境界の彼方~G-ゴジラ-を継ぐ者~ 作:フォレス・ノースウッド
境界の彼方の魅力の一つたる、キャラ同士の軽快なやり取りを再現できているかは別としてご賞味下さい。
ちなみに原作の秋人視点による地の分も、大体こんな感じであります。
では感想お待ちしてます。
ちなみにオリ主、黒宮澤海(くろみや・たくみ)のイメージCVは内山昂輝君(大体、エアクエリオンEVOLのカグラを演じている時のトーン)
某県の比較的どこにでも見かけそうな地方都市、長月市の4月の朝。
長月市立高校に通う学生たちを多く見かける時間帯だ。
通勤電車が走り去り、踏切が立ったのを境に、車や通行人たちが渡っていく。
その中には、市立高校のブレザー型制服を着込み、通学カバンたるワンショルダーバックをしょって、神山高校文芸部員の一人並に眠たそうな目つきで通学する黒髪セミロングの少年がいた。
昨夜、怪獣〝ゴジラ〟となって〝妖夢〟と呼ばれる怪物を獰猛にかつ苛烈に退治したあの少年である。
名前は、黒宮澤海(くろみや・たくみ)。彼のことを説明する前に、妖夢について説明しよう。
妖夢とは、伝承に出てくる妖怪に酷似し、古くから人間に害を為しているものが多い生命体の総称である。
一口に妖夢といっても、その種類は様々、それこそ鬼そのものだったり、既存の生物が巨大化したようなのだったり、中には人間に化けられる個体も、人間の体を乗っ取ってしまう個体もいる、その被害を受けた人間は『妖夢憑き』と呼ばれ、当然退治対象になる。
実は澤海もその一人である………のだが、現在の彼は学業に勤しむ傍ら、そんな悪事をはたらく妖夢たちを退治するハンター、俗に〝異界士〟と呼ばれる職に就いている高校生、今年の4月で二年生になり立てだった。
彼がどうして、本来は異界士に殺される筈な妖夢憑きながら、逆に妖夢を狩る立場に位置し、銀幕の中の存在である筈の〝ゴジラ〟になれるのか、その辺の説明はまた今度にて。
「おい澤海!」
昨日の妖夢退治の代償で、まだ眠気が取れない体で、どうにか余裕ある時間帯の中通学している俺こと黒宮澤海は、聞き馴染みのある人の良さそうな男子の声を聞いた。
その主が俺にまで追いつき、横並びに歩く格好になる。
「あ……おはようなアキ」
「相変わらず眠たそうな顔だな」
「本当にねむてえんだよ、昨日も妖夢退治の仕事があったからな」
170より少しある背丈、薄い金髪な短髪ヘアに、声に違わず人の良さそうな、そこそこ顔付きは整ってるけど……でも金髪でもなけりゃいまいち印象に残りにくそうな感じのある顔付き。
名前は神原秋人、俺は下の名から二文字取って〝アキ〟と呼んでいる。
「お前こそ今日も、眼鏡が超似合う美少女眼鏡ッ子がいないかな~~って顔してるぞ」
「な、なななななんで分かった!?」
あからさまに秋人はテンパった、ほんとその辺分かりやすい。
「見れば分かる、女子を重点的に周りをキョロキョロし、目的の女子が見つかればその子の眼鏡をぺロぺロ舐めたいって顔してた―――」
「待てぇ! 僕の溢れんばかりの眼鏡愛は否定しないが! そんな倒錯的なことは考えてない!」
「違うのか?」
「違うわ!」
「でもこの辺にいる眼鏡女子の眼鏡をじろじろ見て、あの子のは対ブルーライト型とか、そっちの子のはスポーツ対策で頑丈にできてるなとか、今どき黒ぶちとか逆にイカスぜとか考えてただろ?」
図星だったようで、ぐぬぬとした表情を秋人は浮かべた。
「くそ……それは否定できない……できないけど、わざわざ追及することもないだろう?」
「ここで俺が手を打たないと、アキは女子を視姦した罪で御用になるかもしれねえし」
「どっち道澤海が口にしたせいで誤解を受けちまうだろうが!」
「大声で言ってないから安心しろ」
「できるか! もしうっかり近くにいた女子に聞こえでもしたらどうする!?」
「だってメガネストの変態なのは事実だし」
「だぁか~ら違う! メガネストは違わないけど」
眠気で顔にこそ出なかったが、内心俺はゲラゲラと大爆笑していた。
よし、今日も仕事の疲れには効果抜群なキレもノリも良いツッコミ、いただきましたと心中合掌する。
今の会話で嫌でも理解できただろうが、神原秋人は俗に言うメガネスト、つまり眼鏡とそれを常時掛けている女性たちをこよなく愛する〝変態君〟である。
本人はメガネストであると認めた上で、変態ではないと豪語しているが、正直自らの性癖をこうも惜しげなくカミングアウトしている時点でどう考えても変態である。
世の中には二種類の男がいる。スケベ心を必死に隠す奴と、堂々とひけらかす奴だ。
間違いなく、秋人は後者である。同意できる奴は大勢いることだろう。
そんなこいつのメガネスト以外で、こいつたらしめる要素は―――〝ツッコミ〟だ。
秋人のツッコミセンスはほんとずば抜けて秀でている。もしツッコミ大会なんてものがあるとしたら、毎年優勝確実、さらに殿堂入り確実だ。
そしてこいつのツッコミはセンスが良いだけじゃない、こっちがボケてから返してくるまでのテンポも神がかっているし、何より、めっ~~~ちゃ気持ち良いのだ。
どれくれい気持ち良いかと言えば、カリオストロ城の屋根を超高速で駆け降りたルパン三世がその勢いに乗って大ジャンプし、クラリス姫が閉じ込められている塔まで辿り着いちゃうとこくらいの域。
彼のこの才能のお陰で、裏の仕事のせいで特に朝は眠気という怪獣に襲われっぱなしな俺を気持ちよく覚醒させてくれる。
秋人のツッコミセンスは、自分だけでなく、同じ部に所属する部員でもある名瀬兄妹からも大好評、なこともあり、俺と名瀬兄妹は彼を弄るのが日課の一つとなっていた。
あ~~~春の朝の空気が美味しい。
これなら今日も午前中は気持ちよく居眠りできそうだ。
「アキ」
「今日は絶対ノート見せんぞ!」
「まだ何も言ってねえだろ」
「言われなくても分かる、午前中はぐっすり寝るから今日の科目の内容をノートに移させてくれ……だろ?」
「心外だな、いつも頼みこんでるわけじゃねえのに、まあ当たりだけど」
「やっぱりな……」
とほほと、秋人は自身に課せられた運命を嘆いた。
「だって仕方ねえだろ、一応世の為人の為に働いてんだから」
と言った直後、俺はあくびを鳴らす。
「確かに澤海たちの仕事も社会貢献になってるのは違いない、でもその為に被害に遭う僕の身にもなれ」
「ノート移すくらい、異界士に喧嘩吹っ掛けられるよりはマシだろ? 別に減るもんじゃないし」
「減るよ! ハートが極限にまで削られるよ!」
「なぜだ?」
「お前が居眠り常習犯のくせに去年は全学期とも学年トップ10圏内に入ってたからだよ!」
「学校は勉強するところっつー学生の本分を果たしてるだけじゃないか、せめて高成績維持しつつ、部活と仕事との両立はしとかないと」
「その為に僕のハートが犠牲になってんだよ」
「安心しろ、今学期もばりばり削るから」
「この鬼!」
「鬼じゃない、ゴジラだ」
「そんなとこ訂正せんでもええわ!」
さて、このメガネストの変態かつツッコミの神様な神原秋人と、この俺黒宮澤海の関係性を述べるとすると。
級友、クラスメイト。
同じ部活に所属する部員同士。
三年前からの腐れ縁。
色々あるのだけれど、しいて二つ上げるなら。
〝監視する者と、される者〟と、〝不死身仲間〟。
二つ目は置いといて、一つ目の方は俺が前者で、秋人は後者、お互いそれは了承のした上での間柄。
俺はこの地の大地主で、異界士界では名門中の名門な名家たる〝名瀬一族〟から直々に依頼を受けている。
〝神原秋人を監視し、場合によっては、殺しても構わない〟
という依頼を、だ。この長月市の市立高校に通っているのも、その依頼の賜物によるもの。
どうして俺に白羽の矢がたったのかと打ち明けるなら、俺のこの体に受け継がれちまった〝ゴジラ〟の血が理由だ。
つまり目には目を、怪物には怪物って理屈だ。
秋人の人畜無害そうな外見からは想像できないけれど、実はこいつにもこいつで、とんでもなく重い運命、宿命を背負っている。
少なくとも、こいつがこうして人並みに学生生活を送れているのは、幸運にいくつも恵まれているからだと断言できよう。
そんで俺も何だかんだ言って、不可避な運命を背負わされ、異界士としての仕事をこなしながら、ヘタすりゃ殺し合わなきゃならない相手と、同業者な兄妹たちとで、幸運にも青春を謳歌していた。
この時の俺は、いつもと変わらぬ夜明けから、高校生活の初めから定着したこの日々が、今日も変わらず続くと思っていた。
でもそれは、ある意味で間違いであった。
その日、俺の友、神原秋人は思い知ることになる。
〝運命の出会い〟って―――奴を。