織斑姉の登場により、眼帯と織斑の戦いは中断された。
決着はトーナメントでやれと言い放ち、周りはそれで納得する。
よくよく考えれば、トーナメントで戦うのだから最初から気づくべきよね。
(『セシリアと鈴が出なくなって、残念だな』)
(『なに?せっかく今まで溜まった鬱憤を晴らしてやろうとでも思ってたのかしら?さすがに私は貴方のそんな趣味に幻滅ものよ』)
(『いや、そんなことを考えていませんけど!?俺って白鳥さんからどんな目で見られてるんですか!?』)
(『ホモと外道、あと鈍感』)
(『うわっ、あまりの誹謗中傷に泣けてきた』)
(『それはどうでもいいとして』)
(『いや、俺の沽券に関わるのでどうでも良くないんですけど…………』)
(『貴方に沽券というものがあるとは思えないわね。それより、来週トーナメントだけど、自信のほどは?』)
(『十分です。楽々とは行きませんけど、優勝できます』)
(『あら、珍しく自信満々じゃない。眼帯だっているのよ?』)
(『へへへへ。そうですけど、問題ありません。AICの弱点、見つけましたから』)
そう言って自信満々の表情をする織斑。
へぇ、弱点を見つけたのね。
本当に見つけたのか気になるけど、来週が楽しみだわ。
(『それにしても、貴方の姉って何者なのかしらね。IS用のブレードを片手で持つわ、それに加えて貴方の斬撃を受け止めるわ。人間やめてるんじゃないかしら?』)
(『違います、って言いたいですけど俺も否定できないです、はははははっ。まぁ、腕っぷしとか強かったですからね、千冬姉は。性格とあの強さのお蔭で男が出来ないのが悩みなんですけど………………』)
(『十年後には危機感を感じて、貴方を性的に襲うかもね。ふふふ』)
(『こわっ!?そんな千冬姉を想像するだけで恐ろしい!…………いや、大丈夫なはず。千冬姉はあれでも良識のある人だ。そんな間違ったことなんかするはず』)
(『部屋で、『私の想い人は弟君』という官能小説があったわよ?』)
「千冬姉ぇええええええええええええええええええええええええ!!」
織斑はすぐさま寮にある姉の部屋へと走る。
まさかこれほど動揺するとはね。
(『因みに嘘よ』)
あ、戻ってきた。
(『嘘なんですかい!』)
(『どちらかと言えば少女漫画ね。教員の誰、まぁ、ヲッパイ(山田先生)から借りたんでしょうね。』)
(『しょ、少女漫画ですか。なんだ、少し安心です』)
(『見かけによらず可愛いのね、貴方の姉………………ぷふっ』)
(『た、確かに………中々可愛い趣味してますね、千冬姉…………ぷふっ』)
ピンポンパンポンッ
『織斑、今すぐ私の部屋に来い。なんかムカついた。拒否権は認めない』
ピンポンパンポンとチャイムが鳴り終わり、私は織斑を見る。
織斑の顔はこの世が終わった様な表情になり、私に視線を向ける。
あ、これはダメなパターンだ。予想してたけど。
(『…………………俺、近いうちに好きな人に告白するんですよ』)
(『見事な死亡フラグね。いってらっしゃい』)
(『………………はい。はぁ、理不尽すぎる』)
それは貴方に惚れてる女も同じことを言うでしょうね。
とりあえず、私は織斑が戻ってくるまで部屋で眠る事にした。
数時間後、織斑が戻ってきたのがとてもゲッソリしたような表情だった。
何があったのかは、私は聞きもしなかったし聴いても意味が無いと感じた。
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6月の最終週に入り、ついにお待ちかねのトーナメント戦が始まった。
トーナメントに参加する生徒はみな気合いが入っているように見える。
そういや、なんか俺やシャルルの事で噂されてたけど、それが原因なのか?
(『今日から始まるけど、体調の方は問題ないのかしら?』)
(『問題なく、体調は良好ですよ』)
(『いきなり近接格闘術を学びたいって言った時はビックリしたわよ。貴方の姉とヲッパイがいたからいいものを、居なかったらどうするのよ』)
(『すいません、無理を言って。でも、対ラウラ戦に必要だと思って』)
流石に剣術だけでは、実行できないからな。
千冬姉や山田先生が忙しくて時間が無かったから教えてもらえる時間が少なかったけど、護身術と空手を少々叩き込まれた。
(『見ていて思ったけど、付け焼刃の素手での格闘戦闘は無謀よ。あっち、眼帯を調べてみたけど軍人の経歴があるから普通に負けるわ』)
(『大丈夫です。別にメインを素手にする訳でも無いですから。あくまで素手の格闘術はおまけみたいなものなので』)
素手でラウラに勝てるとは思わないし、あくまでAIC対策で身に付けたオマケなんだけどね。それにしても、鈴との時よりも人が多いな。
来賓の人、外国から来た人も見に来ているんだし当たり前か。
多くの人から見られるのは少し慣れてないけど、出来るだけ慣れなきゃな。
「一夏!」
「っと、なんだシャルル?」
「もう、人の話を聞いてたの?もうすぐトーナメントの組み合わせが出るって言ってるの」
「そ、そっか。ごめん」
白鳥さんと話に老け込んでいたせいで、全然聞いてなかった。
これでも気を付けてる方だけど。
「もう。篠ノ之さん達からも聞いたけど、一夏はぼうっとしてることが多いよ。いつもそうなの?それとも癖なの?」
「いや、いつもって訳でも無いし癖でもないな。あ、そろそろ組み合わせが出るぜ、シャルル」
「むぅ………………」
隣にいたシャルルは頬を膨らませてムスッとしている。
変な勘繰りをされたら、俺や白鳥さんが困るからな。
出来るだけ白鳥さんとの会話を最小限に………………いや、無理だ。
なら出来るだけ聖徳太子みたいになるように努力しないと、などと思いながらモニターを見つめる。そしてモニターにトーナメント表が映し出された。
「――――え?」
隣のシャルルがぽかんとして声を出す。
モニターに映し出されたトーナメント表の最初の戦いは俺達対ラウラと箒だった。
(『あら。随分と速かったわね。さすがフラグ建築士だわ』)
(『言葉の意味は後で聞きますけど、早い事に越したことはありませんね』)
(『とかなんとか言ってるけど、後々ボコボコにされる織斑君でした』)
(『白鳥さんは俺に勝ってほしくのか勝ってほしくないのかどっちなんですか………とりあえず、行くとしましょう』)
俺はピットに向かい、白式を展開してアリーナの中央まで飛ぶのであった。
俺とシャルルがピットから飛び立った時にはすでにラウラと箒が来ており、待ち構えていた。なんか二人の間に、スゲェ距離があるように見えるが敢えて口にしない。
聴かれたら箒に何を言われるか分からないからな。
試合開始前に、アリーナの中央に俺たちは集まる。
ラウラが殺気を出しながら俺を睨み付けるが、俺は怯むことなく平常心を保つ。
これくらいの殺気、千冬姉に比べればどうってことない。
それにそれよりも怖い事を白鳥さんにやらされたから、ラウラよりも白鳥さんにやらされたことの方が逆に怖いな。
「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」
「そうかい。俺も同じ気持ちだよ」
俺とラウラが話し出した瞬間、試合開始のカウントが始まる。
五……四……三……二……一―――――――ゼロ!!
「「叩きのめす!!」」
ブザーがなった瞬間、俺はスラスターを噴射させ突撃した。
手には白雫を展開させ、ラウラ目掛けて突きを放つ。
「先手は貰うぜ!」
「ふんっ…………」
突撃してきた瞬間、ラウラは手を翳してきた。
来るか、AIC!
AIC、アクティブ・イナ―シャル・キャンセラーは物体の運動エネルギーを0にするバリアだ。反則的な能力があり、無敵とも見えるそのバリアだが弱点が存在する。
そしてラウラに突きを放った俺の攻撃は、運動エネルギーを0にされ動きが止まる。
「ふっ、学習していないようだな。私の停止結界の前では、お前の攻撃など無意味――――――なっ、バカな!?」
「――――――――学習してねぇとでも思ったか?残念だったな!」
「がっ!?」
ラウラはそのまま俺が飛んできた方向へと勢いよく飛んでいく。
すぐさまラウラは態勢を立て直し、俺を睨み付ける。
しかし、ラウラの目には若干驚愕と戸惑いが混じっていた。
どうやら『こんな風に』攻略されるとは思ってもみなかったのだろう。
「貴様、まさか―――――――――」
「AICの弱点。一つは集中力が必要な事、二つ目は複数の相手には使えない事、三つ目はビーム兵器に効力が薄い事。そして最後の弱点―――――バリアの展開範囲が前方だけであり、距離が短い事だ」
「っ…………」
そう。あの時、俺が初めてAICに捕らえられたとき、白鳥さんが翼のスラスターをラウラ側に向けて噴射した時に気づいたことなのだ。
あの時の映像を見ながら、距離を自分で計算して調べると、俺とラウラの間の距離は約二メートル弱だった。つまり、AICを発動しているときは前方二メートル圏内に入ると停止することが分かったのだ。
「無敵のAIC。確かに物体を停止できるし、便利だろうけど弱点が分かれば攻略できる。まぁ、分かったからと言ってもそう簡単に出来るもんじゃないけどな」
「………………だが、貴様は出来た!自分の『武器を囮にしてな』!!」
AICの弱点が分かったからと言って、攻略できるとは限らない。
そして俺が取った行動は、『武器を囮にし、ラウラの上空に飛んで背後に回り素手の格闘術で攻める』ことである。
俺がラウラに突きを放ったのは、その為である。
唐竹や袈裟斬り、逆袈裟では殴る時間がロスしてしまうため出来ない。
突きは白雫を出来るだけ長く持って放てば、止められても背後に回って殴る隙は出来る。
(『なるほど。武器を囮にして、囮にした武器を土台にして背後に回り殴る。その為の格闘術だったのね。中々やるじゃないの。カッコよかったわよ』)
「っ……………へへへ」
白鳥さんに褒めてもらえた。
しかも、カッコいいって言われた。
自分で調べて苦労した甲斐があったというものだ。
「何を笑っている織斑一夏!たかが一度回避できただけだろう!二度目はない!」
「へっ、それはどうかな!」
いくらお前が軍人だろうが強かろうが、千冬姉に鍛えられたからだろうが知った事か。
俺は、俺は白鳥さんから教わってきた全てが無駄じゃない事を証明してみせる。
誰にも理解されなくてもいい。
でも、俺が白鳥さんに教わった事実は変わらない事を証明してみせるんだ。
「お前がどれだけ俺を低く見ているか知らないが―――――――――――まずはその思い込みをぶち殺す!かかってきな、ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」