鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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「この、当たれ!」

 

「誰が当たるかよ!」

 

 織斑と眼帯の戦いを、私は観察する様に見ていた。

 どちらが優勢だと問われたら、私は織斑だと答えられるくらい織斑が眼帯を追い込んでいた。元々才能があった剣術に加え、付け焼刃だが予想以上に特訓の成果を見せる格闘術なのだから追い込まれるのは仕方ないだろう。

 

「くそ、これならどうだ!!」

 

「遅いぜ!」

 

「がっ!?」

 

 ワイヤーブレードを放った眼帯だったが、ワイヤーを掴まれ、投げ飛ばされる。

 誰もが『なぜそこで投げ飛ばす?』とか、『なぜ引き寄せないのか?』と考えるだろうが、あれはAIC対策でもあるのだ。

 

「くそっ!」

 

 投げ飛ばされた眼帯は追撃対策に態勢を早く立て直し、カノンを放つも織斑の剣で両断される。

 そして追撃と言わんばかりにオスカルが銃撃戦に持ち込み、眼帯は距離を取る。

 眼帯の背後からポニーが現れ、織斑のいる方へと向かっていく。

 

「私を忘れてもらっては困―――――」

 

「邪魔だ!」

 

「あああああああああああああ!?」

 

 ………………まぁ、見なかったことにしておくわね。

 眼帯はどうやらパートナーなど飾りにしかならないと言う感じね。

 しかし、自分が追い込まれているのにパートナーを頼らないのは無謀でしかないわ。

 まぁ、ポニーの戦闘能力じゃ織斑+オスカルを相手に眼帯を足しても格段に勝率が上がる訳でも無いのだけれどね。因みに今の所7・3で織斑が有利という感じ。

 

(『ラウラの奴、パートナーを信頼していないのか?』)

 

(『信頼なんて欠片もしていないでしょうね。いまの彼女は、現実から背いて自分は強いと思い込んでいるクソガキでしかないわ』)

 

(『スゲェ厳しいコメント………………』)

 

(『それよりも、貴方とオスカルの連携は良い感じね。練習もしていないのに』)

 

(『シャルルが俺に合わせているだけですよ。シャルルじゃなかったら、間違いなく何処かでミスを犯していたと思います』)

 

 まぁ、貴方の今の強さなら連携なんて必要ないのだけれどね。

 チラリと視界の端を見ると、飛ばされたポニーが再びやってくる。

 

「シャルル!箒の相手を頼む!」

 

「了解、任せておいて!」

 

「くっ!邪魔をするなデュノア!」

 

 いや、これはタッグ戦だから邪魔が入るのは当たり前なのだけれど。

 それにしても、なぜポニーは銃を使わないのかしらね。

 打鉄に搭載されてある葵を使えば少しは戦況も変わってくるだろうし。

 もしかして、一芸バカなのかしら?だとすればこの勝負は見えたわ。

 

「くっ、この!当たれ!」

 

「よっ、ほっ!」

 

「貴様!なんだその戦い方は!私をコケにしているのか!?」

 

「してねぇよっと!」

 

「ちっ!」

 

 織斑の格闘、武器、格闘、武器etcの連撃により、眼帯は追いつけない。

 接近戦装備のレーザーブレードで攻撃をするにも、腕を弾かれ隙を与えてもらえないしAICで止めるにもまた武器を土台にして背後を取られてしまいかねない。

 いまの眼帯では織斑を倒す事は出来ない。

 

(零落白夜無しで、よく此処まで追い詰めたわね)

 

 正直感心できる。

 周りからすれば一撃必殺技である零落白夜を使うだろうけど、織斑はエネルギー消費と効率を考えて格闘戦術と剣術での攻撃を選んだ。

 

(原作ではどうか知らないけど、序盤で強くし過ぎたかしら?)

 

 いや、だけど入学して数か月だ。その間に強くなれない方がおかしいだろう。

 それに私の完璧なる特訓方法と生活習慣を叩き込んだのだ。

 これで強くなっていなかったら間違いなく私は織斑を海の底に沈めるだろう。

 

(しかし………………これじゃあ私が教える事はもう何もないわね)

 

 織斑の戦いを見て、私はそう思った。

 それと同時に胸が酷く苦しくなったのを私は不愉快に思うのであった。

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

「このおおおおおおおおおおおお!!」

 

(くっ、エネルギーを減らせているけど零落白夜無しだと正直精神的にヤバいな)

 

 攻撃を与えたのは主に素手であり、武器は少ない。

 白雫の斬れ味なら零落白夜程でないにしろ大ダメージを与えることが出来るだろうが、AICがある限り素手がメインになってくる。

 本当はこんなはずじゃなかったのに。

 

「くっ、この!」

 

「(やべっ、AICっ!)」

 

「っ、捉えた!!」

 

 精神的に疲労していたので、AICに捕らえられる隙を作ってしまった。

 ワイヤーブレードで腕を縛られているので完全に動きを止めた俺に向けてラウラはカノンの砲口を向ける。

 

「ふっ、これで終わりだ!!」

 

「このっ!」

 

 くそ、エネルギーが0よりマシだ!

 このまま吹き飛ばされて態勢を立て直せば―――――――

 

「なに!?」

 

「っ!?」

 

 次の瞬間、ラウラのカノンの砲身が爆発する。

 ラウラの停止結界が緩んだ隙に俺は、白雫を持ち替えて縛っていたワイヤーを切り落としラウラから距離を取る。

 何が起こったのか理解できなかったが、俺は視界の端へと視線を向ける。

 

「一夏!」

 

「シャルルか、助かった!箒の方は?」

 

「問題なく倒してきたよ。残るはボーデヴィッヒさんだけだね」

 

「そっか。そんじゃ行くぜ!」

 

 箒がやられているのを確認すると、俺はラウラに突撃する。

 失礼だけど、ラウラと箒の相性が悪くて正直助かった。

 お蔭でダメージを受けずに済んでいるし、零落白夜を使う余裕がある。

 しかし、箒がやられているので零落白夜を使わずにシャルルの援護で倒せるだろう。

 

「調子に乗るなよ、織斑一夏!!この私が、この私がお前如きに負けるはずなどない!」

 

「なら俺を負かしてみやがれ!」

 

 白雫とレーザーブレードがぶつかり合い、火花を散らす。

 ラウラはもう片方の手からレーザーブレードを展開し、斬りかかるが俺は受け止めているレーザーブレードを弾き、斬りかかってきたレーザーブレードをいなしてラウラに攻撃を加える。

 

「くっ!」

 

「逃がさないよ!!」

 

「っ、アンティーク風情が!」

 

 後退しようにも、シャルルがラウラへ追撃する。

 アサルトライフルの弾雨を最低限回避するラウラに、俺は更に追い打ちをかける。

 

「くっ、そう何度も同じ手にはっ――――――――」

 

「AICを展開したのが間違いだったな!」

 

「なに!?」

 

 AIC対策に白雫を囮に、踏み台として背後に回る戦法だったが、ラウラのワイヤーブレードを斬った時に白雫に巻き付けていたので囮にしていた白雫は俺の手元に戻ってくる。白雫にワイヤーを付けるのもありかもしれないな。

 などと考えながら、零落白夜を発動する。

 

「これで――――――終わりだぁあああああああああああ!!」

 

「しまっ―――――――――――」

 

 背後に回ったと同時に零落白夜を発動した白雫で、ラウラを切り裂いた。

 ラウラがあの時、ワイヤーブレードを放ったお蔭で、白雫で攻撃できる手段を得られた。

 俺の攻撃に、ラウラはAICを発動させる暇もなく直撃する。

 避けられる危険性があるだろうと考えていたが、無効にはシャルルがいるので逃げようにもシャルルに責められるため結局の所、回避しても攻撃を受けても一緒なのだ。

 

『勝者、織斑一夏&シャルル・デュノアペア!!』

 

「一夏、やったね!」

 

「おう。ありがとな、シャルル」

 

 アナウンスの宣言と同時に、会場から溢れんばかりの歓声が広がる。

 俺はシャルルにハイタッチを交わし、お互い笑みを浮かべる。

 これで一回戦は俺たちの勝利だ。

 

(『白鳥さん、見てましたか!俺、試合に勝ちまし―――――――――』)

 

(『織斑君、注意しなさい!まだ終わっていないわ!』)

 

 白鳥さんが、俺の背後の方を睨み付けており、俺は視線を背後へと向ける。

 そして次の瞬間、異変は起きるのであった。

 

「あぁあああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 倒したはずのラウラが何やら悲痛な叫び声を上げ始める。

 それと同時にラウラの機体が泥の様にドロドロになり、ラウラを覆い隠すように包み込み始めるのであった。泥のようになった装甲が次第に形を形成していき、黒い全身装甲のISに似た何かへと変貌する。

 

 

 

 ボディラインはラウラのそれをそのまま表面化した少女のそれであり、最小限のアーマーが腕と脚につけられている。

 そして頭部にはフルフェイスのアーマーに覆われ、目の箇所には装甲の下にあるラインアイ・センサーが赤い光をもらしていた。

 

「あれはっ…………!」

 

 しかし、問題はそこではない。

 手に持っている武器、雪片に俺は目を奪われた。

 あれは千冬姉のかつて振るっていた刀と酷似している。

 

 

 なんで、なんであんな奴が千冬姉の武器を!

 なんで千冬姉だけの力を、あんな訳の分からない奴に!

 

(『気をしっかり持ちなさい、織斑一夏!!』)

 

(『っ!?』)

 

 俺は白鳥さんの怒声に我に返り、白鳥さんを見つめる。

 白鳥さんは眉間に皺をよせ、あきれた表情で俺を見つめていた。

 そして白鳥さんは俺の頬に手を当てて、そして引っ張る。

 

(『し、しりゃとりしゃん?』)

 

(『少しは落ち着けたかしら?貴方、さっき酷い表情をしていたわよ?』)

 

(『…………………』)

 

(『あのISの姿、いえ、あのISの武器を見てああなったようだけど、例え貴方の中のプライドや心を侮辱されたからと言って冷静さを失うなんて猿以下よ。何のために、この私があなたのパートナーをやっていると思っているの?』)

 

(『白鳥さん……………………そうですね。すいませんでした』)

 

 そうだ。落ち着くんだ、俺。

 例えあのISの武器が雪片でも、あれは千冬姉の武器でも千冬姉でもない。

 あれは所詮、複写、真似ているだけにすぎないのだ。

 そう考えると、段々と心が落ち着いて来る。

 よしっ、もう取り乱す事はないだろう。

 

(『話は後で聞いてあげるわ。それよりも、あれから眼帯を救ってあげなさい』)

 

(『はい!』)

 

「そんじゃシャルル。ラウラを助けに、行ってくるわ」

 

「………………止めても無駄なんだろうね」

 

「あぁ、止まるつもりはねぇよ」

 

「じゃあ約束して。ちゃんと無事で帰ってきてよ?約束破ったら、1週間女子制服を着て歩いてもらうからね」

 

「そ、それは嫌だな……………うん、わかった。約束する」

 

(『オスカルって、何気に腹黒いわよね』)

 

(『は、はははは。そう言われると否定できないです。………………さて』)

 

 辺りを見回せば観客席は防衛対策を始めており、あと数分で先生たちがこちらへと向かってくる。しかし、待っている暇などないだろう。

 俺はシュヴァルツェア・レーゲンだったISを見つめ、白雫を握り構える。

 それと同時に相手も俺の動きに反応する様に構えを取った。

 

(零落白夜――――――――発動)

 

 白雫から蒼白い光が放出される。

 目の前にいるのは紛い物であっても、千冬姉のデータだ。

 長期決戦なんてやってるほど余裕などない。

 ならば、やる事はただ一つ。

 全てを切り裂く零落白夜の一撃で終わらせるだけだ。

 

「すぅぅぅ…………………いくぜ!!」

 

「一夏!お前はいったい何を――――――――――」

 

 動き出したのは同時だった。

 俺は白雫をそのまま振り下ろし、強力な唐竹を放つ。

 それと同時に黒いISは千冬姉がすると同じ鋭い袈裟斬りを放つ。

 放たれた両方の刃はぶつかり合い、火花を散らせる。

 

「はぁああああああああああああ!!!」

 

 ぶつかり合ったお互いの刃は弾かれたが、俺はすぐさま斬り返しを放つ。

 相手も俺と同様で、素早い斬り返しを放ったので再びぶつかり合う。

 

(ぶつかり合った時に分かった。あのISには、心などない。あの剣には、千冬姉の意思など存在しない。なら――――――――)

 

 勝てるのは容易というものだ。

 再び黒いISは俺に斬撃を放つと同時に俺は意識を集中させ、向かってくる刃を睨み付けそのまま勢いよく相手の雪片目掛けて斬り上げる様に白雫をぶつけた。

 ガキンッと、金属音がぶつかり合った音が鳴り響き、空には黒いISの雪片の刃が舞っている。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前がどんな想いで俺を嫌っていたかは知らないが、これだけは言わせてもるぜ。攻撃力だけが、強さなわけじゃねんだ。だから俺は、お前のその誤った考えを――――――正してやるよ!」

 

 斬り上げたと同時に俺はそのまま頭上に構え、白雫を振り下ろした。

 白雫で切り裂かれた黒いISに紫電が走り、真っ二つに割れる。

 黒いISは原形を留めることなく崩れていき、中からラウラが現れる。

 俺はぐったりと力尽きたように倒れてくるラウラを受け止めた。

 

「これで少しは、変わってくれるといいんだけどな」

 

 ラウラは俺の言葉に反応したのか、小さく口を動かした後、目を閉じる。

 『どうして』、か。全く、本当に困ったもんだよ。

 そんな事を思いながら俺は、ラウラを抱きかかえて笑みを浮かべるのであった。

 


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