境界の彼方~G-ゴジラ-を継ぐ者~   作:フォレス・ノースウッド

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さて今回は、何かノリノリで書いてしまったプロローグ以来の戦闘回な第四話です。

やっぱどうも自分はアウトロー系の主人公が好きならしく、本作のゴジラの澤海君はすごく生き生きと戦いに興じるスリルジャンキーと化してます。
一応ファイズのたっくんとか、X-menウルヴァリンを参考にしてアクション作ったら、とんだ荒くれファイトに(戦慄
地の文がけっこうお茶目なだけに、余計恐ろしさが引き立つ仕様です。

そして恐ろしいのが、原作のゴジラも作品ごとに大小あれど、オーバーキルは基本という容赦のなさ。


ちなみに澤海の相棒(やきいもポジ)なオリキャラの子狐ちゃんのCVは悠木碧ちゃんです。
名前でも分かる様に、澤海のモチーフの一つはたっくんなので、555繋がりも兼ねて。

それも主人公なのに原作もアニメ(最終回で無双したけど)もほぼ非戦闘員な秋人ですが、どうにかしようと前回に続いて男気を見せてくれますよ。


第四話 - Outlaw

 四月十三日、今日の選考作業中心とした部活動はとっくに終わり、すっかり夕陽は水平線の奥へ沈み、空は紺色がかった夜天となった頃。

 俺は屋上に設置されたタンクの上に腰かけて、丁度良い塩梅の涼しい夜風を浴びていた。

 学校そのものの身長は、人間の尺度で100mはあったゴジラの時よりずっと低いというのに、なぜか不思議にも人間の姿から見た高所は中々に壮観なものだった。

 かつては憎々しくてたまらず、ある海のウルトラマンからは〝愚かな光〟と揶揄された味気ない電気の灯りも、それなりに悪くない………とても壊し甲斐のある光りどもだ。

 できることなら、この地上の星たちを破壊して廻りたくもなるが、現在の俺は曲りなりにも人様の社会に身を置いている身なので自重しよう。

 説明すると、今のは人工の光につい反応してしまうゴジラたるの自分らの困った習性だ。特に〝初代様〟にこの光は、怒りの火に大量の油をぶっかけるにも等しい。

 ただやっぱり、夜において一番映える〝光〟は月だ。生憎今日は半月と半端さは否めないけど。

 

「こん」

 

 俺と同じくタンクに座していたあの狐ッ子が俺を呼んだ。

 紹介が遅れたな。

 こいつは狐型妖夢で、名はマナ、一応〝新藤まな〟ってフルネームもある。

 昔から妖夢退治の仕事でコンビを組んで来ており、付き合いは秋人たちよりも長い。

 妖夢としてはまだ若輩者なので、直接戦闘はやや難があるが、結界などの補助系統の妖術に秀でており、俺が遠慮なく妖夢をぶちのめせる環境を作ったりとサポートしてくれる心強い奴(あいぼう)だ。

 その気になれば人間の女の子に変身もできるが、普段は一日の大半を子狐の姿でいることが多い。

 

〝せめてエンカウントは一日一回にしてくれないか?〟

 

 頭の中で、秋人の声が響いた。

 あいつは屋上(ここ)にはいないし、俺に話し掛けているわけじゃない。

 

〝昼休みは上手く誘導されましたが、もう乗せられはしません〟

 

 続いて、秋人の苦言をさらりと無視して、栗山未来の声も響く。

 同時に頭には、黒色の背景に、物体の輪郭に走る白いラインの構成でどうにか有機物、無機物を認識できるネガフィルム風の映像が映されて、そこには秋人と栗山未来が対峙する廊下が見えた。

 この現象は、マナの持つ妖術の一つ。

 よく俺達(ゴジラ)の餌食になっている気がする潜水艦のソナーや、超音波で周辺の環境を認識するエコローションと呼称されたイルカの能力と同じ要領で、妖夢や異界士でも感知が困難なくらい微弱な妖気を発し、それが物体と衝突することで視覚と聴覚を認識する術で、マナは捉えた映像をリアルタイムで俺の脳に直接送っている。

 さすがマナ。秋人はともかく、幼い見てくれに反して修羅場をくぐり抜けている栗山未来でさえ、この会話が俺と相棒には筒抜けであると全く気付いていない。

 

〝妖夢退治が生業の一族が妖夢憑きを見逃すと思いますか?〟

〝家柄の慣習に固執するのは感心しないぞ、それに何度も言ったけど僕は〝半妖夢〟、世にも珍しい妖夢と人間のハーフである以外は普通の高校生、玄人さんなら無視できる相手だと思うけど……〟

 

 秋人が、自ら己の正体を口にした。

〝半妖夢(はんようむ)〟

 名の通り、秋人は妖夢と人間の間で生まれた存在なのだ。

 妖夢を知る人間は、例外はあれど妖夢に恐怖し、忌み嫌い。

 思想風に言うなら〝妖夢至上主義〟に侵された妖夢どもは、人間を見下し、襲って喰らう。

 こんな対立関係が確立されてもいる両者の血を継いでしまった秋人が、どんな半生を送ってきたかは、詳しく説明するまでもなく……どちらからも迫害を受けてきたことは容易に想像できよう。

 俺は過去の経験のお陰で、それがより鮮明に連想できる……昔の俺みたいに自分から喧嘩吹っ掛けたわけでもなく、「ただ■■」なだけで秋人を襲う奴らが、今でも俺にはとてもムカつく………でもそれはまだ可愛い方で、〝あの頃の俺〟ならば、躊躇うことなくそいつらをなぶり殺し、灰も残さず消し去っていただろう。

 栗山未来に対しても、最初に会った時はそうだった。

 今では、決して彼女は〝悪い奴〟じゃないってのは分かる……でもそれゆえに、彼女にこれ以上侵害させるわけにもいかなかった。

 たとえ仮初でも、秋人の下へ戻ってきた尊き〝日常〟って奴を。

 

〝戦闘を始めましょう〟

 

 少女は右手に巻いていた〝異能〟を隠していた包帯を外し、掌から滴り落ちた血で片刃の剣を生成した。

 栗山未来が〝碌でなしな人間〟ではない本当は良い奴だと認めた上で、今夜は彼女に、ちょっとしたお仕置きを受けてもらう。

 わざわざ秋人に部室の消灯役を担わせたのは、これが理由だ。

 毎日半妖夢を相手に、闇雲に〝異能〟の力を使ったツケを払わせる前振り。

 言葉で説得させた方が手っ取り早いが、それだけじゃ味気ない。

 体色に違わず、腹黒で性悪なのは承知だ。

 生憎と俺は、同じ〝科学の光〟で変異した者同士な〝光の国の戦士(ヒーロー)〟みたく、品行方正さからは程遠い……粗暴で野蛮で、本来は秩序の破壊者たる〝怪獣〟……品性を問うのは、お角違いってもんだ。

 

 

 

 

 

 そこから、三十分ほど、学校を戦場にした秋人と栗山未来の激闘は続いた。

 

〝逃げてばかりいないで少しは反撃したらどうなんですか!〟

〝だから戦略的撤退と言っただろ!〟

 

 すまない……激闘って言い方は誇大表現だった。

 実際のとこ、秋人はひたすら学び舎の敷地内を逃げ回り、それを栗山未来はブーブー文句垂れながら追いかけている形となった〝命がけの鬼ごっこ〟が、最初から現在まで変わらず継続している。

 秋人は稀有な出自に反して、直接的戦闘能力は皆無だ。

 しいてあいつの異能を上げるとすると、それが秋人特有のものなのか妖夢な親からの遺伝なのかは不明だけれど、〝G細胞〟を有した俺に負けず劣らずの肉体再生能力……ぐらいで、かなしきかな、異能者揃いの文芸部の中では、現状ワースト一位の座をほしいままにしている。

 神様ってやつは残酷だ。同じ〝不死身〟なのに、俺には今でも人々を絶望の谷底へ突き落とす戦闘能力を与え、一方で秋人には再生能力以外まともに異能を使いこなせないへっぽこ野郎に甘んじさせているのだから、俺と張り合えるレベルの意地汚さ。

 そんなもので、秋人には彼女がガス欠になるまでひたすら逃げ続けるように予め打ち合わせをしていた。

 ポケットからスマートフォンを取り出し、時間経過を確認、そろそろだな。

 

〝大丈夫か? 顔色悪いぞ?〟

〝逃げ回る先輩がいけないんです〟

〝僕に責任を押し付けるな!〟

 

 窓から中庭を展望できる三階の廊下では、ぜえぜえ息を荒げて暴言かます栗山未来と、理不尽なボケにツッコむ秋人がいる。

 分析した通りだ。あの眼鏡ちゃんの異能を使った戦闘法スタイルは、血液を消費する性質上、長時間の戦闘には不得手だ。

 

〝澤海、来た……二匹〟

 

 マナがテレパシーで報告してくる。

 目論見通り、こっちがぶら下げた異能に釣られて来た妖夢が二匹。

 校舎に近づくのは、〝日常〟を浸食する〝非日常〟と……〝戦い〟の匂い。

 それを嗅ぎとった俺は、抑えきれない欲望(よろこび)を素直にニヤりと顔に表して、立ち上がる。

 

「マナ、網にかかった奴らを絶対出すなよ」

〝わかった〟

 

 相棒に念を押した俺は、その場から跳び立った。

 

 

 

 

 能力行使の代償の貧血に苛まれた未来も、必死に逃げ回っていた秋人も、逃走劇の代償で、こちらに迫りくる影の存在に気づくまで遅れをとっていた。

 

「危ない!」

 

 反射的に秋人は未来に駆けよって抱き付き、影の猛威から彼女を守ろうとした瞬間……影は横合いから迫ってきた光る物体の直撃を受け、弾き飛ばされた。

 地面に着地した影の正体たる妖夢、そいつはトノサマバッタを人型に落とし込んだ姿をし、顔などほぼバッタそのものだった。

 

『きさま……』

 

 バッタ型の妖夢は、原語を発して攻撃してきた澤海を凝視する。

 

『あの青の光、そうか……貴様がかの〝ゴジラ〟か?』

「だったらどうする?」

 

 澤海は挑発的に微笑んではぐらかす。

 

『なぜ異界士となって人間どもの〝味方〟をする? 奴らは〝核の光〟で貴様をおぞましい姿に変え、安住の地から追い出したのではなかったのか?』

 

 バッタ男の質問を受けた澤海は、何やらツボを突かれたようで、静謐な学校の中庭にて、大音量の笑い声を上げた。

 

『何が可笑しい』

「一体俺がいつ〝人間様の味方〟になったんだ? 笑わしてくれるじゃねえか………俺はただな、調子乗って思い上がった奴らをぶちのめす為に戦(や)ってんだよ、てめえらの勝手な都合を押し付けるな―――カスが」

 

 途中から狂笑を消し、澤海は明確な敵意と殺意をバッタ男に向ける。

 無論その面構えは、〝ゴジラ〟が〝敵〟と認識した相手に突きつける凶悪なものとなっていた。

 もはやお互いに相手と話す舌は持たず、バッタ男は握り拳で構えを取り、澤海(ゴジラ)はいわゆる無業の位の体勢で、右の手首をスナップした。

 戦闘が始まる直前、もう一つの図太い影が、澤海の背後をとろうとする。

 だが、それは一人の女性の強烈なジャンピングハイキックによって阻止された。

 亜麻色の髪を縫いあげて、背広をビシッと着こなした……およそ戦闘には不向きな格好をした妖艶で妙齢の女性だった。

 

「ニノさん…」

「一人で二匹もぶんどろうなんてずるいわよ」

 

 背中を向きあったまま、澤海は女性と会話する。

 彼女もまた、異界士(うらのかお)を持つ異形の狩人である。

〝ニノさん〟に蹴り飛ばされ、中庭に叩きつけられた妖夢は、首と平たい顔な頭が一体化し、腕を中心に上半身が肥大化したアンバランスな体格をしていた。

 

「しゃあねえ、そっちのデカブツは頼む」

「妖夢石ももらっていいかしら?」

「あんたの好きにしろ」

 

 そうして改めて、学校を戦場に異界士(かるもの)と妖夢(かられるもの)による戦いの火ぶたが切られた。

 

 

 

 

 

 

 一階に降りて直ぐ様中庭に出た秋人と未来は、進行中の戦いを目にする。

 自然と彼らは、澤海とバッタ男の方へと視線が向かった。

 貧血の疲労から回復した未来は、澤海に加勢すべく走りだそうとするが、秋人の手に小さな肩を掴まれて引きとめられた。

 

「なんで止めるんです!? 押されてるのは黒宮先輩の方じゃないですか!」

 

 そう、一見すると、戦況はバッタ男の方が優勢であった。

 飛蝗の特性を有した妖夢なだけに、奴の身のこなしは俊足、そこから繰り出される足技は華麗で、手数も多いテクニシャン。

 澤海はそららを手で捌くのに手一杯で、一方的に押されている。

 妖夢の廻し蹴りが澤海の頬にヒットし、彼は横回転で飛ばされる。

 

『噂は誇張でしかなかったか』

 

 そう吐き捨てた妖夢は、脚の形状を人間に近いものから飛蝗そのものへと変化させ、起き上がったばかりの澤海へ、地面すれすれの低空ジャンプで接近し、擦れ違い様に蹴りつける。

 そこで攻撃の手を緩めず、飛蝗の跳躍力を最大限に生かした一撃離脱―――ヒット&アウェイの戦法でじわりじわりと追い詰めていく。

 見ていられない未来は、秋人の手を振り払おうとするが――

 

「よく見て栗山さん、あれが追いつめられた顔に見える?」

 

 言われた通り、防戦一方な筈の澤海の顔を見て、戦慄を覚えた。

 笑っている……痛めつけられている側であると言うのに。

 

『guaaaaaaaa―――――!!』

 

 奇声と共に、澤海へ再び跳びかかりながら、その脚で重い回転キックを当てようとするバッタ男。

 凶器たる脚が、澤海の喉元を捕えようとした………直前、何かが突き刺さった音がした。

 音源の一つは、バッタ男の顔から……澤海がカウンターで繰り出した右手のアッパーが奴の下顎に命中し、接着面から体液が流れ出ていた。

 

「何か言ったか? ライダーもどき」

 

 見れば、指の隙間から伸びた青白い刃が、妖夢の頭部を刺し貫いていた。

 正体は現在のゴジラが持つ能力、体内で生成されたエネルギーを半固体に押し固め練成する制御法で作られた〝爪〟。

 では、彼に止めを刺そうとしていた妖夢の蹴りはどうなったか?

 その一撃は澤海の左腕が蛇の如く絡め取る形で脚を鷲掴み、外見以上に強大な腕力で体組織をずたずたにし、指はその握力のみで皮膚を抉っていた。

 澤海は相手から両腕を離すと、直ぐ様バッタ男の触覚を掴み上げ、強引に引きちぎり、手で肩を掴み、引き寄せると同時に膝撃ちを二発当て、両手を組んで上背を叩きつけ、掌底で顎を打ち上げた。

 澤海――ゴジラのほぼ我流で、野獣的荒々しさ溢れる喧嘩屋殺法による冷徹な反撃は、そこで止まらない。

 右手で何発も、連続でバッタ男の顔を撃ちこみ、一度軽く手をスナップした後、下段からあのジークンドーの創始者顔負けの見事な右上段掛け蹴りで、奴を蹴り上げた。

 宙に舞うバッタ男、触覚を千切られて感覚が狂った今の奴には防御すらままならない。

 まだ相手が浮いている間、澤海は蹴った勢いで一回転しつつ、肉体を発光させて瞬時に3m近くの大きさなゴジラに変身、この姿の彼の強力な武器たる尾を、右切上げの軌道で打ちつけた。

 斜線状に夜空へと飛ばされていくバッタ男に眼(ガン)を飛ばしながら、ゴジラは背びれを断続的に発光、口から50万度ものの敵に死を齎す青色の熱線を発射。彼の卓越した対空迎撃力によって熱線はまだ慣性の波に呑まれたバッタ男に直撃し、断末魔とともに妖夢は爆発の炎に散っていった。

 

 

 

 

 

 妖夢の体でできた不細工な花火を、瞬きも忘れて見入っていた秋人たち。

 

「うっわ~~今日も妖夢さんが哀れに思えちゃう暴れっ振りね」

 

 偶然駆け付けた〝ニノさん〟の声で、ようやく彼らは我に帰った。

 彼女の手を見ると、さっきまで妖夢だった光沢混じりの石がある。

 これは妖夢石といって、倒された妖夢が残す置き土産とも言える石だ。

 

「ニノさん……」

「先輩……この人は?」

「あ、この人は二ノ宮雫、通称ニノさん、学校(ここ)の先生で、うちの部の顧問、そしてこの辺じゃ有名な異界士だよ」

 

 秋人が二ノ宮雫のことを未来に紹介してほとんど間を置かずに、耳鳴りに苛まれるほどの轟音が響いた。

 ゴジラが勝利の咆哮を夜空に向け、放っていたのだ。

 

「噂は………本当だったんですね」

「そう……あれが僕の〝友達〟でもあり………僕達の常識を破壊する怪獣王………〝ゴジラ〟だ」

 

 体躯は学校の校舎より小さくとも、まるで100mもの大きさを間近で見ていると錯覚させてしまう圧迫感が、ゴジラからは発せられているのであった。

 

 

つづく

 


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