境界の彼方~G-ゴジラ-を継ぐ者~   作:フォレス・ノースウッド

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もし澤海―ゴジラがシンフォギアGXの宣伝CM30秒に出たら

♪~Exterminateのサビ(シンフォギアGX)

澤海「シンフォギアGXの第三巻ブルーレイが発売されるぞ、今回はデュエット挿入歌集に前作で好評だったしないフォギアシリーズの最新作も特典に収録されてるぜ、さあみんなも素が駄々漏れなたやマの可愛らしさに酔いしれよう」
マリア「たやマって言うな!」
澤海「って本人来やがった……けど何て言うか、たやマ(ただのやさしいマリア)っつーよりタヒチ(ただのひよっち)だな」
マリア「誰が上手いこと言えとこのおしゃべり怪獣王!」


EP15 - 密談

 藤真弥勒ら異界士協会からの回りくどい上に傍迷惑な〝峰岸舞耶〟の確保の依頼を応じた僕ら、正確には名瀬家の博臣と美月で、僕は場に居合わせただけの半妖夢な学生だけど。

 控室で博臣と査問官は書面で正式に依頼の手続きをしている間、僕と美月は拘束されている一人な栗山さんをまず迎えに行くべく、裁判中での被告人の待機場所である仮監置室に向かっていた。

 到着早々、藤真弥勒から説明を聞いていたらしい栗山さんの監視役を担っている女性異界士は僕らを室内に招き入れる。

 

「先輩? 美月先輩まで……どうして?」

 

 細い鉄格子の奥には、粛々と鉄格子内の椅子に座っていた栗山さんが、僕らが入ってきたことに驚いていた。

 そのまま栗山さんはは現状一時的に解放され、僕らは彼女を連れて控室に戻り、手続きを終えたばかりの博臣が経緯を説明する。

 

「やりますやります!」

 

 眼鏡っ子な後輩女子への心理的負担を考慮して、澤海と彩華さんを助けるには交換条件を呑むしかないと言う強調がなされた美貌の異界士の説明に、 栗山さんは二つ返事で力強く両の拳を握りしめて了承の旨を示した。

 自分の抱える事情の為に、澤海たちを巻きこまれてしまったと少なからず感じているのだろう。

 

「あんまり気負いすぎることはないよ、澤海たちはあくまで異界士として仕事を全うしただけなんだから」

「それじゃあ……先輩は黒宮先輩たちがどうなってもいいって言うんですか?」

 

 むっとした表情からの視線を、僕に投げかけてくる。

 自分でもどうかと思うのだが、最近眼鏡の似合う女の子から〝ご褒美です♪〟なくらい罵られたい願望があり、栗山さんはまさにそれを叶えてくれる女神にも等しいわけなのだが、ここで下手に頬が弛んでたり、鼻の下を伸ばしてたりなどしてたら、黒髪少女(無論怪獣王もここにいれば彼からも)からの罵声が飛んでくるので自制する。

 

「先輩? 聞いてますか?」

「いや、ごめん、栗山さんには危険なことをさせたくないけど、だからって澤海たちを見捨てたりなんかしたら、後味が悪すぎて眼鏡に合わせる顔がないからな」

「カッコよく決めたつもりでしょうけど一般的感性からはギャグにしか見えないわよ秋人……ここは全米が泣くような台詞で行ったらどうかしら?」

「眼鏡は世界共通概念なんだから問題ないだろ? 大体僕は全米が泣いたなんて謳い文句は信用していない、全国民が見ているなんて無理があり過ぎるし、感性が各々異なる人間たちを確実に泣かせたかれば、それはもう感動させるどころか脳に直接作用させて無理やり涙腺を緩めるみたいな話に―――」

「秋人は好感度を下げる天才よね」

「美月にだけは言われたかないッ!」

 

本当、どの口が言うかって話だ!

 

「とにかく、面倒なことになる前にたっくんたちを迎えに行こう。たっくんはともかく、新堂彩華の場合は明確な規律違反に当たるからな」

 

 こんな時にさえ愚かしくも駄弁ってしまっていた僕らに、博臣はぐうの音も出ない正論で促した。

 近場の階段を使い、四人で協会支部の地下にある留置場へと向かう。

 以前見たことがあるFBI捜査官がサイコキラーな精神科医の助力を得て連続殺人犯を追うサスペンス映画の影響か、もっと薄暗く不気味で衛生的に良いとは言えない環境をイメージしていたが、いざ階段を下り終えると、想像とは反対に明るく小奇麗であった………けど、円形状な出入り口は厳重でできていて、いかにも感は無きにしもあらずでもある。

 

「あんたが名瀬か? 話なら聞いている」

「そんな確認の仕方で大丈夫なのか?」

 

 博臣が尤もな返しをした。

 特に本人確認もしていないのに、ただ来ただけで〝名瀬である〟と判断するのはどうなんだろう?

 

「問題ないさ、知らない顔がここに来ることは希なもんでな」

 

 留置される側の異界士を除けば、見慣れた査問官か協会の人間しか来ないらしいことを話す管理人らしい恰幅のいい中年男性は、管理室に入ると、室内に備えられた端末を操作する。

 

「正式に決定が下るまでは監禁拘束する予定だったんだ、悪く思わないでくれよ」

 

 電子音がビッーと鳴ったかと思うと、円状の扉は真ん中からS字に開かれた。

 白色で統一された長い回廊と、壁は一定の幅で長方形型の扉が並列されている。

 

「新堂彩華は四番、黒宮澤海は五番だ、扉の前に立てばセンサーが反応して開くようにしてある」

 

 一瞬そんな仕様で脱獄されないのか? と勘ぐったけど……〝監禁拘束〟って管理人の言葉が何を意味するか、理解したことで納得しつつも、ゾッともした。

 二人が捕われている理由が、僕の母――神原弥生とも関係しているだけに、口の中に苦味を覚えてしまう。

 

「美月!?」

 

 まだ一時的だが、解放できるんだぞと自分に言い聞かせた直後、美月は躊躇わず、澤海がいると言う〝五番〟の方へ一目散に走っていった。

 

 

 

 

 留置場の管理人が言っていた通り、五号室の前に美月が立つと、周囲と同じく白い扉が横にスライドして開かれる。

 

「っ!?」

 

 中に入った美月は、震えている大きな双眸のレンズに映った光景に息を呑んで、両手を重ねる形で口を覆った。

 先程までは秋人のこんな時でさえブレな眼鏡愛のお陰もあって、〝いつもの自分〟でいられたのだが、捕われている澤海の現状を目の当たりにした途端、あっさりと崩れてしまう。

 美月からは却って薄気味悪さを感じてしまう一面真っ白な部屋(りっぽうたい)の真ん中に、部屋と同色の拘束着を着せられた上に、金属の鎖で何重にも、体内の骨にまで圧迫させるほどの強さで縛られ、口にも黒く分厚いマスクを嵌められた澤海が、力なく俯いた状態で目も閉されていた。

 檻の感知能力で、拘束具は異能の術で強化されていることを美月は読み取り、もしかしたら常人なら致死量な薬品を過剰投与されている可能性も過る。

 

「澤海ッ!」

 

 絶句させられていた美月は、唇を噛みしめ、今にも泣きそうな声音で澤海に駆け寄り、無我夢中で彼の肩を強くゆする。

 

「ねえ、起きなさいよ!」

「そう揺らすな」

「え?」

 

 すると、深く眠っていたのが嘘だったように、美月の手は澤海の体から力が入ったのが伝わり、彼は顔を見上げて、青白く鋭利な瞳を彼女のと合わせた。

 

「下がってろ」

「っ……ええ……」

 

 言われた通り、美月は少し背後へ下がって距離を取った。

 促した澤海は深呼吸から両腕と両手から瞬間的に力が放たれると、彼の動きを封じていた筈の鎖が、余りのも呆気なくバラバラと千切られて色白の床に散乱して金属音を鳴らした。

 

「振りをすんのも楽じゃねえよ、レ○ター博士もよく我慢できたよな」

 

 ボヤキながら自由になった手でマスクを簡単に引き千切り、握り拳にした指の隙間からチレェンコフ光色のエネルギーの爪を一刃出すと、それで体を傷つけず器用に両手首の手錠と、両足首の重し付きの足錠をいとも簡単に切り裂いてしまう。

 自らの怪力を発揮させたと同時に、拘束具が密着している部位に集中的に熱線エネルギーを放射させたのだ。

 さっきまでの捕われの身の状態が嘘だったのかと思わされてしまうほど、あっさりと澤海は自力で自由の身となってしまった。

 

「…………」

 

 完全に呆気に取られている美月、せいぜい、澤海が揶揄に使ったのがミステリーホラー小説に登場する人肉好きのサイコパスな精神科医であることぐらいしか頭が回っていない。補足すると美月は映画の方は見ていないが、原作小説は文芸部の寄贈書の中にあったので読んだことはあったりする。

 

「鳩が豆鉄砲くらったみてえな顔しやがって、〝逮捕されたゴジラの無様〟な姿を拝みに来たんじゃないのか? ミツキ」

 

 澤海はと言えば、自分の今置かれた立場すらユーモアに利用してジョークまで繰り出してきた。

 そもそも大人しく拘束された振りをしていたに加え、余裕で拘束具を破壊し尽した時点で、彼のブラックユーモアが満載である。

 恐らく人間形態のゴジラなら捕縛し続けられると自信を持っていたであろう協会の人間たちにとっては、とんだ面目潰しであった。

 

「そ……そうよ、せっかくの機会だから急いで来てみたら、協会の備品を壊す嫌がらせもできる余裕をお持ちみたいで本当残念だわ………監禁されたゴジラなんて、滅多に拝めるものじゃないから期待してたのに」

「悪かったな、そこは想像で我慢してくれ」

「ところで、マナちゃんも無事なんでしょうね? あの子まで何かあったら承知しないわよ」

「心配するな、あいつの気配遮断は檻でもそう簡単に見つからねえことは知ってるだろ? 見た目はガキンチョだが、あれでも修羅場は潜り抜けてきてるぜ」

「まあ、あんたとコンビを組んでるんだから……そうでしょうね」

 

 我に返り、五号室の中に入ってからの自分のとった行動の一部始終を思い返した美月は、いかにもな〝ツンデレ〟らしい物腰で、憮然と腕を組み、ぷいっとそっぽを向いて澤海に背を向ける。

 恥ずかしさで赤く熱を帯び始めた頬を、澤海に見られたくはないからであったが………普段通りの彼に安心しつつも。

 

〝どうして………そういつものあんたでいられるのよ………澤海〟

 

 同時に、普段通りの彼に胸が締め付けられる想いも込み上げていたが為に、素直になれない彼女は、いつもの〝毒舌〟で自分の気持ちにオブラートを包ませていた。

 同年代より豊かに実った胸の直ぐ下で組んだ両腕は、震えながら力を強め、潤いが増している瞳を細める。

 どうしてなのか?

 どうして………人間(わたしたち)はいつも………澤海――ゴジラを巻き込むのか?

 破壊神、怪獣王、核の落とし子、それらの異名を付けられるだけの恐ろしい力と猛威を、確かに彼は持っている。

 確かに彼の、そこらの自然災害とは比べものにならない猛威を何度も受けたあちらの世界の人類は被害者であろう。

 だが美月からすれば………あの三枝美希と同様に、ゴジラ自身も人類の勝手な都合と愚行の煽りを受けた被害者に他らなない認識を持っていた。  

 ゴジラザウルスからゴジラになった時から………体内の原子炉の暴走によるメルトダウンで散るまで、それどころか人間に生まれ変わって、自分たちと学生生活を謳歌している現在すら………見方を少し変えれば、ゴジラは………人間たちの〝事情〟に振り回され続けてきた〝悲しき怪獣〟でもある。

 今回だって……協会の上の連中の慢心と油断と、下らない〝保身〟なんかの為に、またこうして澤海は〝不条理〟に巻き込まれてしまった。

 なのに………ゴジラがゴジラたる万物を破壊し尽さんとする〝怒り〟を見せるどころか、憤りも籠った文句を口にすることもなく、澤海は至って日常にいる時と変わらないいつもの調子で、人間の一人たる美月と接している。

 美月にとっては、白状すると嬉しくもあるけど………眩しくも映って、とても直視できなかった。

 

「で? 俺を迎えに来たのは協会が散々煮え湯を飲まされてる峰岸舞耶を捕まえてくれと依頼された、からか?」

 

 そういつまでもそっぽを向いて感傷に浸っていられる状況でもないので、監禁拘束されたと言うのにそれほど間を置かず現状一時的とは言え解放される経緯を話そうとした矢先、澤海は〝依頼〟の件を先んじてすっぱ抜いた。

 

「どうして……それを?」

 

 一瞬、あの〝三枝美希〟クラスの超能力でも使ったのかと錯覚させられるほどの看破振りに驚いていた美月であったが、澤海の前世の分も込みな〝戦闘経験〟で鍛えられた観察力、推理力、状況判断力の高さを踏まえると、何ら不思議な話でもなかったので直ぐに納得できた。

 

「ああ言う上の連中の考えてることなんざ、俺からしたら滑稽なくらいに分かりやすいんだよ。どうせ下らなねえプライドだの面子だのなんかの為に正式に依頼したくないから、そっちから動いてくれるようミライ君や俺らを拘束したんだろ……」

 

 呆れと溜息、組織の上層部を毛嫌う感情を隠しもせず、澤海はぼやきを零す。

 

「何か違う点はねえか?」

「ええ………大体澤海が考えてた通りよ」

「なら、詳しい流れってやつを教えてくれ」

「ここを出てからじゃダメなの?」

「情報整理すんのにあんま大勢いるのは困りもんなんだ、文芸部部長一人の説明の方が呑み込みやすいと思うからさ、頼む」

「分かったわ」

 

 そのキレのある頭から、どう自分らのケータイにメールで送ってきた〝前ぶれ〟と言う単語に行き着いたのか気になりつつも、今はその気持ちを抑えて、ここまで状況の説明をする役目に徹した。

 

「やっぱり、おかしな話だな……」

 

 美月の説明が終わってほとんど間を置かず、澤海は普段からつり上がり気味な眉を怪訝そうにひそめて呟いた。

 

「どういう点がおかしいのよ?」

「せっかく協会は花を持たせてやろうとしたのに、名瀬泉はあっさりその花を投げ捨てて面目を潰しやがった、だから名瀬には頼りたくないと連中は駄々をこねてんだろ? だったらどんな形であれ―――名瀬に〝貸し〟を作るのは嫌がると思うんだけどな」

「っ………」

 

 澤海の意見に、美月の頭は清々しいまでの勢いでハッとさせられる。

 言われてみれば………なぜわざわざ〝名瀬家〟に峰岸舞耶の確保を押し付けたのだろうか?

 協会は姉の名瀬泉を査問官に登用しようとしたが、姉当人はあっさりとそれを拒否した。藤真弥勒曰く〝頭の固い上層部の連中〟がその時の〝屈辱〟を忘れられないなら………どんな形であれ、〝白銀の狂犬〟と言う異名が付けられるだけの実力があるとは言え、一介の異界士でしかない彼女を捕える為に名瀬に頼るなんてことは、連中の〝下らないプライド〟が許さない筈、どんなやり方であれ、澤海の言う通り名瀬に〝貸しを作ることになってしまう。

 

「それにこういう取引ってのはこっそりやるもんだってのに、協会はお前のミライ君の拘束に対する異議申し立てをあっさり受諾して裁判って形で表沙汰にしちまってる、こんな面倒掛ける上に恥を公に晒すくらいなら、最初からこっそり泣き寝入りした方がまだマシだろ」

 

 なのに、連中は名瀬(わたしたち)から動かざるを得ない状況に誘導させる為に、とても面倒な手順を踏んでいた。

 

「そうね………それに最初からあんたと彩華さんに取引を持ち掛けていた方が、上層部にとっても得だったのに……」

 

 そもそも、こんな回りくどいやり方で名瀬に頼む必要はない。

 秋人の母である神原弥生の逃亡補助の容疑が掛かっている彩華と、共犯の容疑が掛かっている澤海に、逮捕され処罰されたくなければ確保してほしいと司法取引を持ち掛けた方が、遥かに懸命だし、面倒も省ける。

 彩華も結界術に長けた異界士だし、澤海など拳銃の弾丸程度では軽傷にすらならない不死身の肉体の持ち主である〝ゴジラ〟だ。

 この二人が相手な上に、峰岸舞耶の異能の正体がつかめている今なら、いかに〝白銀の狂犬〟と言えど御用となっているのはほぼ間違いない。

 それで本当に確保できれば、逆にゴジラに貸しを作ることになって、連中の自尊心も大いに満たされただろうに。

 

「いきなり監禁拘束ってやり方も、理解できないわ」

 

 澤海たちにもその任を押し付けようとするやり方も、美月には解せなかった。

 今日澤海は、未来の裁判の傍聴で協会支部の施設内にいたのだ。

 まずは澤海に穏便な形で罪状と司法取引の説明をし、もし彼が拒否する意志を示したのなら強硬手段に出る………のならまだしも、実際はいきなり有無を言わせず拘束し、地下留置場にほんの僅かな間とはいえ監禁させている。

 

 よくよく考えてみると、たった一人の異界士を捕まえる為の措置にしては、色々と理解に苦しむ点が多すぎた。

 

「はっ……」

 

 そこで美月は、最も解せない点を見出した。

 

「どうした?」

「さっき、藤真弥勒が言っていたの……」

 

〝理想は、どちらからも快諾を受けることですよ〟

 

 一体何が……〝理想〟なのだろうか?

 檻の使い手、妖夢な異界士、呪われた血の一族の末裔、そしてゴジラ………たった一人の異界士を相手にするにしては、過剰戦力としか言いようがない。

 

「もう………何が目的なのよ……」

 

 腑に落ちない点が多く見つかったところまでは分かった………だが美月はそのクエスチョンのアンサーにまで辿り着けずにいる。

 しいて言えば………ここまでの状況は澤海のメールの通り〝前ぶれ〟で、よからぬことが起きようとしている予感くらいしか。

 

「今、名瀬泉は何している?」

「ちょっと……どうしてそこで泉姉さんの名前が出てくるのよ?」

「いいから」

 

 今の澤海の発言の意図は、全く分からない。

 

「詳しくは言えないけど、今―――」

 

 分からないが、それで何か分かるかもと姉の現状を思い返した美月の脳裏に、ある〝可能性〟が閃いて、背筋に寒気が走った。

 

「そんな…………嘘でしょ」

「いや、美月の推理は、大方当たってるだろうぜ」

 

 もし仮に美月の思考から浮かんだ可能性が本当なら、確かに〝好機〟ではあるし、裏付けも……あることにはある。

 

「澤海も……同じこと考えてた?」

「まあな」

「なら、大人しく依頼をこなしている場合じゃないわ! このまま放っておいたら――」 

「待て美月、焦るな」

 

 焦燥に駆られた美月を、澤海は彼女の両肩に触れながら、互いの目線を合わさせて宥める。

 

「言葉を使う人間、それも〝言霊信仰〟が今でも根付いている日本人じゃ、あいつの異能に〝勝ち目〟はない、だから―――これから俺が言うことを、しっかり聞いてくれ」

 

 眼差しを真っ直ぐ向けてくる澤海の言葉に、美月は少しずつ落ち着きを取り戻しながら、首を頷かせた。

 

つづく。


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