鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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(『織斑君。貴方って、決め手に欠けるわよね』)

 

(『はい?』)

 

 それは突然だった。

 朝のトレーニングを終わらせ、いつもより早く朝食を終えて教室に来た俺は白鳥さんにそう言われた。

 

(『決め手に欠けるって、それはどういう事なんです?』)

 

(『そうね。分かり易く言うなら、貴方に技というものがないと言いたいのよ』)

 

(『?? 技というと、零落白夜とか瞬時加速とか無反動旋回とかですよね?』)

 

(『それも技ね。でも、私が言いたいのは漫画やアニメでいう必殺技みたいなものよ。まぁ、零落白夜はそれに当てはまるのだけれどね』)

 

(『はぁ………で、決め手に欠けるって言ってましたけど白鳥さんから見た俺は技が少ないって言いたいんですか?』)

 

(『端的に言えばそうなるわね』)

 

 技、ねぇ。まぁ、確かに俺には技という技が少ない気がする。

 しかし、技と言っても瞬時加速や無反動旋回は攻撃系でもない。

 

(『昔剣道やっていたけど、何か覚えていないの?』)

 

(『もうずっと昔ですからね……………剣道の基本は覚えているし、箒の実家の剣術は基礎ばかり教わっていたので技という技は覚えていないです』)

 

(『そう………じゃあ、これを機に今月から覚えるのもいいんじゃないかしら?IS以外で、技もとい剣術は多い程、相手の虚をつくことだって出来るし、攻撃も更に当たり易くなると思うわよ?』)

 

(『そうですね…………』)

 

 白鳥さんの言う通り、確かに技を覚えるもありかもしれない。

 しかし、技と言われても千冬姉は絶対に『ひよっこは基礎からだ』とか言いそうだし、箒は……………………どうだろうか?

 今まで戦ってきたけど、技という技を見たことないよな。

 

(『となると、道場とかに通わなくちゃならないのでしょうかね』)

 

(『あら、そんなことしなくていいわよ?』)

 

(『え?どうしてです?』)

 

(『だって、貴方が剣術を作ればいいだけじゃない』)

 

(『えぇええ!?俺がですか!?』)

 

 白鳥さんの言葉に、思わず平然を保っていた表情を変えてしまうほどだった。

 俺が、剣術を作る。そんな事、簡単に出来るわけがない。

 剣術とは、剣を極めた者だけが作れるものなのだ。

 いまの俺はそんな技量も力も持っていないのに。

 

(『まぁ、確かにいきなりすぎるとは思うわよね。でも、これも貴方の成長過程に繋がると思わない?』)

 

(『成長過程、ですか?』)

 

(『貴方はドリルとの戦いの時に家族を、姉を守るって言ったわよね?そうなると、貴方は姉を超える力を手に入れないといけなくなる。何時までも基礎ばかり向上して強くれると思う?』)

 

(『それは…………………』)

 

 確かに、いつまでも基礎のままでは強くなれない。

 それに白鳥さんは昨日、もう自分に教える事も無いくらい成長したと言ってくれた。

 俺が自分で限界の壁を越えなくては、千冬姉を超えれるわけがない。

 そうなれば、基礎から次の段階にステップアップするべきだろう。

 

(『やってみましょう。俺、自分で剣術を作ろうと思います』)

 

(『ふふふ、頑張りなさい。私は情報を探し当てる事しか出来ないけども、応援する』)

 

 はぁ~~、白鳥さんの笑みはいつ見ても心が癒されるなぁ。

 っと、それよりも剣術の事だ。剣術を作るとは言ったものの、正直篠ノ之流以外での剣術は見たことない。

 まぁ、篠ノ之流も覚えてないんだけどな。

 

(『白鳥さん。剣術で有名な流派って、何かありましたか?』)

 

(『貴方、少なくとも剣道をやってたんだから少なくとも一つや二つくらい知っているのはないわけ?呆れたわ…………………』)

 

(『す、すいません…………』)

 

 くっ、呆れられてしまった。

 これも小学生時代にやめた俺の自業自得なのだろう。

 でも、小学生の頃に他の道場から来た子達と打ち合ってたんだけど………あれ、どこだっけ?

 それに何流派だったっけ?

 やっぱり印象に残らない程だったのだろうか、小学生の時の記憶は。

 

(『まぁ、私も知らない流派もあるのだけれどね。私が知っているのは剣術の神と言われた『鬼一法眼(きいち ほうげん)』の『京八流(きょうはちりゅう)』。宮本武蔵から無敵とも言われた『丸目蔵人(まるめ くろうど)』の『タイ捨流兵法』。室町の剣豪の一人で、兵法三大源流の一つである『神道流』の開祖『飯篠家直(いいざさ いえなお)』の3人くらいかしら』)

 

(『へぇ………………』)

 

(『聞いても分からないって顔をしているわよ?』)

 

(『……………はい。実際剣術の神だとか剣豪だとか無敵とか言われてもなんだかイメージが湧かないです。それに俺、全く他の剣術は知りませんし』)

 

 剣道やめてから興味がなかったからな。

 まぁ、作るって決めたんだし参考までに本や動画とか見て考えないと。

 

(『まぁ、焦らず考えなさい。私が言いだしたにしろ、まだまだ時間があるわ』)

 

(『そうですね。因みに参考まで聞きますけど、白鳥さんから見て俺に適した剣術ってありますか?』)

 

(『貴方に適した、ねぇ……………………』)

 

 そういって白鳥さんは手をあごに当てて考え始める。

 まぁ、あくまで参考だから無理にとは言わないんだけどね。

 本当なら、自分に適した事って自分で見つけることが大事だし。

 

 

 俺に適した剣術というと、やはり力を追求した剣術だろうか。

 一応、筋トレで力を付けたし、筋力や握力には自信がある。

 力を追求するんだから、やっぱり武器破壊とか一撃必殺の剣術だろうか?

 などと考えていたら、白鳥さんは考えを纏めたようだった。

 

(『流派までじゃないけれど、速さを追求した剣術がいいんじゃないかしら?』)

 

(『俺の考えとは、真逆ですね。俺、力を追求した剣術を考えていたんですが』)

 

(『そうね。それもいいかもしれないけど、私から見れば貴方は速さを追求した方がいいと思うわよ。それに、例え力だけの剣術でも使い手の動きや反応が鈍くて攻撃が当たらなければ意味がないだけだろうし。』)

 

(『う~~~んっ、白鳥さんにそう言われると正論にしか聞こえない…………』)

 

(『信用し過ぎよ。あくまでこれは私の意見だから』)

 

 いや、そうは言いますけど白鳥さんのお蔭で此処まで強くなれてる事実がいまの俺なのだから。的確な指示とトレーニングメニューに栄養バランスをしっかり考えてくれたお蔭、俺はここまで強くなることが出来たのだから。

 

 

 それよりも………………速さを追求した剣術かぁ。

 どんな技がいいだろうか。

 一気に間合いを詰めて、バッサリと斬り裂くって感じだろうか?

 

(『瞬天殺みたいな技がいいんじゃないかしら』)

 

(『いや、あんな人間離れした縮地をしながら抜刀術なんて無理ですって。あと俺が宗二郎なら、抜刀斎は千冬姉ですか…………』)

 

(『あら、貴方が天剣の称号が似合うほど強いのかしら?私は単に瞬天殺『みたい』な技と言ったのよ?』)

 

(『………………………』)

 

 いやらしく笑う白鳥さんに、俺は少し悔しいと感じる。

 まぁ、確かに今の俺が技量では天剣の宗二郎には及ばないだろう。

 ホント、良い性格しているよ白鳥さんは。

 

「み、みなさん、おはようございます……………」

 

 白鳥さんと話し込んでいたら、山田先生が教室に入ってきた。

 なんだか疲れている様にフラフラしている。

 また何かやらかした、ってのは失礼すぎるか。

 

「今日は、ですね…………みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、既に紹介は済んでいるといいますか、えっと…………」

 

(『へぇ、転校生。珍しいわね』)

 

(『そうですね。でも、山田先生の言い方が気になりますけど』)

 

(『既に紹介してるって言ってたようだけど…………あぁ、オスカルね』)

 

(『シャルルの事だったのか。となるとついに女って事を公開するのか』)

 

「じゃあ、入ってください」

 

「失礼します」

 

 山田先生の指示通りに、教室の扉が開きシャルルが入ってきた。

 男子制服でなく、女子制服の状態で。

 

「シャルロット・デュノアです。みなさん、改めてよろしくお願いします」

 

(『え?シャルルじゃなかったのか?』)

 

(『男に偽装するんだから、女みたいな名前じゃ怪しまるじゃない』)

 

 なるほど、確かに。

 しっかし、山田先生も大変だったろうなぁ。

 書類の手続きとか、あと寮の入れ替えとかもあるんじゃないだろうか?

 山田先生も苦労n――――――――――ズドオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

「一夏ぁっ!!死ねーーー!!」

 

「って、なんでそうなるんだよぉおおおおおおおおおおおお!?」

 

 何故か教室の壁をたたき割って現れた鈴が、ISを展開する。

 そして衝撃砲の照準を俺に合わせ、フルパワーで開放される。

 あ、これ死んだわ。

 

 ……………………………

 …………………………

 ………………………

 ……………………って、あれ?生きてる?

 実は天国ですって事はないよね!?

 とりあえず目を開けると、俺と鈴の間に黒いIS、シュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラが立ちはだかっていた。

 どうやら衝撃砲をAICで相殺してくれたらしい。

 

「た、助かった…………ありがとな、ラウラ。ISはもう直ったんだな」

 

「……………コアはかろうじて無事だったからな。予備のパーツで組み直した」

 

「へぇ、そうなん―――――――――――」

 

  チュッ

 

 その時、ラウラが俺のネクタイを掴み引き寄せて来た。

 俺に頬に柔らかいラウラの唇らしき感触が伝わってくる。

 

「な、なぜ避ける!」

 

「い、いや普通によけるだろ!なんでいきなりキ、キキ、キスなんて!」

 

「むっ、それはだな………………お前は私の嫁になるからだ!!」

 

 ダダーンッと擬音が聞こえてくる自陣満々に言ったラウラだった。

 え?この場合は嫁じゃなくて、婿じゃねえの?とツッコミたかったが今はそれどころではなかった。

 俺は視線をラウラから俺のすぐ近くにいる白鳥さんに向けると、白鳥さんは俺の視線に気づいたか、呆れたように溜息を吐いて笑う。

 

(『良かったじゃない。貴方を貰ってくれる女が出来たわよ?それにしても嫁って……………ふふふふっ。誰から教えてもらったのかしらね、ふふっ。お似合いよ、織斑君。頬だったとしても、キスされたんだからそれなりに答えてあげなさい』)

 

(『いやぁああああああああああああああああああああああああああああ!!違うんです白鳥さん!これは違うんです!!』)

 

(『それよりも、背後を気を付けたほうがいいわよ?』)

 

(『はい?………………What?』)

 

 そう言われて俺は背後に視線を向ける。

 何やら箒、セシリア、鈴、そして何故かシャルロットがスゲェ怖い顔をしていた。

 笑っているはずなのに、笑っているようには全然見えない。

 

「「「「一夏ぁ(さん)………………」」」」

 

「ま、待て!俺は被害者だ!俺が何をしたって言うんだ!?」

 

「「「「お前/貴方/アンタ/一夏/が悪い!!」」」」

 

 そして4人はそれぞれ武器を構え、こちらへにじり寄ってくる。

 周りにいたクラスメイトはすでに避難しており、隅で笑いながら手を降っている。

 薄情すぎる、俺のクラスメイトは!

 

「ま、待て、話し合おうじゃない…………古来から和平を結ぶのも話し合いでだな」

 

「「「「……………………………」」」」

 

 俺の言葉なんて聞き耳もたないのか、全員武器を掲げる。

 あ、これは拙い………。

 

「「「「覚悟!!」」」」

 

「不幸だあああああああああああああああああああああああ!!」

 

 ラウラからは頬だったけどキスされる。

 そして白鳥さんに勘違いされる。

 そんでもって箒たちが襲い掛かってくる。

 神様。俺の人生って、いったい何よ。

 不幸体質は別の人の専売特許じゃないのですか?

 

 

 

 


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