鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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番外

 

 

 

 私、織斑千冬は気がかりだった。それは弟である一夏の事についてである。

 オルコットとの試合の時から、私はずっと気になっていたのだ。

 アイツとオルコットの試合は目を見張るいい試合だった。

 しかし、私はそれが気がかりで仕方がなかった。

 

 

 本来、ISに関して素人とも言える一夏が代表候補に勝つなど0では無いとしても勝率は半分、2割くらいの賭けにしかならない。

 ISの知識もそうだが、アイツは小五から剣道を辞めて鍛えてすらいなかった。

 それをどうやった僅か1週間で代表候補生相手に、『シールドエネルギーに余裕がある』勝利を収めることが出来るだろうか?

 だから私は一夏の専用機である白式の開発者であり、友人でる束に電話をした。

 

『やっほ~、ちーちゃん!貴方の束さん―――――――』

 

「お前のくだらない話を聞くつもりは無い。今から本題を話すから聞け」

 

『ぶぅぶぅ!久しぶりの電話なのに攣れないぞ!まぁ、ちーちゃんが聞きたい事は大方いっくんのISの事なんでしょ?』

 

「話が速い様で助かる。それで、束。お前は一夏のISに何か仕掛けたりしたか?」

 

『何もしてないよ~。むしろ、私の方が驚きだよ!本来白式の武装である雪片の形状と名前が変わってるし!一次移行するタイミングも全然違ってたし!ホント分からない事だらけだね♪』

 

「お前でも分からないこと、か…………………」

 

 オルコットとの試合を終えた後に、私は一夏のISを一時期借りて精密に調べたが何の変哲もないISだった。

 しかし、それでは一夏の『あの動き』に関して説明がつかない。

 初心者が『代表候補』並に動かせるあの異常な光景はどう説明する?

 もしかしたらと思い、白式にAIもしくは人格が存在していたからと仮定して調べたが『プライベートチャンネル』で会話した形跡などなかった。

 他におかしい所、気になる所がないか私はあの時の記憶を掘り起こしている中、一つだけ気になるところがあった。

 

(確か、一夏は幽霊が見えると言っていたな…………………いや、バカバカしい。そんなもの存在しないと結論付けたではないか。だが……………もし、一夏の言葉が本当であるなら説明が付くだろう)

 

 しかし、だからと言って見えない、会話の記録が残らないのはおかしいのだ。

 どちらか一つが当てはまるはずなのに、それが無いとすれば幽霊が見えたという一夏の証言はうわ言に過ぎないと判断される。

 私は考えれば考える程、訳が分からなくなってきた。

 

「…………………おい、束。お前は、幽霊という存在を信じるか?」

 

『はい?ちーちゃん、もしかしてその年齢で幽霊を信じてるの?』

 

「なわけないだろうが。一夏がな、試合前に幽霊が見えると言ったんだ。後日には見えないと言っていたが、まさかと思ってな………………で、お前はどう思う?」

 

『幽霊、ねぇ…………そんな非科学的な存在を束さんが信じるとでも?幽霊を信じるなんてそもそも神を信じるのと同じくらいトチ狂ってると思うんだけど?』

 

 それもそうだ。

 神様はいるとか言われているが、そもそも神など人間が作り出した妄想に過ぎない。

 それと同義で幽霊など神がいると言っているようなものなのだ。

 

『でも、いっくんの言葉が気になるね。その幽霊の特徴かなにか言ってなかった?』

 

「どうだろうか……………いや、一つだけ言って気がするな。『綺麗だ』と」

 

『綺麗……………う~~んっ、それだけじゃ分からないかな………とりあえず私からも調べてみるね!ばはは~~いっ!』

 

 束はそう言っていたが、精密に検査しても分からなかったんだ。

 アイツでも分からない……………いや、どうだろうな。

 とりあえず、私ももう少し調べてみるとしよう。

 

 

 

 

 

 調べた結果だが、特にアイツ自身怪しいところなどなかった。

 ただ気になるところが幾つかあった。

 アイツが基本的にやる訓練はよく考えられているという処である。

 経験の少ない一夏に必要なのは、経験は勿論として武器の特性と操縦技術である。

 

 

 篠ノ之とオルコットとの訓練の時は基本的に2対1、オルコット&篠ノ之対一夏の訓練であり、篠ノ之に訓練機の許可が下りなかった場合はオルコットにライフルを借りての射撃訓練と操縦技術を教わり、二人が言い争いをしている間は瞬時加速や無反動旋回などをお浚いしている。

 まさか独自で瞬時加速を身に付けるとは思ってもみなかった。

 

 

 そしてもう一つは朝である。

 偶然早く起きた私は一夏が朝早くからトレーニングをしていたのを見たときだ。

 普段のアイツだったら、ギリギリまで寝ているはずなのにIS学園に来てから毎日やっている。訓練内容を遠くから見た限りでは1キロ以上あるグラウンドを一定の速さで15週ランニングし、簡単な筋トレを100回3セットくらい熟している。

 

(何が一夏をそうさせているんだ?向上心があるのは良いが、一夏にしては少し異常すぎる…………………)

 

 ISの訓練や朝のトレーニングメニューは全て今の一夏に適した方法だ。

 それをアイツが時間を掛けないで自分で考え出せる様な奴か?

 私が知る限りでは有り得ない。アイツは基本的にバカだ。

 IS初心者のアイツが僅か数日で自分と機体の弱点を理解できる様には見えない。

 

(だとすればアイツ…………なわけがないだろう。だとすれば幽霊……………くそっ。考えれば考える程分からなかくなってくる!)

 

 お蔭で授業や職員室関係なくイライラしたものだ。

 イライラしてた時に、苛立ちの原因である一夏から『千冬姉、イライラしてね?だったらグレープフルーツとか牛乳を摂った方がいいらしいぜ?まぁ、千冬姉の場合は葡萄酒の方が良いだろうけど』などと言っていたので、とりあえず葡萄酒、ワインを飲むことにした。

 何でも食前で飲むと良いらしいが、言われたとおりにやってみれば若干ストレスが解消された気がする。

 しかし、『なんでこんな事を知ってるんだ』と逆に考えてしまい、更にストレスが増えたのは言うまでもない。

 なのでとりあず私は―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 ―――――――――考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

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 私、篠ノ之束は驚きの連続だった。

 ちーちゃんからいっくんが突然変になったと言われ、私も同じ意見だったのでありとあらゆる手を使って調べたのだが、特にめぼしい答えが出なかった。

 白式のネットワークに入り込んで色々中身を洗いざらい調べても、特に私が欲しいような情報はなかった。

 

 

 ちーちゃんが言うようにいっくんに幽霊が見えていたというのが本当であれば、プライベートチャンネルで会話した痕跡はあるはずと思っていたのだが、プライベートチャンネルを使ったのはイギリス女とのくだらない会話くらいである。

 しかし、それで諦める束さんではない。

 

「とりあえず、ゴーレムを送って実際に怪しい所探ってみよっかな♪」

 

 そう言って私はIS学園にゴーレムを送り付けた。

 そしてIS学園に攻め込み、遠隔操作、私が作ったAIで動くゴーレムはいっくん達を襲い始める。しかし、驚いたことにいっくんはあまり動揺している顔ではなかった。

 寧ろ少し目を見開き、直ぐに落ち着いたのだ。相方の中華民族女は動揺していたというのにもである。

 

(まさか、ゴーレムが来ることを知ってた?だとすればちーちゃんと私が調べているのも知っているって事なの?ううん、そんな訳ない。今のいっくんにそんな事が分かるとは思えない。私が知る限り、今まで普通の男の子だったんだよ?だとすれば、外部から?亡国企業、有りそうだけどいっくんと接触した場面なんて無かった。じゃあなに?もしかしてちーちゃんが言うように幽霊が―――――――)

 

 などと考えていると、何やらいっくんがゴーレムを追い込んでいた。

 シールドエネルギーに余裕があり、ゴーレムの攻撃を的確に回避し、相方と上手いぐわいに連携を取りながら攻撃して来る。

 そしてメインカメラである頭が切断され、幸い切断されて機能していたし飛ばされた場所はアリーナの殆どを視界で捉えられる場所だった。

 

 

 それにもう一つ驚いたのが、まさか人間が動かしているもしれないというのに躊躇なく零落白夜を使い、頭を切断したことだ。

 AIには、人間に近い動きをするようにプログラムしたのだが、こうも早く機械が操作しているのと気づかれるとは思っても見なかった。

 面白い。何か分からないけど、面白い!

 

「面白い。何か知らないけど、いっくんを此処まで成長させた『何か』が気になる!とりあえず、スパイダーモード!」

 

 遠隔操作で私はゴーレムに指示を送る。

 するとゴーレムは手を地面に付けて態勢を低くし、蜘蛛の様な形態になった。

 武装が変わるわけではないが、機動力は二足歩行の時よりも数段上がるので取り入れた物である。

 スパイダーモードに変更すると、苦戦を強いられ始めたのだが、またもいっくんがいち早くメインカメラが生きていることに気づき、メインカメラが捉えられない場所へと飛んで、ゴーレムを撃破した。

 

「ふ、ふふふふ、あはははははははっ!凄い凄い!何か知らないけど、凄い!いやぁ、いっくんが此処まで成長する理由は何?人間なの?それとも目に見えない何かなの?いやぁ、本当に分からない事だらけ!」

 

 いっくんがゴーレムを特撮のヒーローの様にカッコよく撃破したシーンを見て私は大いに笑った。何が織斑一夏という存在を此処まで変えたのか。

 織斑一夏の目には一体何が映っているのだろうか。

 私はそれが気になって仕方が無かった。

 

 

 私が知らない事を織斑一夏は知っている。

 彼が何を見て、何を思って、何を感じてこんな風になったのか。

 気になる。知りたい。聞きたい。解剖したい。

 

「会える日が楽しみだな~~~~っ♪」

 

 

 

 

 

 今はまだ忙しくて会えないけれど、きっと直ぐに会いに行くからね♪

 

 


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