鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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 しかし、ジックリ見るとこの男とスーツを着た女は若干似ているわね。

 姉弟、なのかしら。

 何だかこういうのって、近親相姦モノの小説でよくあるパターンね。

 主人公の家族が学校の先生でしたって、よくあるパターンだわ。

 

「織斑、すぐに装着しろ。時間が無いからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。できなければ負けるだけだ。分かったな」

 

「わ、分かりました」

 

(『んっ………!?』)

 

 そう言って織斑一夏が私、もとい白式に触れる。

 すると何故か今まで感じなかった感覚、こそばゆい感覚が私の身体から湧き上がる。

 な、なにこの感じ?まるで身体を誰かに触れられてる感じがするっ!

 

(『ちょっと貴方!私に何かした!?なんか体がこそばゆくなって、いやんっ!?』)

 

「っ、ご、ごめんっ!」

 

「??どうした織斑?さっさと背を預け、システムに最適化させろ」

 

「い、いや、そう言われても、目の前の女の人が」

 

「お前の幻覚は知らん。とりあえず、試合が終わった後はゆっくり休んでいいから」

 

「誰も信じてくれない訳ですか!?」

 

(『ちょっと!はやくこのこそばゆい感じをどうにかしてよ!』)

 

「あぁこっちまで……………もうどうにでもなれ!」

 

 そう言って織斑一夏は白式に体をあずける。

 すると今度は体の奥から熱が湧き上がって来て、こそばゆいかった身体が快感へと変わっていく。

 

(『な、なに、この感覚……だ、ダメっ!』)

 

「ちょ、そんなエロい声を出さないで貰えません!?」

 

(『無理に決まってるでしょうが!なんなのよ、この感覚!?は、破廉恥よ!死になさいよ貴方!』)

 

「そんな理不尽な!?」

 

 訳が分からないわよ、こんなの!?

 この男が白式に触れた途端、急に体がこそばゆくなって、身体をあずけられた瞬間に気持ちいい感じがして、それで……………あぁもう、いやぁあああ!!

 とりあえず身体から湧き上がる快感に襲われ、見っとも無い所を見せない様に私はこの感覚が治まるまで声を我慢するのであった。

 

(『はぁはぁはぁはぁ………んっ……………はぁはぁはぁはぁ』)

 

「お、おい?大丈夫か?」

 

(『くっ、最悪だわ。よりにもよってこの私が知らない男の前でこんなあられもない姿を晒すなんてっ……………屈辱だわ!貴方、いっぺん死になさいよ!』)

 

「いや、そんな地獄少女のセリフを命令版で言われても!?」

 

(『じゃあ脳みそを誰かのと入れ替えなさいよ!』)

 

「無茶じゃありませんその要求!?」

 

「おい、織斑。そこまで疲れているのか?今から試合を引き延ばしにしてもいいのだぞ?」

 

「そ、そうですよ!幻覚が見える程は、相当って事ですよね?」

 

「すまなかった一夏。私のせいで、そんな目に……………」

 

「いやぁああああああ!!誰も信じてくれないよ!マジで見えてないの3人とも!?俺の周りに女性の幽霊?がいるんですよ!?それと、別に延期にしなくても結構です!」

 

「「「一夏(織斑(君))…………………」」」

 

 とりあえず騒がしいけれど、何とか治まったわね。

 なに?もしかしてISに乗られるたびに私、こんな目に合う訳?

 冗談じゃないわよ!なに!?なんなのこの嫌がらせ!?

 くっ、こうなったらこれを機にこの男に私を使うなって言っておかないと!

 

「箒」

 

「な、なんだ?」

 

「行ってくる」

 

「あ…………あぁ、勝ってこい」

 

(『って、もう出撃準備!?ちょ、ちょっと待っ――――――――――』)

 

 静止で止まることなく、白式を纏った男は空へと羽ばたくのであった。

 

 

 

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 白式を纏い、ピットゲートから飛び立つ。

 アリーナの観客席は大勢の生徒が集まっており、センサーのせいか人一人の顔がくっきりと視界に入ってくる。

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

 そして目の前には、俺と戦う敵、セシリア・オルコットが蒼いISを纏い、二メートル以上もある銃器、六七口径特殊レーザーライフル『スターライトmkⅢ』が握られている。発射から目標まで予測0.4秒。試合開始の合図がなってるので、いつ撃ってきてもおかしくない。

 というか、レーザー、もしくは光を避けれるかどうか………。

 それよりも、さっきの女性の人が見かけないけど、やっぱり俺って疲れてる?

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

「チャンスって?」

 

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら許してあげないこともなくってよ」

 

 舐めてやがる。

 ロックオンしている時点で、俺が謝らない事を知っている。

 そして自分が勝つことが当たり前だろ思っている。

 

「そういうおはチャンスって言わないな。お断りさせてもらうぜ」

 

「そう?残念ですわ。それなら―――――――お別れですわ!」

 

 キュインッ!と耳をつんざく音が響く。

 それと同時に走った閃光が刹那、俺を打ち抜く―――――――

 

「っ!?」

 

「なっ!?避けた!?」

 

 はずだった。

 なぜか白式が俺の意思とは別に勝手に動いたのだ。

 何が起きたのか理解出来なかったが、白式は俺が居た場所から下降し、セシリアから距離を取り始める。か、勝手に動いてないか?

 

(『危なかったわね。レーザーなんて受けたら私まで痛い目を見る羽目になるじゃない』)

 

「って、貴方はさっきの!?」

 

(『喋るのは後にして前を見なさい!』)

 

「え?」

 

「まぐれで避けたようですが、次は当てますわ!」

 

(『ぼさっとしないで、上に飛びなさい!』)

 

「わ、分かった!」

 

「なっ!?また避けた!?」

 

 女性の指示通りに飛ぶとセシリアの攻撃を避ける事が出来た。

 しかし、セシリアの攻撃はまだまだ続いて行く。

 無数のレーザーが襲いかかってくるが、俺と意思だけでなく勝手に全て掠りもせず間一髪で回避する。

 

「くっ、初心者のくせしてわたくしの攻撃を全て回避するなんて!」

 

(『ふん。あんな鈍い攻撃を避けられない奴を見てみたいわね』)

 

「いや、レーザー攻撃を『鈍い』で済ませるって、すご過ぎね?」

 

(『それは私が天才だからよ』)

 

「な、なんという暴論……………」

 

(『それよりも貴方、いい加減口にしなくてもプライベートチャンネルで話しなさいよ。それだと私が見えない連中から貴方、精神異常者って言われるわよ?』)

 

 そ、それは困る。ただでさえ千冬姉や箒、山田先生から心配されたからな。

 他の生徒から精神異常者を見る様な目で見られたらこれからの学園生活が気まずくなってくる。

 え、えっと、確かプライベートチャンネルはISの操縦者同士での誰にも邪魔されずに頭の中で二人きりで出来る会話だから………………。

 

(『あれ?それだと幽霊と話なんかできないんじゃね?』)

 

(『出来てるじゃない。それより来るわよ』)

 

「はい?って、おわっ!?」

 

「くっ、ちょこまかと!」

 

「くっ、武装は―――――――」

 

(『ブレードが一本だけあるわ。なにこれ詰んでない?秒殺されたわ』)

 

「秒殺確定!?とりあえず、素手よりもマシだ!!」

 

 白式に表示された接近戦ブレードを展開する。

 高周波の音とともに、俺の右腕から光の粒子が放出される。

 それは手の中で形となり、具現化された。

 手には2メートル近くのブレード、いや、刀があった。

 

「中距離射撃型のわたくしに、接近戦格闘武装で挑もうなど笑止ですわ!」

 

(『なるほど。中距離射撃ね。なら距離を一定に保った戦術がいいかしら。それだとピットっていうものがどんな攻撃をするのかが分からないのが、難点になるわね』)

 

(『あ、あの、少しいいですか?』)

 

(『なに?私は早くこの試合を終わらせて二度と貴方に使われない様にしたいのだけど?』)

 

(『なぜに!?そ、それよりも……………貴方は一体、何なんですか?』)

 

 あの時、あの場所で初めて見た時の疑問がそうだった。

 幽霊だが、美しく幻想的とも言える彼女が白式の上空で浮いていて、それで俺だけしか見えないし話をすることもできる。

 名前や素性だって知らないけれど、少し話してみれば少しセシリア、いや、セシリアほど見下していないが友好的とも言えない性格なのは理解できた。

 そして女性は、俺の問いに対して笑みを浮かべる。

 

(っ…………)

 

 何故か女性の笑みは今まで見て来た女の人との笑みよりもドキっと胸が高鳴るものだった。

 

(『白鳥 白雫。頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗の完璧な女よ。覚えておきなさい、織斑一夏。』)

 

 白鳥、シロナさん………………なんて素敵な名前なんだろうか。

 

 

 

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 さて、自己紹介は兎も角としてこれからどうしようかしらね。

 相手はご丁寧に中距離射撃タイプと漏らしてくれたお蔭で少しは勝つ可能性が生まれたわ。射程距離とライフルのリロードまでの時間は詳しくまでは分からないけど、とりあえず避けながら白式の情報を用いて考えなきゃね。

 後はピットとミサイルだけど、これに関してはこの搭乗者である織斑一夏に掛かっているわね……………って。

 

(『さっきから何なの織斑一夏?まさか私に見とれていたとかじゃないわよね?』)

 

(『え!?あ、いや、その………………』)

 

(『まぁ、当然よね。容姿端麗で美少女の私に目を引かれないなんて有り得ないわよね』)

 

(『どんだけ自分の容姿に自信があるんだよ…………まぁ、事実見惚れてたけど』)

 

(『それよりもまた来るわよ』)

 

「このわたくしの攻撃を何度も避けるとは。いいでしょう、織斑一夏。わたくしの本気を見せて差し上げますわ!」

 

「あれは……………」

 

「いきなさい、ティアーズ!」

 

(『ぼさっとせず、逃げなさい!』)

 

「わ、分かった!」

 

 そう言って織斑一夏は私の指示通り接近してきたピットから距離を取る。

 するとピットからライフルよりも小さい閃光が放たれた。

 ギリギリ距離を取ったが、回避を成功しダメージを負う事は無かった。

 なるほど、あればそのピットな訳ね。

 数は4つもあり、残り2つはミサイルという事か。

 なによそれ、インチキもいい加減にしなさいよね!

 

(『とりあえず今は回避しなさい、織斑一夏。今は時間を稼いで』)

 

(『え!?でも、避けるだけじゃジリ貧じゃないか?』)

 

(『はぁ、バカなの貴方は?避けながら敵の攻撃、武器の特性を考察するのは当たり前の事じゃない。漫画やゲームでも無かったの?それとも漫画やゲームが買えない程のド貧乏なの貴方の家?』)

 

(『失敬な!ゲームや漫画くらいはあるよ!でも、武器や相手のISのことなんて白式が情報を提供してくれるし』)

 

(『貴方バカ?機械の情報に頼るのはゲームだけにしておきなさい。これがゲームじゃない、現実の戦いよ?機械が提示した情報だけじゃ分からないこともあるのよ。操縦者のくせや弱点、性格やメンタル。色々あるのよ?』)

 

(『た、確かに…………じゃあ相手の情報を集める間、俺はタダタダ回避すればいいんだな、白鳥さん?』)

 

(『そういう事ね。でも、出来れば貴方自身で彼女のくせや弱点を見抜いてほしいのだけれども………………というか、なんで私の名前を勝手に呼んでるわけ?』)

 

(『いやだって、名乗ったんだから呼んでほしいのかなって』)

 

(『誰も呼べなんて言ってないわよ。私は『覚えておきなさい』って言ったの。誰も貴方みたいなバカ丸出しの男に呼ばれたくないわよ』)

 

(『むっ…………じゃあなんて呼べばいいんだよ。ならシロナさんって呼べば――――』)

 

 

 

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「急に急降下した?あの男、何を考えていますの?」

 

 まさか、わたくしを誘っている?

 不利な戦況を変えるために敢えて追わせて、接近戦に持ち込むつもりなのでしょうか?

 だとすれば甘いですわね。

 このセシリア・オルコット、貴方の考えた陳腐な作戦に引っかかる訳がありませんわ。

 

 

 

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 何故だろうか。

 この男に名前で呼ばれると体がムズムズする。

 まるで虫が身体をはいずり回る、いや、実際にそんな事は一度もなかったけれど兎に角ムズムズする。それも、嫌な感じではないのだから。

 

(『きゅきゅ、急に急降下するのやめてもらえません!?』)

 

(『貴方が名前で呼ぶからよ。ビックリしたわ、今まで名前で呼ばれてこんな事は無かったのに、貴方に呼ばれた途端に虫唾が走ったのよ』)

 

(『俺ってどんだけ初対面の人に嫌われてるんですかね!?というか、なんて呼べばいいんだよ!?』)

 

(『…………………もう白鳥さんでいいわ。アンタとか、貴方なんて呼ばれると見下された感じで更に虫唾が走るだろうから』)

 

(『それでも虫唾が走るって…………とりあえず、分かったよ白鳥さん』)

 

(『あ、後勘違いしないでよね!これは別に、その呼び方のほうがマシだと思っただけなんだから!別に貴方と友好的になろうなんて思ってないんだからね!』)

 

(『……………………』)

 

(『………………何よ、そのムカつく顔は』)

 

(『いや、うん。よく考えてみれば白鳥さんって、何だかんだ言いながらも俺に助言してるよね。しかも、勝つつもりでいるし』)

 

(『あ、当たり前じゃない。私は今まで負けなんて味わったことがないからね。例えくだらなくても、勝負となれば勝つ事を目指すだけよ!』)

 

(『なんか白鳥さんって、友人が言ってたツンデレみたい―――――――――――』)

 

 

 

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「今度は加速?しかし、どこに向かって飛んでいるでしょうか」

 

 織斑一夏が加速したのは壁の方向。

 壁に向かって加速なんて、バカなのですかあの男は?

 もしかして、誘っているのではなく挑発?

 壁に追いやられても、わたくしなど相手にならない。そういう事ですの?

 随分と舐めてくれましたわね、織斑一夏!

 

 

 

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(『さっきなんて言ったかしら?少し周りがうるさくて聞こえなかったわね』)

 

(『な、なんでもございませんはい!ていうか、急に加速しないでくださいよ!もう少しで壁に激突する所だったんですよ!?なんとか足場にして踏みとどまる事が出来たけど、俺と白鳥さんもタダじゃすまないですよ!?』)

 

(『あぁ、その事なら大丈夫。さっき足場にしたと言ってたけど、衝撃を受けても私にダメージが無かったからぶつかっても私がダメージを負う事はないと分かったから』)

 

(『つまり俺だけ痛い目みる羽目になるってことか!?』)

 

(『そういうことになるわね。………………チッ。なんでぶつからないのよ』)

 

(『めっちゃ舌打ちと不吉な言葉が聞こえた気がするんですけど!?』)

 

(『さぁ、私にはサッパリ?それよりも彼女を見なさい。凄い事になってるわよ』)

 

(『へ?』)

 

「織斑一夏!わたくしをコケにするは大概にしないさい!」

 

 そう言ってセシリア・オルコットは銃口を私達に向けて、レーザーを発射する。

 何故か知らないが彼女から激しい怒気を感じる事に疑問を抱くわ。

 

(『なんかスゲェ怒ってるんだけど、俺らって何かした?』)

 

(『さぁ、知らないわね。あと、なんで私も怒らせたみたいになっているのよ。原因は正しく貴方じゃない』)

 

(『責任転嫁!?俺だけに責任を押し付けるなんて酷くないっすか!?』)

 

 織斑一夏の叫びを私は無視し、セシリア・オルコットを見つめる。

 なぜ急に怒りだしたのか知らないけど、とりあえず沸点が低い事は理解できた。

 女尊男卑を受け入れている感じがするし、少し挑発しただけで怒りそうね。

 

(『あれ?なんですか白鳥さん?スッゲェ、良い笑顔なんですけど…………なんか嫌な予感がするんですけど………………』)

 

 ふふふ、良い事を思いついたわ。

 

 


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