鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

16 / 36
15

 

 

 

 

(『ところで、貴方に気になる女はいないのかしら?』)

 

(『え、なんですか急に?藪から棒に』)

 

(『貴方、幼馴染二人と主席外人、それに他の女たちから何気に親しいじゃない。気に入っている子とかいないわけ?』)

 

 入学してもう3か月以上経っているけど、いい加減に気になる子が居てもおかしくないと思うんだけど。

 しかし、織斑は私の質問に困った、いえ、落ち込んだ表情をするのであった。

 

(『……………白鳥さんこそ、どうなんですか?その………気になる人とか』)

 

(『別にいないわよ。それに、貴方以外に見えないのだから気になる人がいるいない以前の問題よ。というか、私はレズビアンと勘違いしていない?』)

 

(『いや、そういう事じゃなくて……………』)

 

(『どういうことなのよ?』)

 

(『えっと、その……………………はぁ。いえ、何でもないです』)

 

 なんでもなくないわよ。

 なによ、貴方は。いったいどういう意味で言ったのか気になるじゃないのよ。

 これから根性まで鍛え直さないといけないのかしら?

 まぁ、根性論なんて相手には伝わらないからね。

 現にポニーを見て納得できてるから。

 

(『話を振っておいて悪いけど、もうすぐトーナメントだけど、パートナーは決めているの??』)

 

(『いえ、まだですけど。でも、相手はシャルルにしようかと思ってるんですけど』)

 

(『まぁ、妥当と言えば妥当ね。彼のISの特性はタッグ向けだし、彼自身の操縦技術なら優勝は間違いなしでしょうね』)

 

(『はい。俺は接近戦が主な方ですし、オールラウダーのシャルルとなら遠距離と中距離は補えますしね。それに男同士で同室ですから息も合うだろうしね。やっぱり男同士、いいですねぇ』)

 

(『ホモォ………………』)

 

(『いや、だから俺はホモじゃないですからね!?もうその疑いを晴らしてくれませんかね白鳥さん!!』)

 

(『いえ、どうもあなたの一つ一つの言動が明らかにホモを連想させるから………………それに、自分の趣味嗜好なんて自分でも気づかない部分もあるのよ』)

 

(『うわっ、そんな生易しい目で見ないでくださいよ!絶対にホモじゃありませんから!俺だって、気になる女の子くらいいます!』)

 

(『あら、気になる女がいるのね。』)

 

(『は!?は、嵌めましたね白鳥さん!シャルルの話題を振っておいて、俺を嵌めたんですね!!』)

 

(『貴方が自分で墓穴を掘っただけじゃないの。それで誰なの?ポニー?ツイン?ドリル?眼帯?それとも裏をかいて………………姉の方?』)

 

(『なんでや!千冬姉関係ないやろ!!』)

 

 いえ、前に貴方の履歴を見たけど姉もののエロ画像が多かったからね。

 まぁ、この事は伏せておきましょう。絶対に自殺しかねなさそうだし。

 あと、それは阪神ネタだし、貴方はどちらかと言えばライオンズじゃないの?

 

(『まぁ、貴方が教えないと言うならそれでもいいわ。精々意中の女を振り向かせられるように、頑張る事ね』)

 

(『あれ?どこか行くんですか?』)

 

(『学内探検よ。着いて来るんじゃないわよ?』)

 

(『なんでですか。別について行っても』)

 

(『学園の中も入るから、罰則を受けたいのかしら?因みに無断で学園に侵入するとガードマンまで来るわよ?』)

 

(『………………部屋で待ってます』)

 

 素直に引いたのはいいのだけれど、そこまで残念がるのはなぜなの?

 まぁ、どうでもいいとして。

 とりあえず、行くとしましょうか。

 『あの部屋』の出入りする方法を調べないとね。

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 あ、ありのままに(ry

 白鳥さんと別れて、俺は部屋に戻ったんだ。

 そして山田先生が白式の正式登録の書類を幾つか書いてほしいと言われて部屋を出て、そんで書類を終わらせて部屋に戻ってきたんだ。

 その時、シャワー室をシャルルが使っていて、ふとシャンプーが切れている事を思い出したんだよ。

 そんでシャンプーを持ってシャワー室に入ったんだが。

 

(『なるほど。彼、オスカルが女だったと?』)

 

(『はい。その通りなんです』)

 

(『まぁ、粗方予想は出来てたんだけどね。彼が女だって』)

 

(『え!?知ってたんですか!?いったいいつから!?』)

 

(『転校してすぐよ。だっておかしいじゃない。この時期に男が転校して来るかしら?普通なら貴方が此処に入学して、まだほかに動かせる男がいるんじゃないかって全国で調査を行うはず。そして検査終了後、数日遅くて数週間は入学してくるはずよ。なのにオスカルは数か月も遅れて転校して来た。私が居ないうちに、こうも早くバレるとは予想外だったけど』)

 

(『確かに………でも、それだけで女だって分かるわけじゃないですよね?』)

 

(『貴方バカなの?私がなんで『調査』という言葉を言った意味が分からない?』)

 

(『……………………あぁ!全国で調査すれば、テレビで放送されるはず。なのに、シャルルの時はテレビで放送されなかった!!』)

 

(『その通り。各国に調査依頼が届いていれば、普通は貴方が入学して数日、もしくは数週間後にはテレビに出ていたはず。でも、出なかったという事は女しかありえない。それに彼女、代表候補よね?ISは本来女しか扱う事が出来なかったのに、急に扱いだした男が代表候補なんてまず有り得ない。正式な手続きと長期にも及ぶ訓練が必要になる。』)

 

 スゲェ、まるで某探偵の名推理くらいスゲェ。

 白鳥さんって、大学卒業して結婚したって言ってたけど、職業は何だったんだろ。

 主婦、ってのは想像付かないし、公務員かな?いや、案外会社の社長だったりしてな。もしくはさっきの推理力を見込んで相談所とか探偵だったりとか。

 

(『私の職業は公務員よ。何も出来ないニートの夫、もとい腐れ野郎が役に立たないから私が稼いでいたの。ほんと、いま思い返せばなんであんな男と結婚したのかしら。バカみたいに思えるわ』)

 

(『そ、そうなんですか……………………』)

 

 夫がニートって、本当なんでそんな男と結婚したのだろうか。

 俺だったら、白鳥さんに専業主婦を任せて稼ぎが良い職場で働くのに。

 ………………なんか俺もその男を考えるだけでムカついてきた。

 結婚したって事は、キスとかしたんだよな?

 くそ、滅茶苦茶その男を殴りたい!!

 

(『こんなくだらない話より今はオスカルの話ね。それでオスカルはどういう目的で学園に来たの?まぁ、想像は出来てるんだけど』)

 

(『何でも、シャルルの会社のデュノア社の社長が俺と白式のデータを盗んで来いと言われたらしいんですよ。会社が経営危機だから、第3世代のISを作らないと潰れるらしいとか』)

 

(『あぁ~、はいはい。なるほどね。確かにいくらラファールを量産しようとも3世代には及ばないものね。それに量産と言えど、もう制作して6年以上もつづいているものね。ラファールはもう過去の遺物でしかないもの』)

 

(『過去の遺物って……………』)

 

 まだ6年ですし、過去というほどじゃ……………。

 いや、白鳥さんにとって過去の遺物なのか。

 

(『それで?その後はどうするのかしら?』)

 

(『どうするって……………このままじゃ、シャルルは会社に連れ戻されて牢屋行きだろうですし、だから俺、シャルルにこの学園の特記事項二一を利用して…………』)

 

(『なるほど、三年間此処に居ろって言ったわけね?』)

 

(『は、はい!三年間ならきっとシャルルを救う方法があるだろうし、シャルル自身で見つけられると思って』)

 

 いまの俺にはどうする事も出来ないけれど、時間かけて考えていけばきっと解決できるはずだ。

 それに、白鳥さんの助力もあればきっとシャルルを助けることだって出来るはず。

 

(『貴方が彼女を救うならそれでいいわ。でも、私は手伝わないわよ』)

 

(『え!?なんでですか!白鳥さん、シャルルのいまの状況にどうも思わないんですか!?』)

 

(『そうね。自分の親に利用されて、それで戻れば牢獄行きを考えるとそれはもう可哀想な少女ね、と思ったわ。でも、あの子と私は別に関係ないわ。例え私があなたの相棒でも、私の権利まで譲った覚えはない。だからこの問題は、貴方と彼女の問題よ』)

 

(『でも!……………俺だけじゃ、何も出来ないですよ』)

 

 俺はずっと白鳥さんに助けられてきた。

 試合の時も、訓練の時も、襲撃者の時も。

 白鳥さんが居たからこそ、俺は強くなる事が出来たし、いまの俺でいられた。

 白鳥さんがいなきゃ、俺は何も出来ないタダの餓鬼なんだ。

 優柔不断で、ハッキリしない。

 

  パァアアアアンッ!!

 

(『っ!?』)

 

 次の瞬間、俺の頬に痛みが走った。

 手に持っていたトレイを落としそうになったが、なんとか踏みとどまり顔を上げる。

 顔をあげると白鳥さんが、眉間に皺をよせて俺を睨み付ける。

 

(『何度目かしら、私はこう言ったはずだけど?自信を持ちなさい、自意識過剰になってもいいのよ?って。なのに貴方は、何時までそんな甘えたがりの餓鬼のままでいるわけなの?私が今まで貴方を強くしてきたのを全て無駄と言いたいわけ?』)

 

(『そ、そんなつもりじゃ!だ、だって俺、白鳥さんがいなきゃ本当にダメで………本当に何も出来ない奴で……………』)

 

(『どうやら私の目が腐ってたみたいね。一度ならず二度までも、私は無駄な時間を過ごしていたわ』)

 

(『ま、待ってください白鳥さん!待って!!』)

 

(『………さっさと彼女の所に行ってきなさい。ちゃんと寝る時間には帰ってくるわよ』)

 

(『待って!!』)

 

 白鳥さんは二度と振り向くことなく、背を向けて何処かへ行ってしまった。

 俺は追いつけることも出来ず立ち止まり、そのまま立ち尽くすだけ。

 

(『白鳥さん………』)

 

 怒らせてしまった。

 今までとは違って、本格的に。

 なんで……………なんでなんだよ白鳥さん。

 

「俺にどうしてほしいんだよ、白鳥さん……………」

 

 とりあえず、俺は自分の部屋に戻る事にした。

 シャルルの為に夕食を取りに行ったのに、冷めたら美味しくないだろう。

 白鳥さんには、後で謝罪をしよう。

 いやでも、白鳥さんの事だからきっと『意味のない謝罪をしても迷惑よ』とか言われそうな気がする。

 ……………………結局、俺はどうすれば許してもらえるのだろうか。

 

「シャルル。帰ったぞ」

 

「あ、一夏……………あれ?頬、赤くない?誰かに叩かれたの?」

 

「あ。(やべ。白鳥さんに殴られたから跡が付いたのか)蠅が飛んでて、頬に止まったから思わず本気で殴ってな、こうなったんだよ。あ、因みにちゃんと頬と手は清潔にしてきたぞ?」

 

「そうなんだ。でも、いくら蠅が止まったからと言って、自分で自分を叩くなんて、ふふふっ。おかしい」

 

「は、はははは。そうだな。」

 

 とりあえず、疑われなくて本当に良かった。

 まぁシャルルに白鳥さんの事を知られても信じてもらえないだろう。

 箒や千冬姉に信じてもらえなかったんだしな。

 いや、白鳥さんの悪戯により最近クラスで幽霊が出るって噂されてるからな。

 信じてもらえるだろうか?

 いや、やめておこう。白鳥さん自身、知られるのはあまり好きじゃなさそうだし。

 

「って、シャルル。食べないのか?暖かいうちに食べないと、勿体ないぜ?」

 

「う、うん。そうだね。…………いただきます」

 

 そういってシャルルは箸を持ち、焼き魚に切れ目を入れるのを尻目に、俺はまた考え込む。白鳥さんは、俺にどうしてほしいのだろうか。

 自信を持て、自意識過剰になれと言われたがこれでも自信は持っているし多少自意識過剰にもなっているつもりだ。でも、それだけではダメなのだろうか?

 やっぱり白鳥さんの様に、強くならないとダメなのだろうか。

 

(くそ…………考えても、分からんねぇ)

 

 いったいどうすればいいのだろうか。

 白鳥さんに振り向いてもらうことでいっぱいいっぱいなのに、なんかそれ以外で悩まされるなぁ、俺って。

 などと考えながらシャルルの方を見ると、何やら焼き魚に苦戦しているようだった。

 

「あうっ…………あっ…………」

 

「…………………もしかして、箸とか使ったことないのか?」

 

「あ、うん。練習はしているんだけど、どうもね………フランスじゃ、ナイフとフォーク、スプーンを扱う事が多かったから」

 

「じゃあ、ナイフとフォークを借りてくるよ。少し待ってな」

 

「い、いいよそんな!なんとか、これで食べてみるから」

 

 そう言って箸で魚の切れ端を掴もうとするが、すっぽりと抜ける。

 思わず苦笑いを浮かべてしまうほど。

 

「あうっ……………」

 

「ほらまた。シャルルは少し、他人に甘える事を覚えたほうが良いぞ。遠慮ばかりだったら、損するばっかだ。とりあえず、慣れないかもしれないけどまずは俺を頼ってくれよ。ルームメイトなんだしさ」

 

「一夏……………………」

 

 甘える、か。

 そういや白鳥さんからも、『甘えたがりの餓鬼』って言われたな。

 シャルルは兎も角、俺は白鳥さんに甘え過ぎたのだろうか?

 だとすれば、バカな話だよ。なんでもかんでも白鳥さん白鳥さんって言って頼って、白鳥さんの事を考えていない。

 

「シャルル」

 

「うん?なに?」

 

「ありがとな」

 

「?? 何が?」

 

「いや、色々とだよ」

 

 自分で言ったことだけど、シャルルのお蔭で気づけた気がする。

 ホント、バカだよ俺は。勉強が出来る様になっても、結局俺はバカのままだな。

 なんかスッキリしたよ。

 

「とりあえず、どうするシャルル?食堂に戻ってナイフとフォークを借りてくるけど?」

 

「じゃ、じゃあ、あの………………一夏が食べさせて」

 

「…………………え?俺に?」

 

「うん。あ、甘えてもいいんでしょ?」

 

 もじもじとしながら上目遣いで言葉を重ねてくるシャルル。

 うわぁ、そんな目で見られるとスゲェ断りづらい。

 なんというかその………………まぁいいや。白鳥さんに聴いてみれば分かるかな。

 こ、これは別に甘えている訳じゃないぞ?

 

「じゃ、じゃあ、その……………ほら、あーん」

 

「あ、あーん」

 

 俺が箸でつまんだ魚の切れ端を、シャルルは食べる。

 こういうの、白鳥さんと出来たらなぁと考えたのは言うまでもない。

 というか、白鳥さんとやりたい!

 

「うまいか?」

 

「う、うん。おいしいね」

 

「そ、そうかじゃあ、次はご飯でいいか?」

 

「う、うん。お願い」

 

 こうして俺とシャルルの奇妙な食事風景は、数十分くらい続くのであった。

 食べさせている間、会話をする言葉も少なくなっていき、終わりを告げる。シャルルは疲れたのか、直ぐにベッドに入りスヤスヤと寝息を立てて眠りにつくのであった。

 

(俺も寝ようかな……………白鳥さんには、明日謝罪しよう)

 

 シャルルが寝静まった後、俺もベッドに入り眠りにつくのだった。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。