境界の彼方~G-ゴジラ-を継ぐ者~   作:フォレス・ノースウッド

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境界の彼方~G-ゴジラ-を継ぐ者~第三話-Gの猛威と彼の憂苦

今作のゴジラ君は、時々仲間を思うが故、その凶暴性を表出させる一面があります。
まあむしろ核による変異前に戻ったって感じですかね。自分と同族の命とテリトリーが犯されなければ本来大人しいですから。
人間という種そのものに対しては、『良いとこと悪いとこがぐちゃぐちゃに入り混じって、時々すっげーむかつくけど、でも面白い』スタンスで、比較的丸く、特に似たような境遇の秋人には彼なりに気に掛けてます。
それゆえの冒頭の凶悪な面構えになってしまうんですが。

感想お待ちしてます。


第三話 - Gの憂苦

 生粋のメガネストこと神原秋人は、額と背中から大量に汗を流していた。

 原因は、腹部を刃で貫かれ、痛々しく流れて制服を染める血も………その一つではある。実際刺された直後はそれがメインの原因だった。

 今は違う……僕をここまで戦慄の発汗をさせるのは、自分を庇う形で、腹の傷をつけた張本人たる妹風眼鏡美少女と対峙している級友。

 黒宮澤海(くろみや・たくみ)………いや、今は〝ゴジラ〟と言うべきだろう。

 姿こそ人間のまま、だが背中からも重々しく伝ってくるプレッシャーは……澤海が自ら〝ゴジラ〟の血を呼び起こしているのだと思い知らされる。

 直に目にせずとも、彼の顔は獲物を見つけた野獣の如き、凄味で満ち満ちている。

 こんな状況に適していると言えないのに、頭の中ではあの伊福部大先生の〝ゴジラのテーマ〟がひっきりなしに再生される。

 腐っても鯛という諺があるように、〝人間〟となっても、〝怪獣王〟に〝破壊神〟と付けられた異名は伊達ではなく、発せられるオーラはスクリーンの壁を隔てていない分、より強大に際立つ。

 彼ほど……味方となってくれれば心強く、反対に敵となるのは絶対御免被ると断言できる者はいない。〝獣人化〟してない時に敵として相まみえていたなら、まっさきに僕は腰を抜かして尻餅を付いていた。

 少なくとも………僕の運命ゆえにまた訪れた〝不条理〟を踏まえれば、その身に秘めし〝ゴジラ〟を呼び起こした澤海を頼もしくも思うべきだろう。

 けど残念ながら、メガネストゆえの性が、それを許さない。おそらく異界士であろう、低身長で童顔でショートカットで赤縁眼鏡を掛け、手には自身の血で作った剣を構えている一年生の女の子。

 異界士として鍛え上げた自制心でどうにかなってはいるものの、よく見れば、血の剣も、それを持つ手も震えている。これが初対面の僕でさえ、彼女の異界士キャリアにおいて、過去最強クラスの〝敵〟と相対しているのだと察することができた。

 澤海もそれぐらい分かっているだろう、しかしだからどうしたとばかり、彼は両手を握り拳にしたと同時に、指と指の隙間から、某アメコミヒーローを思わす爪を計六つ出現させた。

〝妖夢憑きの元人間〟であり、〝ゴジラ〟でもある今の彼ならではの能力だ。

 

「さて異界士の嬢ちゃん、存分に殺ろうぜ」

 

 どう聞いても〝やろうぜ〟の〝や〟が〝殺〟と当てられたとしか思えない響きで、駆け出そうする―――

 

「待ってくれ!」

 

 ―――直前、僕は勇気を振り絞り、両手で澤海の肩を捕まえた。

 僕のおもわぬ行動に、少女も面喰らって、血の剣の構えを無意識に解いていた。

 

「アキぃ……」

 

 彼は僕に振り向く。

 こ、怖い……ヤクザどころか、プロの軍人でも裸足で逃げ出しそうな凶暴なる容貌、心なしか犬歯が伸びている気がする。

 瞳はゴジラの十八番たる必殺技と同じ色合いで光っており、声はいつもよりずっと重低音、普通にあの〝鳴き声〟を至近距離から吠えてきそうで、人間の肉体のまま〝ゴジラ〟の凶暴性を体現していた。

 今ここで少女が攻撃してきても、僕に目を合わせたままさくっと彼女を殺せそうな説得力もある。

 

「邪魔するなぁ………今こいつは今までの屑野郎(いかいし)共と同じことをアキに味あわせたんだぞ……」

 

 ああ、分かっている。

 今澤海の目に宿っている〝怒り〟は、僕を思ってのことでもあるって。

 ゴジラたちは同族意識が強く、身内には親身になる一面も持っている。

 つまり僕も彼にとってはその〝身内〟の一人であり、彼の怒りはその証であり、正直に言えば嬉しくもあるけど、だからこそ譲れないものもある。

 

「いいんだ、これは僕の不手際が招いたことなんだ、あの子が屋上のフェンスの外に立ってたから、てっきり自殺だと勘違いし、つい調子のって彼女が不愉快になるくらい僕の眼鏡愛を語ってしまったツケだ、だから澤海の手を煩わせることはない、頼むから……ここは穏便に済ませてくれない……かな?」

 

 どうにか目を逸らさず言いきった。でも顔は相当引きつっているから情けないにも程がある。

 しかしなけなしの勇気は報われ、澤海の凶悪なゴジラの顔は、少し気だるそうなアンニュイないつもの感じに変化し。

 

「分かったよ……アキがそこまで言うならしょうがねえ」

 

 日常の場における彼の物腰に戻った。

 これでどうにか、ゴジラの逆麟に触れてしまった少女に押し寄せようとする危機は回避できたのだ。

 

「けど、忘れんなよ嬢ちゃん」

 

 いつもの感じよりも、少し棘のある、でもゴジラの時より格段に丸い態度で彼は少女へと振り返り。

 

「嬢ちゃんが助かったのは、お前に殺されかけても失くさなかった友達(こいつ)の勇気と温情のお陰だってことをな」

 

 少女に釘を刺した。

 

「は……はい」

 

 刺された方の彼女は、本物のゴジラと間近で対峙した精神的疲労で、たった一言しか返せなかった。

 それでも僕は、ゴジラからのプレッシャーを耐え抜いた眼鏡美少女に〝よく頑張った〟と、エールを送りたい気持ちであった。

 

 

 

 

 

 これが、ゴジラこと黒宮澤海も交えた、僕と栗山未来の出会いの一部始終である。

 こんなファーストコンタクトを果たした僕たちが、この時限りの関係で終わるなんて確率は、旅先でゴジラに鉢合わせた時よりも低いだろう……やれやれだ。

 

 

 

 

 そんな出来事から五日後、四月の十三日に戻る。

 

 

 

 

 放課後。

 太陽は夕陽となっているけど、まだ空の大半が青空な時間帯の部室では、澤海(オレ)と美月が窓際に腰かけて、外を眺めながらポ○キーをシェアして食べていた。

 断っておくが、俺たちには色恋の欠片もない、悪友と呼んだ方が相応しい関係性である。

 一応、夕陽に照らされた美月の図も、そこらの美人画よりずっと美しいことは認められるし、俺と戦った個体のモスラよりも、ずっと可愛げがある。

 引き続き選考作業は進行中、けれど今は小休止。

 

「で? 秋人を買い出しに行かせてまでの話題は何だ?」

 

 秋人は、美月の部長特権……否独裁権によって、副部長にも拘わらず、夜まで続ける予定な作品選抜の腹ごしらえに必要な食糧を買いに行かされていた。

 来年までの文芸部における副部長ってのは、体の良い部長の使いっ走りが実態な、寅さんももらい泣きすることこの上ない苦労に満ちた職なのだ。

 

「名瀬家が栗山未来を警戒してるのよ」

「そいつは〝を〟じゃなくて、〝も〟じゃないのか?」

 

 予想してた通り、話題の中身は異界士の中でも特異な能力を持った眼鏡少女の件で……正確には彼女も含めた一件であった。

 

「よくぞ見抜いてくれたわ、碧眼ね」

「今日だけでも、知らねえ異界士たちの無駄にやる気に満ちた気配がぷんぷん匂ってたからな」

「あら? 妖夢と対峙してる時の澤海に比べれば健全でなくて?」

「だとしても、四六時中発散されるのはうっとおしいんだよ、あんだけ無闇に気張ってたら、肝心な時に対処が遅れてお陀仏だ」

 

 と、吐き捨てて、ポ○キーを歯で折った。

 

「怪獣王のご意見は格が違うわね」

「皮肉か?」

「半分は、もう半分は心からよ」

「じゃあ半分は謹んでゴミとして投げ返し、もう半分は快く頂戴するよ」

 

 逆に清々しいまでの嫌味のボールを投げ合い、俺たちは短くなったチョコスティックを同タイミングで口に入れた。

 これらはさておき、あの栗山未来が、この学校に入学した頃からだ。

 長月市では、外来の異界士が次々と移ってきている。俺もその〝外来〟の一人だし、それ自体は問題ないと言いたい……では片づけられない懸念があった。

 いくらなんでも、活動拠点をここに移した異界士の数が、多過ぎるのだ。

 こうなると面白くないのが、代々この辺を拠点にしてきた名瀬家である。ああいう手合いは、長年積み重ねてきた実績に対する自負心が強過ぎて、保守的かつ排他的だ。だから警戒心を持っちまうのも詮無き話だし、動物だって自分のテリトリーを侵されれば怒る。

 かく言う俺も、まだ〝ゴジラ〟じゃなかった頃、実際は隠れていた日本軍を攻めていたアメリカ軍の蛮行に怒り狂い、上陸してきた兵士を片っ端から殺しまくったものだ。

 自分の過去(むかし)は置いといて、嫌な予感がする現状である。いくらもう直ぐ〝凪〟が来るからと言って……いやアレが来るからこそ、外来異界士の動きは不可解。

〝凪〟は大物の妖夢を倒して名を上げる千載一遇のチャンスだから、いつもより意気込みが増すのは分かるが、それだけじゃない気がする。

〝栗山未来〟個人に対しても、ひっかかる疑念がある。

 

「実際に彼女の能力を目にして、何を感じた?」

 

 連日繰り返される秋人へのストーキングも気にはなる。

 対策として、選考作業の犠牲にされた昼休みをさらに切り詰めて、秋人と対栗山未来の作戦を練るくらいには。

 それ以上に関心を引かれるのは……自分の〝血〟を使った異能だ。

 

「なんでわざわざ〝武器〟の形にしてんだって、とこだな」

「そういう能力だからじゃないの?」

「いや……俺の直感が正しけりゃ、栗山未来の血はそれ自体が凶器だ、普通の人様なら、数滴分でも致命傷を与えられる」

 

 そして、異能以上に、冷静に彼女を思い返して、もっとも気になったのは………俺たちと会う前の秋人と、純然たる〝ゴジラ〟だった頃の自分と同じ匂いが、彼女からしたこと。

 

「そんなわけあり眼鏡美少女なら……また秋人も首突っ込むかもしれないわね」

 

 その栗山未来よりも、もっと心配なことがある。

 秋人だ。あいつは自分の内に封じられている〝怪物〟を使役できていない分……俺より遥かに厄介な〝脅威〟を抱えているし、その為に栗山未来からも受けた仕打ちを過去何度も被って来た。

 なのに……今でもあいつは〝お人よし〟な奴だ。それ自体には文句はないしそれに救われてる部分もある。しいて文句を上げるとすればその性格で、何かあるとつい藪に突っ込んじまうとこが、危うい。

 だからこの話題は、わざわざ秋人抜きで交わされたのである。

 

「『これ以上栗山未来に関わるのはやめなさい』って言ったら………秋人は彼女に関わるかしら?」

「多分……な」

 

 あえて濁したけど、実際は確定されているも同然。

 よりによって相手が秋人にとって最高にドストライクなルックスで、自身と何かしらダブるとこがありそうな眼鏡美少女、関わらない確率の方が目茶苦茶低い。『不死身だから何とかなる』とか、しれっとほざきそうだ。

 俺もだけど、あいつの体を正確に表現すれば〝死ににくい〟で、全く〝死〟とは無縁じゃないってのに。

 

「生き返るのを前提で、一度本当に死んでみれば良いのに、それならいくら秋人でも………」

 

 言い方はかなり悪い、文字だけを抜き出せばただの暴言、でもそれを口にする美月の声には、苦さと憂いも籠もっていた。

 何だかんだ言って、美月も秋人のことを心配している証拠だ。

 俺も今日の〝作戦〟を以て、彼女との接触は控えてほしいと願いたい気持ちが渦巻いていた。

 

「異界士絡みの話はこの辺にしとこうぜ、俺たちには妖夢より手ごわい奴らがいるからな」

「同調するのは少し癪に障るけど、確かにね」

 

 俺たちは裏の仕事の話題をここで切り上げて、選考作業を再開させる。

 

「こぉん♪」

 

 その間もなく、来客が来た。

 俺の仕事仲間である、ちっこい狐ちゃんだ。

 俺と美月が一人ずつ順番にこいつを撫でると、嬉しそうに綻ばせる。

 

「来たなマナ、さっそくそっちのを読んで感想聞かせてくれ」

 

 こっくりと狐っ子は頷き、小さい体で器用に本を開いて、中の小説を読み始める。

 

「マナちゃんが来てくれて助かったわ、兄貴は戦力外だし、秋人はいまいち頼りないのよね」

「こんこん!」

 

 和訳すると、『まかせて!』と〝マナ〟は返した。

 

「今の言葉、メールでヒロに飛ばしても良いか?」

「どうぞおかまいなく♪ むしろ大大大歓迎よ♪」

 

 マナの天性の癒し効果で、美月も美月なりにやる気を出してきた、明らかにさっきより上機嫌だ。

 さて、頼れる助っ人もいることだし、一冊でも早く読破するとしますか。

 

 

つづく


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