もし、運命的な出会いがあると言ったら俺以外の人たちはどう思うだろうか。
具体的に運命的な出会いには色々あり、俺が言った運命的な出会いは何を指すのか誰もが疑問に思うだろう。
「………………」
「?…………一夏、どうかしたか?」
「あ、いや。何でもないぜ、千冬姉」
「織斑先生だ、バカ者」
織斑先生、もとい千冬姉の出席薄の攻撃が俺の頭に炸裂する。
普通なら、頭を押さえて悶絶する様な痛さなのだが今俺の目の前の光景に目を奪われているので痛みは感じなかった。
(『うわぁ……痛そうね。いまガスッと言ったわよガスって…………』)
目の前にある白いISの上空に、半透明の女性が浮いている。
見た目や大人っぽい雰囲気を放っていて、俺よりも年上なのは分かる。
だが、それだけでは俺は目を奪われないし周りの声が聞こえなくならない。
その女性は栗色のウェーブがかかった髪をしており、身長は兎千冬姉や幼馴染の箒よりも低いけど胸が大きい、言わばトランジスタグラマーだった。
「綺麗だ………………」
俺はこの時、胸に何かときめくものを感じた。
それが何なのか、俺が知るには少し先のことである。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
もし神様という存在がいるのであればぶん殴ってやりたい。
私、白鳥 白雫(しろな)はこう見えても大学を卒業して結婚した身だ。身長148だが大学生であり、決して小学生ではない。
証拠として自意識過剰に言わせてもらえば頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗なのだ。もっと言わせてもらえば色んな男から告白されるのは当たり前の毎日であった。
まぁ、全部断ってたけどね(自信ありげ)
しかし、そんな私でも戸惑う事が起きた。
(『な、なんなのよこれはァァァアアアアアア!?』)
目を開ければ私は知らない場所に居て、半透明になっていて、白衣を着た知らない奴らに囲まれていたのだ。何やら白衣を着た科学者らしき者達は私を、もとい私の下にある大きな鎧みたいな物を見て口論している。
(『なに?これってどういう事なの?私は確か、夫の浮気現場を見て家を飛び出して、雨の中を歩いてたらトラックが私の方に走って来て、それから…………』)
記憶が無かった。私は何時もより遅く仕事を終えて家に帰宅したが、家には夫と私が知らない別の女がいて、互いに抱き合っている現場に遭遇した。
夫と知らない女と目が合い、夫は誤魔化すように私に言い訳を並べて来たが私はそんな夫に怒りを覚え思わず殴り、蹴り、湧き上がる怒りが収まるまで集中的に顔に打撃を与え続けた。
その後、私はもう何も信じられなくなって家を飛び出して、雨の中を歩いていたら横からトラックが来て、それで………………。
(『あぁもう!なんでそれから覚えてないのよ!つうか、あの男の事を思い出すだけで腹立たしいわね!!』)
八つ当たりの様に私は目の前にいた名も知らない女や男たちの顔面や腹を殴り、蹴りを入れるが半透明、つまり幽霊っぽい事になっていたので攻撃は普通にすり抜ける。
こんちくしょうがっ!
(『くっ、落ち着け私。昔を思い出すのよ、白鳥 白雫。私は学校では冷静沈着、文武両道の完璧美少女。あんな糞同然の男なんて幾らでも居たし、忘れるのよ。いまは冷静になってこの現状を考えることよっ!』)
何度も心の中で暗示を唱え落ち着く私。
さて、落ち着いたところで考えてみよう。
私は知らない場所にいて、半透明だ。周りにいるのは科学者らしき人たちばかりで、見ているのは私の下にある白い大きな鎧らしきもの。
うん。全く分からん。
(『でも、さっきから此奴ら『びゃくしき』だの、『しののの たばね』だの、『あいえす』だのと私の知らない事を話しているわね。………………うん?アイエス?』)
なんか、頭の中に引っかかるわね。
なんだったかしら。確か、高校時代に私の友達(かどうだったか知らないけど)が私に貸してくれた本に、そんなタイトルがあったような気がするのだけれども……………あれって確かインフィニットストラトスじゃなかったかしら?
略せば、ISっていう略称になるけれど、どうだったかしらね。
(『うん?だとすればここは小説、物語の世界って事?まっさかー』)
そんなアホらしくて、非科学的な事など有り得ない。
輪廻転生など、宗教、つまり生まれ変わることなど空想に過ぎないのだ。
私がもしトラックで死んだ、もしくは病院に搬送されたならまだ理解できるが、輪廻転生なんて信じはしない。
宗教の存在を否定する気はないが、生憎私は無宗教だし非科学的な事は信じない。
バカバカしい。これはきっと夢に違いない。
一眠りすれば、きっと病院のベッドか
後日。
………………最低な寝覚めだった。
目を開ければ変わらない光景。科学者らしき人たちが私の下にある鎧を囲んで口論。
うん。バカみてぇな光景だなぁ!
なんで!?なんでなの!?
こういうのって大抵夢オチじゃないわけ!?訳が分からないんだけど!?
あぁ、もう……………夢よこれはっ!きっと夢なのよ!
もう一度、もう一度眠れば元通りの筈!今度こそ夢から覚めるはずよ!
数日後。
……………………夢であるようになんて歌のサビが頭の中に響いた気がする。
何度も眠って起きてを繰り返してきたが夢から覚めなかった。
多少変わった事と言えば、鎧、もとい私が別の場所に移動したという事だけだ。
(『ふ、ふふふふふっ、アハハッハはははははは!よし、死んでみよう!』)
だがしかし、それが出来ないのが現実だ。
半透明の私は物体を持つことが出来ないし、持とうとしても壁や地面を貫通する。
これぞハーマイオニーパンチである。(おいやめろ)
(『……………こんなの、信じざる負えないじゃない』)
非科学的な事は信じない。幽霊や怪奇現象なんて作り話で作り物だと思っていた。
でも、いまの現状は信じざる負えない現状であり、現に私は知らない場所、いや、知らない世界に来ている。
とりあえず幽霊(仮)である私は外に出て様々な情報を得た。
私の知らない単語、事件、情勢、総理大臣、有名人等等。幽霊(仮)の状態である私に出来る事全てをやった。
どうやらこの世界はISというパワードスーツが存在する世界であり、女尊男卑という風潮が広がっているそうである。
ISとは何か、それは高校時代に借りた小説を思い出しながら考えたけど、いわばあれでしょ?兵器でもあり、宇宙に行くためのロケット要らずの機械みたいなもんでしょ?それでそれを作った人物は篠ノ之 束という天才なんでしょ?
(『ふふんっ。これくらいの情報を取得するなんて簡単だったわ。天性の才を持ったこの私に掛かれば、情報収集なんてお手の物よ』)
あぁ、自分の才能が怖いわ。とりあえず、私が天才的なのは後にしておいて私の現状についてね。私の状態は幽霊なのは分かっている事なのだが、どうも幽霊と言っても付喪神に近いタイプだと考えている。
付喪神とは簡単に言えば長く使っていた物などに魂が宿る事である。輪廻転生に近い感じであり、私は白式というISの付喪神みたいなものだろう。
はぁ、非科学的な事は信じなかった私がこんなオカルト言語を言うなんてゾッとするわ。まぁ現実に起きていることを信じなければ逃げているのと同じだけどね。
さて、ここで一つ問題である。私がISに憑依、もとい転生しました。
ならここはインフィニットストラトスという小説の世界なのだという事に関してである。正直、私は読んだ本の内容を忘れないのだがどうも思い出せないのだ。
主人公の名前は何だったか、ヒロインは一人だったか、敵はどんな人物だったのか曖昧になっている。
しかし、何故か白式という言葉だけが何となく名前だけ憶えていた。
(『よりによってなんで肝心な主人公の名前や素性を覚えていないのよ私は………でも白式に転生したという事は何かしら物語に関わっていくんじゃないかしら?』)
「それはないわー」と私は内心ほくそ笑む――――――――――
時期があったわよっ!
ある日のこと、私は白式のデザインが少しカッコいい、製作者は美的センスがあるわねと褒めていた時のことだった。
科学者たちの口ぐちから白式の操縦者らしき人物の名前を私は耳にしたのである。
その人物の名前は織斑 一夏という少年らしい。
今年で中学を卒業し、IS学園という女子だけしか行けない学校に入学することになった男である。何でも高校受験の時にISを動かしたことで入学することが決まったのだ。テレビや新聞でも大きく取り上げられている。
(『絶対この男が主人公だわ』)
小説お決まりの男か女か分からない中性的な顔のイケメンで、女しか入れない学校に男子が一人だけ入学するというお決まりのパターンを起こすから間違いなくこの男が主人公の筈だ。
(『ふ~んっ、顔立ちはまぁそこそこ良いじゃない。キリッとしてるし、何気にしっかりしてそうね。でも、こういう男ほど優柔不断なのがお決まりなのよね』)
どうせ女からさぞ告白されたでしょうね。
ふんっ。多少顔は好みだけど、私はこんな男なんかに靡かないわよ。もう私は悟ったの、理解したのよ!男なんて身体だけ求める生物で、愛なんて二の字!
夫、もとい糞野郎もわたし好みだったけど、猿みたいに盛ってくる様な男だった。
結婚したにもかかわらず処女は捧げていないけれど、なんで私はあんな男と結婚したのだろうか………………あ、私のせいか。
そして、現在に至る。
私はついにIS学園に搬送され、目の前に主人公らしき男、織斑一夏と知らない女たちが私の前に立っている。
そして何やら織斑 一夏は白式、いや、私を見つめて綺麗と呟いたのだ。
「確かに装甲は白くて綺麗だが、私はどちらかと言えば凛々しいという言葉が似合うと思うのだが?」
「え?箒、もしかして見えてないのか!?」
もしかして、此奴私のことが見えてる?
今まで誰も私が見えなかったのに、この男は私を見えてるって言うの?
よ、よかったぁ。誰も私が見えないから、なんだか安心した……………って、何を考えているのよ私はっ!
まるで私が誰ともお喋り出来ないから寂しいって思ってるみたいじゃない!
(『落ち着け、落ち着くの白鳥 白雫。私は常に冷静沈着の美少女!周りから慕われて私に話しかける人たちは大勢いたけど、一人の時は別に寂しいなんて感じなかったわ。むしろ一人が気楽だったし、逆に話しかけてくる奴らの内容はどれも同じだったから正直イライラしていたのよ!えぇ、そうよ!寂しくなんて無いわよ!』)
「………………一夏、私をバカにしているのか?目の前のISくらい、普通に見えるぞ。私は盲目な訳ではないのだが?」
「いや、そうじゃなくて!ほら、見えないのか。あの白いISの上にいる女の人!ブツブツ何か言ってるけど、ほら!」
「………………織斑。疲れて幻覚を見ているのではないか?」
「………………すまない一夏。剣道を辞めたからと言って、無理やり私の我儘に突き合わせてしまって。この試合が終わったら、何か疲れが取れる物を作ってやろう」
「お、織斑君!女の子ばかりの生活が辛くなるのは分かりますが、辛い時は先生に相談してくださいね?」
「やめて!そんな優しい目で見ないでお願いだから!」
っと、いけないわね。またいつもの癖が出てしまったわ。
落ち着くのよ私は。一人なんて寂しくない。
むしろ『一人上等!』、『一人イェーイ!』よ。
………………………ふぅ、落ち着いたわ。いつものパーフェクトな私になったわ。
それにしても、私のことが見えているとは驚きね。
流石に嬉し、じゃなくて驚いたけど、まぁ操縦者と意思疎通くらいはしてやってもいいんじゃないかしら?
うん。そう意思疎通程度よ。何度も言うけれど、『意思疎通』くらいはしてやってもいいと思うわ。
別に寂しいからとかじゃないし、アンタに興味を持ったからじゃないんだからね!