境界の彼方~G-ゴジラ-を継ぐ者~   作:フォレス・ノースウッド

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いきなりこんなこと言うのもなんですが、感想受付中。

美月のあられもない姿にムラムラしたなんてことでも構いません(コラ


EPⅣ – ゴジラのお見舞い

 また……あの夢を見ていた。

 

 嫌なことに、段々見る頻度が多くなっている。

 

〝悪夢〟と表現するのが相応しい代物。

 

 今日は、人を殺した……と言うより〝食べた〟のを見させられた。

 

 緑が深く生い茂る山々に囲まれた、よく言うと昔を感じさせる、悪く言えば古びて茶けた家たちが立っているどこかの村。

 

 どの家も大嵐にさらされでもした感じで、ボロボロで、原型を留めていない。

 完全に崩れ去ったのも幾つかあった。

 

 地面には、村人だった人間たちの亡骸が横たわっている。

 

 人間……そう、彼らは人間の筈なのに……変わり果てた姿はどんなに理性が〝否定〟しても、嫌悪感は拭えない。

 

 一人残らず村人は、禍々しいミイラと化していた。

 苦痛に苛まれながら死んでいったせいか、血も養分も水分も抜けきって干からびた顔は、とても直視し続けられない〝歪み〟に変形して、そのまま凝固していた。

 生前身に纏っていた衣服が、まだ比較的綺麗なこともあって、亡骸の異様さが際立つ、中には夏服な制服を着ている〝女子高生だった〟ものたちもいた。

〝尊厳〟を徹底的にはく奪された〝死〟の数々。

 大昔の文明の王をミイラとして埋葬したその時代の〝納棺師〟たちの技術力がいかに高かったことが思い知らされる。

 そして……彼らをその人生ごと食いつくした張本人こそ―――

 

 

 

 

 

 円形の行燈と、長方形の板が並んでいるように見える木製の天井を目が映した。

 いかにも和風な様相に抵抗する形で、ベッドに机といった家具も小物も雑貨も洋風かつピンキーテイストで統一された自分の部屋。

 まだ昼とは言えないけど、陽の位置はとっくに朝とも言えない時間帯だと言うのに、美月はピンクパジャマ姿でベッドに横たわっていた。

 原因はこの体がこじらせた風邪のせい、昨日冷たい雨の中歩いて屋敷まで帰った為か、朝起きる頃にはすっかり全身は熱いし重いし、だるくなっていた。

 今日は副部長の秋人と芝姫製本の手続きに行くはずだったのに、仕方なく〝兄貴〟を代理で行かせた。二人分の署名がないと手続きができないのが理由。

 仮にも名瀬の出で、〝異界士〟を生業としようとしている身でありながら、風邪をこじらせてしまうなんてと、自分に情けなさを覚えながら、安静に寝こんでいたらいつの間にか二度寝してしまっていた。

 

「あ~~だるい……最悪……」

 

 けだるく片腕を額に付けて、美貌を不機嫌に染めた美月はけだるくぼそっと一言ぼやく。

 おまけに傷口に塩を塗らんとばかりに、またあの〝夢〟を見せられた……ほんと最悪の目覚め。

 見る度に気分は暗欝となる上に、汗もびっしょりかかされるからだ。

 冷却シートが付いたおでこも頭も、赤味な頬も背中も、体中がどっと汗水に塗れて、それらがパジャマと、その下のインナーの布地に沁みついて気持ち悪い。いつもはさらさらと柔らかな肌触りで光沢を放つストレートな黒髪は同じく汗を吸ってすっかり乱れていた。普段は全然気にならないのに、こういう時の長い髪はうざったい。これなら兄の〝うざきもい〟変態発言の方がまだマシと気の迷いが生じるくらい感触が不快だった。

 その上風邪で全身はまだ熱を発し続けて、それが汗の不快さをより煽ってくるものだから、余計にしんどい。

 自室で自分しかいなんだから良いかと、重い体を起こして少し窓を開け、ボタンは全部外しつつも上のパジャマを着たまま胸部のインナーを外した。

 

 今〝たゆん〟とも〝ぽろん〟とも聞こえる何かが揺れた音がしたけど気のせい。

 

 さらに美月は下のパジャマも脱いで、ほっそりとしてる癖に妖艶な肉感に恵まれた白磁の美脚が露わとなる。

 脱いだのを無造作に床へ放り投げ、上二つ分は開けたままボタンを付け直した美月は、勢いよく皺だらけのシーツが被さったベッドへ仰向けに倒れ込んだ。

 

 今、大きく揺れまくった美月の胸部のズームアップと、彼女の全身を舐めるようなカメラワークがあった気がするが気にしないでもらいたい。

 

「あっつ……」

 

 マゼンダに染まった頬に挟まれる潤った唇から、零れる艶の籠もった彼女の愚痴る声。

 ここまでラフな格好となったと言うのに、まだ全身は熱で火照っており、とうてい布団など被れそうにない。

 

〝コンコン〟

 

 もう暫くは熱と寝ころび地獄を味わう覚悟を決めた直後、扉の外面側から、ノックが鳴った。

 

「もう……誰かしらぁ?」

 

 熱で少しイラつきのあった美月は、少々ぶっきらぼうに〝誰か〟とお尋ねになると。

 

「ミツキ、入っていいか?」

 

 あの〝姿〟の時の重々しい咆哮と正反対に澄んだ馴染みのある声で〝彼〟は応えた。

 

「な~んだ澤海ね……え? 澤海―――ええぇ!?」

 

 ダウナー気味に半開きだった美月の双眸がカッと見開かれる。

 この扉の外に、彼――澤海、そして部屋の状態を見まわし、自らの風体を凝視。

 内と外の状況を照らし合わした美月が非常に不味い現況であると認識するのに一秒も掛からず、ほぼ同時に彼女の脳内の熱がトップギアとなった。

 焦燥と引き換えに風邪のだる気が吹っ飛んだ彼女は慌ててベッドから起き上がろうとして―――

 

「きゃぁ!」

 

 盛大に、ずっこけた。

 

 

 

 

 

〝みつき〟とひらがなで書かれた札がぶら下がった扉の前に立っていた澤海は、何かが盛大に床と接触した音を耳にし。

 

「ミツキ? 大丈夫か?」

 

 部屋の主に何があったのか聞くと。

 

「心配無用よ! いい! 私が〝良い〟と言うまで絶対開けるんじゃないわよ! 今開けたらボッコボコにしてやるんだから!」

「そこは〝ポコポコ〟じゃなかったか?」

「うるさい!」

 

 ついボケてみるとと、突っぱねた返答が返ってきた。

 

「きゅう?」

 

 肩に乗っていた子狐形態のマナが首を傾げて「ツンデレ?」と発し。

 

「リアクションだけ抜きだしゃツンデレだわな」

 

 澤海はそう応じた。

 

 

 

 

 

「入りさない」

 

 美月が部屋の中騒いでいる間、ぬるめのお湯の入った桶と濡れタオルを用意して扉の前に戻ってきた丁度良いタイミングで〝主〟からの許しを得た俺とマナはおじゃまする。

 そこに待っていたのは、慌てて着替え直したのでボタンの位置がずれてるパジャマの上にカーディガンを上乗せ、どうにも風邪とは異なる種類の〝熱〟を帯び、涙目かつ唇を大きく噛みしめた顔でこちらを睨みつけ、さっき盛大に転んで〝赤っ鼻〟となった美月が正座で待ち構えていた。

 

「今日お前から睨まれることした覚えねえんだけど」

「あらそう? ならそののーたりんでおめでたい〝脳みそ〟から無理やりにでも〝覚え〟を引っ張り上げることね」

 

 口ではこうほざいたけど、原因はおおよそ察しが付いている。

 ノックした直後のあの騒ぎ様を耳にしたら、ドアのせいで直視できずとも〝大体分かった〟。

 自分だけの部屋ってのは、単なるプライベートルームであること以上に、主の心の〝投影〟された空間。

 いくら気心が知れた仲でも、他者をそこに招き入れるには心身とも準備を要さなければならず、あれ程慌てるのもまあ詮無い話である。

 

「見損なったわ……見舞いに来るのなら、前以て連絡くらい寄越して頂戴、怪獣王のあんたがこんな不意打ちなんて……どんな敵にも正面からブチのめすゴジラへの〝憧れ〟を返してもられるかしら」

 

 美月が少しプンすか気味で毒を吐きまくるのは、こう言うことだ。

 しかしその言い方だと〝脳筋〟と言われているような気もする。

 そりゃ進行先の障害物は基本正面からぶち壊す姿勢だけど、俺達(ゴジラ)だって機転利かせたり知恵を使うことだってあるんだぞ………とも反論したくはなるけど、今はそれよりも。

 

「ちゃんとメールで送ったっての、ケータイ見てみろよ」

 

 ちゃんと前以て連絡したことを説明する。

 俺に言われた通り、奥の窓に隣接するラジカセやらノートPCやらと一緒に棚の上に充電器とセットで乗っているケータイの画面を美月は確認する。

 スマホ率の高い文芸部において、美月だけいわゆるガラケー、流行には自分から乗っても流されはしないとこは、こいつらしいと言えばらしい。

 

「あ……」

 

 ちゃんと受信欄には「ヒロから風邪ひいたって聞いた。今から見舞いに行く、今の内に準備しとけ」と簡潔な文体のメールが来ていた。

 

「でもその時私は寝てて確認しようがなかったのよ、送る時はもっとタイミングに気を遣ってもらいたいわね」

「無茶言うなよ」

 

 風邪の熱+全身のだる気+いきなり俺が押し掛けてきた(美月から見たらだけど)+転んでできた〝赤っ鼻〟を見られた影響か、美月はいつも以上に言動が遠慮なくて素っ頓狂で、いつもは空気察しつつも故意に投げられる〝暴投〟が、意図せずに投げてしまう暴投と化していた。

 もし秋人がこの場いたら「せっかく見舞いに来たのに目茶苦茶だ!」と理不尽を嘆くツッコミを入れるだろう、その模様がくっきり再生できる。

 対して俺は一言ぼやきことすれ、そんなに気にしてなかった。

 俺――ゴジラを殺す、もしくは体よく利用しようてきたゲスい人種(やつら)に比べれば、美月の暴投は比較以前のレベルで愛嬌ある。

 それに、実質押しかけて来たのは事実だし、あざとくはあるが部屋の内装から見ても分かる様に〝可愛い物〟好きな美月を宥める一手を切り出すことにする。

 

「(マナ)」

 

 肩に乗るマナに思念を送ると、子狐は「(分かった)」と送り返して床に飛び降り、とぼとぼと美月に近づくと合いの手をしてこっくり頭を下げた。

 

「はっ……」

 

 キラリと目が煌めいた美月の心が―――揺れる音―――俺にもその音が聞こえた。

 彼女の葛藤が明瞭として俺の目に映る。もしこのまま自らの欲求に従えば俺の目論見(おもう)の坪、聡明な彼女は瞬時に汲み取っていた。

 瞳から俺に向けて〝ひきょうもの~~〟と、目線って思念で訴えてくる。

 かと言って、いつも会う度可愛がっているマナを拒絶できるほどこのサディスト女子は冷徹でもないので。

 

「ごめんねマナちゃん、せっかく来てくれたのに私ったら取り乱しちゃって♪」

 

 結局、マナが持つ癒しオーラを前にすっかり態度を軟化させてほっこり笑みを浮かばせた。

 風邪なので抱きつきたい衝動はこらえながらも、細指でそっとマナの頭を撫でる。

 

「で? わざわざ足を運んできたわけはどうなの?」

 

 素直じゃない女王様は、ようやく〝いつも〟の感じに戻る。

 

「そりゃ、風邪にぶっ倒れたお前の無様な姿を笑いに―――」

 

 ギロッ!

 

 こんな擬音が本当に鳴りそうな域で、美月の美貌が一気に鋭利な仏頂面となった。

 こいつもこいつで、結構分かりやすいよな、と二ヤケそうになる。

 とは言えそれ以上やると大火傷を貰いかねないので、からかうのもほどほどにしとこう。

 

「―――来たってのもあるけど、心配だったのも本当さ」

「はぁ……だったら最初からそう言いなさいよ……バカジラ………一応感謝くらいしてあげるわ」

 

 と、これはどう見ても聞いてもツンデレな調子で美月は返した。

 根は善良なくせに捻くれ者で不器用なこいつらしい、その〝不器用〟は俺が彼女を気に入っている理由の一つだ。

 今口にもしたが、少なくとも俺の知る限りでは美月が風邪こじらせたことはなかったので、気がかりであったのは事実。

 たかがただの風邪、されどただの風邪、実際かかってしまうと〝ただの〟で引き起こされる熱だってきついものである。いくら外敵から身を守る身体の防衛手段だと理解していても、きっついものはきつい。

 博臣が外出するくらいだから、そう酷くはないと予想はできたが、それでも一応様子ぐらいは見ておこうと思ったのである。

 マナを連れてきたのも、少しでも風邪の苦痛を緩和できればと考えてのことだ。

 

「まあ安心したさ、その様子じゃ月曜の部活には必ず顔出しそうだな」

「と、当然でしょ! 怪獣たちの巣窟に栗山さん一人置いて行けないもの」

 

 怪獣たちとは言わずもがな、俺も含めた男子部員らを指す。

 俺――水爆大怪獣ゴジラ。

 秋人――眼鏡愛好怪獣メガネスキドン。

 博臣――妹溺愛怪獣ドシスコン。

 それっぽい怪獣名付けるとしたらこんなとこかな。

 美月の懸念も分かる。あの変態どものことだから、もし街中で見かけたらストーカーの一つや二つはしそうだ………と言うか、この時は知らないものの、後に本当に奴らはやらかしていたと俺は知ることになる(博臣は渋々だったけど)。

 

「いや……ミライ君あれでもたたき上げの異界士なんだけど」

 

 いたいけな子扱いされるあの子のフォローをする。幾度も共闘した仲なので、戦闘時は冷静沈着に獲物(ようむ)を狩るハンターっ振りを何度も見せられたからだ。

 

「でも普段は何もない平野(まったいら)でも転んじゃういたいけで危なっかしいドジっ子で純心な子よ、もし変態怪獣どものセクハラに押しつぶされてネットに殴り書きして集中砲火(えんじょう)にでもなったらどうするの?」

「一応お目付役の俺がいるんですけど、ミライ君の炎上防止も兼ねて」

「澤海がいたらいたで〝別の問題〟が起きるじゃない」

「一体何が起きると?」

「変態嗜好が無い分、文芸部で栗山さんが一番気兼ねなく話せる男子は澤海よ、もし仲睦まじく話す二人に嫉妬した秋人と兄貴が暴走したらどうするの? それこそあの子を舐めまわしたいとかどうとか」

「これはまたひっでえ言いようだこと」

 

 自分も日頃二人のフェティシズムに対し辛辣に表している身でありながらも、やれやれとした調子で俺は突っ込んだ。

 そんで一番自分と未来のやり取りに〝妬いていた〟本人の美月が何を言うって感じだが、秋人たちが度を越した変態性(フェティシズム)持ちで、遠慮の欠片ももなく(今のとこ文芸部部室に限定されてると補足しとくけど)アピールしまくるのは真のことではあった。

 

「そんな言い草するあんたなんて腹黒越えた全黒な癖に」

「確かに俺は全身真っ黒さ、だが黒の濃度はお前の腹に劣るぜ」

 

 いつもの毒塗れの駄弁は一度ストップしとこう。

 わざわざ屋敷の洗面所からお湯とタオルも持ってきたんだし。

 

「(持ってきたタオルでミツキの体拭いといてくれ)」

 

 俺からの指令を受けたマナはしゃきっと敬礼。

 朝起きて風邪だと判明した状況を踏まえて、用意しといたけど、案の定美月は汗まみれだった。

 湿り気のついた髪やら、汗でふにゃついた冷却シート、わざわざ別のパジャマに着替え直してたりで、人一倍鋭敏な自分の五感を前には見え見えだ。

 暫く男はいてはいけない状態になるので、一旦退室すべく立ち上がる。

 

「どこへ?」

「どうせ朝から碌に食ってねえだろ、作ってやるから待ってろ」

 

 昼飯作る旨を伝えて出ようとすると、何やら美月から発する〝妙な視線〟を感じ取った。

 しいて浮かんだ直感を単語にするなら……〝切望〟〝懇願〟? 〝落胆〟?

 さすがにそいつは穿ち過ぎか。

 

「どうした?」

「何でも……ほら、さっさとこんな気持ち悪い汗からおさらばしたいから行って」

「あいよ」

 

 バタリと扉を閉めて、一度美月の部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 マナは子狐形態から人間形態へと変化させた。

 桶のお湯は彼女の妖術で40℃前半をキープしている。

 それにタオルを浸すと、あやちゃん――彩華から習った〝バッター絞り〟で余分な水気を出し、美月に服を脱いでほしいと頼もうとしたところ。

 

「………」

 

 美月がどこか、残念そうな顔を見せていた為、マナも少し呆気に取られた。

 

「っ! 何を考えるのかしら……私ったら……バカ」

 

 すると、急に我に返った様子でぼそぼそと愚痴を零し始めながら、交差した両腕で自分の体を強く抱きしめた。

 澤海ならある程度〝読める〟かもしれないが、マナからは美月の気持ちを上手く読みとれずにいた。

 もしかして澤海に拭いてほしかったとか?

 マナはそう思ったったがまさかと思った、いくら〝好き〟でも〝人間〟は自分の体を他人(ひと)に見られるのは恥ずかしい生き物だとあやちゃんから聞いたことあるし。

 

「みつき?」

「あ……何でもないわまマナちゃん、まずは背中からお願い」

「うん」

 

 美月はカーディガン、パジャマ、インナーの順で脱ぎ、そこらのモデルとは比べ物にならない均整のとれた白磁の美しい背中を見せた。

 マナは確実に多数の異性を虜にする魔性の肉体を、濡れタオルで丁寧に拭き始めた。

 

つづく。

 


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