それは、フランスとドイツから転校生が来て3日が経った日の事だった。
その時は朝5時くらいで、私は何故か偶々その時間に起きてしまい寝ようと思ったのだが丁度喉が乾いていたので食堂の自販機で水を買いに行こうとしていた。
「ふあぁぁ……………あぁ、もう。一夏の奴は本当に鈍感なんだから」
昨日は私がせっかく酢豚を作って来てやったってのに、美味しいとか以外で他に言う事無い訳?全く、本当にアイツは…………………。
私が転校して来た時、可愛いとか、制服が似合うとか気の利いた言葉を言ってたから、成長したのかと期待した私がバカだったわ。
でも、アリーナで謎のISを倒した時の姿は………………カッコよかった。
(カッコよかったのもそうだけど…………アイツ、私よりも実力的に上だった。もしあのISが乗り込んでこず、戦いが続いていれば間違いなく私が負けてたかもしれない)
現に訓練の時もそうだ。
私やセシリア、箒が組んで一夏を相手しているのに一夏は数十分も粘り私たちを追い込んだ。結果的に一夏が負けたにしろ、もし1対1での訓練、いえ、試合であったら誰も一夏に勝てない。
ISを扱う時間は、私やセシリアよりも短いはずなのに、何をしたらあんなに強くなれるわけなの?一夏に話を聞いたけど、特に変わった事はしてないって言うし、詳しく聞き出して得た答えはランニングと筋トレ、後はISの訓練だもん。普通すぎる。
(ドーピング……は絶対にしないし、結局何が一夏を強くさせるの?)
千冬さんの為?それとも何かを守るため?
考えれば考える程分からなくなってきたので、私は考えるのを辞めた。
「寝起きでこんな事考えるの、バカらし。水買ったら二度寝しよ」
それにしても、寮は少し広すぎ。
IS学園の全生徒が暮らしているのだから、大きな寮なのは仕方ないのだがさすがに食堂まで行くのが面倒に思えてくる。
それだったら、部屋の水道水を飲めば良かったと後悔した。
『………………めば……………すれば……………』
「誰か食堂にいるのかな?まぁ、運動部あたりが朝練帰りでしょうね」
などと思いながら、私は食堂へとたどり着く。
だが、食堂には誰もいなかった。
私は疑問符を浮かべ、あたりを見回し、食堂の台所を覗いても人はいなかった。
気のせいだと思い、私が自販機のある場所へと向かったその時である。
「…………………………」
目が悪いのか、それとも私は夢でも見ているのかと思った。
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!って言いたいほどな光景だ。
自販機の近くのテーブルに複数のコップがあった。
誰かの戻し忘れだと誰もが思うだろう、なんとコップが独りでに動き出したのだ。
二つほどのコップが宙へと浮き上がる光景を私は目の当たりにしたのである。
「お、おお、おおお、オバケなんているわけないわよ!そ、そう、これはあれよ!ワイヤーか見えない棒、もしくはカップの底に磁石でも埋め込まれてあるのよ!オバケなんているわけないわ!」
そう。オバケなんているわけがない!
テレビ番組で心霊映像がどうのと言っているが、あれは基本的に合成であり、やらせの類が多い。なのでオバケなんて非科学的な存在はいるわけないと私はそう心の中で言い聞かせていた。
すると急にカップが小さな音を立てて置かれて以降カップは浮くことはなかった。
私は恐る恐るカップが置いてあるテーブルに近づき、辺りを手で動かして探ってみたが何もなかった。
カップに何かあるのだと思い、私はカップの底や裏側を見るが、何もなかった。
「ふ、ふん!やっぱり誰かの悪戯なのよ!さ、さっさと水を買って部屋に戻らないとね!」
これは決してビビったわけではない。
そう、ただ早く寝たかっただけなのだ。
震える手でお金を入れて水を買い、部屋に戻らなきゃと思ったその時である。
『あら。もう帰るのかしら?少しはここでゆっくりしてもいいのよ?』
「へ?」
急に耳元に声がしたので辺りを見回す。
しかし、人などどこにもいないし、ISを部分展開してセンサーを使ったのだが物陰に誰もいない。私は急に恐ろしくなり、思わず声を上げた。
「誰よ!あ、あたしに何か用でもあんの!?」
『ふふふふっ…………………もしかして、見えないのかしら?』
「そ、そうよ!!いい加減に姿を現しなさいよね!」
『あら、私はずっとここにいるわよ?』
「は、はぁ!?ど、どど、どこにいるってのよ!」
『だから、ここよ』
女?はそう言っているが、周りには誰もいない。
しかし、声が発せられる方を見つめ、私は体から嫌な汗が流れ出す。
『 あ な た の 目 の 前 』
「っ!?」
その瞬間、あたしの両肩を何かが掴んだ。
指と手の平の感触かして人間。
しかし人間、生物とは思えないほどの氷の様な冷たい手。
目の前には誰もいないはずなのに、誰かがいるのだ。
そしてじわじわと両肩を掴んでいた手があたしの頬を撫でる。
『 貴方……………美味しそう 』
「いやぁああああああああああああああああああああああああ!?」
私は無我夢中で頬に当てられた手を振り払い、全力疾走で部屋に戻る。
相部屋のティナが『どうしたの?』と心配そうに聞いてきたが、私の耳には届かなかった。いまの私は肩と頬を触れられた手らしきものの冷たさしか感じることが出来なかった。
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夕暮れの学園。
わたくしは今日授業の教科書を音楽室に忘れてしまいました。
本当ならこんなミスをしないはずですのに、わたくしとしたことが。
そのせいで一夏さんとの訓練が遅れることに。
箒さんや鈴との差が広がるばかりですわ。
「早く教科書を取りに戻らないと!」
ここでISを使いたいのですが、使用したことが織斑先生にでもバレてしまえば反省文どころか使用を一週間禁止させられる恐れがあるので使わないですが、さすがに音楽室まで遠すぎますわ!どうして校舎の端に作ったでしょうか。絶対に設計ミスですわ。
「そういえば、今日は鈴さんがおかしなことを言っていましたわね…………」
幽霊がどうとか、そう言った話でしたか?
朝食の時、酷く眠そうで怯えたように一夏さんの服を掴んでいましたしね。
最初は羨ましと思いましたが、鈴さんの様子からするに本当におかしそうでした。
理由は、朝に幽霊に『貴方…………美味しそう』と言われたと言っておりましたし。
幽霊など、非科学的な存在がいるわけないとわたくしも含め皆さんが笑っていたのですが、鈴さんは真剣に居たと言っていますが、正直わたくしは幽霊など子供のころから一度も信じたことなどございません。
それに事実、幽霊などおとぎ話ですから。いるわけがありません。
「あら。下らない事を考えていたら、もう着きましたわ」
気がつくと音楽室前まで着いていた。
とりあえず、早く教科書を探して一夏さんと訓練をしなければ!
これ以上、二人に差を作らせるわけにはいきませんわ!
~~~♪~~♬
「あら?誰かピアノを?」
ピアノの音でわたくしは手を止めて聴いていた。
流れ出す音は一つ一つ混じりけのない綺麗な音。
奏でられる曲に、なんだかわたくしも楽しくなり、心が躍ってしまう。
わたくしが聞いたこともない曲。
有名な作曲家の曲ではないが、弾いている人間は間違いなくプロのピアニスト。
わたくしは好奇心のあまり、音楽室の扉を開く。
「あら?」
音楽室の扉を開けたのだが、音楽室には誰も居なかった。
ピアノの音もいつの間にか止まっている。
「気のせい……………なわけないですよね?」
さっきまで美しい音色を奏でていたピアノ伴奏を耳にしたのだから。
人が来たから恥ずかしいので隠れたのではないのかと思い、わたくしは物陰などを調べて探し出す事にした。
しかし、誰も居なかった。
鍵盤楽器や弦楽器などが置いてある隣の部屋も調べても誰も居なかった。
僭越ながら、ISのセンサーを使ってあたりを調べても熱源一つ捉えることが出来なかった。
若干遺恨が残りますが、わたしくは自分の教科書を探すことに専念するのであった。
『これじゃないかしら?』
「え?あぁ、それですわ。態々ありがとうございまs―――――――――――」
ドサッ
わたくしは、教科書を思わず落としてしまった。
誰もいないはずなのに、わたくしは誰から教科書を受け取ったのでしょうか?
誰もいないはずなのに、わたくしの耳の耳が捉えた声はなんなのでしょうか?
「だ、誰かそこにいますの!?いるのなら出てきなさい!」
はしたなくも、わたくしは声を荒げて叫ぶが反応は無い。
だが、小さく『ふふふふっ』と笑う女性の声が聞こえる。
幽霊なんていない。幽霊など非科学的な存在は存在しない。
しかし、何故だろうか。わたくしの脚が震えてしまう。
動けと脳で指示しても、脚が思うように動かない。
~~~♬~~~♪
「っ、そこにいるのですね!」
ピアノの方へ視線を向ける。
しかし、座席には誰も座っていない。
ただ鍵盤が独りでに音をだし、音楽を奏でている。
「……………怒りの日?」
怒りの日、それはフランツ・リストが作曲したものであり、原題は死の舞踏である。
本当はピアノ伴奏でなく管弦楽曲なのだが、ピアノ伴奏だけで此処まで美しく、そしてグロテスクな表現を出すピアニストはそうそういないはず。
しかし、椅子に誰も座っておらず、独りでにピアノがなっているのだ。
そして演奏は終わり、ピアノの鍵盤が沈むことなどなかった。
「…………………わたくしは、夢でも見ているのでしょうか?」
美しいピアノ伴奏。そして知らない女性の声。誰かに渡されたわたくしの教科書。
わたくしはそれだけで、更に恐怖で身動きが出来なくなった。
そして次の瞬間――――――――――――――
『私の演奏、気に入ってくれたかしら?』
「ひっ!?」
急に誰かがわたくしの手を取った感覚がした。
いや、誰かがわたくしの手を触っているのだ。
氷の様に冷たくて、まるでそれは全身を凍らせるかのような冷たさ。
そして手から徐々に腕へ、肩へ、そして頬へと伝って来る。
誰もいないはずなのに、誰かがわたくしの両頬に手を当てている。
誰かが目の前にいる。誰かが目の前にいて、わたくしに触れている。
わたくしは目に見えない恐怖に襲われ、震えて逃げる事が出来なかった。
『 ねぇ。今度は死ぬまで私と一緒に鎮魂曲(レクイエム)を奏でない? 』
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
耳元で囁かれた言葉に、わたくしは叫びながら意識をブラックアウトさせた。
鈴さんが言っていたように、幽霊は存在していた。
遭遇した場所は違えど、わたくしは幽霊に触れられたのである。
そして幽霊は………………わたくしを呪い殺す気なのだ。
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金曜日の朝。今日も朝練を済ませ、俺は制服に着替えた後にシャルルと一緒に食堂へと来た。朝食を食堂のお姉さんから受け取り、俺とシャルルが席を確保したと同時に後から箒、セシリア、鈴がやってくる。
今日の俺の朝食はパンとハムエッグ、サラダ、オレンジとアイスコーヒーと言った洋食である。運動後のカフェインの摂取と、栄養バランスを考えた食事だ。男の俺にとって、少し物足りない気がするけど、その分は昼に摂ればいいって言われている。
そして今日もまた同じメンバーで食事を摂るのであるが―――――――――
「ですから!わたくしは昨日幽霊に出会って!」
「幽霊などいるわけがないだろ。そもそもセシリアだって幽霊なんて非科学的な存在などいないと言っていたではないか」
「いたのよ!なんで信じないのよこの脳筋!」
「だ、誰が脳筋だ、誰が!第一鈴に言われたくなどない!」
「あたしは脳筋じゃないわよ!」
「ま、まぁまぁ、3人とも落ち着いて。凰さんが食堂で、オルコットさんが音楽室で遭遇したって言ってるんだし、本当なんじゃないかな?確証はないけど」
「確証が無ければ意味がないだろ」
「だから!あ~~もうっ!一夏、アンタもなんとか言いなさいよ!」
「え!?俺に振るかその話!?」
「そうですわ!一夏さんなら、わたくし達の話を信じてくれますわよね!?」
切羽詰った表情で詰められながらも、俺は適当に相槌をする。
ようやく二人に開放された俺は少しため息を吐き、パンを口に咥えながらテーブルの真ん中で浮いている白鳥さんに目を向ける。二人の表情を楽しむようにクツクツと笑うその様子はもう俺の中で確信を得ていた。
(『……………白鳥さん、絶対に貴方ですよね?』)
(『えぇ、そうよ。実体化の練習をしていのだけれど、本当に物に触れる以外で実体化が出来ているのか分からなかったから偶然食堂に来たツインを試したのよ。どうやら声は聞こえてても、私の姿は見えないらしいわね。それでツインったら、中々良い反応を見せてくれるからついつい遊び心でドリルもからかったのよ。ふふふっ、二人のあの表情は見ものだったわ。ふふふふっ』)
(『あんまり二人で遊ばないであげて…………………え!?実体化が出来るようになったんですか!?』)
(『えぇ。何度か念じながらやってみれば物体に触れられる様になったわ』)
(『そうだったんですか……………じゃあ、これで絵が描けますね!次の休みに、俺と画材を買いに行きましょう!』)
(『その事だけど、美術室を使うから問題ないわ。あそこに必要な物は大抵揃ってたし』)
(『そ、そんな!せっかく白鳥さんの為にお金を使わず貯金してたのに…………』)
(『……………はぁ。織斑君。なんでそこまでする必要があるわけ?私、別に何かが欲しいと言ってないし、買ってほしいなんて頼んでないのだけれど?』)
(『だって、白鳥さんにはいっぱいお世話になったし、それに……………好きな人だから、喜んでもらいたくて………………』)
白鳥さんは絵が好きだから、画材を買ってあげたら喜ぶと思ったのに。
俺、コツコツと無駄遣いしないで渡されるお金を溜めてたのに。
(『最後なんて言ったのかしら?よく聞き取れなかったのだけれど?』)
(『別に何でもないです!』)
少しは俺の気持ちを感じ取ってほしいですよ!
鈍感鈍感って言ってますけど、白鳥さんの方が鈍感じゃないですか!
(『何を怒っているのか知らないけど、別に貴方が私に恩を感じたのは結構だけど私としては貴方に恩を返される覚えはないわ。それに、画材を買うくらいなら貴方の趣味にでも使いなさい。正直貴方のポケットマネーじゃ足りないわよ』)
(『へ?』)
(『私が描く絵は大抵本格的になるから、キャンバス、イーゼル、ペインティングナイフ、アクリルと水彩と油絵の具等等を含めて20万以上は確実に損失するわよ?』)
に、20万以上!?え、絵を描く為だけにそんなに損失するのか!?
白鳥さんの言う通り、俺のポケットマネーではどうしようもない。
通帳のお金を引き出さなければならない金額だ。
これでは家計に危機が訪れることになる。
(『分かったかしら?だから貴方が無理して画材を買わなくていいのよ』)
(『………………はい』)
買うもなにも、そもそもお金が足りなくて買う事が出来ない。
はぁ。せっかく白鳥さんと買い物が出来て、そんでプレゼントして喜んでもらう計画だったっていうのに。やっぱり恋の道のりは険しいな。
まぁ、相手は幽霊だから最初から険しいのだけれども。
(『…………はぁ。そこまで落ち込まれると、こっちが悪いみたいじゃない。分かった、分かりました。とりあえず、いま欲しいものが無いから保留という形にして、次の休みにショッピングモールを一緒に見て回るわよ。それでいい?』)
(『は、はい!もちろんです、白鳥さん!』)
よしっ!奇跡的にデートできるぞ!
俺が頼んだじゃないけど、白鳥さんから誘われるなんてラッキーだ。
次の休み、明日が楽しみだぜ。
明日は絶対に、その人には悪いけど誰かに訓練に誘いませんように願わなくちゃな。
明日は絶対に白鳥さんとデートが出来ますように!
しかし、それがフラグになる事が俺はそのとき知らなかったし気づきもしなかった。