境界の彼方~G-ゴジラ-を継ぐ者~   作:フォレス・ノースウッド

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モチーフに555のたっくん、ウルヴァリン、クリント・イーストウッド等々盛り込んだ当ゴジラの澤海だけど、何か皮肉にも時間改変前の彼が殺した権藤一佐っぽくもなってしまった。

もろに権藤一佐の台詞パロっとるやんな台詞がございますが(汗

味方だととても心強く、敵に回すと容赦ないうちのゴジラをどうぞ。



EP19 - ゴジラの報復

「勝ち―――だと思ったか? 〝薄汚ねえ黒幕〟さんよ」

 

 

 俺こと、ゴジラ――黒宮澤海が言い放った〝ユメ覚まし〟の言葉で、俺からしたらほんと度し難いほどに醜悪で、痛々し過ぎて、一周回ってミジンコより小さい分だけ〝憐れみ〟も抱いてしまう、藤真弥勒(やさおとこ)の恍惚として邪悪さに歪み切った笑みは消え、自分が目にしていた光景が一変した様を受容できず、眼鏡の奥の目ん玉をキョロキョロ滑稽に右往左往させていた。

  これは親愛なる隣人な蜘蛛男モデルの赤いクソ無責任ヒーローの受け売りだが、歓喜(ユメ)から覚めたこいつの様は、田舎のフェスティバルで売れないバンドのライブの前座な売れない芸人のしょーもないコントより遥かに救いがないんだが、僅かに笑いのツボが刺激を受けて笑いそうになった。

 ある意味で、今のこの優男は無自覚な芸人(コメディアン)でもあるわけだし。

 

「悪いな、お前の絵に描いた最悪の事態(シナリオ)は、〝俺たち〟のアドリブで変えさせてもらったぜ」

「な……に?」

 

 

 俺がこうして呼びかけるまで、こいつは―――

 

 峰岸舞耶の凶弾に栗山未来が撃たれ。

 

 それを目の当たりにした秋人の妖夢の血が枷から離れ、妖夢化し。

 

 その妖夢と俺――ゴジラが戦い合い、天変地異を起こして〝空が落ちていく〟。

 

 ―――様を、嬉々として眺めていただろう。

 だがそんな腐った幸福は、これも無責任ヒーローの受け売りだが、番組の間に挟まれるCMタイムよりもずっと短かかった、三日天下にすらもならなかった、残念なことに。

 

 確かに奴の〝言霊〟で、峰岸舞耶は自分の意志と関係なく撃った。 

 

 けど現実は――未来は撃たれてはいないし、秋人も妖夢化していない、ましてや俺はゴジラの姿になっていないし、〝空が落ちる〟やらなんて表せるほどの天変地異も起きちゃいない。

 

「さらに悪いけど、貴方の悪事は貴方自身が自供してくれたことで、明るみになったわ」

 

 俺と、この場にはいなかった………正確には、いない振りをし、撃ってしまったショックで呆然している白銀の狂犬をこっち側に連れてきた美月と、美月の服の中に隠れているマナによって、奴が実現したかった陰謀(みらい)は改変されたからだ。

 念には念に、狂犬の持っていた銃器は本人から没収させてある。

 

「え? えぇ……え?」

「どういうことだたっくん……いやそもそも、なぜ美月がここにいる?」

 

 そのお陰で、共謀者な彩華以外の面々をも混乱させてしまっているけど。

 特に未来の顔なんて、ぽか~んとした顔で勇壮な異界士としての面影は全くない。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、種明かしをするとしよう。

 

 

 

 

 

 まず一つ目。

 博臣たちと合流した時、三人には『美月は証人として査問官と同伴して協会に行った』と言った。

 これは真っ赤な嘘、本当は檻の気配遮断と不可視化の特性で隠れていただけで、ずっとこの場にいたのである。

 

(きゅう)

 

 美月一人では戦闘で感覚が鋭敏になっているドシスコンに見抜かれる恐れがあったので、予め跡地の近くで待機させていたマナの結界も加えることでカバーもした。

 

 

 次に二つ目。

 確かに峰岸舞耶の銃口から、未来めがけて弾は発射された。

 だが、優男の異能の特性を把握していた俺は、奴が白銀の狂犬に撃てと喚いている間にポケットに忍ばせていた――狂犬から勝手に餞別に持っていった薬莢に付いていない〝9㎜パラべラム弾〟――を取り出してエネルギーを込め、親指で弾き飛ばした。

 侍モドキにも使ったこの技は、古い武術由来の〝指弾術〟ってやつで、名の通り指で弾を飛ばす。

 少ない動作で敵に不意打ちできる代物なので、半ば趣味同然に暇を見つけてモノにした、ことはさておき、パラべラムの指弾は、狂犬の弾と衝突し、熱線エネルギーで粉々に四散した。

 銃の特性、撃つ方と、撃たれる方、自分の立ち位置、狂犬の体格と銃の構え方、未来の体躯、優男の〝言霊〟が発せられて効果が発生するまでの時間差、そして己の〝スペック〟を総合すれば、

できないことじゃないし、現に実行できた。

 勿論、未来には傷一つ付けられていない。

 

 

 三つ目、奴が、うちの文芸部の変態どもの変態発言がカワイイくらい吐き気を催す歓喜に打ち震えるほどの〝天変地異〟は、俺の頭の中でイメージした〝最悪の事態〟を元にマナが見せた幻覚(まぼろし)。

 いわゆる――夢オチである。

 カタストロフを期待していた者ら、怒らないでくれよ、俺の目的はそれを未然にぶち壊すことだ。

 

 これらの〝アドリブ〟で、めでたく優男のしょうもない理由が根源なまどろっこしい計画は、呆気なく砕かれたのだった。

 

 それだけじゃない。

 

「全てお前の企みだった事実は、バッチし撮影(とら)せてもらったからな」

 

 マナのバックアップも借りて隠れ潜んでいた美月は、持っていたガラケーに一連の奴の自供の一部始終を撮影録音し、そのデータを、散々利用され、あわや冤罪を擦り付けられてかけ、協会に向かった査問官の片割れ、永水桔梗の端末に送ったのである、今頃査問官の陰謀に、第八支部のお偉いさんは仰天中の筈である。

 念は念で、俺も自分のスマホに録音し、奴が幻覚を見て喜びに酔いしれている間にデータを外で待機中のニノさんと、他の異界士どものリーダーに転送させていた。

 いくら優男曰く〝言霊〟の術中に連中が嵌められたとしても、目を覚ませざるを得ないだろう。

 美月の送ったのなど映像つきで、プライドだけは一丁前の駄々っ子なお偉いさんも、エリートのスケールは大きいがしょうもない不祥事を事実だと受け入れるしかない。

 

「………」

 

 企みが上手く言ったを思わされた分、まんまと俺らに誑かされて逆転された事実は、滑らかによく回る舌も口も、機能不全に陥らせていた。

 

「今ので分かんなかったのなら、こう言ってやるよ、カタストロフに繋げるシナリオを逐一映像化するしか能のないてめえには、演出の才能はからっきしない、ってな」

 

 奴がご熱心に練り上げたであろう、空を落として名瀬泉の名声を地に落とす計画(シナリオ)は、

中々面白かった。

 サスペンス、ミステリー、法廷モノ、刑事モノ等色々組み込んだ挙句、実はカタストロフモノだったオチは、かの呪いのビデオの作成者な超能力美女も仰天は不可避なラストだ。

 だが悲しきかな………シナリオの映像化ってものは生もので、常にトラブル、アクシデントが付き物で、常に状況は絶えず流動する、だから自分の作品に血肉を与えるには柔軟性が必要だってのに、奴は名瀬泉憎さの余り―――渾身のシナリオを一言一句そのまま再現することにご執心過ぎた。

 演出家としては、致命的な欠陥だ。

 その〝柔軟性〟と異能と頭のキレが組み合わされれば、俺達が〝アドリブ〟で書き換える隙すら見せずに、七つの大罪の再現な犯罪計画に少しアドリブの演出を加えて、若き刑事の憤怒と自身の嫉妬で以て完成させた〝ジョン・ドゥ〟みたく、見事望んだラストで完結できただろうに。

 

「バカ……な……」

 

 ようやく、自分の作ったシナリオがエリートコースのキャリアごと破綻した現実を呑み込めてきたらしい優男は、膝頭を地面に点けて崩れ落ちた。

 念願の〝瞬間〟が実現しかかったところで、どんでん返しで無に帰してしまったからな、無理ないと思わなくもない一方、全く〝哀れ〟と思えない。

 思えるわけがない―――この下衆の下らない目的の為に犯したことを、踏まえればな。

 

「きぃ…さ……ま……よくも……」

 

 一度俯いた優男は、肩周りを中心に強く震えながら、俺を見上げてきた。

 両目には怒りの色がびっしりと濃く塗りつけられ、最初会った時に見せていた眼鏡の奥のニヤついた顔も、〝余裕〟も消え失せている。

 

「貴様みたいな化け物には分かるわけもないだろう………実績をどれだけ重ねても、上層部は名瀬の懐柔にばかり固執して認めようとしない、名瀬泉が誘いに乗ればお払い箱………奴がいる限り、いつまでもいつまでも―――」

 

 あるのが、全てをぶち壊した俺(ゴジラ)に対する〝憤怒〟だけ、ある意味では冷たいベーリング海の底に連れてこられた自分と通ずるかもしれない。

 

「だから何だ?」

 

 だが、こうなったのは―――自ら招いた因果と言う他ない。

 

「異界士ってのは結局、狩るか狩られるかの野生じみた世界だ、どっちの格が上か示したけりゃシンプルに、実力を分からずやどもに見せつけりゃいい」

「ふざけるな! 協会を敵に回して、異界士の世界で生きられる筈がない!」

 

 優男は、手に持っていたリボルバーで俺に発砲してきた。

 残弾なんか考えもしない、なりふり構わない連射。

 俺は流れ弾が後ろにいる同朋(やつら)に当てぬよう気を遣いながら、左手の握り拳から伸ばした三つの〝爪〟で、鉛を全て切り裂き、敵のリボルバーの弾は空になる。

 

「弱者には吠え面かいて、強者にはゴマをする、そういう生物を、典型的な―――駄犬ってんだよ」

「黙れッ!」

 

 弾無しのリボルバーを投げ捨て、胸元から何やら取り出し、何やら高速詠唱かってくらいの早口で何やらぶつぶつと唱える――も。

 

「がぁっ!」

 

 これ以上相手の戯言にもお遊びにも付き合う気のなかった俺は、右手の指鉄砲なら小振りの熱線弾を腰だめから放ち、奴の右手を撃った。

 俺の〝先制攻撃〟で右手に持っていた物体が血と一緒に弾け飛び、稲妻を発して光るそれを、こっちの掌から飛ばした熱線のロープで捕まえ、手繰り寄せた。

 サンフランシスコの掃除屋刑事が使うS&Wm29の44マグナムよりさらに強力な500S&Wマグナム弾をぶっ放せるM500に似て非なる形状な、元は〝万年筆だった大型リボルバー〟だ。

 

 俺の耳に狂いがなければ、唱えた言霊の中身は『名瀬泉の檻さえ破壊する世界で一つの大口径の銃』だったか?

 

 なんてこった………ここにきて奴は〝言霊使い〟としてさらなる高みに至ってしまった。

 

 こいつの異能の正体は――〝言霊〟、自分が口にした言葉を、具現化、現実にさせてしまう力だ。

 

〝周りは誰も自分のすることに関心を抱かない〟と言えば、周囲の人間は誰も見向きもしないし。

 

〝切ってはならない〟と言えば、斬る気満々だった侍モドキの一閃は、空振りとなり。

 

 峰岸舞耶に〝撃て〟と言えば、その通り撃たせることができる。

 

 言葉を持った人間たちには――特に、言葉には、実際に口にすればその言葉の通りのことは実際に起きてしまう〝力〟があるなんて〝言霊信仰〟があり、今でも国民のほとんどが無自覚にそれを強く盲従の域で〝信じている〟日本(このくに)では、無敵にも等しい異能だ。

 使い手たるこいつは口も達者で頭もキレるので、口論で打ち勝てる人間は、よっぽどの天才的頭脳と強靭な意志の持ち主でもない限り、ほとんどいない。

 

 その上奴は、万年筆を実在しない銃へ――虚から実を生み出す〝魔法〟を成し遂げてしまった。

 

 あの魔女への執着を潔く捨てて、修練に励んで自分の異能をもっと高めていけば、今よりももっと魔法じみた言霊の力を手にすることができ、お偉いさんの鼻っ柱を折ってやれることもできたかもしれないってのに、勿体ないことをしたな。

 

 まあ、もうどうでもいいことだ。

 こいつにはもう〝未来〟はない。

 悪事が露わになった時点でエリートのキャリアはご破算。

 大災害を起こそうとした元査問官を、協会も、そして名瀬も許しはしない。

 特に名瀬の執念深さは、ゴジラな自分から見ても恐れ入るものだ。

 確実にこのクソ野郎は、〝凍結界〟に放り込まれ、生きれず、死すら選べず、絶望の監獄の中を永遠に彷徨うことなる。

 なら、いっそ、ここで引導を渡してやった方がいいかもしれない。

 

「さて、一思いに一発で――」

 

 弾はあるか?ないか? 、そんなはったりをわざわざ相手にかます気のない俺は、奪い取ったこの銃を――

 

「――殺してやる」

 

 ―――優男の脳天に向け、トリガーに指をかけた。

 後は引くだけ。

 

「待ってッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 澤海が、いやゴジラが、藤真弥勒から奪った異能で作られた銃を彼に向けた。

 座り込んでいる峰岸舞耶の両肩を支える美月は、恩人が銃口を向けられる状況に彼女がパニックに陥るのを覚悟して引き止めようとした矢先、秋人は澤海を呼びかけた。

 

「何だ?」

 

 少々めんどくさそうな物腰で、銃口を一旦下げて、澤海は応じる。

 それでも目つきは、ゴジラそのものな覇気と殺気に満ちていた。

 

「澤海……藤真弥勒を……殺さないって選択肢は、ないのか?」

「悪いなアキ、今回ばかりはお前の良心(おひとよし)に付きやってやる気はない」

 

 秋人からの問いに、さらりと、淡々と、〝拒否〟を突きつける。

 このお人よしな変態(メガネスト)と、峰岸舞耶当人には悪いが、美月は澤海の、ゴジラのこの行為を否定できない。

 彼は同類、または同類に値する――それこそ自分たちみたいに信頼に値する相手に対しては、義理堅く、情が深い。

 しかしそれは裏を返せば、値しない存在に対しては徹底して冷徹であり、まだ同類を傷つけた、危害を加えた存在に対しては、どこまでも無慈悲だと言うことだ。

 

 藤真弥勒は、自分の姉――名瀬泉を貶める為に、ここにいる私たちを翻弄した挙句、栗山未来を撃ち殺し、秋人を、秋人自身が忌み嫌う〝妖夢〟の姿に変えて暴走させ、空が落ちるほどの災厄を起こそうとしたのだ。

 結果は阻止に終わったとはいえ………ゴジラが、そんな行為を企て、同類たちを貶め、命すら脅かそうとした〝醜い人〟を、許すか?

 それは、ノーだ。

 そんな澤海が、悪事を暴き、査問官としての地位と名誉を破壊しただけで、怒りを収めてくれるわけがない。

 

「生憎俺には、誰彼助ける行為に〝美徳〟なんか抱いちゃいねえ、こうも言うだろ? 選別って残酷があるから美も徳も生まれる、代わりがいないからこそ意味がある、ってな」

 

 彼の言葉の内、特に後者は、彼が実の息子同然に育てた同族(ゴジラザウルス)と、その子に抱いていた強い愛情を思えば、とても強い説得力を持っていた。

 

「僕だって、誰でも助けたいってわけじゃない!」

 

 対する秋人も、引き下がらない。

 

「虐げられてきた峰岸舞耶に、救いの手を差し伸べた藤真弥勒は、ずっと彼女を見て見ぬふりっをしてきた連中と比べて、本当に救い難い存在なのか? たしかに彼のやったことには、許せないけど………僕にはそう、映らない」

 

 ゴジラに負けまいとしているのか、秋人の語気がひと言分ごとに、強まる。

 秋人の言い分もまた、今まで、私たちと会うまでに辿ってきた経験を思えば、確かな事実だった。

 

「彼女にとって藤真弥勒は英雄だったんだ、間違いがあるとしたら現状を打破する武力を与えただけで、正しい道に導びかなかったことだ、誰も彼もが知らない振りをする中、一人見捨てなかった彼に、更生の機会を一度も与えないなんて……妥当なのか?」

「―――――ッ!」

 

 ここまで言い切った瞬間、澤海から笑い声があがった。

 この場には似つかわしくない破顔からの笑いを、夜の空へと響き渡らせる。

 

「見捨てなかった? 救いの手だぁ? そんなもの―――こいつは最初からそこの女に差し伸べちゃいねえさ」

「な……なにを?」

「教えてやろうか? このクソ下郎がどうやって〝白銀の狂犬〟を作ったか」

「え?」

 

 ビクッと、舞耶の両肩が震えるのを美月の手は感じ取る。

 

 

 澤海は――残酷さを秘めた〝真実〟を語り始めた。

 

 

 異界士になる以前、舞耶は自身の通う学校で、三人組の女子グループから、いじめの標的にされたと言う。

 いじめはエスカレートしていき、夜の人気のない場所に連れて来て、金銭を要求し、それができないと分かるとひたすら陰惨な暴力を振るうと言う流れが、毎日、何度も何度も続いた。

 その日の夜も、人気のない公衆トイレに連れ込まれ、要求していた金銭を用意していないと分かると、特徴的な銀色の髪を引っ掻き回し、殴る、蹴る、美月の普段の親しみの裏返したる毒舌とは決定的に異なる、陰湿で薄情な言葉による中傷すらも受けた。

 精神も肉体も、限界に差し掛かっていた中、藤真弥勒は舞耶の前に現れた。

 

「言霊使いの力なら、穏便に助けてやることだってできただろうさ、だが下郎はな、手を差し伸べるどころか――銃を投げ寄越して、殺人を〝教唆〟したんだよ、正常な判断なんて碌にできない状態だった少女にな」

 

 澤海の言うように、言葉の使い方次第なら、言葉だけで永遠に舞耶への暴行を止めさせることだってできた………だが実際は――精神が壊れる寸前だった少女に、殺すことを半ば〝強いたのだ〟。

 さっきの強制的な発砲を思い出せば、言霊を使った可能性もなくはなかった。

 

「屑どもは三人とも殺されたさ、最後の一人なんて、鑑識の記録によりゃ息はあっても虫の息だったのに、頭(ドタマ)を撃たれたんだぜ、俺が言うのもなんだけどさ」

 

 銃を持っていない方の手を指鉄砲にして、自分の頭に向けながら話す。

 

「本当かどうかは、そこにいるご本人に聞くまでもないだろ?」

 

 聞くまでもない………白銀の狂犬と言う異名からほど遠く、弱弱しく震えている儚い少女の姿

が、何よりも証拠となっていた。

 

「下郎がやったことは救済じゃねえ、峰岸舞耶を盲従させて、自分の下した命令を実行するだけの殺人マシンにしたて上げただけ、奈落から引き上げると見せかけて別の地獄に突き落としただけ、これのどこが―――〝英雄〟だって言うんだ?」 

 

「…………」

 

 さっきまでは雄弁と、秋人なりに毅然と持論を展開していた秋人は、真実を前に反論する言葉を失って、苦虫を噛み潰していた。

 聞き手となっていた兄も未来も、峰岸舞耶が〝白銀の狂犬〟と名付けられる発端を、〝虐げられた側〟にいたゴジラ―澤海から聞かされたことで、黙り込む以外にできることはなかった。

 

「どの道ここで俺が気まぐれを起こしても、協会も名瀬も、更生の機会なんてもんは一度たりとも与えりゃしねえと思うぞ」

 

 この言葉の否定できない。

 協会にとっては、事件そのものをなかったことにしたいくらいの不祥事だし。

 自分も名瀬の者であるがゆえ、名瀬の実態を間近で思い知らされてきた美月には、自分の家があの査問官に慈悲を与える気はさらさらないと分かっていた。

 それが自分の姉――名瀬泉となれば尚更、言霊使いをも凌駕しかねない話術で精神を殺し尽した果てに、凍結界に放り込む様が、容易に想像できてしまう。

 逆に、泉姉は万が一の確率で情けを彼に見せる様子が、澤海以上の頭に浮かばない。

 

 こうして泉姉を堕とす〝計画〟が打ち砕かれた時点で………査問官、引いては異界士としての〝藤真弥勒〟は死んでいるも同然であり、さらに……死よりも恐ろしい〝運命〟が待っているのだ。

 

 その上、報復する時は完膚なきまで相手を叩きのめすゴジラにまで、唾を吐くにも等しい行為を犯してしまった。

 

 秋人と、峰岸舞耶には本当悪いけど………彼がこの先、更生できるのかと言われると、頷くことができない。

 

「こんなクソ下郎に情けを掛けるのが〝美徳〟だってんなら、そんなもん食ってやった方がマシだ」

 

 と、言い切ったゴジラは、再び銃を藤真弥勒目がけ構え、親指で撃鉄を引く。

 現在の銃の撃ち方には、まず撃鉄を引いてから引くシングルアクションと、直接トリガーを引くダブルアクションがあり、リボルバーはダブルだと引き金が重く、正確に撃つにはシングルの方がいいと言う話を、以前澤海から聞いたことがある。

 先程の宣言の通り、澤海はシングルアクションによる一発で、一思いに引導を渡そうとしていた。

 

「その弾は私には当たらない! 掠りもしない!」

 

 大気を突き破る轟音。

 

 利き腕を負傷し、他に銃を持っておらず、完全にゴジラの発する覇気を前に屈服しかけている藤真弥勒は、唯一残った武器である〝言霊〟を使うも、発射された銃弾が肩の肉を切り裂いた。

 素人目に見ても、片手では狙い撃てそうにない大型拳銃の反動にも涼しい顔で、銃身を跳ね上げもせず放った。

 

「無駄だ」

 

 澤海はいうなれば、あくまで〝人の姿と人並みの知性を得た〟動物でもあり、たとえ放課後私たちと他愛なく雑談を交わして学生生活を満喫していたも、その本質には全くの揺らぎはない。

 

 ゆえに、日本人(わたしたち)のように〝言霊〟に縛られていない澤海――ゴジラには、通じない。

 

 一発目は通用しないことを教えつける為に、わざと掠めるに止めたのである。

 

 もう一度、撃鉄を押した。

 

「やめっ……」

 

 今度こそ、自身と自分たちを弄んできた〝下郎〟に、引導を渡す為に。

 

「――――やめぇてぇぇぇぇぇぇーーー!!」

 

 峰岸舞耶の叫びが虚しく宙に霧散する中―――引き金が引かれた。

 

 

 

つづく。

 




本作では出しませんでしたが、原作では本当にアッキーが暴走する中、泉さんが出てきて、劇場版込みでアニメを見た人たちには仰天するほど場を引っ掻き回して秋人君たちを精神的にボッコすると言うサイコクレイジーっぷりを見せてくれます。

そろそろ二巻目も終わり掛けですが、三巻目の話に入るか、当分様子を見るか……原作四巻目の情報が欲しい(汗

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