鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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「ようやく集まったか。―――おい、遅刻者。ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

 

「は、はい!」

 

 合宿二日目。

 今日は午前中から夜まで丸一日を使ってISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。特に、専用機持ちは大量の装備があるので大変だと思い、隣でラウラがISのコア・ネットワークの事を説明している最中俺は欠伸を嚙み殺す。

 昨日は速く寝たつもりなんだが、あまり良く眠れなかった。

 

(『眠そうだけど、大丈夫?』)

 

(『まぁ、一応昼までは大丈夫だと思います。昨日は少し眠れませんでしたから』)

 

(『そう。昼くらい休み時間があるだろうから、その時に昼寝をするといいわ織斑君』)

 

(『そうします』)

 

 昨日の一件の事で、眠れなかったんだけどね。

 しかし、やっぱり今日の呼び方も『織斑』なのか。

 露天風呂で一緒だった時までは、名前で呼んでくれたのに風呂から上がると今まで通り苗字で呼ばれるようになった。

 

(……………呼びたくなったから、か…………)

 

 あの時の白鳥さんの表情は儚かった。

 笑っているのに、何故か白鳥さんは表面だけを取り繕っていた。

 白鳥さんは、何かを隠している………………。

 それが何なのか、俺でも分からないけれど。

 

 

「ちーちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっ!!」

 

 

 すると何やら砂煙をあげてこちらに人影が近づいて来る。

 人間とは思えない速度だったので、ISっぽい何かを付けているからだと思うだろうが、生憎その人影はエプロンドレスしか着ていない。

 そしてその人こそ、ISの制作者である篠ノ之束さんである。

 束さんは千冬姉の前に来て、ハイテンションで話しかけている。

 

(『科学者と芸術家は変人って聞くけど、その通りのようね。ポニーの姉だから、そこの所はどうなの?』)

 

(『まぁ、否定できませんね。でも、悪い人でないのは確かですけど』)

 

(『私の目には、とてもそうは見えないけどね』)

 

 他人から見れば、そうだろう。

 束さんは他人には無関心だし、身内だけしか反応しないからな。

 

(『っと、それよりもなんで束さんが来たんでしょうか?専用機持ちじゃない箒も一緒にいるし………………』)

 

(『まぁ、簡単に想像できるわよ。ほら、上を見なさい』)

 

(『上?』)

 

 白鳥さんが空に指を指し、俺は後を追う様に視線を空に向ける。

 視線を向けた瞬間、何やら空から黒い物体が落ちてきた。

 

  ズゥウウウウウウンッ!!

 

「うおっと」

 

 激しい衝撃と、砂煙が舞い俺はあまりにも唐突の出来事だったので後方へと縮地で下がり距離を取る。そして空から飛来してきた物体は黒ではなく銀色をしており、それは次の瞬間正面らしき壁が開いて、その中身を俺達に見せる。

 

「じゃじゃーんっ!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製のISだよ!」

 

(『あれが箒の、専用機…………』)

 

 真紅の装甲に身を包んだその機体は束さんの言葉に応える様に動作アームによって外に出てくる。新品のISだからだろうか、太陽の光を反射する赤い装甲がとても眩しい。

 って、いま全スペックを上回るとか言ってなかったか?

 そうなると、最新鋭機にして最高のスペックということじゃないか。

 

(『やっぱりね。妹であるポニーの専用機を渡すため以外に態々来るわけないもの。なんて言ったって最優先保護対象であり、捕獲対象だもの』)

 

(『それよりも、箒の専用機ですよ。束さんの口から、全スペックが今作られているISよりも上回ると言いました…………』)

 

(『そうね。製作者本人が作ったものだし、それも妹の為だけに作れたのだから当たり前よね。さすがにこれは、生徒の不満の声が上がるでしょうね』)

 

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの?身内ってだけで」

 

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

 などと言っている矢先に、生徒から不満の声があがった。

 確かに、白鳥さんの言う通り身内贔屓に不満を抱く者もいるようである。しかし、生憎と束さんは他人なんかに興味なんてないだろうし、そもそも眼中にないだろう。

 

(『まぁ、羨ましいと言って専用機を貰ってもデメリットもあるのよね』)

 

(『と言いますと?』)

 

(『専用機を受け取ると言う事は、データ収集や此れからの期待を込めているという意味も含まれるけど、もしもの時に起こった参事にいち早く始末に駆り出されるのよ。それ相応の実力を備わっていなきゃ直ぐに剥奪されるし、無理やり収容所の様な場所に連れていかれて使えるようになるまで私生活などに規制を掛けられて鍛え続けられるわ』)

 

(『それは……………確かに大きなデメリットですね』)

 

 なら俺が専用機を受け取ったのは、男だからとかデータ収集だとかだけでなく白鳥さんの言うような事も含まれているのだろう。

 参事、いわばISを使わなければならないような大事にいち早く駆り出され、相応の実力が無ければ強制的に訓練されるか専用機をはく奪される。

 

(『白鳥さんの訓練を受けて本当に良かったって何度も実感します』)

 

(『ふふっ、感謝しなさい。私が居なかったら、間違いなく私生活に規制を掛けられた強制的な訓練漬けの日々にされていたと思うわよ』)

 

(『ホントですよ』)

 

 私生活に規制って、白鳥さんとデートが出来なくなるなんて死んだも同然だ。

 絶対に訓練中に発狂しかねない。

 そういえば、昨日の夜素振りをして思ったんだけど、技名を考えてるんだよな。

 白鳥さんに見せたあの時の技なんだけど、名前を付けようと考えている。

 あれだけ褒めてもらえたんだから、技名くらい付けたほうがいいかなって思ったんだよな。でも、今の所しっくりくるような技名が思いつかない。

 

 

 速さを追及しているから『瞬刃』とか、『疾風(はやて)』とか考えたんだけど、しっくりこないんだよな。

 まぁ、技名の事は臨海学校が終わってからでも考えられるからいいけどさ。

 

「いっくん!」

 

「ふぁい!?……………えっと、なんでしょうか束さん?」

 

「もう。さっきから呼んでたのに上の空だったぞ?」

 

「すいません。ただ、少し……………」

 

 呼ばれていたとは気づきもしなかった。

 まぁ、それはいつもの事だから仕方ない。何せ白鳥さんと会話したり、白鳥さんの事を考えていると基本的に上の空状態だからな。

 

「あ、もしかして箒ちゃんに見惚れてた?例えばオッパイとか。いやんっ、いっくんのスケベ♪」

 

「「「「「っ………………」」」」」

 

「いえ、それは絶対にないです」

 

 キッパリと断言する。

 確かに箒の事を見ていたが、あくまで箒が纏うISであり、そのISの事について白鳥さんと議論していたのだから、見惚れてすらいない。

 てか、なんで箒は俺をにらんでるんだ?それに皆は何やら箒に同情する視線を向けてるようだけど。

 

「ま、真顔で断言するとは………………とりあえず、白式を見せてほしいんだけど?」

 

「あ、はい。――――こい、白式」

 

「それじゃあ、データを見せてね!」

 

 束さんはそう言って白式の装甲にぶすりとコードを差し込む。

 すると束さんはピアノの鍵盤を叩きようにキーボードを操作し、ディスプレイを眺める。

 というか、前にもこういう事があった気がする。

 確か、千冬姉に白式を見せてほしいと言われてコードを繋がれた時だったな。

 白鳥さんの事がバレるのではと焦ったりしたが、何事も無かったのが幸いだった。

 

「ん~~~……………不思議なフラグメントマップを構築してるね。なんでだろ?見たことないパターン。いっくんが男の子だから?」

 

 フラグメントマップは確か、各ISがパーソナライズによって独自に発展していくその道筋だったような。

 人間でいう遺伝子とか伝達神経だろうか?

 

「ねぇ、いっくん。聞きたい事があるんだけど」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「白式に、何か収納してない?」

 

  ―――――――――。

 

「いえ、何も収納していないです。何かあったんですか?」

 

「いや、うん…………白式に使われていない金属、あと鉱物もかな?その二つがあるの。取り出そうにも、取り出せないんだけど」

 

 それはきっと白鳥さんにプレゼントしたネックレスだろう。

 取り出そうと言った時は少し焦ったが、取り出せないと聞いて少し安心した。

 どうやら白鳥さんが身に付けていると、取り出せないらしい。

 というよりも、白鳥さんの意思で取り出せない様にされているのだろう。

 

「ま、解体してみれば分かる事かな♪」

 

「やめてください」

 

「にゃははは、冗談冗談」

 

 冗談でも性質が悪い。

 もし解体されたら、白鳥さんが消えてしまうんじゃないかと不安になる。

 白式である白鳥さんだが普通に距離関係なく遠くまで行けるのは知っているが、それでも不安なのだ。

 束さんは箒の方へと向かっていくのを見て、俺はそう思った。

 そして何やら箒の専用機、紅椿の試運転を行うらしく箒は空に舞う。

 

(『どんなスペックなんでしょうね』)

 

(『さぁ?いま存在するISの中では上だと公言するくらいだから、三世代以上じゃない?』)

 

 なら、第四世代と言えばいいだろうか。

 そうなると、世界がまた一段と騒がしくなるかもしれない。

 などと思いながら、俺は空に浮いている箒を見つめる。

 束さんの指示で箒は刀を空に向けて突きを放つと、赤いレーザーがいくつもの球体となり、放たれる。

 空に浮かんでいた雲は勿論穴だらけになっていた。

 

「じゃあ次はこれに行ってみよう!」

 

 そして束さんはいきなり十六連装ミサイルポットを呼び出し、瞬時に箒に向けて一斉射出する。箒は刀、空裂を脇下に構えて一回転する様に振るうと、再び赤いレーザーが帯状に広がり、ミサイルを撃破する。

 

(『世界一のISだけあって凄いスペックですね。剣が飛び道具になるなんて』)

 

(『そうね。下手をすれば軍用ISにでもなるんじゃないかしら。そのうちポニーが軍事利用されかねないわね』)

 

(『三世代を超えるスペックですからね。でも、学園にいる間は誰も干渉できないですし、手を出そうとしても束さんがいるんですから手は出せないでしょ』)

 

(『……………今は、そうなんでしょうね』)

 

(『え?』)

 

 白鳥さんが小さく何かを呟いたが、直ぐに何でもないと言って誤魔化した。

 何を言ったのだろうと思い、追求しようとしたその時だった。

 

「全員注目!!」

 

 千冬姉の指示があったので、聴くことは出来なかった。

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 臨海学校2日目に、緊急事態が起きた。

 なにやらハワイ沖で試験稼働を行っていたアメリカのIS、銀の福音が暴走し、こちらに向かってくると判明したとのこと。原因は不明であるとのことである。

 なぜ暴走したのか気がかりだったが、兎も角暴走した福音を止める任務を課せられた。

 そしてその任務を実行する人物は―――――――――織斑とポニーである。

 

 

 なぜ代表候補でなく、二人が抜擢されたのかは明確な理由がある。

 それはまず、二人のISには零落白夜が備わっているからだ。

 シールドエネルギーをほぼ一撃で0にする能力があれば、福音の暴走を止めることが出来る。しかし、織斑は兎も角なぜポニーのISに零落白夜が詰まれてあるのかという疑問だが、製作者の姉が詰め込んだとのことである。

 

 

 それも全身零落白夜と来たものだ。全身凶器である。

 そして予想通り、ポニーのISは第四世代であったのは言うまでもない。

 でも、白式も第四世代に近いって聞いたときはビックリでしたけども。

 話を戻すが、前述のとおり零落白夜を搭載されてあるISを持つ二人が選ばれた理由である。

 

「じゃあ、箒。よろしく頼む」

 

「本来なら、女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」

 

 機嫌よさげに言うポニー。

 どこか浮ついており、これから死地に行くかもしれないと言うのに妙にご機嫌だ。

 この女は本当に大丈夫なのかと、私は内心そう思った。

 

「それにしても、たまたま私たちがいたことが幸いしたな。私と一夏が力を合わせれば、出来ないことなどない。そうだろ?」

 

「………まぁ、うん。そうだな。でも箒、先生たちも言ってたけど訓練じゃないんだ。実戦では何が起こるかわからない。十分に注意をして――――――」

 

「無論分かっているさ。ふふ、どうした?怖いのか?」

 

「そうじゃなくて…………………」

 

「ははっ、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいいさ」

 

(『…………白鳥さん。箒、完全に浮ついてますね』)

 

(『作戦開始後は自分が出来る最低限のフォローしてあげなさい。私も出来るだけ貴方をサポートするから』)

 

(『ありがとうございます』)

 

 しかし、本当にこの女は見ていて腹が立つわね。

 今回の作戦は正直危険極まりないのに、この女は。

 いくら福音が第三世代と言えども軍用ISなのだ。

 少なくとも広域殲滅武装くらいは詰まれているに違いないだろうし、スペックは少なくとも全世界の第三世代の上を行くだろう。

 

 

 なのに、この女は新しい玩具(がんぐ)を手に入れた子供の様に笑っている。

 全くこの事態の重大さと危険さを理解していない。

 これならポニーではなく、代表候補であるドリル達を全員連れて来た方がマシだ。

 そんな浮ついた顔しているようでは、織斑に被害が及ぶかもしれない。

 

(『作戦開始指示が出ましたので、そろそろですね』)

 

(『そう…………………ねぇ、織斑君』)

 

(『はい、なんでしょうか?』)

 

 振り返ってこちらを見つめる織、いえ『一夏君』。

 私は一夏君に自分が思っている事を口に出そうとするのだが、口に出せない。

 言いたいのに、口が動かない。

 

 

 心が、私の心がせき止めようとするのだ。

 言ってはいけない。

 ここで言ってしまえば、作戦に支障をきたしてしまい彼が怪我をするに違いない。

 でも、いま言っておかないと―――――――

 

(『白鳥さん?』)

 

(『………………………………………しょうね』)

 

(『え?』)

 

(『…………ちゃんと生きて帰ってきましょうね』)

 

(『―――――――――はい。勿論ですよ。生きて帰りましょう』)

 

 一夏君はポニーに掴まり、私は白式に戻る。

 そして上空へ飛び、福音の元へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――――――――――これで、よかった

 

 

 

 

 

 

  ――――――――――――――これで本当に、よかった

 

 

 

 

 


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