(『あ、あの、白鳥さん』)
(『何かしらゴミ屑?私は特に貴方に用はないのだけれど』)
(『orz………………』)
鈴とセシリアの攻撃を受けそうになり、山田先生に守られてから数分が経つ。
そして二人の対戦相手が山田先生という意外な相手だったので驚いた。
何せ俺が見た入学式の時と今までの山田先生は少し頼りない、子犬みたいな人だったのだが俺を守ってくれた時や二人を相手していた時の表情とは違って冷静だった。
山田先生、あんなに強かったんだなと内心そんな事を考えたりもしたが、今はそれどころではなかった。
(『し、白鳥さ―――――――――』)
「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だあ。では、8人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな?では分かれろ」
(『それじゃあ頑張りなさい、織斑一夏。私は遠くで見ているから』)
今日初めて、肉親である姉がこれほどまでに憎くなったけど仕方ないよね?
あぁ、世界ってなんでこんなにも無常なんでしょうか。
「織斑君、一緒に頑張ろう!」
「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ」
「ね、ね、私もいいよね?同じグループにいれて!」
「この馬鹿者どもが………。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ!順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百周させるからな!」
はぁ、白鳥さんとの距離が遠くなってしまった。
なんで俺って、こうも不幸体質なんだろう。
そういうのは専門の人にお願いしますよ、神様。
…………とりあえず、早く実習を始めよう。遅れていると千冬姉に怒られそうだし。
「それじゃあ、出席番号順にISの装着、起動、そのあと歩行をやろう。一番目は」
「はいはいはーいっ!出席番号一番!相川清香!ハンドボール部!趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!」
なんかスゲェ元気のいい返事と自己紹介をされた。
実習で気合いを入れるのは良い事だけど、あと残り5時間もあるんだから無理はしないで貰いたいものだ。
それに相川さんとは朝のトレーニングの時たまに会うから、知ってるんだけどね。
「うん、知ってる。一緒にランニングしてた子だよね?」
「あ、覚えてくれたんだ織斑君!そういう事で、お願いします!」
そう言って腰を折って深く礼をすると、そのまま右手を差し出してくる。
なんで握手なんだ?
「あ、ずるいっ!」
「私も!」
「第一印象から決めました!」
そう言って何故か他の女子も一列に並ぶ、同じようにお辞儀をして頭を下げたまま右手を突き出している。なんだ?握ってほしいのだろうか?
それとも朝の占いとかで男の手を握ると運勢が上がるとか書いてあったのか?
「「「「お願いします!」」」」
と、後ろからも同じような声が聞こえた。
振り返るとシャルルも俺と同じ状況を前にしていたようである。
男は辛いよ。
「やる気があってなによりだ。それならば私が直接見てやろう。最初は誰だ?」
「あ、いえ、その…………」
「わ、私たちはデュノア君でいいかな~…………なんて」
「せ、先生の御手を煩わせるわけには……………」
「なに遠慮するな。将来有望な奴らには相応のレベルの訓練が必要だろう……………。あぁ、出席番号順にはじめるか」
ひぃっと小さく息をのむのが聞こえた。まぁ、とりあえず合掌。生きていたならそのうち会えるでしょう。とりあえずその光景を見ていたうちの班は嘘の様に大人しくなり、相川さんもISの外部コンソールを開いてステータスを確認している。
「それじゃあ、はじめよう。相川さん、ISに何回か乗ったよな?」
「あ、うん。授業だけだけど」
「じゃあ大丈夫かな。とりあえず装着して、起動までやろう。時間をはみ出すと放課後居残りだし」
「そ、それはまずいね!よし、真面目にやろう!」
そして相川さんはISを装着し、起動、歩行を問題なく済ませ次の人に交代する。
俺はその間、チラリと白鳥さんのいる方へと視線を向けるが、白鳥さんは空を見上げている。表情は憂いも喜びみもない表情なので、何を感じているのか分からない何時もの表情だ。
…………………はぁ。どうやって白鳥さんとの仲を進めればいいのだろうか。
女の人の心は複雑で分からん。
「あの、織斑君。その、コックピットに届かないんだけど…………」
「え?………あぁ、なるほど」
クラスメイトの子からそう言われて訓練機を見て理解する。
訓練機は専用機とは違って、アクセサリーの様に出来ない。
なので装着解除の場合は絶対にしゃがまないといけないのだ。
(『何かトラブル?』)
(『うおっ!?……………白鳥さん、ビックリしましたよ。えっと、どうやら訓練機を立たせて降りたようで、後の子が困ってるんですよ』)
(『なるほど。外部コンソールを使えばしゃがませる事は出来るけど、貴方じゃ無理だから担いで乗せないといけないわね』)
(『そ、そんな!無理ですよ、担ぐなんて……………また白鳥さん避けられるかもしれないのに…………………』)
(『何を落ち込んでいるのよ、『織斑君』。私は別に貴方を避けるつもりはないわよ?』)
(『え!?じゃあ、なんであの時――――――――――』)
「というわけなので、織斑君。白式を出して乗せてあげてください」
「山田先生!?」
(『ほら、早くしなさい。このままだと放課後居残りになるわよ。訓練があるというのに、居残りさせられた理由で幼馴染たちを怒らせたくないでしょ?』)
(『うっ……………確かに……………』)
絶対に鈴辺りがバカじゃないの?とか言ってくるに違いない。
とりあえず俺は白式を展開し、二番目の子…………ごめん名前、忘れた。
とりあえず二番目の子に了承を得ようとしたのだが――――
「な、なぜ抱っこなんですか!」
なんと箒が食って掛かってきた。
何故か分からないが、まぁ反対してくれて助かった。
こっちは健全な男子。女の子へのボディータッチはなるべく避けたい。
出来ればいい案を出してくれ。
「ISは飛べますから、安全にコックピットまで運ぶのに向いてます」
「そんなことしなくても、一夏を踏み台になれば済む話でしょ!」
ふ、踏み台!?
流石にそれは嫌だな…………………。
(『ふふふふ。愛されているわね』)
(『愛されてるのでしょうか?幼馴染として踏み台扱いされかけてるのに?』)
(『貴方を踏み台にするほどのサディスティックな愛なのよ。幼馴染は実はSでしたって新感覚じゃない。付き合った代償にマゾに目覚めるかもしれないわよ?』)
(『(そんな)愛などいらぬ!!』)
「と、とりあえず俺、運ぶことにします。その方が安全そうですし」
「そうですね。安全です」
「っ―――――――。好きにしろ!」
そしてなんで箒が怒るんだよって話である。
なんでそんなに怒るんだろうか?
そんなに怒るくらいなら牛乳とか飲んだ方がいいぞ?
しかし白鳥さん、急に俺の事を織斑君と言いだしたときはビックリした。
山田先生の胸を鷲掴んだときはゴミ屑とかフルネームで呼んで距離を取ってたのに。
さっきの白鳥さんの様子を思い出す限り、もしかして俺って遊ばれてた?
………………………うわぁ。そういえば白鳥さんって、初対面の時に俺をイジメがいがあるとか言ってたもんなぁ。
ということは俺の反応を見てて絶対に楽しんでいたに違いない。
あれ?だとすると白鳥さんって、俺の好意に気づいてる?
…………………そんな訳ないよね?
一応、聞いてみるのも……………いやいやダメだ!聞いた瞬間絶対に玉砕される事は間違いない!ここはとりあえず、慎重に行動する事にしよう。
(こういう時は『焦らずゆっくり』、だな。白鳥さんは白式でもあるんだし、これから学園にいる間、もしくは卒業しても一緒にいるかもしれない。だから今は焦らない焦らない。何事も冷静にだな)
そんな事を思いながら、俺はクラスメイトを訓練機に乗せるのであった。
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4時限の授業を終えて、屋上で弁当を広げる織斑たち+オスカル。
織斑やオスカルがいるのにも関わらず、殆ど屋上は独占状態であった。
それにしても、屋上が普通に許可なく使えるとはね。
私の世界では有り得なかったわ。それに此処まで綺麗じゃないし。
(『しかし、見ているだけで貴方がハーレムを形成している図にしか見えないわね』)
(『いやいや何を言ってるんですか白鳥さん。ありえないでしょ普通に考えて?』)
(『普通に考えて?じゃあ何をどう考えれば普通じゃないのかしら?3人が態々貴方に弁当を用意していて、しかも用意した女は私には劣るけど美少女。傍から見れば羨ましい光景にしか見えないわよ?』)
(『うっ、なんか否定できないですけど…………………でも、箒やセシリア、鈴が弁当を用意したのって俺に味見させたい、作り過ぎただけだろうし他意はないと思うんですけども………………』)
(『はぁ…………私が前に自信を持ちなさいって言ったのを覚えているかしら?』)
(『は、はい、勿論!(白鳥さんにとって俺は魅力的だと言われたんだ。忘れるわけない)』)
(『覚えているのならいいけど、貴方は少し自信を持って、自意識過剰になってもいいのよ。まぁ、過度な自意識過剰は、バカにしか見えないだろうからね』)
(『ははは。俺も最初、白鳥さんが凄い自意識過剰だからその部類なのかと――――』)
(『今からこの場に居る専用機持ちに、『織斑一夏は実の姉を性的な目で見てる』っていうメッセージを送り付けてやるわ』)
(『ごめんなさい謝りますから許してください白鳥さん!!』)
(『全く、自信を持つよりもその余計な事を言う口を直さないといけないのかしらね。私が過度な自意識過剰?舐めるんじゃないわよ小僧。今まで、死にもの狂いで自分を磨き上げてきたんだから、誰もそんな事は言わせなかったわ。自分の頭脳や美貌、そして身体能力など全て自分が磨いてきた結晶の様なものであり、誇れるものよ。だからこそ私は自分を素晴らしいと思っているし、美しいと評価している。たかが10数年生きた小僧が、知った様な口を聞くんじゃないわよ。』)
(『…………………本当にすいませんでした』)
ふぅ。長々と喋ると何故か疲れたわね。
まぁ、喉が渇いたりしないのが幸いなのかしら。
(『でも、白鳥さんが努力する姿なんて想像はつきません。努力しなくても、白鳥さんには才能がありますし……………』)
(『才能なんて、一種の特技の様なものよ。自分の磨くべき点を見つけ、そこをずっと磨きつづけた結果が私という完璧な存在なの。磨き続ける事を辞めてしまえば、何時しか腐っていく。貴方が剣道を途中でやめたようにね』)
(『うっ…………でも、今はちゃんと頑張ってます。少しずつですけど………』)
(『そうね。それに私が思っていた以上に貴方は成長を遂げている。貴方には貴方の才能があるんだから、腐らせず磨きつづけなさい』)
(『はいっ!!』)
元気よく返事を返す織斑。
ここ最近、織斑の成長は私の予想を遥か上を行くように成長している。
多対一での訓練により状況把握能力、空間認識力、反射神経、洞察力、単純な操縦技術などが成長しており、朝のトレーニングでは体力、筋力、瞬発力なども大幅に伸びてきている。こうなると、もう私の指導は不要になってくるだろう。
後は彼自身が自分で自分を管理で来さえすれば、もう私が教える事は何もない。
(だとすれば、それから私はどうするべきだろうか………………)
私は白式に憑依した人間。
遠くまで離れる事は出来るが物体には触れることが出来ない。
しかし、ただ何もせず背景だけを眺めるのはつまらな過ぎる。
だからと言って、ISの戦闘の時は茶々を入れるわけにもいかない。
彼自身がそれを拒んでいるのだから。
(…………………少し、実体化というものを試してみましょうか)
別に織斑の為でも無い。自分の為にやるのだから。
私は別段彼を異性として好いている訳でもない。
彼は私にとって弄れば楽しい人間という立ち位置の存在だ。
他に思いつく理由などない。
私にとって、織斑一夏なんてその程度なのだから。
(『し、白鳥さん、へ、ヘルプ……………』)
((何を考えているのかしらね、私ったら) 『はいはい。今度はどうしたのよ?この場に居る誰かの弁当が不味かったわけ?』)
(『ま、不味い…………いえ、まぁ、不味いというより甘いんですよ、セシリアのサンドイッチが。BLTサンドなのに………………』)
(『BLTサンドで甘い、ねぇ。イギリス人の舌は充てにならないとは言うけれど、少し見せなさい………………。なるほど。シロップやら蜂蜜やら練乳やらなんやら入っているわね。正気の沙汰じゃないわ。糖分過多で糖尿病コースまっしぐらよ』)
(『り、鈴や箒の弁当もあるのに、あと半分食べなきゃいけないとか、地獄です……………たぶん俺、死ぬかも…………』)
(『でも食べると言ったのでしょ?なら、残さず食べるのが男ってものよ。精々頑張る事ね』)
(『白鳥さん!せめてこういう場合の解決策を!』)
(『安心しなさい。仮に死んでも、私が蘇らせてあげるから』)
(『え?も、もしかして…………人工呼―――――――――』)
(『軽い心臓マッサージだけど、白式から数千ボルトの電流を貴方の腕を伝って心臓に送り込めば動くでしょうね。知ってる?心臓って、刺激を与えると動くそうよ?』)
(『期待した俺がバカだった!』)
何を期待していたのか知らないけど、安心しなさい。
死なない様に百ボルトから始めて百ずつ上げて良く方針でやるから。
ゆっくりと昼休みを過ごしなさい、織斑。