境界の彼方~G-ゴジラ-を継ぐ者~ 作:フォレス・ノースウッド
本当は一本の話の内に、シンゴジの予告絡みで二人を対談させたかったけど、肝心の新予告がまだ劇場限定状態なので、仕方なくパート分けに(汗
黒宮澤海――ゴジラである俺は、夢の中にいた。
いわゆるこれは夢だと自覚できている――明晰夢。
で、今見ている夢の世界ってやつは、鮮やかな青空の下、どこかの山間の草原で、風に揺れる草たちの上で、ゴジラの風体で佇んでいた。
いわゆる俺は、映画で言うと〝VSシリーズ〟に当たる世界にいた個体で、白目がほとんど隠れた猛禽系の目、哺乳類の趣きもある小さめな頭部、二列の歯並びと言った特徴は同じだが、各映画に出てくる自分(きぐるみ)と、微妙に違う見てくれである。
スーツに喩えるなら、頭と顔つきと鳩胸はギドゴジ北海道、目はチェレンコフ光を連想させる青、首はバトゴジ以降のくらいの太さで、ベーリング海の底に長いこと眠っていたせいかギャレゴジと同じ鰓が三対あり、背びれはあるイラストレーターの描いたポスター風の配列とボリュームで(一番近いのは、本編の丸っこいイメージが強いと誰だお前なメカゴジの初期デザインが描かれたVSメカゴジラのやつ)、腹部と四肢はビオゴジに似ている―――な感じだ。
視界から推察するに、背丈は恐竜だった頃の自分、ゴジラザウルスくらいみたいだ。
しかしこれはまったけったいな夢だな……とりあえず目が覚めるまで暇つぶしに歩いてみるかと足を一歩踏み出した矢先、背後から視線の気配を感じる。
「(誰だ?)」
と言いながら振り返った。
ゴジラの時は人語を発せないので、傍からはただの鳴き声にしか聞こえたいが………って、え?
夢の中なのに、幻でも見てしまったように、目を手で擦ってしまう。
俺に視線を送っていた者の正体は、人間の男だった。
白髪交じりで歳は大体五〇台ほど、面長ながら知的な印象も受ける馬顔に、知的さをより引き立てる髭に眼鏡、その面持ちとぴったり組み合う、袖部分を腕まくりにした白衣。
少年の如き眩さを、この年頃でも失っていない瞳。
俺は彼を見たことがある………しかし、実際に会ったことはない。
なぜなら――
「(山根……博士?)」
1954年、初代様が東京を火の海にした様を直に目にし、水中酸素破壊剤――オキシジェン=デストロイヤーを使いつつも、自らの肉体と魂を贄にしたことで初代様の魂を鎮めてくれた悲劇の科学者、芹沢博士の〝師〟に当たる古生物学者、山家恭平博士その人だった。
勿論、数あるゴジラが存在する世界の中で、俺のいた世界にも博士は実在してはいたが、当然俺は面識などあるわけがなく、彼のことを知ったのは〝ゴジラ〟ら怪獣がフィクションの産物な世界に転生してからのことである。
とにかく………〝常識〟をぶっ壊すことに自覚が大ありな自分でも、その山根博士と、夢の中とはいえご対面するとは思ってもおらず、驚きを咆哮で表現することさえできずにいた。
「おぉ……夢にまで見た瞬間だ」
対して博士は、初代様の足跡の中で生きた三葉虫を見つけた時以上に、今この地上に降り注ぐ太陽に負けない勢いで輝いた瞳から発する眼差しを俺に向けて、少年そのもの奈軽やかな足取りで近づいてきた。
姿はゴジラそのものな上、心理学では一番恐怖を感じやすい大きさである俺に全く恐れを見せせず。
「握手してもらっても、よいかな?」
「ガァっ!?(何だって!?)」
それどころか、右手を出して握手まで求めてきた。
「(ほらよ)」
断る理由も特になかったので、膝を曲げて屈みこみ(こちとら本物、着ぐるみでは限度がある動きもお手のもんなのさ)、自分の右手を差し出した。
大きさの関係上、握りれないこっちの手を両手でがっちり触れ、強く上下させる。
すっかり俺は博士に半ば圧倒されている格好………何とおすごいお方だか。
「ここで立ったままも何だろう、私の住まいに来なさい、客人としてもてなすよ」
「ヴォウ……(はぁ……)」
景気よく歩き出した博士の背中を見つめた俺も、その場から初代様のとそっくりな足音を鳴らして後を追った。
そう言えば、暇を見つけての遊泳を除けば戦闘以外で普通に歩くの、久しぶりだったなと気が付き、妙に気分がウキウキし始めて、尻尾もいつも以上に振り回してしまっていた。
そうして暫く森の中、博士に付いていくと、案の定、初代様の劇中に出てきた〝住まい〟が現れる。
正面玄関と中庭が、映画で見たのとそのままなので、間違いないだろう。
「ささ、座りなさい」
「………」
その中庭には、ゴジラザウルス並の今の自分の大きさにぴったりな円形のクッションが置いてあった。
まあせっかくもてなしてくれているんで、ご厚意に甘えて、地球最大の決戦での二代目っぽくクッションに座り込む。
「座り心地はどうかね?」
「(わるくねえ)」
人語を発せず、お馴染みの吠え声しか出せないのに俺と普通に会話している博士だが、夢の中なので気にしないことにした。
「コーヒーでよかったかね?」
「(ああ、ブラックで)」
しばらくすると、ローラー付きのオートで動くお盆が、ホットコーヒーの入っている俺の大きさに合わせたカップを乗せてやってきた。
さすが夢、何でもありだ。
俺はカップを右手に取り、一服する。
この歯形でカップに入った液体を零さず飲めるか懸念もあったが、意外に上手くいった。
「お口に合ったようで何よりだよ」
少々濃い目に淹れられた深みのある苦味が、舌に心地いい。
「(ところで、山根博士)」
「何かねゴジラ君? 質問があるならいくらでも私は大歓迎だが」
「(あんたは――俺の夢が生んだ幻か? それとも………)」
「なるほどそれは確かに当然の疑問だ、実を言うとね、私は本物の〝山根恭平〟なのだよ」
その②に続く。