、高出力の多方向推進装置を搭載して、よくあそこまで上手く操作できる。いや、暴走しているのだから機械が判断して動いているのか。
だとすれば操縦者の負担を関係なしに動いているに違いない。
「箒!」
「任せろ!」
そうなれば短期決戦だ!
福音は暴走しているので操縦者には無理な動きを再現されるはず。
出来れば短期決戦で決着を付けなければ、操縦者が死ぬ可能性だってある。
「くっ…………このっ!」
しかし、ひらりひらりと紙一重で回避されてしまう。
技を使いたいが、あそこまで速くて紙一重に避けられては当たらないだろうし、あの技の射程範囲は4,5メートルも満たない。
福音の速度をもってすれば、技が空振りに終わってしまう。
くそ、もっと射程距離のある技を考えるべきだった!
(『織斑君、前!』)
「っ!?」
白鳥さんの叫びに、俺はハッと福音に集中する。
福音は銀色の翼。スラスターであるそれの装甲の一部がまるで翼を広げる様に開く。
そしてその翼に―――――――――――砲口がついていた。
「くっ!」
次の瞬間、一斉に翼から光の弾丸が撃ちだされる。
弾丸は追尾する様に追いかけてくるが、俺は出来るだけ低空飛行で水飛沫をあげて弾丸を回避する。
間一髪で回避したが、光の弾丸は海に着弾すると巨大な水の柱を作り出す。
高エネルギー弾かよ。これが福音に搭載された広域射撃武装かっ!
(射撃精度は低いにしても、圧倒的なまでの連射速度と威力。…………当たれば間違いなく抉られる)
数と発射速度、そして威力まで付いていると分かるとゾッとする。
機密というだけあって、とんでもないISだ。
そろそろ零落白夜を使うべきだろうか?
(いや、まだだ。まだその瞬間(とき)じゃない!)
少しくらい時間が掛かっても構わない。
出来るだけ相手の隙を伺い、そこを斬り裂く。
焦っても勝てるものも勝てなくなるからな。
「一夏!私が動きを止める!」
「わかった!」
箒は福音に突撃し、斬撃と共に交互に繰り出す。
それだけでなく、展開装甲が開きそこから発生したエネルギーの刃が攻撃に合わせて自動で射出し、福音を狙う。
紅椿の機動力と展開装甲による自在の方向転換、急加速による攻撃にさすがの福音も防御せざる負えなくなっている。
「はぁああああああああ!」
箒が福音を相手にしている間、俺は自分の必殺の領域に入れるように近づく。
緊張のせいか、額には汗が流れている。
「La…………♪」
甲高いマシンボイス。その刹那、ウィングスラスターはその砲門を全て開いた。
その数36、しかも全方位に向けての一斉射撃である。
(『回避するわよ!』)
(『分かってます!』)
「やるなっ………!だが、押し切る!」
追尾する光の雨を紙一重で避ける。
追尾せいがなかったのが助かったが、あれだけの威力を秘めた弾丸が海面に着弾すると複数の水柱が出来上がる。
水柱を利用して近づけば――――――――――
「!」
しかし俺は一旦動きを止め、福音と箒がる真逆の方向へ飛ぶ。
「一夏!?」
(『織斑君!?』)
「うぉおおおおおおおおお!!」
残りの弾丸を俺は白雫で斬り裂いて行く。
くっ、思わず零落白夜を使ってしまったが仕方がないっ。
「何をしている!?せっかくのチャンスを――――――」
「船がいるんだ!海上は先生たちが封鎖しているはずなのに!!」
(『ちっ、密漁船ってわけね…………』)
白鳥さんが苦い声をもらす。
そう俺達の真下には船が浮いていた。
このままでは福音に狙われてしまうだろう。
しかし、だからと言って見殺しなんて出来るわけがない。
「馬鹿者!犯罪者などをかばって………。そんな奴らは――――――」
「箒!!」
「っ―――――!?」
「箒、そんな――――――そんな寂しい事は言うな。言うなよ。力を手にしたら、弱い奴のことが見えなくなるなんて………どうしたんだよ、箒。らしくない。全然らしくないぜ!」
「わ、私は……………」
明らかに動揺をその顔に浮かべ、隠すかのように手で覆う。
その時に落とした刀が空中で光の粒子へと消えたのを見て、俺はぎくりとした。
しかし、俺の言葉よりも早く、白鳥さんが反応するのであった。
(『今すぐポニーを突き飛ばしなさい!射線上よ!!』)
(『っ!?』)
福音は砲口を箒に向けており、そして36砲口から光の弾丸を放つ。
咄嗟に俺は瞬時加速で箒の元へと向かうのである。
あの光の弾丸を全て受けてしまえば、いくら第四世代と言えども操縦者を殺してしまいかねない。
「間に合ええええええええええええええ!」
俺は白式のスラスターに全エネルギーを注ぎ、加速させる。
その瞬間、俺のシールドエネルギーが0となったのは気づかなかった。
もうすぐそこに光の弾丸が押し寄せてくる。
俺は腕を力いっぱい伸ばし、箒を力強く突き飛ばした。
「のあっ!?」
突き飛ばされた箒はそのまま遠くに飛んでいく。
そして福音から放たれた光の弾丸は――――――――俺を飲み込んだ。
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一夏に吹き飛ばされた箒は、海に落ちていく一夏を茫然と見ていた。
何が起こったのか理解に追いつかず、そして数秒後、理解に追いついた。
「い、一夏………一夏ぁああああああああ!!」
目には涙を浮かべ、一夏の名前を叫んだ。
ハイパーセンサーの情報から、一夏は深海にまで落ちていった。
助けに行きたいのだが、深海に潜るとなると息が続かなくなりし水圧だってある。
何も出来ない箒はしどろもどろするのであった。
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冷たい。まるで、水の中にいるようだ。
目を開けると、真っ黒な世界が視界いっぱいに広がっている。
真っ黒な世界の遥か向こう側を見ても、光すら差し込まない。
(ここは………………どこだ………………俺はなんで、ここに…………)
地獄だろうか?
さっきまで福音を戦っていたはず。
確か箒が動揺して動けなかったのを助けようとしたとき―――――――
『おとうさん、おかあさん!』
すると真っ暗な世界に幼い声が聞こえた。
辺りを見回し確認すると背後に女の子が立っていた。
俺は態勢を変え、女の子の方へと向き直する。
目の前にいる女の子はニコニコした表情をしてこちらに手を降っている。
この子、誰かに似てるような。
などと思っていると、女の子が俺の方へと小走りで近寄ってきた。
「君は――――――」
『おとうさん、おかあさん!』
「っ―――――――――」
女の子は俺の身体をすり抜けていった。
そして振り返ってみると、そこには少女の父親らしき人が少女を抱きかかえている。
母親は優しく少女の頭を撫でている。
そして母親の口から、有り得ない言葉が出る。
『どうしたの、白雫?』
「え?」
思わず、耳を疑った。
シロナって、白鳥さんの名前。
確かに何処となく白鳥さんに似ているけど。
『きょうはね、いっぱいお友達と遊んで楽しかった!100点を取ったら先生に褒めてもらえたの!』
『そうなの。良かったわね白雫♪』
『はっはっは、テストで100点を取ったのか!流石私の娘だな!』
『えへへへっ』
どこにでもある、一般的な家族の風景だ。
両親が子供を褒めて、子供は両親に褒められて喜ぶ光景。
白鳥さんの子供時代って、あんなんだったんだな。
なんだか和んでしまう。
地獄かと思ったが、案外天国だったかもしれない。
白鳥さんの子供時代が可愛らしくて、思わず和むほどに。
しかし、そんな思いは束の間だった―――――――――――
『先生に褒められたからって調子に乗らないでくれる?』
『白鳥菌だぁあ~!逃げろ~!』
『先生!白鳥さんが○○ちゃんをいじめてました~!』
さっきの光景とは打って変わって、酷い光景だった。
同い年の子達が、白鳥さんを寄って集ってイジメている。
白鳥さんに責任を擦り付け、白鳥さんを人気のない場所に連れ込んで暴力を振り、白鳥さんの机の上に菊の花を添えた花瓶を置いたり私物をゴミ箱に捨てたり。
『ひっぐ……………どうして……………どうしてなの?』
白鳥さんは、誰にも相談することなく一人で泣いていた。
信頼していた友人たちから裏切られ、イジメられているとバラされない様に脅されてしまい両親にも相談できないまま、白鳥さんは一人で泣いていた。
イジメられる理由は単純に白鳥さんに秀でた才能と容姿があったことなのだ。
正直、胸糞悪くなる光景のあまり、俺の手から血が流れ出す。
しかし、これよりももっと酷い光景を目にした。
それは小学校を卒業し、中学生になってからである。
中学生になっても、白鳥さんの現状は変らなかった。
小学校の時の苛めっ子と同じクラスのままで、イジメの対象にされたままだった。
他の地区から来た者もいるが、誰も白鳥さんを庇おうともしなかった。
イジメさらに大きくなり、ついには上級生までもが白鳥さんを標的にし始めた。
『いやっ!離してよ!!』
『ふひひひひっ、本当に犯してもいいんだよな?』
『えぇ、別に構わないわ。ぞんぶんにやりなさい』
『ラッキー♪顔はかなり好みだし、それにこの胸』
『ひっ!?』
「っ~~~~~」
壁があったら、間違いなく俺は拳を叩きつけているだろう。
白鳥さんは上級生に無理やり押さえつけられ、犯されかけている。
先生が通りかかったお蔭で犯されずに済んだが、教師も教師だった。
イジメられている事を相談してほしい事を建前にして白鳥さんを犯そうとする。
思わず殴って逃れたが、次の日は教師に暴力を振ったと職員室で言われ停学処分を受ける。両親は中学に入って事故で亡くなり、白鳥さんの心の拠り所はどこにもなかった。
もう、俺は見ていられなかった。
なんで白鳥さんが、こんな酷い事をされなきゃいけないんだよ!
なんで白鳥さんが、こんな目に合わなきゃいけないだよ!
『…………………』
そして白鳥さんの心はいつの間にか壊れていき、家に閉じこもるようになった。
生きる気力など、もう白鳥さんには無かった。
風呂にも入らず食べ物も口にすることのないまま、ただただ自分の存在意義を考える日常が何日も、何か月も過ぎた。
しかし、ある日の事である。
白鳥さんは、自分の存在意義を考えているときにある結論に辿り着いた。
弱いからイジメられる。弱者だから虐げられる。
力を持たないから、強者に従わなければならない。
ならば、強くなればいいのだ。
圧倒的で、相手を完璧に廃人に出来る力を手に入れればいいのだ。
『あははははははははははっ!!!なんだぁ!簡単なことだったわけかぁ!』
狂ったように笑う白鳥さん。
別人の様に高笑いし、そして行動を開始した。
話術と頭脳を駆使して、地区以外で県内や県外からありとあらゆる人物と関わり合い、人脈を作り出す。
それだけでなく、ありとあらゆる武術家に武術の教えを乞い、習っていた武術の師範までも容易に倒せる力を手に入れ、拠り所であった家族の写真や贈り物、そして優しかった心までも捨てて、自ら先の見えない真っ暗な道………修羅道を歩き出した。
後に、白鳥さんの通っていた中学校は生徒の約半分以上の生徒がノイローゼやストレスによる自殺などが原因とされ、廃校になっていた。生徒だけでなく、白鳥さんを犯そうとしていた教師は結婚していた妻と離婚し、身投げして自殺した。
原因は不明のまま終わったらしい、全て白鳥さんにより情報操作や秘密を暴露された事が原因なのは未だ自殺した生徒たちや教師たち以外誰も知らないまま。
廃校になったので白鳥さんはそのまま母親の実家へと移り住み、実家の中学校に通うようになった。幸い実家の中学校はイジメを行うような陰湿な生徒がおらず、良識のある教師がいたお蔭で平穏無事に中学を卒業することが出来た。
歳を重ねるごとに、白鳥さんの考えが大人っぽくなってきたのか、高校では普通に生活していた。多少高圧的で、見下す態度だったがそこが良いという生徒もいたので、イジメは極力少なかった。
例えいじめを行ったとしても、隠密かつ迅速に白鳥さん単体で処理していたので、白鳥さんにとっては子供の悪戯程度のものでしかなかった。
次の瞬間、辺り一面に映し出された白鳥さんの過去の光景が消えてしまい、真っ暗な世界に戻ってしまった。
しかし、さっきまでいなかったはずの白鳥さんが、目の前に立っている。
「………白鳥さん」
「幻滅したでしょ?」
「そんなこと……………」
「あの中学の時の私は、誰がどうなろうと知った事じゃなかった。泣いて許しを懇願しても相手の人生を破滅に追い込むことに楽しさを覚えていた。何せ自殺した奴を見たとき、女とは思えないほど高笑いしてたのよ?」
そう言って困った様に笑う白鳥さん。
でも、それは仕方のない事だったと俺は思う。
中学まで苛められて、両親を失い、相談する人も居なくなって追い詰められれば俺だってそうなっているに違いない。
あんな環境を精神が病まないまま気合いで乗り超えるなんて無理だ。
「高校生や大学生になって、少しは考えを改めてたけどまた中学の時みたいにならない様に自分が格上の存在、雲の上の存在だと知らしめるために高飛車な態度を取ってた。でもまぁ、それで同じ学校の男達に喜ばれることもあったんだけどね」
それは初耳だ。
出来ればその野郎共をぶっ殺、ではなく殴り飛ばしたい。
「お蔭で一部の女どもから嫉まれるようになってたけど、その反面に私を慕う女もいたわ。一部じゃお姉さまとか、女王様とか言われてたもの」
「はは、なんとなく想像付きます」
「私にとっては笑いごとじゃないわよ」
ジト目で見つめてくる白鳥さん。そっか、お姉さまに女王様か。
白鳥さんのあの性格だから、そう呼ばれるのは仕方がないかもな。
などと思っていると白鳥さんは悲しそうな顔になり、俯く。
「でも結局……………私は誰一人信用としなかった。慕ってくれた生徒や、教師、母の実家の祖母と祖父ですらも…………………」
「…………………」
白鳥さんは、ずっと孤独の道を歩み続けていた。
どれだけ好かれようと慕われようともそれでもなお、彼女は孤独の道から外れようともしなかった。もう踏み出した道から足を止める事も道筋を変える事もしないまま、彼女は自分の決めた道を歩き続けてきた。
どれだけの人に恨まれ、嫌われようとも自分を守るために。
あれ?そうなるとなんで白鳥さんは結婚したんだっけ?
確か、気の迷いだとか言ってたような気がするんだが。
「それと織斑君。貴方、なんであんな無茶をするのよ」
「む、無茶ですか?」
「いくらポニーを庇おうとしたからって、寿命を縮める様な事をして」
「でも、そのお蔭で箒は無事だったんですから」
「自分の命を大切にしなさい」
「いてっ」
腹に拳を入れられた。
痛いのは殴られたからもあるが、正論を言われたからもある。
やっぱり白鳥さん、怒ってるなぁ。
などと思っていたら、急に白鳥さんが俺を抱きしめた。
「でも……そうやって誰かれ構わず守ろうとするところが、貴方の美点の一つでもあるわ」
「あ、ありがとうございます」
「でも、自分の命より優先する所は目に余るわね」
「うぐっ」
そう言われましても。
確かに、俺はそういう行動をとる事があるだろう。
しかし、そうでもしないと守れない者だってある。
自分の全てを使って守らなければ、本当に全てを守る事なんて出来ない。
「織斑君、三つほど約束してほしいことがあるの」
「何を、ですか?」
「一つは私の様にならないこと。私みたいな性格じゃ、周りに敵を作るだけよ」
「はぁ…………」
「そして二つ目は自分の命を大切にすること。これは言われなくても分かるわね?」
「はい。それで、三つめは」
「………………………………」
「白鳥さん?」
急に白鳥さんは顔を俺の胸に埋めて黙ってしまう。
そして数秒後、白鳥さんは顔を見せぬまま言葉を放つ。
「貴方の事を名前で呼ぶから、私の事は………名前で呼んで」
――――――――――――。
それは、意外な約束だった。
今迄名前を呼ぶことを許さなかった白鳥さんの口から、そんな言葉が出たのだ。
白鳥さんは未だ顔をあげず、顔を俺の胸に押し付けている。
照れているのだろうか分からないので、どう判断していいか迷ったが。
「分かりました、シロナさん」
「さんは余計」
「え、えっと……………シロナ」
「呼び方がカタカナっぽい」
「いや、漢字は知りませんから。どんな字なんですか?」
「…………………白い雫(しずく)と書いて、白雫よ」
「それって―――――――――」
白式の武器、白雫と同じ名前だ。
これは何かの偶然なのか、それとも必然なのか。
でも、なんとなく納得できるような気がした。
白雫を見たとき、なんだか雰囲気的なものがシロナと同じ感じがしたのだ。
あれは彼女の現身とも言える武器なのかもしれない。
などと思っていると、何やら俺の腕輪、待機状態の白式とシロナのネックレスが輝きだした。
「っ、これは」
眩しさに手で目を覆い隠し、輝きが消えるのを待つ。
何やら体に違和感を感じたが、俺は輝きが治まるまで手で目を覆っていた。
そして光が止み、俺は手を退かす。
すると俺の手にはいつの間にかISの腕になっている。
よく見ると俺は白式を纏っていた。
「あれ?若干形状が………………」
「二次移行(セカンドシフト)したのね」
「セカンド、シフト?………………これが」
稼働した時間と戦闘経験で蓄積されることでISコアや機体その物との同調が高まり、単一仕様能力を発現する第二形態だったかな。
白式が単一使用能力を一次移行で使えるのは例外だけど。
すると何やら白式がウィンドを開き、機体の情報を詳細に映し出す。
「『白鵠(びゃっこう)』……………」
色々と詳細に特殊武装と能力が書かれてあり、色々と思う事があるのだが、俺はシロナの方を見つめるが、シロナはいつの間にか俺から離れていた。
「生きて、一夏君。貴方を待っている人がいるわ」
………………待っている人。
箒やセシリア、鈴やシャルにラウラ。
山田先生や千冬姉に、クラスのみんなが、待っている。
そして、勿論シロナも―――――――――――――
「行こう、シロナ。……………生きて、帰ろう」
俺の言葉に白鳥さんは笑った。
その笑顔はとても心に残る、最高の笑顔。
するとどうだろうか、暗かった世界が明るくなり、空から光がさし込んでくる。
俺はその光が差し込んでくる光の方へと視線を向けて、飛び立ったのであった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
これでいい
もうこれで、私のすべき役目は終わった。
やるべき事を終えたから、もう悔い等ない。
彼にはまだまだ可能性が存在する。
その可能性を閉ざさないためにも、彼には強く生きてほしい。
ホント、嫌な女よね私は。
いつになっても、変わらないままだわ。
………………………
……………………
…………………
………………
……………
…………
――――――――さよなら、一夏君。