大校長の逆行   作:イド@

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文才なし、思いつきの見切り発車。レックスさんは強い設定ですが、無双とかはありません、多分。宜しければ、暇つぶしにでも。


第0話 迷子 what's happen?

 界境都市セイヴァール、嘗て名前のない忘れられた島だった場所は、今では様々な世界の住人が共生する、活気づいた都市となっている。

 狂界戦争の後、響融化されたこの世界は、それ以前の世界よりも、異界の存在がいたるところで見られている。初めは戸惑っていたリィンバウムの人々も、時代の流れと異世界調停機構、ユクロスの召喚師たちの尽力によって、異界の存在とうまくやっていくことに成功していた。

 そんな界境都市セイヴァールの片隅、集いの公園と呼ばれる場所で、のんびりと釣り糸を垂らす男が一人。人目を引く鮮やかな紅い髪が特徴的である。年の頃は、20代半ばといったところだろうか、欠伸をしながら、気の抜ける顔でぼんやりと空を見上げている。

 男の後ろには、なぜか宝箱の山が積み重なっており、傍に置かれたバケツに、魚は一匹も見られない。この、一種の異様な光景を作り出している男は、名をレックスという。セイヴァール響界学園の大校長であり、抜剣者であった。

 

 ぽちゃり。

 釣り針から宝箱を外し、餌をつけて、再び釣り糸をたらす。自分の背後にどんどんと積み重なっていく、宝箱の山に、慣れたとはいえ、溜息が漏れる。この小さな釣り針に、どうやったらあのような宝箱が引っかかるというのか。昔は普通に魚が釣れていたはずなのに、気が付けば、無機物しか釣れなくなっていた。解せん。最近、たまに一緒に釣りをしている、赤い髪の少女、アルカ君は普通に魚を釣っているというのにだ。来るたびに、大量に釣っていくアルカ君に、羨望の目を向けていると、アルカ君と、彼女の響友である、スピネルちゃんは苦笑しつつ、先生のほうがすごいですよと言っていた。

 確かに、宝箱は普通の魚よりも価値のあるものが多々はいっている。金銭的な価値で言えば、凄いと表することもできるのかもしれない。駄菓子菓子。釣りの趣旨とは、魚を釣ることだ。俺の目的は、魚を釣ることではなく、ましてや、宝箱を釣る事でもないが、やはり、魚を釣りたいとは思う。人情的に。だが、タコ、君は例外だ。

 ぐいっ。

「お?」

 益体もないことを考えていると、何十年ぶりかに、釣り糸が、生き物の引っ張る感触を伝えてきた。思わず一人、声を漏らす。人の寿命はとうの昔に超えて、いわゆる、おじいちゃんな精神年齢に達していると思っていたが、嬉しいものは嬉しいらしい。年甲斐もなく、少しワクワクしながら釣り糸を引っ張る。

 ぐんっ。

「え」

 次の瞬間、俺の体は湖に放り出されていた。比喩とかではなく、文字通り。予想以上、いや、予想外な竿の力に、完全に油断しきっていた俺は、竿に引っ張られる形で、湖に頭から突っ込む。

 ど、ど、どういうことなの。

 水の中でパニクる俺。水の中に入ってもなお、いや、より一層強い力で、水底の方に引っ張られていく。魚が引張ているとかいうレベルじゃあない。これはやばい。いつの間にやら、伝説となっているらしい、抜剣者としてどうなの。ここ何十年と命の危機なるものを感じなかった俺は、完全に平和ボケしていた。驚きから立ち直って、抗おうとした時には、すでに遅し。

 がぼっ。

 抜剣者で、限りなく不老不死とはいえ、体の構造は人間。酸欠で意識がブラックアウトしていく。ていうか、これ、竿を離せばよかったんじゃ・・・。余りにも当たり前なことに気がついたのは、意識を失う直前だった。

 

『先生!』

 ああ、ベルフラウじゃないか。余りにも懐かしいその姿に、思わず頬を緩める。赤い服に、赤い帽子。金髪の髪を持つ、勝気な目の俺の初めての教え子は、随分久しぶりの姿だった。彼女とは大分前にお別れをしたが、その時の姿は、もっと大人だった。しかし、今目の前にいる姿は、俺が、彼女と初めて会った時そのままだった。これは夢だとわかりきっている。でも、本当に久しぶりに見た懐かしい姿は、俺を嬉しくさせるには十分だった。教師としての親愛の情を込めて、彼女に微笑みかける。いつも一緒にいる、オニビはどうしたのだろうか。

『ねぇ、先生。知っていた?』

 そういえば、ベルフラウはこんな声だったな、と懐かしく思いながら何がだい?と聞き返す。今日の夢はとってもいい夢だ。こんなにも鮮明な仲間の夢を見たのは久しぶりかも知れない。

『あなたの渾名、●ィンコガードなんですってね?』

 前言撤回。悪夢だこれ。

 

「そんな渾名初耳なんだけどっ!?」

 勢いよく叫びながら飛び起きる。数百年たって知った、衝撃の新事実。できれば一生知りたくなかった。誰だ、誰が言い出したんだ。抜剣も辞さない。名誉のためにも滅する。

 と、そこまで考えたところで気づく。自分のいる場所が何処かわからない。砂浜と海、少し向こうには森が見える。やけに暑いと思ったら、ギラギラと光る太陽が、容赦なく光を降らせていた。

「ここは・・・」

 セイヴァールではないのだろうか?どこかで見たことがある風景なのに、セイヴァールではないという違和感に眉をひそめる。湖に落ちたといのに、海にいるとはこれ如何に。俺が知らないだけで、海につながっていたのだろうか。

 取り敢えず、座り込んでいるだけでは何も解決しない。何かに襲われないとも限らない。砂に手をついて立ち上がろうとして気づく。片手で、例の釣竿を握っていた。どうやら、溺れてもこれは手放さなかったらしい。どんだけなんだ。とりあえず、武器になりそうだから、持っていこう。何も無いよりはましだろう。

 危なげなく立ち上がる。溺れたりもしたが、体に異常はないようだ。健康体そのものである。魔剣の守護は、このような時も健在のようだ。喜ばしいことばかりではないが、この時ばかりは感謝だな。

 周囲を見渡してみる。やはり、人影はない。とりあえず、街なりなんなり、人を探すことにする。自力で場所がわからないなら、人に聞くしかない。セイヴァールからそう離れてはいないだろうが、俺は本来、あの街から離れてはいけない存在だ。早く帰らなければならない。

 湖に落ちてからどれほどの時間が経っているのかは謎だが、太陽の位置からして数時間は確実だろう。まさか、数日とは考えたくない。大騒ぎになる。勝手にいなくなった俺に気づいてクレシアが怒っている様子が目の前にあるかのように想像できた。今回のことは、不可抗力・・・だよな?あれ、そうでもないか?やばい。冷や汗が出てきた。

 森に向かって歩いていると、意外と近くの岩場のむこうから、誰かの話し声が聞こえてきた。微かに聞こえる声を聞くと、どうやらリィンバウムの人間のようだ。

 セイヴァール響界学園の大校長なんてものになっているが、異界の言葉には、あまり自信がない。最初に会う相手が、リィンバウムの人間で正直助かった。俺はどことなく、気分が上昇するのを感じながら、岩の向こうによじ登って向かう。もう少しで、岩の向こうに顔を出せるといったところで、相手の話す内容がはっきりと聞こえることに気づいた。盗み聞きはあまりよくないのは分かっていたが、なんとなく聞き入ってしまう。

 

「あんたのその豪胆な性格、気に入ったぜ!」

 

 どこかできたことのある声だな、と不思議に思いつつ、次の岩の出っ張りに手を伸ばす。

 

「俺の名前はカイル!」

 

 伸ばした手が固まるのがわかった。そのまま硬直する。今、なんて言った?

 

「で、こっちの客人がヤードって言うんだ」

 

 まさか。まさか。これは夢なのか?でも、そういえば、あの声は確かに・・・。

 

 震える手を押さえつけて、ゆっくりと登り、岩場から顔を少し出す。

 

 そこにいたのは、金髪の大柄な男と、灰色の髪の穏やかな風貌の男。そして、赤い髪の女性と、その女性の影に隠れるようにしている小さな少年だった。

 少年は二人の男を警戒しているようだが、女性の方は早くも打ち解けているようだ。楽しそうに談笑している。俺は、二人の男の顔を見て、思わず息を飲んだ。女性と少年に見覚えは全くなかったが、こちらの二人は、余りにも懐かしい顔ぶれだった。

 カイル、ヤード。

 嘗て、遥か昔、一緒に戦い、俺を支えてくれた仲間だった。しかし、彼らが生きているはずがない。俺がとっくの昔に、見送った存在なのだ。それこそ、声や顔を忘れそうになるほど遠い昔に。

 しかし、彼らはそこにいる。俺が初めてであったあの頃のままの姿で。

「どういうことだ・・・?」

 俺は、岩にへばりついたままという大変間抜けな格好で途方に暮れた。




サモンナイトシリーズは、小説は読んでいないため、細かいミスがあるかもしれません。なにか重大な間違いがあれば、ご指摘よろしくお願いします。

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