鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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「はぁはぁはぁはぁ………………」

 

 太陽が昇り始めた空の下で、俺は荒れた息を整え始める。

 手にある木刀が酷く重く感じるのは、疲労のせいだろう。

 

「くそっ…………全然決まらねぇ」

 

 態々早起きしてきたのに、1時間も無駄な時間で費やしてしまった。

 白鳥さんに剣術を創った方がいいのではと言われて創り始めたのだが、全然うまくいかない。数日前からやり始めているのだが、いまだ技の一つも出来ていないのだ。

 本屋で剣術の本を買って読んだり、インターネットや動画を見て参考にしたりしているのだが、見れば見るほど行き詰ってしまう。

 逆に参考しようとすればするほど、何をしたらいいのか分からなくなってくるのだ。

 

(というか、どの剣術も俺が思っていたよりも遥かに凄すぎるんだよ)

 

 正直、自分で作るなんて無茶であると思い始めている。

 他の剣術を真似する事は出来たのだが、自分で作るのは難しい。

 何度も言うが、参考にしたりして作ろうとすると逆に創りにくいのだ。

 どんなに考えようとも、考えた剣術は実在する剣術であり作る意味がなくなる。

 

「すぅ…………はぁ………。――――――――――はぁっ!」

 

 このように、『縮地という移動法を使って間合いを詰めて、斬る』という単純な技しか使えない。

 白鳥さんはスピードを活かした剣術が俺に適していると言ってくれたが、正直この技しか思いつかない。

 

 

 因みにさっきの剣術は名前を付けていない。

 というか、付けるほどの技でも無いからな。

 技ってさ、もっとこう凄味のあるやつじゃないとしっくりこないんだよな。

 

「……………どうすればいいだろう」

 

 とりあえず地面に腰を下ろして、空を仰いだ。

 今日は晴天日和であり、夏の日差しが差し込んでくる。

 正直暑い。というか、なんでこのグラウンドって日影になる場所がないんだろう。

 小中学のグラウンドは隅に木は植えてあるんだからよ。

 せめて影が出来る場所を作ろうぜ。

 

(『あら、休憩中かしら?』)

 

(『あ、白鳥さん。今日は音楽室でしたっけ?終わったんですか?』)

 

(『えぇ。それよりも、貴方は少し悩んでいるようね。やっぱり難しかったかしら?』)

 

(『えぇ、まぁ………色々考えてるんですけど、やっぱり思い浮かばないんですよ』)

 

(『まぁ、剣術の開祖たちも若い頃に剣術を創ったわけじゃないのだけれどね。でも、始めてから数日は経っているんだから一つくらいは出来ているんじゃない?』)

 

(『まぁ、ある事にはあるんですけど…………剣術と言えるかどうか………』)

 

(『とりあえず見せてみなさい』)

 

(『え!?今ですか!?』)

 

(『あるんでしょ?なら見せなさい』)

 

(『そう言われましても………………』)

 

 縮地で間合いを詰めて斬るだけだから、単純すぎて剣術とは呼べない。

 しかし、白鳥さんは興味津々だし断って好感度を落としてしまうのは嫌だな。

 …………………まぁ、初めてなんだし見せてみるのもいいかもしれない。

 何か参考になる事を言ってくれるかもしれないだろう。

 

「分かりました。じゃあ、見ててください」

 

(『えぇ、見ててあげるわ』)

 

 

 

 

 

 俺は立ち上がり、木刀を手にして白鳥さんから距離を取る。

 木刀を握りしめ、目を瞑り意識を集中させる。

 初めて人に見せるから緊張するけど、出来るだけ緊張を押さえ意識を逸らす。

 

 

 意識を集中し始めた途端に周りの音が止んだ気がした。

 さっきまで鳴いていた鳥の鳴き声も、風の音も聞こえない。

 腰を少し落として居合の構えを取り、前足に全体重を掛ける。

 

 

 

 

 そして俺は目を見開き、全力で地面を蹴り――――――――――――

 

 

 

 

「はぁああああああっ!!!」

 

 全力で虚空を斬り上げた。

 少しカッコつけた様な態勢になっているが、白鳥さんの前だから仕方がない。

 唯でさえ単純な技なんだから、せめてカッコよくキメたい。

 

 

 

 

 

(『どうでした?』)

 

(『…………………………』)

 

 あれ?反応が無い?

 

(『白鳥さん?』)

 

(『え?…………あぁ、ごめんなさい。なんだったかしら?』)

 

(『いや、だから剣術ですよ。見せてほしいって言ってたじゃないですか。もしかして、見ていませんでしたか?』)

 

(『いえ、ちゃんと見てたわ。ただその…………思わず驚いちゃって。うん、凄く良かったわよ、織斑君。』)

 

(『本当ですか!?』)

 

 白鳥さんの口から凄く良かったと言われて思わず聞き返してしまった。

 単純な動きだったのに、ここまで褒めてくれるとは思ってもみなかった。

 あの辛口評価の白鳥さんから、凄く良かったかぁ…………。

 

(『数日でこんな技が出来るなんて思ってもみなかったわ』)

 

(『いや、単純に縮地で間合いを詰めて斬るだけなんですから、そんなに凄くないですって』)

 

(『いえ、私が見ても十分に凄い技だったわ。貴方は気づいていないようだけれど、貴方が振りかぶった木刀が見えない程だったし、それに縮地まで覚えるなんて。誰もが惜しみなく称賛するわよ』)

 

(『そ、そんなに褒められると照れじゃないですか…………』)

 

 まさかたったあれだけで此処まで白鳥さんに称賛されてしまうとは思ってもみなかったため、思わず照れてしまう。

 

(『差しづめいまの動きは疾風、もしくは雷のようだったわ』)

 

(『そんな大それた速さで動いてませんよ。本当なら、もう少し派手な技を考えたかったんですけど。ワン○ースとか、るろ○とか』)

 

 漫画やゲームみたいな派手な感じにしたかったんだけどなぁ。

 でも、現実はそこまで甘くないから出来るわけないし、ましてや架空の技が出来るなんて無茶ぶりだろう。

 

(『いや、私は確かに例えとして瞬天殺を挙げたけども…………まぁ、なんにせよ。これからも励み続ける事ね、織斑君』)

 

(『勿論です。………………あ、少しいいですか白鳥さん?』)

 

(『なにかしら?』)

 

(『もうすぐ臨海学校じゃないですか。もし暇があるんでしたら、一緒にショッピングモールに行きませんか?』)

 

 出来れば、行くと言ってほしい。

 別に水着を選んでほしいとか、白鳥さんに合った水着を選ぶとかではなくて単純にデートがしたいだけだであり、自分の水着は二の字である。

 それにデートもそうだが、今まで白鳥さんにこれと言った恩返しが出来ていないため何かプレゼントしたい。

 前回のあれ、もとい絶景は論外である。

 

(『暇と言えば暇ね。でも、だからと言って私と散歩しても楽しくないんじゃないかしら?』)

 

(『いえ、そんなことないですよ。白鳥さんとだったら、どこへ行っても楽しいです』)

 

(『………………はぁ。そういうセリフは、無意識で言っているのかしら?』)

 

(『? いえ、思ったことを言ったまでですけど?』)

 

 すると白鳥さんが小声で、『そこが無意識』なのよと言っている。

 はて、なんでそんなに呆れられているのだろうか俺は?

 

(『まぁ、そこまで言うなら行ってあげるわ。感謝しなさい』)

 

(『よっしゃああ!!なら、週末の日曜日って事でいいですよね!?』)

 

(『それでいいわ』)

 

 よしっ、今回も約束することが出来た!

 後は日曜に誰かに誘われても断る事さえ出来れば、完璧だな!

 デートするんだから、私服がいいだろうな断然。

 前の休みに買った服を着ていこうかな。

 

(『楽しみにしているところ悪いけど、そろそろ時間よ?食堂が込む前に早く部屋に戻って汗を流しなさい』)

 

(『っと、そうですね。じゃあ、戻りましょうか白鳥さん』)

 

(『言われるまでもないわよ』)

 

 今日は本当にいい日である。

 納得いかなかったけど、剣術を褒めてもらえたしデートの約束まですることが出来た。

 今日の俺の運勢はとてもいいんじゃないか?

 

 

 いや、待て。これはフラグだ。

 基本的に良い事が起こると絶対に悪い出来事が起こるんだよな。

 前に白鳥さんとデートの約束をした次の日に箒たちに訓練に付き合わされたからな。

 いやでも、今日くらい神様は見逃してくれるんじゃないだろうか?

 二度も良い事があったんだから、三度目も良い事がある。

 ほら、良く言うだろ?二度ある事は三度あるって。

 きっとこれからも良い事があるに違いない。

 

 

 俺の戦いは、これからだ!

 

 

 

 

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(『この世界に、神はいないっ!』)

 

(『急にどうしたのよ』)

 

 IS学園と街を繋ぐモノレールに乗っている織斑がぼやいた。

 織斑との約束で、私は織斑と散歩をするつもりだった。

 しかし、あくまで『だった』であり、織斑の周りにはポニー達がいる。

 そして織斑はというと疲れたような顔をしていた。

 

(『俺、思うんですよ…………絶対に神様って俺のこと嫌ってますよね』)

 

(『もし神様がいるとしたらそれはきっと女でしょうけどね。で、いつまでもそんなに疲れたような顔をしているのよ。ポニー達がいるんだから少しはシャンとしてなさい』)

 

(『だって、だって………………白鳥さんと行きたかったんですもん』)

 

 ボソッと最後に何をつぶやいたのか聞こえなかった。

 しっかしまた、この光景を見ると少し異常よね。

 織斑を取り囲むように座るポニーを見て思ったことだけど、傍から見ればハーレム。

 しかも実質全員が織斑に好意を持っているのだ。

 周りの男共が見れば絶対に織斑を殺しに来るかもしれない。

 当の本人はあまり喜んでいる様子ではないようだけれど。

 

「まったく、抜け駆けなどズルいですわシャルロットさん」

 

「全くだ。私が嫁を誘おうと思った矢先に誘うなど、許さん」

 

「いや、一夏はお前の嫁じゃないだろ」

 

「うぅぅ…………せっかく一夏との買い物が…………」

 

「一夏も一夏よ。買い物に行くんなら、誘ってくれてもいいじゃない」

 

「あぁ……………そうだな。悪い」

 

 もうどうにでもなれって感じの対応ね。

 モノレールが停車し、織斑たちはモノレールを降りてショッピングモールへと足を運ぶ。

 目的地は勿論水着売り場であろう。

 もうすぐ臨海学校だし、水着を選ぶに違いない。それに、織斑もいるんだから見繕ってもらいたいのだろう。全員の雰囲気を見れば分かることだ。

 

(一夏を悩殺できる水着!)

 

(一夏さんを射止めれる水着を!)

 

(出来るだけ一夏に見てもらえる水着かな)

 

(むぅ、どんな水着にしたら嫁は喜ぶだろうか)

 

(一夏………………)

 

 なんて感じだろう。

 しかし、彼女たちの後ろを歩く織斑は未だ表情はすぐれない。

 

(『ほら、何やっているのよ。何時までもそんな顔をするんじゃないの。そんなんじゃ周りの雰囲気を悪くするわよ?彼女達だって、貴方がそんな顔をするのを見たくないはずよ』) 

 

(『分かってますけど……………………』)

 

(『分かっているなら、直しなさい』)

 

(『……………分かりました』)

 

 口ではそう言ってるけど、直ってないわよ。

 はぁ、本当にこの男は世話が焼けるんだから。

 というか、どうしてここまでアプローチされているのにも関わらずポニー達の好意に気づかないのかしら?眼帯からキスをされて少しは変わるかと思ったのだけれど、全然気づいていないじゃない。

 もう神の領域どころか涅槃の領域よ此奴の鈍感さは。

 

(『? 白鳥さん?』)

 

(『ほら、行くわよ』)

 

(『いや行くって、そっちは箒たちとは別方向…………』)

 

(『つべこべ言わないのよ。この私が誘っているんだから、来なさい』)

 

(『っ………………はい!!』)

 

 嬉しそうな返事を返し、脚を動かす織斑。

 ホント、この男は………………。

 私は呆れ半分、苦笑い半分を浮かべ織斑の手を引くのであった。

 

 

 

 

 

 織斑の手を引いてポニー達とは別の方角へと来たのだがここのショッピングモールは良く知らない為、私は一旦立ち止まる。

 第一ここの、この世界のショッピングモールは規模が大きすぎる。

 下手したら迷ってしまうくらいだ。

 

(『思ったんですけど、箒たちに何も言わないで別れましたけど大丈夫なんですか?』)

 

(『メッセージを送っておいたから問題ないわよ』)

 

(『それなら問題ないですね。それで、これからどうします?白鳥さん、ショッピングモールに来るのって初めてですよね?』)

 

(『えぇ。どこに何があるのか知らないわ』)

 

(『じゃあ、俺が案内します。あ、寄るところがあるのでその後でいいですか?』)

 

(『構わないわ。元々貴方の買い物だもの』)

 

 とりあえず織斑の用事が先決ね。

 織斑の後を追いながら思ったのだけれど、男性店員が少ないわね。

 やっぱり女尊男卑の風潮だからかしら。

 テレビやネットの報道で見たのだけれど、男の退職率が女よりも上なのよね。

 それに最近の事件も男が起こすことが多々あるようだし。

 

 

 ホント、よくこんなんで成り立っているわよね。

 普通なら色々と傾くわよ?

 就職率や結婚率、そして子供の数とか私の世界よりも酷くなるわね。

 

 

 唯でさえ少子高齢化なのに、これ以上女が変なプライドを抱いたままだと滅ぶわ。

 まぁ、私が口出ししたところで変わりはしないんだけどね。

 などと思っていると、織斑が突然止まったので私は立ち止まる。

 

(『アクセサリーショップ?貴方、オシャレでもするの?』)

 

(『いえ、俺のじゃないですよ。白鳥さんのです』)

 

(『は?』)

 

 何を言ったのか分からなかったので思わず間の抜けた声をもらしてしまった。

 自分じゃなくて、私に?

 

(『……………お礼とかそういう理由じゃないわよね?』)

 

(『はい、お礼です』)

 

(『はぁ。前々から言うけれど、私はそうまでされる事はしていないわよ?』)

 

(『でも、俺にとってはそうまでされる事をされたんです。それに、別にお礼だけの目的じゃないです。これからも一緒にいる………その…………パートナーとしての意味を込めて……………』)

 

 …………はぁ、全く。

 どうしてこの男は本当に。

 『これからも一緒にいる、パートナーとして』か。

 そういうセリフは、好きな女に言ってやればどれだけ喜ぶだろうか。

 

(『ふふふっ、これからも一緒にいるパートナーって貴方ね』)

 

(『えっと、迷惑だったでしょうか?』)

 

(『ごめんなさい。別に迷惑とかじゃないの。ただ……貴方、変だと思っただけよ』)

 

(『変って、なんですかそれ。俺のセリフって変だったところありましたか?』)

 

 だとしたら酷いな、と言いながら笑う織斑。

 これを変だと思えないのがありない。

 さっきのセリフは、少なくともプロポーズと同じだ。

 まるで織斑が私を好いているみたいじゃない。

 ホント…………………笑えちゃうわ。

 

(『それで白鳥さん…………あの…………』)

 

(『どうせ断っても無駄なんでしょ?受け取らせてもらうわ』)

 

(『ありがとうございます!じゃあ、ちょっと待っててください!』)

 

 そう言って織斑は店の奥へと入って行った。

 やれやれ、本当に子供ね織斑は。

 いえ、高校生だから子供か。私は彼よりも遥かに年上なのに1歳年上の先輩みたいな反応するなんて馬鹿らしいわね。

 

 

(そういえば、もう半年か)

 

 なんだか時間が経つのが速かった気がする。

 やはり歳をとるせいか、時間が経つのが速く感じるのだろう。

 織斑と出会って、『もう』半年が過ぎたのね。

 織斑と出会った私は昔の私と比べてかなり変わった気がする。

 

 

 誰であろうと高圧的に接してきた私が、織斑相手に異常なまで接している。

 本当なら一週間もしないうちにどうでも良くなったり、話しかけたりしないのに何故かついついからかう様に話し込んでしまう。

 やっぱり私は――――――――――――――

 

(『白鳥さん、お待たせしました!って、どうしたんですか?』)

 

(『何でもないわよ。それで?お目当ての品は見つかったのかしら?』)

 

(『はい!とりあえず、人気のない場所に行きましょう』)

 

(『そうね。ここは人目が付くようだし、変に思われたくないものね』)

 

 そう言って私と織斑は人気のない場所へと移動する。

 人気のないと言っても、ここはショッピングモールなので人気のない場所がある方がおかしいだろう。あるとするなら個室トイレとビルの屋上くらいである。流石に個室トイレは雰囲気的に嫌だったのだろうか、織斑は私をビルの屋上へと案内した。

 

『貴方に私に似合うようなアクセサリーを選ぶセンスがあるとは思えないけど、見てあげるわ』

 

「はははは、お手柔らかにお願いします。……………これです」

 

 織斑は袋からケースを取り出し、ケースの蓋を開いて見せる。

 ケースには銀のチェーンで通された二つのリングが備えてあり、リングには小さな宝石が一つ生みこまれていた。

 

『って、これって結構したんじゃないの?本物よね、この宝石?』

 

「はい、二つとも本物です。いやぁ、高かったですよ本当に。数万もかかりましたけど、一番安いのがこれしかなくて」

 

『貴方、たかがお礼だけでそこまで出費しなくてもいいんじゃないの?』

 

「そういう訳にはいきません。白鳥さん、受け取ってください」

 

『ちょっと織斑君…………………』

 

「お願いします」

 

 頭まで下げられても困るわよ私は。

 よく見ると、二つのリングに埋め込まれている宝石の種類が違うし。

 

『ねぇ、織斑君。リングにはめ込まれてある宝石だけど…………』

 

「あぁ、それはですね。白い宝石がダイヤモンドで赤い宝石がルビーだと聞きました」

 

『』

 

「白鳥さん?」

 

『へっ!?あ、え、そ、その……なるほど、ダイヤとルビーね。よく分かったわ。うん、わかった………………』

 

「あの、やっぱり気に入らなかった『いえ、問題ないわ。全然、問題ないから』よかった!気に入ってもらえるか不安だったんですよ。因みに俺もそのネックレス、気に入ってるんです」

 

『そ、そうなの……………それは、良かったわ……………』

 

「とりあえず付けてみましょうよ。白式にネックレスを粒子変換して収納しますので」

 

 そう言って織斑はネックレスを粒子変換させ、白式に収納する。

 最近分かった事なのだがどうやら白式に物を収納すると、収納したモノは何故か霊体化して私が使える事が可能なのだ。

 しかし、それはあくまで小物やアクセサリー程度のものなので服や食べ物などは不可能だった。私は粒子変換されたネックレスを、手元に具現させる。やっぱり気が引けるわね。

 

『…………………どう、かしら?似合ってる?』

 

「似合ってますよ!とっても似合ってます!」

 

『そ、そう、ありがとう…………でも、流石に大金を使われると気が引けるわ。織斑君、何か私にしてほしい事、貴方が喜ぶような事してほしいとかないかしら?さすがに私でも、こういうものを貰ってしまうと逆に落ち着かないわ』

 

「え、えぇ、そう言われても…………………」

 

 まぁ、無理もないだろう。

 お礼のつもりでプレゼントを渡した相手から何かしてほしいと言われたら困ってしまうはずだ。彼は私を高く評価しているから、更に困ってしまっている。

 でも、流石に大金を払ってプレゼントされると私が困ってしまう。

 彼が喜びそうな事を一つ叶えてあげるくらいなら丁度いい等価交換だろう。

 ただし、肉体関係は却下である。あ、肉体はないんだったんだ私。

 

「あ、じゃあ一つだけいいですか?」

 

『決まったかしら?』

 

「はい。えっとですね――――――――――――――」

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

(『どっちがいいかしら……………』)

 

(『白鳥さんが『これだ!』と思う物でいいですよ』)

 

(『そんな曖昧な要求じゃ困るんだけど……………』)

 

 俺と白鳥さんは現在電気店にいる。

 屋上で白鳥さんは俺が喜んでほしい事をしてくれると言ったので、水着を買い終わった後に電気店に向かった。

 水着売り場に行ったときは箒たちに『どこに行ってた!』と理由もなく怒鳴られたのは言うまでもないけど。

 

 

 話を戻すが、俺が白鳥さんにしてほしいという奴だが俺はイヤホンを選んでほしいと頼んだ。なぜイヤホン?と誰もが思うけど、俺は白鳥さんの演奏と歌声を音楽プレイヤーに録音している。

 白鳥さんの歌を聴くと集中出来るし、夜は心地よく眠りに付くことができる。

 しかし、夜中にずっと音楽を掛けっぱなしもどうかと思うので、イヤホンを買う事にしたのだ。

 

 

 まぁ、本音を言わせればキスとかそういうのが欲しいと若干思ったりもしたが、流石にドン引きされかねないので踏みとどまり、イヤホンにしたんだけどね。

 

(『結局自分が払う訳じゃない。貴方、今日だけでどれくらい使ったのよ』)

 

(『ざっと7万くらいですかね。別に大丈夫ですよ。政府から月に数十万も振り込まれてるんですし、多少の出費は目を瞑ります』)

 

(『その金を少しは自分の為になるものに使いなさい……………とりあえず、これがいいかしら?耳に引掛けるタイプだかど、ワイヤレスで本体に差し込まなくていいし』)

 

(『じゃあそれにします』)

 

(『って、少しは悩んだりしないわけ?デザインとか、色とか…………』)

 

(『俺は白鳥さんに選んでほしかったんです。白鳥さんがこれと言うなら、俺はこれにしますよ。それに、白鳥さんのセンスを疑うつもりなんてないし』)

 

 白鳥さんが選んでくれた、黒の耳に引掛けるタイプのイヤホンを購入し店を出る。

 そう言えばもうすぐ昼になるし、そろそろ学園に戻った方が良いだろうか。

 店に入るにしても、流石に一人でファミレスとかに入るのは気が引けるし、だからと言って友人の親が経営している店まで行くには少し遠い。

 ここは学園に戻って、昼食を食堂で摂るとしよう。

 

 

 そして俺と白鳥さんはモノレールに乗り、学園に着くまで外を眺めていた。

 いやぁ、今日は本当に楽しかった。

 今度はどこに連れて行ってあげようかな。ショッピングモールを案内するのもいいけど、少し遠くまで行くのもいいかもしれない。

 

(『…………………楽しかったわ』)

 

(『え?』)

 

 急に白鳥さんが俺の隣に座り、そう呟いた。

 振り返ると白鳥さんは少し顔を俯かせていて、頬が赤くなっている。

 

(『今日は、楽しかったわ。誘ってくれてありがとね、織斑君』)

 

(『こ、こちらこそ。俺も、白鳥さんと一緒で楽しかったです………』)

 

(『ふふふっ。それは良かったわ』)

 

 なんだろう。今日の白鳥さんは少し様子が変だ。

 なんというかその…………………いつもみたいに俺をからかったりしない。

 今日の白鳥さんは何だか口調が柔らかいし、頬を染めて柔らかく笑うのは初めてだ。

思わず俺の胸の鼓動が速くなって、ドキドキしている。

 

(『ねぇ、織斑君。このリングに埋め込まれてある二つの宝石の意味、分かるかしら?』)

 

(『宝石の意味、ですか?花言葉みたいな感じですか?』)

 

(『そうね、そんな感じ』)

 

 う~~~~んっ……………………分からん。

 宝石に花言葉と同じで意味が込められているのを今日初めて知ったからな。

 結婚式で指環はダイヤって事くらいだし、後はファッションとかで自分を引き立てるために身に付けているのとばかり思っていたんだけど。

 あ、まさか――――――――――――――――――

 

(『もしかして、あの時みたいに不吉な意味でm―――――――――――』)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ!?」

 

『んっ………………』

 

 振り返った瞬間、ひんやりした柔らかい何かが俺の唇に触れた。

 その何かとは―――――――――――――白鳥さんの唇だった。

 それを知った途端に、頭が真っ白になってしまい、茫然としていた。

 そして白鳥さんは唇を離し、赤くなった顔で小さく微笑む。

 

『Ich liebe dich』

 

 白鳥さんは最後にそう言って、俺から距離を取るのであった。

 そして俺と白鳥さんは、学園に着いてからでも無言のままだった。

 俺は放心状態だったし、白鳥さんは無言のままで何も言ってくれなかった。

 

 

 

 

 

 次の朝、俺は大声で歓喜の叫びをあげたことは言うまでも無かった。

 

 

 

 


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