境界の彼方~G-ゴジラ-を継ぐ者~   作:フォレス・ノースウッド

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さて本年度初めての境界のゴジラ最新話。

自分も人のこと言えないのですが、そろそろ原作にも動きが欲しいと思っているこの頃、劇場版が公開された去年も結局何の音沙汰もなかった……


追記:なんで更新した日にばっさり切られなきゃならないのだろうか………なぜよりによって更新したその日なんだ!
自分もその一人なんだけど、物言わぬ読者もまた厄介な存在です。


EP16 - 嵐は迫る

 地下留置場の前で、僕らは澤海たちが出てくるのを待っていた。

 拘束された異界士の私服込みな私物も場内に保管されているので、二人はそれを取りに行っているからだ。

 程なく、黒のジージャンと深みのある青なジーンズの組み合わせな澤海と、着物姿の彩華さんが揃って出てきた。

 澤海はさっきと同じ格好、彩華さんもいつも見る着物姿だと言うのに、これから〝戦場〟に向かおうとしている為か、〝戦闘服〟みたいな覇気が本人たちと一緒に衣服から発せられていた。

 

「全員参加とは、喜ばしいことですね」

 

 やっと文芸部全員が揃った中、相も変わらず藤真弥勒は人を喰った態度を見せ。

 

「戯言はいい、峰岸舞耶の潜伏先の目処くらいは付いているんだろうな?」

 

 博臣はそんな査問官に、自らの美貌を刺々しくさせて詰め寄った。

 彼の言う通り、ここまで手の込んだことをしておいて、相手の居所含めた情報を手にできてはいないとは考えにくい………振り回されたこちら側としては、早いとこ〝戦場〟に案内してもらいたいものである。

 

「ある程度足取りは掴めてはいるのですが、現在地までは把握していません、何せ隠れ家を転々としているようでしてね、ごく最近の居場所が判明できれば、今後の行動はある程度予測できるのですが」

 

 僕は峰岸舞耶が〝ごく最近〟隠れ家の一つにしていたマンションを思い出す。けどきっともう蛻の殻だ………澤海があの時情けを掛けなければ、あの留置室に収容されていたのは彼女の方だ。

 痕跡だって微々たりとも残してはいない筈、万が一ってことも考えて確かめにいく価値はあるけど、それにはせめて博臣にも僕らが彼女に接触した件を話さなければならない。

 義理堅さなら〝人間以上〟とも言ってもいい澤海なら、接触したことは一切口外しない約束は貫き通すだろう。

 事実澤海は、さりげなく目線で僕に〝喋るなよ〟と警告してきた。

 

「なら仕方ない、〝あいつ〟を頼りにするしかなさそうだ」

 

 

 

 

 博臣が口にしていた〝あいつ〟こそ、あの一ノ宮庵、自身の意識を直接ネットワークの世界にダイブできる電子干渉能力を持つ情報屋である。

 あいつの能力に掛かれば、峰岸舞耶が持っているケータイを通じて現在地を割り出すことも不可能ではない。奴が常時ケータイの電源を点けたままにしていればの話だけど。

 たった一人の人間の居所を見つけるのに一種の辱めを受けなければならない、だが背に腹は変えられない状況なので、博臣は苦虫を嚙んだ面持ちで秋人と美月を連れてあいつのいるマンションの方へ向かっていった。

 対して俺は、未来と彩華ともども、控室のソファーに腰を下ろし、外では扉の前で協会の異界士が見張っている恰好だ。

 現状まだ制約の多い仮釈放の身なので、完全に自由になるには、峰岸舞耶を今度こそ確保するしかない。

 

「澤海君、今あんま喉が渇いとらんけん、うちの分も飲んでくれるか?」

「ああ」

 

 テーブルに置かれた茶を一飲みした俺は、彩華の分も受け取った。

 

「あの………黒宮先輩」

 

 同じソファーに座す未来が、俺に何か聞きたげな様子を見せてくる。

 法廷の被告席にいた時よりは目に見えて顔色は良くなってはいるが、引っかかりがある、そんな感じの微妙な表情を、実年齢より幼い童顔に浮かばせていた。

 

「どうした?」

「その………ちょっと気になって………峰岸さんのこと、黒宮先輩がどう思っているか」

 

 例の白昼の爆破事件があった日のあいつらから、とうに察してはいたが、やはり彼女も秋人とどっこいどっこいに、峰岸舞耶のことが気になっているご様子である。

 

「そう言われてもな、俺にとっては依頼の遂行条件程度ぐらいしかねえよ」

 

 嘘偽りを、一ミリほどの割合分すら混ぜず、正直に現在の奴に対する自分の〝見方〟を打ち明ける。

 

「先輩らしい……ですね」

 

 苦笑交じりに未来からこう返されたが、他に言いようがない。

 単純な関心の度合いなら、奴よりも奴に〝モグタン〟と名付けられたあのちっこい妖夢と、そいつの友達に対する種族間を超えた友情ってやつの方が上であり、それらを踏まえてオブラートに包んだ譲歩的言い方をするなら〝友達の友達〟ぐらいのものだ。

 査問官ら協会の連中を散々翻弄した逃亡犯を確保するには絶好だった機会を逃したのも、巻き込まれた秋人とモグタンの気持ちを一蹴してまで強行した後に待ってる苦々しさを味わいたくなかったからであり、奴自身に情が移ったからではない。

 だから一連の事件と爆破が起きた直後にご対面してすっかり感情移入(いれこん)じまっている二人と違い、奴への見方はカラカラに乾ききったドライなもの。

 いや……むしろ、あんだけ友達(モグタン)に屈託ない笑顔を向けておいて、そいつに逃亡生活の相乗りをさせている点で、微かながら怒りすらある。

 あんなテロリストの真似事をしているのは誰の為か………いずれにしろ、待っているのは〝破滅〟しかない。

 あいつのことだ……あの小さな体で友を助けようと異界士に抵抗するのは目に見えている………そして妖夢は見つけ次第〝殺す〟が基本なこの業界において、あいつの友への情の篤さは間違いなく死に繋がってしまう。

 奴だってそれぐらい分かっているだろうに………奴もとんだ馬鹿野郎だ。

 あ……こうして考えを巡らせ、纏めてみると、何だかんだ奴に対する〝関心〟がないわけではないと気づいた。

 が、秋人や未来ほどあの〝逃亡犯〟に入れ込めないってのも事実だ。

 

「お前も気をつけろ、ミライ君は奴からアキと同じ匂いを感じているかもしれねえどな、同時にあの野郎は真城優斗についていくことを選んじまった〝栗山未来〟と言ってもいい」

「…………」

 

 俺の口から真城優斗の名が出た時、未来の顔にまた影が差し込まれた。

 こっちとして奴のことを余り話題に出したくはない、今回の件に奴が噛んでいなくとも、今もどこかで隠れ潜みながら追われている幼馴染の姿を、想像させてしまうからだ。

 けど未来が秋人(おひとよし)に釣られて深入りし過ぎて大火傷どころじゃない傷を負う目に遭わないよう、先んじて打つ手としては………奴の存在と、一緒に地獄に落ちる道を選んだIF(かのうせい)が抑止力として働くのは、確かだった。

 ただまあ……俺が白銀の狂犬どう思ってようが、どう辛辣に口にしようが、こいつらが簡単に引き下がる性質ではないと分かっている。

 たとえ奴が銃を構えていたとしても、素人でも当てられる距離よりも先にあるあいつの〝内側〟に、踏み込もうとするのは明白だった。

 

「辛いかもしれないが、自分自身を説き伏せるくらい厄介だってことは、分かってくれ」

「はい……」

 

 

 なんてせめてもと、二人の想いを尊重しつつも、その想いが裏目に出ぬように、未来に忠告を投げた。

 さすがに俺と比べればまだ可愛いもんだろうが、たとえ偽りない良心でも峰岸舞耶を破滅の底なし沼から引き吊り出すのは困難だ。

 何せ、その良心に裏切られ続けてきたあいつからすれば、その沼こそ〝救いの手〟と言う奴だったんだから。

 

「奴以上に、気をつけておいた方がいいのがいるけどな」

「それは……誰ですか?」

「お人よし君なアキに決まっているだろ、あいつは自分が思ってる以上に、自分の不死身さに甘えちまってるからさ、でないと……357マグナムをぶち込まれるより性質の悪いことになる、心当たり結構あるんじゃねえか?」

「はい、確かに結構ありますね………心当たり」

 

 苦笑いを浮かべて、未来は同意を示した。

 

「なので、ありがたく肝に銘じておきます」

「ああ、そうしてもらえると、助かる」

 

 

 

 僕たちが一ノ宮庵から、目当ての情報をどう手にしたかの経緯は、申し訳ないんだけど割愛させて頂く。

 とりあえず手短に述べていくと。

 博臣はシャワーで体を洗い、ピアノで一曲弾くことを強要され。

 美月は遠い昔の銀河系のお姫様みたいなお団子ヘアにされて(これがまた似合ってたりする)、四つん這いな体勢の僕に乗り。

 僕はそれ以外に特に何もされず、美月から自分が文系、理系、無所属のどちらかに所属しているかと言われれば〝無所属〟であることを突きつけられ。

 一方で一ノ宮庵とは充実したメガネ討論を繰り広げることができた―――等々だ。

 

 そうして彼の電子干渉能力で、峰岸舞耶の現在位置を得た僕らは協会に戻ると。

 

「連絡なら受けています」

 

 控室に戻るなり、藤真弥勒はそそくさと机の上にて地図を広げてみせた。

 時間に恵まれていると言えないので、これぐらい端的の方が助かるのではあるんだけど。

 査問官が用意した地図は、名瀬の管轄区とほど近い地域を記していた。

 

「これまでの経験で、峰岸舞耶は強敵を相手には本能的に屋内戦に持ち込むことが分かりました、それを利用して、今は廃墟な工場跡地を戦場に使います」

 

 地図に記載されているその工場跡地の地点を、査問官は指さしつつ、峰岸舞耶を確保する策を説明し始める。

 内容は、至極単純な〝袋の鼠作戦〟。

 包囲網で彼女を例の跡地に追い込み、二か所ある出入り口を博臣と美月が檻で封じて閉じ込め、挟み撃ちにすると言うものだった。

 

「そうなると、俺と美月の位置は必然的に別々になるな」

「博臣さん……頼むからやっぱり降りるなんてことは言わないでくれよ」

 

 つい僕は、博臣の口から零れた言葉に過度に反応してしまう。

 このシスコンの美月(いもうと)への想いの強さは、過保護なんて言葉ですら生ぬるいくらいの域だからな………美月が危険の藪の中に入ると踏んだら協力を拒否してしまう恐れもあった。

 

「私は降りるつもりはないわ、〝ただの拳銃〟ぐらい、どおってことないわよ」

 

 美月当人も大人しく引き下がる気はなく、強気の姿勢で兄に反論を述べる。

 一発でも、体のどこに当たろうが、直ぐか時間が掛かるかの違いだけで、死に至らしめる拳銃の鉛の弾を〝ただの〟と言える辺り、絶対不可侵の干渉結界の極みたる〝檻〟がどれだけ強靭で堅牢であるかを示していた。

 

「俺がでこいつのやる気を空回せてしゃばらせ過ぎないよう、目を光らせといてやるから、過保護もほどほどにしとけ」

 

 本人の反論に乗る形で、澤海も助け船を出してきた。

 

「さすがに降りろと無理強いはするつもりはないさ、たっくんもいることだしね」

「それじゃあ……」

「安全を最優先の、条件付きだがな」

 

 過保護な兄と言う問題(ハードル)を越えられた美月は、擬音にしてぱあっとした感じ喜びを見せた。

 本当はとてもそんな状況じゃないんだけど、美月からしたら〝蚊帳の外〟に放り込まれるよりは良いのだろう。

 

「戦力配分としては、俺と未来ちゃん、たっくんと美月と彩華さんの二手に分ける、非常時を考えると、未来ちゃんと美月の組み合わせは避けたい、みんなはどうだ?」

「異論はねえヒロ」

「私もです」

「うちも特に意見はあらへん」

 

 博臣の方針に、澤海も栗山さんも彩華さんも同意を見せた。

 

「確認するが、目的地に追い込むまでは手を貸してくれるんだな?」

「もちろんです、この手の追い込みに〝人海戦術〟は必須ですからね」

 

 こうして、作戦前の打ち合わせは終わった。

 完全に僕は蚊帳の外の傍観者だったが、立場が立場なので、気にはしていない。

 

 

 

 

 

 暮れていく陽で朱色に染まった空を見ていた僕は、目線を地上に移す。

 夕空の下では、完全武装した異界士たちが作戦開始前の最終チェックに勤しんでいる。その念の入れようから、峰岸舞耶から受けた〝苦味〟の強さが窺えた。

 

「作戦領域にまで踏み込む気ならアッキー、防弾に備える準備くらいはしておけよ」

「そういう不機嫌な言い方をしたら、栗山さんにまで気まずくさせるだろ?」

 

 少し苛立ち気味な博臣の態度に、僕はジト目とセットで苦言を呈す。

 

「俺が苛立っているのはアッキーが場違いに現場(ここ)にいるのが理由なんだが?」

「あの二人とも………喧嘩はよして下さい」

 

 案の定、気まずさを覚えた栗山さんが僕らの間を仲介してくる。

 

「未来ちゃんは何も悪くないさ、分不相応なことばかりするアッキーの性質(たち)が問題なんだ、今のアッキーに最善なのは、大人しく留守番役を徹することなんだぞ、分かっているのか?」

「悪いけど今の僕はそう拝めない博臣の活躍を見たい気分なんだ、聖書にしても武勇伝にしても、偉業を後世に伝えるのは第三者が書いた書物だろ? 歴史に名を残してきた偉人は〝言葉と態度〟で人々に道を示し、感銘を受けた者が文字で書き残す、言うなれば博臣がホームズで僕がワトソンと言うわけさ」

「そこまで言い繕えるアッキーの口の達者さは、ある意味で才能だな」

 

 僕からの芝居がかったユーモアに、博臣は肩をすくめて溜息を吐くも、直ぐにその美貌を厳しい表情にさせる。

 

「だが忠告はしておくぞ、現実の戦闘ではフィクションのような〝奇跡〟は都合よく起こり得ない、だから成功率を少しでも上げる為、どんなに地味な準備でも手間と暇を惜しまず最善を尽くす、その点で言えばアッキーの場合は不死身さが感覚を麻痺させているのかもしれない、頭では理解していても、死に対する本能的直感って奴は、一般人を乖離している」

「そりゃ………身近に不死身なのがもう一人いるからね」

「先輩には悪いんですけど、先輩が思っている以上に、黒宮先輩――ゴジラは本能でも〝死〟を理解していると思います、何しろ実際に死んだ瞬間をはっきり覚えているんですからね、前にあの人が虚ろな影を相手にした時の無茶は、自分の生命力の〝限度〟を重々踏まえていたからこそです」

「…………」

 

 澤海――ゴジラをつい安易に引き出してしまった僕は、まさかの栗山さんからの手痛い反撃を受けた。

 そこを突かれるのは辛い………美貌の異界士の言う通り、あの〝メルトダウン〟は、人に神だと連想させるほどの人知の越えた存在――ゴジラとなっても、死の避けられぬ〝命〟を持っている生命体であると、意識的にせよ無意識せよ澤海に認識させているのは………確かだろう。

 そう言えば、前にも栗山さんから自分が一番〝危なっかしい〟と釘を刺されたのを思い出す。

 留守番役が僕の前にある選択肢の中で一番最善なのは、確か………だけど、この眼鏡美少女とあの銀髪の少女のことを思うと、やっぱり大人しく待っていられそうにない。

 

「まあ、俺と未来ちゃんが言いたいのは―――自重してくれってことだ、同じ不死身仲間のたっくんも、今この場にいたら同じことを言っただろうさ」

 

 そう博臣から忠告を受けてしまった直後くらいから、作戦に参加する異界士たちの準備が整ったようで、後は実行時間まで待つ状態となっていた。

 

「工場内部に入るまでは、まずこの経路で攻め込む――」

 

 博臣は懐に持っていた工場の見取り図を広げて僕と栗山さんに見せ、段取りを改めて説明。

 

「対象を発見次第、下手に身を隠さずに正面から仕掛ける、弾切れ狙いの長期戦じゃ、俺と美月の集中力が持たない可能性もあるからな」

「じゃあ逆を言えば、短時間なら鉄壁の防御ってわけか?」

「全方位からの攻撃でも防ぎ切ってやるさ、仮に峰岸舞耶が工場ごと吹き飛ばすほどの自爆を敢行したとしても俺たちは無傷だ、そんなわけで標的を取り押さえる役は未来ちゃん、君に任せる」

「了解しました」

 

 段取りの確認が終わり、僕はスマホで時間を確認すると、作戦開始時間が近づいていた。

 栗山さんは日常でのあどけなさを消して〝異界士〟の顔つきとなっていつでも戦闘に入れる雰囲気を見せている。

 博臣も、万全の態勢で臨んでいるにも拘わらず……まるで負け戦を覚悟しているような険しい表情を、端整な容貌から表していた。

 美貌の異界士のスマートフォンから着信音が鳴り、博臣は通話先の相手と短いやり取りをした後、僕らに顔を向け。

 

「東から標的を追い込んだらしい、俺たちは西側から迎え撃つ、行くぞ」

「はい」

 

 博臣が先導する形で、僕らは西門から工場跡地内に入り、自然と三角形上の陣形となって進んでいった。

 虚ろな影との戦いの場となった神社に劣らぬ荒廃さを魅せる廃屋の中に入る。そこは建物の外壁以上に汚れと錆で荒れ果てており、作業用機械がそのまま放置されていた。

 

「予想より酷い有様だ……」

 

 地面に散らばる鉄くずを蹴った博臣はそうぼやいた。

 積もった大量の埃が宙に飛散して、こちらの視界を妨げようとする。

 

「急ぐぞ」

 

 無秩序に雑草たちが生えた建物間の中庭を抜け、元は食堂らしい次の建物に入る。

 ここでも夥しい無数の長い歳月で溜まった埃の洗礼を受けた。

 しかも、工場内はどこもかしくも身を隠せる場所に恵まれているので、いちいち埃に煙たがってもいられず、常に不意打ちを想定して警戒していなければならなかった。

 どれぐらい経ったか……前方より人間の呻き声らしきものが耳に入った。

 標的である峰岸舞耶を追い込んだ後、西と東、両方の出入り口を封鎖する………東の方は美月たちの役目であり、つまり今男の声が響いたと言うことは――――僕らは声の発生源の方へと急いだ。

 

 案の定………そこは不測の事態が起きてしまっていた。

 

 藤真弥勒と、武装している異界士数名が――倒れていた。

 全員……重傷を負ってはいるものの、まだ生きている。

 

「おい、しっかりしろ!」

 

 博臣は追い込み役の異界士たちの仕切り役である筈の藤真弥勒に駆け寄り、呼びかけた。

 

「外の連中を束ねる筈のあんたはどうしてここにいる!?」

「救援を要請したのは………そちら………でしょう?」

 

 どうにも、二人の会話は全く噛みあっていない。

 

「峰岸舞耶にやられたのか?」

「違う………仲間かも、しれませんが………」

 

 相手の意識が朦朧としているせいで、それ以上彼から事態を聞き出せなかった。

 

 

 

 

 

 

 一方、東口の封鎖を担っている筈の澤海たちは―――〝研ぎ澄まされつつも禍々しい殺意〟と向き合わされていた。

 

 

 

つづく。

 


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