『信長の庶兄として頑張る』   作:零戦

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第四話改

 

 

 

 

「誰何?」

「犬千代です」

「入れ」

 

 とある日の夜半、物音に気付いた信広が誰何をすると相手は犬千代だった。

 

「信行様から書が届いています」

「信行から?」

 

 年の差からあまり面識が無いはずの信行からの書に信広は些か戸惑いつつも文を見る。

 

「……あの馬鹿……」

 

 信行からの書は簡単に訳すと「御姉様を討ちましょ兄様」であった。

 

「犬千代、至急信長様に伝えろ。信行が謀反を起こす」

「何と……判りました。直ぐに向かいます」

 

 ちなみに信広は居城を持ってない。織田信光が存命なので信広が城主になる必要は今のところない。

 

「兵を集めよ!! 信行を討つ!!」

 

 信行謀反を聞いた信長の行動は早く、僅かではあるが七百あまりの手勢の兵を揃えた。

 

「これはこれは信広殿」

「おぉ丹羽殿、兵糧の方は抜かり無いですかな?」

「勿論ですぞ」

 

 戦の準備の中、信広は城の米倉で丹羽長秀と話していた。この長秀は前々から信長に仕えていた。

 

「しかしあれですな。信広様が薦められた麦飯は健康に宜しいようですな」

「うむ、いつ戦があるか判らんから白米より麦飯にしておくのが良い」

 

 白米も良いが脚気に気を付けないといけないからだ。特に豊臣秀吉の死因も脚気も一因であると言われ、更に江戸時代でも脚気は流行した。

 また明治の日露戦争の時でも白米を導入した陸軍も多数の患者を出した。ちなみに海軍は麦食を導入していたから脚気の患者0である。なお、陸軍の軍医の一人に森鴎外がいた。

 

(蕎麦の導入も早めにしておくかな。そば粉で麺はもう少し先らしいが、早めにしよう。何故なら俺は蕎麦が好きだから。(断言)勿論拉麺も好きだけどな)

「信広殿、信長は勝てますかな?」

「心配するな長秀殿。戦は数では決まらんものよ」

「成る程」

「まぁ鉄砲で指揮官を潰せば後は烏合の衆だがな」

「ハッハッハ。これは一本取られましたな」

 

 信広と長秀はそう笑いあっていた。そして翌日、面白い事が起きた。

 

「何? 勝家が我等に付くと?」

「は、手勢千名を従えて清洲に向かってきます」

 

 史実だと信行側に付いた柴田勝家であったが何と信長側に付いた。恐らくは葬儀の件や新型種子島の件で信長の評価が変わったのだと思われる。

 

「ククク。信行の奴、今頃は末森城で震えているだろう」

(怖いぞ信長……)

 

 柴田の参戦に気を良くしてニヤリと笑う信長に信広は溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

「もう~勝家が裏切るなんて予想外だよ」

 

 一方の末森城では信長に謀反を起こした信行がプンスカと怒っていた。信行の予想では柴田勝家も信行側に参戦すると思っていたからだ。しかし、実際に勝家は信長側に参戦してしまった。信行の想定外の事だった。

 

「信行様、此処は籠城なさるか土田御前様を通して助命するかです」

 

 信行に味方する林秀貞はそう具申した。隣にいる林通具も頷いている。兵力の差があるため最早そうするしかない。

 

「それは最後の策だよ。とりあえず御姉様に痛撃だけは食らわして助命するよ」

「判りました」

 

 柴田がいれば信行側は勝てたかもしれないと信行側は思っていたが史実では負けて林通具が討死している。

 

「……のぅ通具よ」

「何じゃ?」

「我等は少し信長を過小評価していたのかもしれんな」

「……だろうな。だが我等は信行様に忠誠を誓っている。刀折れ矢尽きようとも従うのみだ」

「うむ」

 

 林兄弟はそう頷きあったのである。そして両軍は稲生で衝突をした。後に稲生の戦いと呼ばれる戦いだ。

 

「突っ込めぇい!! 信行様のために信長を討ち取るのだ!!」

 

 林通具が先頭に立ち信行軍が突撃する。

 

「兄様、鉄砲隊を!!」

「うむ。鉄砲隊構えッ!!」

 

 この時信広は信長の鉄砲隊を指揮していた。信長曰く「新型種子島をよく知っているのは兄様」との事だ。今いる鉄砲隊は新型種子島四丁、種子島三十丁だ。

 

「撃ェッ!!」

 

 三四丁の種子島が火を噴き、たちまち十数人を薙ぎ倒す。

 

「鉄砲隊は下がれ!! 全軍突っ込めぇい!!」

『ワアアァァァァァーーーッ!!』

 

 信長の叫びと共に一斉に兵達が駆け出した。そして斬り合いになる。此方が敵を斬れば敵も味方を斬る。まさに乱戦である。

 

「敵の大将を狙え!! 味方を支援するのだ!!」

 

 信広は鉄砲足軽達にそう指示をして自身も新型種子島を持ち弾丸を装填し照準して射撃をする。他の鉄砲隊も交互になるよう射撃をしている。

 

「……引け引けェッ!!」

 

 そうしているうちに信行軍が退却しだした。やはり柴田勝家がいない信行軍は烏合の衆であった。林兄弟がいるが兵力が無ければ意味は無い。

 

「追撃だ!! 信行がいる末森城を包囲するのだ!!」

 

 合戦に勝利した信長軍はそのまま信行が籠る末森城を包囲した。

 

「信行に降伏を促すか、それとも……」

 

 陣内で信長はそう悩んでいた。

 

(敵とは妹だしな……史実の信長も身内にはかなり甘かったらしいしな。その分、敵は滅ぼすけど)

「申し上げます!!」

「うむ」

 

 そこへ使い番が陣内に駆け込んできた。

 

「土田御前様が御到着されました!!」

「何? 母上が?」

「吉法師!!」

 

 そこへ信長の母親である土田御前が陣内に乗り込んできた。そして結果から言うが土田御前は信行の助命を申し上げた。信長もこれを了承して末森城に使者を派遣して降伏を勧告。

 信行もこれを受け入れ末森城を明け渡して信行の身柄は一旦信長が預かる事になった。そして信長軍は末森城に入城した。

 

「とりあえずは終わったな信長」

「だがまだ末森城の城主を決めなければならんぞ兄様」

「信光殿で良くないか?」

「叔父上は那古野城主だ。他に手が空いているのは……兄様のみだ」

「……俺にやれと? 正直申すが俺に内政はあまり自信が無いぞ」

「構わぬ。最初は失敗してもいい。私もそうであった」

「………(それは本当なのか? 俺が知っている限りでは成功しているよな? 長槍とか鉄砲の購入とかさ……)分かった」

「それに何か新しい物を作っているではないか兄様? それを試すのも宜しいのではないですか?」

「……あれか(まだ数台しか出来てないけど……まぁそれも踏まえてやるか)信長様、末森城主引き受けましょう」

「大義である」

 

 結果、信広は末森城主になった。

 

 

 

 

「末森城主就任、真におめでとうございます」

「楽にして構わんよ長秀」

 

 信長が兵を引き上げてから数日後、長秀が信広に就任挨拶をしている。長秀は信広を補佐するために信広の家臣となっていた。

 

「堅苦しいのは俺も好かん。まぁ今日は飲もうじゃないか」

「左様ですな」

 

 その日の夜、信広は長秀と遅くまで飲んでいた。それから翌日、軽い二日酔いの信広は長秀と共に近くの農村に来ていた。

 

「これが千歯扱きという物ですかな?」

「あぁ。木製の台に付属した足置きを踏んで体重で固定し、櫛状の歯の部分に刈り取った後に乾燥した稲の束を振りかぶって叩きつけ、引いて梳き取る」

「信広殿は凄い物を作りましたな」

「たまたまだ。だが普及させるかは微妙だな」

「と言いますと?」

「千歯扱きは扱箸に代わる物だ。扱箸の脱穀は戦や病で夫を亡くした未亡人の貴重な収入源だ。千歯扱きはこの労働を潰すかもしれん」

「ふむぅ、我々から見れば画期的な物ですが農民――未亡人から見れば厄介者ですな」

「最初は少数の生産をして見極める必要があるな……」

 

 千歯扱きを普及すれば未亡人をどうするかが焦点である。無闇に取り扱えば農民達から信長への支持が無くなるのは必須であった。

 

「……歩き巫女に変装して各国の情報を集めてもらうかな」

「ほぅ。まるで忍の者ですな」

「そうそう忍……って忍雇うか」

「はい?」

 

 信広の言葉に長秀は唖然としていた。

 

「これからの戦は情報が大事になる。だから忍は必要なんだ」

「左様ですか。ですが撫子殿がおりますが……」

「いくら撫子が優秀な忍だろうと限界はある」

 

 そう言う長秀であったが表情はあまり釈然としていない様子だった。時代が時代かもしれないのだろう。

 

「とりあえず帰るか」

「御意」

 

 信広達ら農村の人達に礼を言って末森城へと戻り、急ぎ伊賀へ使者を派遣した。

 

「それで税だが……」

「やはり五公五民でしょう。もしくは北条氏のように四公六民をやれば……」

「俺が尾張の大名だったならそれで良いかもしれんが、実際は信長だ。信長に合わせよう」

 

 信広のところで四公六民、他のところは五公五民だったら農民達は信広の元に集まり他の税収は極端に悪くなるだろう。信広はとりあえずは五公五民に併せておいた。

 

「判りました。裏作は如何しますか?」

「そこまでは取らん。裏作まで取れば一揆になるわ」

 

 裏作は農民の貴重な食糧であり収入源でもある。

 

「俺達の食事も健康のために麦飯するから。それに鶏の肉や卵も食用として認めるから食え」

「それは良うございますな。しかし信広殿、鶏や卵は仏の教えでは禁じられております」

「構う事は無い。俺や信長も遊んでる時によく食べてたからな」

「た、食べてたのですか!? ……よく見つからなかったものですな」

 

 長秀は驚きながらも少し呆れた表情をしていた。

 

「一応お触れは出しておくが、食べるのは自由にしておく」

「承知しました。しかし信広殿は色々と御存知ですな」

「ん、ま、まぁな。堺等にコッソリ派遣したりして聞いたりしからな(やべ……)」

「成る程」

 

 信広は咄嗟に誤魔化した。しかし真実は言えないので出来るだけ誤魔化しておく事にした。とりあえず政策は未来の知識を活かしておく。それから十日後、伊賀に送った使者が忍を連れて末森城に帰ってきた。

 

「そちが忍か?」

「ほっほっほ、某は元忍です。老いましたので、代わりにこの者がやりまする」

「………」

 

 翁が手をポンポンと叩くと一人の忍が現れて信広に頭を下げる。

 

「名は飛龍。中々の働きをする忍ですぞ」

「そうか。何れは織田に忍軍団を創設する。その時は軍団の中核を頼むよ」

「は、ありがたき幸せ」

「ほっほっほ。それはそれは、我々の能力を買っておいでですな」

「戦はただ勝つだけではない。いかに味方の戦力を損耗しないで済むかだ。場合によっては敵の後ろで攪乱もしてもらう。それが忍の一つの役目……じゃないかな翁よ?」

「ほっほっほ、否定はしませんぞ。飛龍よ、よき者に巡り会えたと思うぞ」

「は」

「そうだ。御礼に千歯扱きをやるよ」

「ほぅ。何ですかなそれは?」

「あぁ、実はな……」

 

 後に伊賀から感謝として忍五人が送られた。男女の忍であるが五人とも優秀な忍だった。

 

「ところで信広殿、信長様に忍を雇うと言いましたか?」

「……忘れとった」

 

 

 

 

 




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