境界の彼方~G-ゴジラ-を継ぐ者~   作:フォレス・ノースウッド

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第二章
プロローグ - とある少女


 ある……少女の話をしよう。

 その少女は、ひたすら〝苦痛〟に耐え続ける日々を強いられていた。

 異界士の道に入る以前、当時中学生だった彼女は同級生から、明文化するだけでも虫唾の走る、陰惨で、凄惨で不快な〝黒〟に満ちたいわゆる苛めを受けていた。

〝転機〟となるその日も夜も、〝金〟を用意しなかったと言うだけで、奴らは肉体と精神の両方に暴力を彼女に叩きこみ続けた。

 夜遅くの公衆トイレは、少女の悲鳴を一切、外へと漏らさず遮断する。たとえ仮に聞いたものがいたとしても、助けようとする〝度胸〟のある奴は、そうそういない。

 でなければ、連中の行為がここまで悪化する程〝野放し〟にされてはいない。

 誰も彼も、彼女の身の周りには〝悪意〟を止めようとする存在は……存在しなかった。

 

 そんな最中、結果として〝彼女〟を救う者が現れる。

 

 既に成人を過ぎた若い男は、この日本ではそうお目にかかれない本物の黒い〝凶器〟を少女に投げて寄越した。

 ショップで売られているエアガンでもモデルガンでもない〝本物〟だと知らず、屑の一人は再び理不尽なる暴力を与えようとした。

 既に一連の〝苦痛〟で肉体が、それ以上に〝精神〟が崩壊する限界にまで来ていた少女は、咄嗟の防衛本能のまま、引き金を引いてしまう。

 火薬が炸裂し、火を噴く銃身から放たれた鉛の弾丸は、人の皮を被った屑の額を貫いた………当然、即死、肉と骨の塊は倒れ込み、頭部から漏れた赤の液体は床を妖しく染め上げる。サイレンサーが装備されたことで、本来轟く爆音はほぼ掻き消され、異変は外へと飛ぶことはない。

 目の前の惨状を受け入れられずにいる残りの屑たちが悲鳴を上げるその前に、少女はさらにトリガーに掛けた指に力を入れた。

 一人は心臓を貫かれ、もう一人は背中を撃たれる。急所は外れたことで、全身は出血と激痛の地獄を味わいながらもまだ尚、息があった。

 少女は躊躇せず、最後の一人の後頭部に、完全な絶命に至らせる一発撃ち込んだ。

 

 

 

 

 これが今回の事件の中心人物である少女の〝分岐点〟の一幕。

 

 

 

 

 ヒトは単色だけじゃない、温かな色だってあると知っている今でさえ〝種族〟としてはドライに捉える自分の〝目〟から見れば、これらの出来事と、これから紡がれる出来事に対しては………〝辛辣〟な言葉しか浮かばない。

 

 その日彼女に殺された連中に対しては何も感じないし、感じようがない。踏みとどまれるチャンスは何度もありながら無碍にし、暴力の重みも意味をも知ろうともせず、背負う覚悟もなしに、自分の生を自分から〝無〟にした奴らに、何を感じようと言うのだ?

 

 誰も彼女を苦しみから解放しようとしなかったからって、慈愛の仮面を被って〝罪過〟を着せ、少女の〝従順さ〟を散々利用した〝男〟に対しても、救い難い〝下郎〟だとも思う。

 

 その少女に対しても、救い主の〝本性〟を知らなかったとは言え、半ば〝自分〟を捨てて、そいつから言われるがままの〝殺人マシン〟の皮を被ってしまい、そいつが犯そうとした罪を一度たりとも止めようとしなかったことには、どうしても手厳しい言葉が出てきてしまう。

 

 

 

 

 まあ……〝あいつ〟なら〝罪〟を理解していても、糾弾することはできず、むしろ感情移入してしまうだろう。

 

 甘いと言い切るのは簡単だ、けど俺は俺なりに、あいつの想いには理解も示す気だってある。

 

 

 

 ともかくこれは、文字として端的に表現すれば〝苦痛〟の二文字しかなかった少女の―――〝物語〟である。

 

 


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