境界の彼方~G-ゴジラ-を継ぐ者~   作:フォレス・ノースウッド

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EPⅥ - 銀髪の異界士

 風邪ひいた美月を見舞いつつ、昼飯も振る舞った俺は、坂道を下って帰路に着いていた。

 

「(たくみ……きになるの? さっきのニュース?)」

「ああ……」

 

 肩に乗る子狐形態なマナからのテレパシーによる問いかけに、俺は応じる。

 もう暫くは横になっていなけりゃならない美月の退屈感を少しでも紛らわそうと、飯の後某新喜劇のテレビ番組を、「今日はこの辺にしたるわ(ドヤ」と言ったボケキャラのボケにツッコミキャラと一緒にツッコミながら俺たちは笑って見ていた。

 笑いは健康にも良いとのことで、彼女の免疫力向上も含めてのチョイスだ。

 そして……番組の終盤辺りに、画面上部のニュース速報テロップでこんなニュースが流れた。

 

 テロップ曰く―――〝○○市中心市街地のあるビルの三階で爆発事故があった〟―――と。

 

 秋人たちの外出先な芝姫記念号製本の依頼先な会社の住所とほど近かったのもあり、気になってスマホからネットのニュースサイトで動画付きの記事を確認すると、三階からもくもくと黒い煙を上げるビルを捉えた俯瞰からのカメラ映像が流れた。

 幸い、〝通行人〟の中で巻き添えくらって死者となった人間はゼロ、飛び散ったガラスの破片で切った程度の負傷者も出なかったと言う。

 この、現在〝原因不明〟〝調査中〟とのことな事故に対し、俺は引っかかるものがあった。

 確たる根拠はない………しかし漠然とこれは単なる事故ではない………俺も身を置いている〝裏側の世界〟に絡んでいると言う直感が巡っていたのだ。

 

 

 

 

 そんな〝勘〟が頭の中で引っかかったまま、新堂写真館の扉を開けた俺は、微かに店内を漂う〝匂い〟を嗅ぎ取った。

 顔が自然と引き締まる。少なくとも、喫茶店の中……と言うより、〝日常〟で匂っていい代物じゃなかった。

 

「(焦げ臭い……)」

 

 マナもその〝匂い達〟の存在を捉える。

 靴を脱いだその足で奥の和室へと向かうと。

 

「いいとこで帰ってきよったな澤海君、おかえり」

「お邪魔してます」

 

 今日も優雅に煙草(キセル)を吸い、上品さを覚える煙を吹かしている彩華、そして秋人と未来が四角上のちゃぶ台を挟む形で座して、何やら話していた。固い秋人たちの表情から見て、穏やかな話題じゃないのは確か。

 例の匂いどもは和室(ここ)の方が強く、正確には……秋人と未来の二人の体に付着していたものだった。

 まさか……と、スマホを取り出してネットの閲覧履歴から例の爆弾事故の記事に再アクセスし、二人に見せる。

 

「この〝爆破騒ぎ〟は異界士の仕業で、二人はあの現場にいたんだな?」

「黒宮先輩のおっしゃる通りです……よく分かりましたね」

「いきなりこうもすっぱ抜かれちゃな……ホームズの推理聞いたワトソンの気持ちがちょっと分かったよ」

 

 俺が提示した推理に対し、二人の表情は驚愕の形になる。

 まだ何の説明もしてないのに、数時間前に体験した出来事をあの場にいなかった自分にすっぱ抜かれたんじゃ、そんな顔つきになるのも無理はない。

 

「今日も冴えとるね澤海君、ニュースと匂いだけでここまで見抜くなんて」

「別にそう凄いことでもねえよ」

 

 彩華も生粋の京都人も真っ青なになる流暢な京都弁で讃えてきたが、鋭敏な五感を使った以外は超常的能力的な何かは全く使っていない。

 得た情報を整理、思案を積み重ねて、最も適切であろう解答を導き出し、それが正解だっただけのこと、巧みに使いこなすのに訓練は必要だろうが、やろうと思えば別に名探偵でなくたって比較的誰でもできる〝知恵(ろんりてきしこう)〟の有効活用だ。

 写真館に入った時、俺は計三種類の〝匂い〟と言う情報を手にした。

 一つ目は―――化学薬品も混じった火薬の香り、爆発物……プラスチック爆弾の類」だ。

 二つ目は―――銃、恐らく拳銃の発砲によるものと思われる硝煙。

 三つ目は―――人間の血の匂い……血を武器とする戦法と、何度も共闘してきたゆえに、その血の主が未来のものであると直ぐに分かった。

 それらと爆弾事故のニュースと、芝姫の製本の依頼先な業者の会社が現場とそんなに離れていなかったことを踏まえて、二人はあの騒ぎに巻き込まれ、彩華に相談していると言うことはあの事故はやはり〝異界士と妖夢の世界〟に関係してるのだと行き着いた。

 ほら、常人離れな五感の鋭さを除けば〝知能(おつむ)〟しか使っていない。

 同じく鼻が利いて聡明な彩華だって、大体の大筋は秋人たちの説明を聞くまでもなく組み立てていただろうさ。

 

「妖夢の仕業かとも思ったが、妖夢の匂いは感じられなかったし……となりゃ、例の騒ぎの犯人は異界士の仕業、そのデコの怪我もそいつを捕まえようとしたとこ拳銃でぶん殴られたんだろ?」

「はい……」

 

 未来は戦闘で傷を負ってガーゼの貼られた額に手を添えた。

 否定しなかった辺り、実際犯人の異界士が持っていた拳銃で殴打されたようだ。

 しかし……銃を得物とする異界士とはね、この国は銃刀法が厳しく、また異界士自身の異能の方が強力かつ隠密性にも秀でているので、銃器を手に妖夢と戦う奴はほとんどいないと言ってもいい。

 

「で、ミライ君を返り討ちにしたのはどこの馬の骨だ?」

「これからそのことを聞くところやったんよ、その〝異界士殺し〟の犯人について」

 

 そのような飛び道具を使っていることは………異能自体は控えめな代物で、かつ銃器に精通していると言うところか……未来の追撃を振り切った点から見て、どうやらかなりの手練れらしい。

 

「ニノさんの話によると……その異界士の名前は―――」

 

 俺も腰を下ろしたのを皮切りに、秋人はつい数時間前に起きた爆破騒ぎの経緯を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 真昼の……それも規模の大きい市街のど真ん中で爆発(あんなこと)が起きると思ってもみなかった僕は、鼓膜を突き破らんとする爆音………鼻孔を刺激する薬品の匂い、網膜が映し出す爆炎を経てビルの三階から立ち昇る黒煙に、口を開けたまま立ち尽くすこ としかできない。

 頭が状況を理解しきれていないせいか……飛び散るガラス片も、常時形を変えて上昇する煙の動きも心なしか、スローに見えてしまう。

 それでも、僕ははっきりと……〝彼女〟のその姿を捉え、認識した。

 炎と煙の渦中を走り抜け、風穴の空いた三階から、その少女は飛び降りてくる。

 機能性を重視したことで、よく言えばシンプル、悪く言えば味気ないタイトな服装………しかしそれに反して、髪は雪のように煌びやかな白銀で、今は五月だと言うのに、真冬の晴れた朝の如く光の結晶を迸らせていた。

 

「異界士か」

 

 同じくこの現況を目の当たりにした博臣が、あの少女の正体を看破し、その美貌は〝異界士の顔〟となる。

 爆発だけでもとんでもないことなのに……異界士絡みでもあるとは、碌でもない事情が存在していると、過ってしまう。

 

「奴は飛び降りたぞ! 急げ!」

 

 宙を一回転した少女がアスファルトに着地して間もなく、四階の窓から男が顔を出し、怒声を上げた。

 

「ちっ!」

 

 それを聞いた少女は舌打ちを鳴らし、その白銀の触れずとも流麗さが目へと伝わってくる長髪を揺らめかせて走り出した。

 僕らを横切る瞬間、彼女は一目こちらを見つめる。多分僕から妖夢の気配を察したのかもしれない……しかし一瞥した程度でそのまま駆けていく、逃亡者な身の上、僕程度に構ってなどいられないといったところか。

 

「待ちなさい!」

 

 直後、聞きなれた女性の声が聞こえ、走る人影がもう一つ、通り過ぎた。

 今日もレディース用の背広を着こなすニノさんが、銀髪の少女を追走する。

 

「なに? 映画でも撮ってんの?」

「ゲリラ撮影ってやつか?」

 

 余りに非日常な光景だったせいか、周囲の通行人は爆発も逃走劇さえも〝フィクション〟を生み出す現場だと勘違いしていた。

 

「先輩?」

 

 一連の騒ぎを聞きつけたのか、いつの間には栗山さんの外に出て僕らもこの場にいることを気づいていた。

 

「未来ちゃん、急ですまないが手伝ってくれ!」

「え?」

 

 はてな顔となりながらも、博臣の切迫した表情から薄々察したようで、僕らに続いてその小さな体躯を栗山さんは走らせる。

 

「さっきの爆発は異界士の仕業らしくて、ニノさんが仲間の異界士と一緒にその犯人を追いかけてんだよ!」

 

 僕も僕なりに状況を短めにまとめ上げて説明した。

 

「分かりました」

 

 幼さが濃く残る彼女の顔も、異界士のものとなった。

 

 

 

 

 そうして僕たちは、仲間の異界士とともに追走中だったニノさんに追いつき、彼女から事情を聞いた。

 

 例の異界士の少女の名は――峰岸舞耶。

 

 他の異界士を殺した罪状で現在異界士協会から指名手配されているらしく、その協会からは〝白銀の狂犬〟なんて異名が付けられていた………その協会は登録していた情報によれば、彼女の戦闘能力は決して高くない………とのことだったのだが、逮捕を任じられた査問官二人を返り討ちにし、引き継がれる形でニノさんにも依頼が回ってきたらしい。

 ニノさんもニノさんで、「妖夢以外と戦う機会が最近少なかったから」と、嬉々として依頼に応じたそうだ。

 博臣が「相変わらずの戦闘狂だな」と揶揄すると、「なら最前線より熱い会議室を紹介してくれる?」と返すくらい、うちの文芸部顧問はスリルジャンキーなお方である。 

 協会直々の依頼であることと、名瀬の家の身な立場、管轄外な地域と言ったもろもろの事情のせいか……詳細を聞いた博臣は追跡に加わることを断念、協会から情報を仕入れてくるとのことでその場を後にした。

 異界士の世界事情をさほど詳しくない僕でも……この状況に名瀬家の子息な博臣が介入するのが不味いってのは、漠然とながらも分かる。

 

 博臣が抜けた後も、僕と栗山さんは〝峰岸舞耶〟の追跡を続け、幸か不幸か、裏路地の片隅で……正面からその逃亡者の少女と正面から相対する機会に恵まれた………が、少女たちのキャットファイトは峰岸舞耶の方に軍配が上がり、栗山さんは彼女の得物である〝拳銃〟で頭を殴打され気絶し、銀髪の異界士はそのまま走り去っていった。

 

 

 

 

 

 ちなみに……この時僕が何かやったことと言えば―――両手に漆黒なオートマチック式拳銃を洋画よろしく二丁で持ち、腰の帯革には銀色のリボルバー(後で知ったことなのだが、オートマチックはベレッタM92、リボルバーはS&W M15って名称だそうだ)を携え、銃口をこちらに向けてきた峰岸舞耶に対し、拳銃の弾程度では死なない僕はとっさに栗山さんをかばったのだが………その彼女から少々強引に腕を掴まれ転倒させられ、揚句―――

 

「先輩は下がって下さい! メガネ好きのツッコミ要員なんて、戦闘には役に立ちません!」

 

 僕を思ってのことだったとは言え………美月に感化されているとしか思えない酷い言葉を浴びせられ………その話を聞いた澤海が―――

 

「メガネ好きのツッコミ要員かwwwwwあの状況でよくそこまでアキのことを的確に表現できたなwwwww」

 

 なぜそこまで笑いのツボを刺激されたのは全く理解できないのだが………澤海――ゴジラの大爆笑が誘発させられたのであった。

 

「黒宮先輩……笑い過ぎですっ―――て、彩華さんにマナちゃんまで!?」

 

 しかも、澤海ほど堂々を笑い声は上げなかったけど………彩華さんと子ぎつね形態のマナちゃんまで、手で口を塞いで笑いの衝動を抑えていたのであった………そんなに笑えるのか!? みんな美月の毒牙に毒され過ぎだ!

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、晩飯はとっくに済まし、マナにはお寝んねして頂いた時間帯。 

 座敷では、俺と彩華が日本酒による晩酌、つまり酒を飲んでいた。

 正確には、彩華に勧められて付き合っている。

 

「久しぶりに、〝一本〟どう?」

「頂くよ」

 

 おちょこに入った透明感のあるアルコール飲料を一口で飲み干すと、彩華は卓袱台に直方体状の紙ケースと、銀色の光沢に彩られたジッポ――オイルライターを置いた。

 俺はケースから、枝にも見える黒褐色の筒状の物体一本を取り出した。

 いわゆる葉巻タバコ、分類上はイタリアンシガーと呼ばれるタイプを口に加え、カチッと展開したジッポを点火、めらめらと燃え上がる小さな炎を、葉巻の先端で焦がし、ジッポを閉じ直した後、煙を口ん中でふかす。

 彩華も和風なキセルに刻み煙草を入れ、マッチの火で着火して吸う。イタリアンシガーは着火にコツがいるのだが、覚えてしまえばどうってことない。

 口内で溜まる、苦々しくも重々しい紫煙……スモーカーの中でも好みが分かれる味だが、俺はこれくらいパンチのある方が好きな身である。

 

「はぁ~~……」

 

 ほぼ同時に、一服した俺たちは味わった煙を吐いて、白煙が周囲を舞った。

 彩華はともかく、俺に対しては、一昔前の不良も真っ青な行為である。

 何せ酒を飲みながら、タバコ――それも葉巻を吸っているからだ。戸籍上未成年な身には問題行動に他ならない。

 生憎、人でありながら、放射線を糧にしちまうゴジラでもあるけったいな身は、ニコチンとアルコール程度ではてんで害にすらならない。G細胞はそれらを根こそぎ無毒化してしまうのだ。

 一応酒は今日初めて飲んだ。喉と体の奥がすぅーとする独特の感じは、病みつきになって溺れる奴が出てくるのも納得………主に失恋直後のニノさんとかニノさんとか、G細胞のせいでアルコールは急速分解されるもんだから、酔えはしないのだが。

 実を言うと、葉巻に関しては秋人たちに会う前、放浪しながら妖夢退治をしていた頃から習慣になっている、特に大自然の上手い空気の中で紫煙を吸うのは格別だった。さすがにマナが起きている時は吸わず、長月(この)地で学生やることになってからは一応控えていたけど、なあに、限度さえ設けておけば俺からしたらタバコの我慢程度どうってことない………のだが、今日は一本だけでも吸いたい気分だった。

 

 

「気になるん? 神原君らが今日遭ったこと」

「ぽぁ~~~………そんなとこ……」

 

 もう一服し、煙をリング状に形作って吐きつつ、酒をもう一杯嗜む。

 やはり聡明な彩華には筒抜けだった、だから酒と久々の葉巻を勧めてきたのだ。

 

 

「どうもデキ過ぎてる気がすんだよ……アヤカもそう思わねえか?」

「せやね……査問官が名瀬管轄地(このへん)をうろついてるだけでも穏やかやないのに、間を置かずあの爆弾騒ぎやもん」

 

 どうにも、偶然とは思えないのだ。昨日、〝査問官特権の効かぬ土地〟な名瀬の管轄地(なわばり)を、博臣たちの檻の網を悟られず掻い潜ってうろちょろしていた……あのメガネの優男をリーダーとした査問官一向。

 その翌日に、協会からの指名手配犯――峰岸舞耶が起こした爆発事件………引っかかりを覚えるには、十分過ぎる。

 秋人たちにあらましを聞くまでは、てっきり連中は、あの〝峰岸舞耶〟を追っていたのでは? と考えていたのだが………実際〝白銀の狂犬〟を追っていたチームの首領はニノさんだった。

 

〝目先の小物に釣られて大物を逃しては元も子もない〟

 

 つまりあの時優男が言っていた〝大物〟は奴じゃない。理由はさっぱりなのを置いといて、別の狙いで連中は長月に来ていた………でも安易に白銀の狂犬と無関係だと決めつけられない。

 その峰岸舞耶にしても………誰を狙ってあんな派手なことしたのか、と疑問を浮かぶ一方、正直今のとこ、事件が気になっても、そいつ個人に対してはそんなに関心はない。直に会ってもいない相手に入れ込むほど、俺はそんなにお人よしでもなかった。

 もし奴を確保せよなんて依頼が来ても、あくまで〝仕事〟として携わるだろう。

 辛うじて存在している〝関心〟と言えば、奴の爆破の目的、まさかビル解体を嗜好とするとんだ物好きってわけでも、ましてや承認欲求が肥大化しすぎて自らの痛ましさ動画でひけらかしてる若人でもなかろう。

 何らかの目的で……あの時あのビルの三階にいた連中――恐らく異界士を、一網打尽にする魂胆だった筈だ。

 後は……奴の全貌の解けない〝異能〟。秋人たちによると、今日奴を御用にしようとして返り討ちの銃弾を貰い受けながらもどうにか命拾いした異界士の一人が、逃亡犯への畏怖の感情と一緒に、二人へこんなことを話していたと言う。

 

〝完全に背後を捉えていた筈なんだ………なのに前方の攻撃を躱しながら正確にこちらを撃ってきた………まるで、俺が来るのを予期していたように〟

 

 どんな異能(からくり)かは知らねえが、射撃能力は精密性、早撃ちとともに高く、その力の恩恵を受けたカウンターショットは正確無比で、ニノさんでさえ完全に回避できず頬に銃弾を掠ったらしい……つまり彼女の反応が遅れていたら、うちの文芸部顧問は脳天を貫かれていたかもしれない。

 まあ、せいぜい俺の奴個人への興味はそれぐらいだ。

 しかし困ったことに、実際白銀の狂犬と相対した秋人と未来の二人は、ただ一度の対面だけで、当人らが自覚している以上に気になっている様子だった。

 

「あいつらが異界士殺しのことを話してた時、アヤカはどう感じた?」

「どうって、やっぱり入れ込んでしまってるようやったな……昔の〝自分〟をだぶらせてるんやなかろうか」

「ハぁ……世話の焼けるお人よしどもめ……」

 

 俺も一目で分かったもんさ……奴について話している時のあいつらの顔は、本人どもが無自覚の内に〝そういう顔〟をしていた。

 前にも言ったが秋人たちの〝お人よし〟は決して嫌いなわけじゃない……それを尊いと思うから、二人の立ち位置もあって心配にもなるし、もどかしくもある。

 あいつらの〝身の上〟って奴は、自身が有する尊く眩い〝良心〟でさえ、時として自らをも苦しめる毒に変えてしまう可能性もあるからだ。

 未来ならある程度自重はできそうだが………秋人はどうかな……不死身なのを良いことに、ここぞって時には突っ走り過ぎてしまう。

 

 

 

〝友〟らのことは無論……ここ数日の波紋のせいで、また〝一嵐〟来そうな予感を、嫌でも感じ取っている。

 そいつがまた……俺たちの〝日常〟の波紋となるのも無きにしも非ず、な以上、腰を上げなきゃならねえなと………溜息と苦笑いと一緒に紫煙を吐いた。

 

「とりあえず、明日はちょっと遠出するぜ」

「何か当てがあんの?」

「ねえよ、だから〝探すんだ〟」

 

つづく。

 


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