境界の彼方~G-ゴジラ-を継ぐ者~   作:フォレス・ノースウッド

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間が空きましたが、前回の特別篇の続きです。
シンゴジの劇中に関するネタバレと考察があるので、注意………と言っても今となってはネタバレ塗れな現状ではございますが、念のため。


シンゴジ大ヒット特別篇-山根博士との対談その②(※ネタバレ考察あり)

 ある日の明晰夢の中で、人の器を得たけったいなゴジラである黒宮澤海は、山根博士と対面してしまい、大きさはゴジラザウルスくらいだが、見てくれはゴジラそのものな姿のまま、初代様の出る一作目劇中でも出てきた博士の屋敷の中庭で、コーヒーをご馳走になった。勿論カップも量も身長約12メートルな自分に合わせた特大サイズである。

 

「(あんたは俺の夢が生んだ幻か? それとも……)」

「実を言うとだね、私は本物の〝山根恭平〟そのものだ」

 

 芳醇で濃い香りと苦味を堪能して一服させてもらった俺は、山根博士当人に、正体を尋ねてみると、博士本人は俺の意識が生み出した幻ではなく、本物であると答えた。

 

「いわばこの世界は、私の潜在意識と言えるものが作り出した代物で、どうやら何らかの形で君の意識がここにアクセスされたようだね」

 

 付け加えられた博士の説明を纏めると、まずこの山根博士はオキシジェン=デストロイヤーで、初代様とともに芹沢博士が東京湾で心中してから以降の彼だ。

 博士曰く、1954年からは10年以上経ったらしいが、その間に新たなゴジラは現れることなく、しかしゴジラとは別種の巨大生物――怪獣が頻繁に日本に現れるようになり、対巨大生物防衛の為の第四の自衛隊が組織され、メーサー殺獣光線車が正式にロールアウトされたばかりの頃、らしい。

 つまりは………後々人類が初代様を生体サイボーグにして同族殺しの兵器に仕立て上げてしまう〝大罪〟を犯すことになる、世界だと見ていいだろう。

 ゴジラな俺からしたら、あの世界を舞台にした映画は、東京湾で静かに眠っていた初代様に〝同族殺し〟の汚れ仕事を押し付けておいて、仲間だの共に戦おうだの、挙句我々の勝利だの虫の良いことほざいて開き直る人間たちに腹が立ってしまったので、余り好きではない方だ。

 これはあくまでゴジラ当人から見た評価なので、傑作扱いしているファンは大目に見てくれ。

 

「どういうわけかは私にも図りかねるが、意識が現実に目覚めている間この夢のことは一切忘れてしまう一方で、ここでの私の屋敷の書斎には、あらゆる世界のゴジラの情報が記された書物が、たくさん保管されていてね、中には物語形式の小説として記録された本も沢山あるのだよ、ある世界では虚構の産物だと知った時は、さすがに驚いたがね」

「(その割には博士、今は受け入れてるみたいだが?)」

「どれだけ突飛な現象でも、まずはその仮定して受容し、直感とイマジネーションを最大限に活用し、あらゆる可能性を導き出すことこそ科学的姿勢なのだよ、でなければ人間社会から見た謎の数々は曲がりなりにも解明されてはいない」

「(それもそうか)」

 

つまりは………この夢はゴジラ限定のアカシックレコード、または二人で一人の探偵の片割れな魔少年の頭ん中の本棚みたいなもんなのか。

 ゴジラ映画ファンの奴らにとっちゃ、羨ましくてたまらなさそうな世界だ。

 

「(あんたにとっちゃ、まさに天国だなここ)」

「その通りだ、現実では忘れてしまう代償も苦にならないほどに、君たちの持つ生命の神秘をとことん探究できる理想的環境だ、実際こうして本物のゴジラたる君とも会えたのだからね」

 

 これまた博士は、年老いた馬顔な容姿とは正反対に、少年そのものな眩しい瞳と笑みを見せてきた。

 その笑顔を見ただけで、どれだけこの古生物学者が俺達に畏敬を抱き、惹かれ、入れ込んでしまっているかは一目瞭然だ。

 はっきり言って俺らゴジラが実在する世界じゃ、マッドサイエンティストと揶揄されてもおかしくない、実際初代様の原作小説での山根博士は迎撃作戦を妨害したりと、吐き気もするくらい不快を催す典型的マッドじじいである。

 その原作小説の方を含め、他の科学者だったらいくら俺達のことを力説しても〝勝手にしろ〟を切り捨てるのに、この山根博士からは不快さを抱かないどころか微笑ましくも見えてしまうのは、博士自身の人柄と人徳がなせる技だろう。

 

 ん? 確か、あらゆる世界のゴジラと、さっき博士は言ったよな?

 

「(じゃあ、一度目は蒲田から、二度目は鎌倉から上陸したゴジラのことは知ってるか?)」

「ふむ………ここの書斎は夢を見る回数を重ねる度、蔵書数は増えているのだが………今のところ君の言うゴジラは存じないな、どんなゴジラかね?」

 

 どうやら、いわゆる『シンゴジ』はまだ知らないらしく、興味津々に身を乗り出して聞いてきた。

 俺も最近劇場で見てきたばかりである、なのに既に10回以上はリピートしちまっている。

 そんだけゴジラの片割れな自分から見ても、『シン・ゴジラ』は面白い。

 面白さを語ろうにも、その面白さを抜き出すと仰山出てきて迷い、何度も何度もバカに高い鑑賞料払って見てしまうくらい抜きんでた傑作扱いである。

 破壊描写、特に闇夜のカタストロフは最高に痺れたし、実は強力でとんでもない、俺達の噛ませ犬によくされる現代兵器の恐ろしさ、それを諸に受けてもケロッとしてる俺らゴジラの絶望を突きつける頑強さも改めて認識できたし。

 全編畳みかけるほどハイスピードなテンポも然り、過剰に情緒を盛り付けて感傷に訴える要素排除したソリッドなシナリオ然り(本当副長官と米大使が元恋人じゃなくてよかった………もしその設定採用されて一刻も争う状況で長々とキスなんか始めてたらフ○ックと吐き捨てて中指立ててたところだ)、ブラックユーモア溢れる官邸内の会議室と現実で進行している深刻な事態との温度差も然り、スピンオフ見たくなるくらい面白い連中が揃った巨災対然り、洋画でよくある、ギャレゴジでもやらかしてた困った時にすぐボタン押す等の雑な核兵器描写への痛烈なアンチテーゼも然り。

 何よりこれでもかとシンゴジの恐ろしさを演出し、過度に美化にもせず、かと言って極端に汚くかつ醜くも装飾もせずシンゴジに翻弄される人間たちを描いていたもんだから、クライマックスの、シンゴジの天敵のいないそのトンでも生態を逆手にとったヤシオリ作戦(舌がないから口の中に薬飲まされても吐きようがない、逆に舌のある自分含めた他のゴジラではああは行かなかった)は良い意味で〝お互いの生存を賭けた戦い〟として見ることができた。

〝生き延び、種を残す為に戦う〟ってには、どの生物にも平等に持っている権利ってやつだ。

 

「(そいつは人間の八倍の遺伝子量の持ち主で、世代を経ずに短期間に形態を変化させやがるとんでもな驚異的自己進化能力の持ち主でさ――)」

 

俺はシンゴジの物まねも交えながら説明する。

 第一形態は劇中では尻尾と背中ぐらいしか見えず、元は海棲生物だったのを踏まえて、中略。

 

「(死んだ魚みたいな目ん玉と半開きの口にこの体勢で、『わぁ~あぁ~あ!』とラリッた感じ蒲田を進撃しやがってたな)」

 

 うつ伏せになり、両腕は使わず這うように進んでいった蒲田のあいつまたは蒲田君こと第二形態の歩き方を再現して見せる。

 

「君の言う死んだ魚の目で充分に想像はできたから無理に再現せんでもいいんだぞ」

「(あ……すまねえ)」

 

 猛禽類みたいに自分のは白目が隠れている目ん玉なものだから、あの気色悪い目つきの再現は苦労した。無理に見開いたせいで自分にはあるがシンゴジにはない瞼(でもギャオスみたいに遮光板はある)をパチパチさせる。

 なまじ人間社会に暮らしているのもあって、正直初めて蒲田君を見た時は気持ち悪かったし、〝細胞が常に崩壊と再生を繰り返している〟ことを示す、首の鰓から出てくるいかにも腐臭を帯びてそうな体液など臭そうで臭そうで、自分があの場にいたらさっさと熱線で匂いを焼いて消し飛ばそうとしただろう。

 俺もベーリング海の底でこの姿に落ち着くまでには………相当嫌悪感を持たれそうな変異を繰り返してたんだろうな。

 

「ガァァァァーーオォォォ――ン」

 

 次に第三形態になって二足で立ち上がり、天に向かって初代様の鳴き声を響かせた流れを見せる。

 この辺の咆哮の流用は白状すると、シンゴジ独自の鳴き声を作ってほしかったとも思っている。

 

「急激な進化で体内の原子炉の冷却が追いつかず、一度海に戻ったと言うわけか」

「(正解、さすがだな)」

 

 やはり科学者だけあり、俺の説明とパントマイムだけで生態をすっぱ抜いた。

 

「(マグマが流れる岩肌みたいなケロイドの皮膚とイメージしてくれよ)」

 

 さて次は、陸上でも長時間活動できるようにデカく、表皮も堅く進化した第四形態。

 一見同じ二足歩行なようで、両手の掌を空に向け、上半身はほとんど動かさず、尻尾は地に付けず常に振って歩くシンゴジの歩き方は、やってみると自分のとかなり違うってのが分かった。

 

 さて、次は熱線だ。

 まず背びれを光らせる、紫に光らないのはご愛嬌。

 次に空に向かって口から黒煙、それに続いて赤い炎を出し、それを集束させて某巨○兵のプロトンビーム風の熱線を出し、体内放射の応用で、背びれからの乱れ撃ちをも披露した。

 色が青なのを除けば、音も含めてほぼ完ぺきである。

 けどさすがに背びれ乱れ撃ちは疲れるな………ガス欠で360時間もお寝んねするもの納得だ。

 

「さすがに私も、ヤシオリ作戦には同意せざるを得ないな」

 

 一連の説明で、ゴジラ抹殺一辺倒な世論に苦言を呈していたさしもの山根博士も、劇中では〝人知を超えた完全生物〟と称され、84年版では渋々取りやめた某米国による核攻撃を本当にやりかけた(ギャレゴジでは実際水爆ぶち込んでただご馳走与えただけだったなんて醜態を見せてたけど(笑))ゴジラ界隈でも屈指のとんでも生態なシンゴジには、苦笑交じりでこう表せざるを得なかった。

 

「それで君は、そのゴジラに対してどういう印象を持ったのかね?」

「(進化を楽しんでいるって、感じだな、ある意味で無邪気)」

 

 俺は博士からの質問に、素直に初見時に抱いた印象を述べた。

 たった数時間で、人類史などより遥かに長い長い、何代にも渡る時間を掛けていった海棲生物の陸上進出を成し遂げるくらいだ………肉体がどんどん変質していくことに、むしろ快感を覚えていたのかもしれない。

 ちょくちょく東京に来るのと、例のラストの尻尾のあれは――

 

「(牧博士のみぞ知るってやつだな)」

 

 牧悟郎、ぶっちゃけシンゴジでの一連の怪獣災害を引き起こした元凶な困ったさんである。

 

「君の説明と、その牧悟郎なる人物の境遇、半減期が20日と言う未知の放射線を見るに、東京湾に入水すると同時に放射性物質を餌とする海棲生物でしかなかったゴジラに急速な進化を齎す作用を与えたのは、確かだろうね」

 

 俺の見立てでは、牧博士は東京湾でゴジラとなる〝フランケンシュタインの怪物〟と、心中する気だったと見ている。

 放射線で愛する者を奪われ、人生を狂わされた自分自身と、放射線の根絶を果たす為の研究材料でしかなかった、放射性物質を餌に生きる海棲生物に、テレビ越しで初代様が暴れる姿をじーっと見ていた芹沢博士みたく、放射能、ひいては人間の犯した大罪で狂わされた者同士、奇妙な共感を持っていたのかもしれない。

 その過程で、放射線を変質させる何らかの発明をした………それこそオキシジェン=デストロイヤーや抗核バクテリアに匹敵するほどの。

 しかし、米国含めた国々にその発明を悪用される可能性に行き着いた博士は、このまままた驕れる人の思惑に振り回されるくらいなら〝好きにやってしまえ〟と、〝私は好きにした、君らも好きにしろ〟なんて遺言と一緒に、わざと研究データを分けてクイズの形で残し、こっそり何らかの形で海棲生物ごと、愛憎入り混じる故郷の日本に帰国し、自前の船にもヒントを幾つか残して東京湾に身を投げ、自らの発明品で心中しようとした………多分、食われでもしたんだろうな。

 わざわざ残したのは、海棲生物――ゴジラが、死ぬどころかさらなる進化を遂げる可能性を直感とイマジネーション、長年の研究と経験で導き出していたから、と言えなくもない。

 

 まあ結局、本当のところ――真相ってやつは、博士本人が身を投げた東京湾の底で、永遠に封印されてしまったんだけどな。

 

 そんな牧博士を、不気味だと表した意見もネットでちらほら見かけたが、俺の場合はちと違う。

 

 俺にとって〝ゴジラ〟とは、単に俺自身を差す名でも、人間様どもの前に常に立ちふさがる怪獣の名だけではなく、〝楽園(あんじゅう)の地を追い出された者〟と言う意味合いでもある。

 そういう意味では、牧博士もある意味で―――〝ゴジラ〟だ。

 

 そう結論づけるに至ってカップに入っていたコーヒーを飲み終えると………耳が草木をかき分けてこっちに向かい走ってくる生き物の足音を捉えた。

 

「おう、今日も来たのかね?」

「がお♪」

 

 その生き物が中庭に現れ、山根博士の下に来て、彼に頭を撫でられていた。

 

「…………」

 

 博士と仲良さそうなそいつに、俺は目が点になって口はシンゴジみたく開きっぱなしになっていた。

 何しろそいつは、サイズはワンコくらいで、妙に可愛い方面でデフォルメされてはいたが、溶岩流れる岩肌みたいな表皮、ティラノ並みに異様にちっちゃい両腕、かみ合わせ悪そうな不揃いな歯の持ち主なそいつは――

 

「紹介がまだであったな、この子は最近この夢に現れるようになって、よく私のところに遊びにくるラプ君だ」

 

 ――今まさに話題に上がっていたシンゴジ第四形態であった。

 

「ほらラプ君、お客さんに挨拶なさい」

「がう♪」

 

 そのラプ君と博士に呼ばれたチビゴジは、死んだ魚の目とは程遠く生気溢れ、それどころかまさにヒーローに憧れるお子さんまんまなキラキラとした憧憬の目つきで、俺を見上げてぺこりを一礼して挨拶した。

 

 どういう原理はさっぱりだが、夢の中とはいえ………〝人類とゴジラ〟の共存をちゃっかり実現してしまっているこの山根博士………おそろしや。

 さしのもゴジラな自分でも、これには驚嘆させられるのであった。

 

 

終わり

 


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