『信長の庶兄として頑張る』   作:零戦

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特別編

 

 

 

 

 

 織田家が日ノ本を統一してから十年と九年の時が過ぎていた。天下統一をした織田信長は征夷大将軍を朝廷から承り、江戸に江戸城を大坂に大坂城を築いて江戸城にて幕府を開いていた。なお、今は職を信行に譲り自身は大御所となっている。

 

「伊達及び奥州の大名は蝦夷の住民と協力して蝦夷を開発せよ」

 

 大老(信長達の夫)に就任した信広は伊達政宗達にそう命令をして奥州の大名達は蝦夷を開拓していた。後の歴史を考えて早めに千島や樺太を手中に治めたい考えであった。

 更にはガレオン船十五隻を使用して琉球、台湾をも攻略中だった。後に琉球と台湾は嫁の実家である島津の領地となる。

 

「兄様、民の暮らしはどうだ?」

「それはお前がいつも見ているだろ? 気付くと町で博打しているんだから」

 

 信長は相変わらずであり、気付けば江戸の町で博打をしていたりする。信広に言わせてみれば何処の暴れん坊将軍である。ちなみ負け越しているらしい。

 

「奇妙もいると勝てるんだが……」

「奇妙も巻き込むんじゃない」

 

 信広と信長の子である奇妙丸(後に信忠)はスクスクと育ってはいるが、性格は信長に多少似ていた。信長の子は奇妙を長男に次男茶筅丸、三男三七がいる。

 

「ふむ……博打が出来んならやる事は一つだな兄様?」

「……昼間からするんじゃない」

「………」

 

 着物を脱ごうとする信長に信広は溜め息を吐いたが、信長は信広の態度に気に食わなかったのか無言を貫いた。

 

「どうした信長?」

「……昨日は誰とした?」

「……早雲と道三、慶次」

「一昨日は?」

「秀吉と氏康、忠勝」

「その前は?」

「宗麟と紹運」

「その前は?」

「晴朝、信綱、時茂、高虎、通直、直虎」

「その前は?」

「義弘、義輝、隆信、長慶、政康、良直」

「その前は?」

「順慶、左近、宗滴、義景、長慶、政康」

「その前は?」

「早雲、氏康、撫子」

「申し分はあるか?」

「……ありません」

 

 信広は信長に土下座をしていた。それはもう立派な土下座である。

 

「全く……大体は兄様が陛下の御冗談を間に受けるからこの有り様だぞ」

「てめ、陛下の目を見て言え!! あの目は本気だぞ!! 陛下の落胤の娘と正室だぞ!! 俺の胃が死ぬわ!!」

「その後もその落胤の娘とちょくちょくと会っているそうだな?」

「………」

 

 信長の指摘に信広は冷や汗をかきながら視線を反らした。

 

「し……支援しているだけだ」

「そして源氏物語か? 確かまだ齢十五だったな?」

「何でそうなるんだよ!! そりゃ近衛とかはそうなるように願っているけどよ!! 俺の胃の心配をしろよ!! わざわざ久秀から指南書を借りて書き写してもいるんだぞ!!」

 

 相変わらず三河にいる久秀に信広は頭を下げて指南書(セックスのハウツー本)を借りて写本して皆と頑張っていた。(意味深

 

「それならまだ聞くぞ? 大名からビードロ職人に転向したはずの宗麟が何で側室にいる?」

「……暴漢から助けたらそのまま居着いた」

「……よし、もうヤるぞ」

「ちょっと待てェ!!」

 

 怒鳴る信広を信長は無視して事を始めるのであった。そんな様子をたまたま通りかかった二代目将軍の信行は溜め息を吐いた。

 

「……信広お兄様に政で相談したかったけど、二刻は無理そうだね」

 

 そして小性に暫く部屋に入らないよう指示を出すのであった。そんなある日、京都所司代村井貞成が大坂城の秀吉の下へ訪ねてきた。

 

「……これは本当なの貞成?」

「御意でございます」

 

 貞成の報告に秀吉は溜め息を吐いた。貞成が差し出した糾問書は公家の乱脈ぶりが書かれていたのだ。

 

「……これはあたしの判断じゃ無理だね。信行様行きだよこの事案は……」

「直ぐに早馬を……」

「分かっているよ」

 

 直ぐに大坂から江戸へ早馬が向かわれるのであった。大坂からの早馬に信広は何事かと思ったが糾問書を見て溜め息を吐いた。

 

「……これはアカンやろ……」

 

 思わず前世の関西弁が出てしまう信広だった。

 

「(そういやこの事件があったな……)……信行、どうする?」

「どうするも何も……これはやるしかないよ」

「うむ、公家の乱脈ぶりが白日の下に晒された。それこれは好機だ」

「何が好機なの御姉様?」

「幕府による朝廷への介入は元より公家の制御にもなろう」

 

 そして信行は決断した。

 

「天子様に関白を通じて報告しましょう」

 

 糾問書は時の関白である九条忠栄は届けられた。一目した忠栄は糾問書に書かれた人物に激怒する。

 

「これが……これが公家のする事か!!」

 

 忠栄は直ぐに広橋兼勝の屋敷を訪れて事の真相を問いただした。話を聞いた兼勝は泣きながら忠栄に語る。兼勝の娘は関係者だったからである。

 

「忠栄殿、何卒……何卒娘の助命を……」

「……全て御決めになさるのは天子様です」

 

 泣きながら忠栄に懇願する兼勝に忠栄はそう告げ、兼勝と共に京都御所へ赴いた。

 

「天子様の女御に恋を仕掛けるはこれ邪恋にあらずや!! 玉座に仕える女官と姦婬に及ぶはこれ不忠の極みにあらずや!!」

「御前でござりまするぞ」

「御前ならばこそ言上つかまつる!! 宮中の不祥事とは正しくこの事でござる!!」

 

 忠栄はそう言って貞成の糾問書を元関白の近衛信尹達に見せる。

 

「これなるは所司代村井貞成の糾問書にござりまする」

 

 糾問書に信尹達はまさかという表情をする。そこへ響き渡る鈴の音。忠栄達は天子様――後陽成天皇に頭を下げる。

 

「忠栄、読み上げよ」

「………」

「名指しで良い」

「………」

「忠栄」

「は……」

 

 そして忠栄は糾問書を読み上げる。糾問書に書かれた参議烏丸光広は声を荒げる。

 

「ぬ、濡れ衣じゃ!!」

「静かに!!」

 

 声を荒げる烏丸に信尹はそう告げる。

 

「………」

 

 糾問書を聞いた後陽成天皇は無言のまま立ち上がり、その場を後にするのであった。

 

「関わった全員を捕らえよ」

 

 貞成は直ぐに行動を開始して姦婬に関わった公家と女官達を捕らえた。しかし、左近衛少将猪熊教利は露見した事を知るや一路九州へ逃れた。

 

「猪熊教利を捕らえよ!! 草の根を分けて何としても捜すのだ!!」

 

 信広は九州の三大名である龍造寺隆信、立花宗茂、島津義久に命じて猪熊教利捜索を命じたのである。

 

「関わった者どもは全員死罪を処せ。例え女官であろうとだ!!」

 

 激怒する後陽成天皇は忠栄にそう命じた。しかし、この時従来の公家の法には死罪は無かった。忠栄は自ら江戸城に赴き、信行達と相談をする。

 

「死罪だな」

「死罪です」

「死罪しかなかろう」

 

 三人は死罪で賛成していた。

 

「しかし女官をも……」

「女官は尼で手を打ちましょう。どうやら猪熊は言葉巧みに女官達を誘い出したようですからな」

 

 信広の言葉に忠栄は内心安堵の息を吐いた。兼勝との約束も何とか守れそうだからだ。

 

「天子様には某も赴いて説得しましょう」

「感謝致します」

 

 そして信広は忠栄と共に京へ赴いた。

 

「信広、此度は済まない」

「いえいえ、陛下の役に立てればと思い、参りました」

「女官達は助命して尼にしろと?」

「陛下、死罪にするのは簡単ですが、未来での陛下の評価を考えますと全員を死罪にとは難しいかと……」

「未来か……」

「は、寛大な処置をすれば後の世の人々も陛下の温情に心を打つでしょう。ですが一歩間違えれば小泊瀬稚鷦鷯尊(おはつせのわかさざきのみこと。武烈天皇)のように何を思われるかは分かりませぬ」

「ふむ……あい分かった。信広らの通りにせよ」

「はは」

「済まぬな信広」

「いえいえ、構いませぬ」

 

 そして九月、日向で潜伏していた猪熊が捕らわれ京へ護送されてきた。同月二三日、所司代村井貞成より以下の処分が発表された。

 

『死罪 左近衛少将猪熊教利

 牙医兼安備後

 左近衛権中将大炊御門頼国

 左近衛少将花山院忠長

 左近衛少将飛鳥井雅賢

 左近衛少将難波宗勝

 右近衛少将中御門宗信

 参議烏丸光広

 右近衛少将徳大寺実久

 

 恩免 新大典侍広橋局

 権典侍中院局

 中内侍水無瀬

 菅内侍唐橋局

 命婦讃岐』

 

 となった。恩免となった女官達は全員が尼となるのであった。後に幕府は公家の乱脈ぶりを憂慮し公家衆法度、更に禁中並公家諸法度が制定するのである。

 

「はぁ……帰りに大坂城の秀吉のところに行って秀頼の顔でも見るかな」

 

 事件で疲れた信広は大坂城に赴き秀吉と秀頼に会うのである。

 

 

 

 

 

後書きという名の舞台裏

 

猪熊事件とは簡単に言えば公家達が陛下の女官達と乱交するという事件です。これを聞いた後陽成天皇は激怒します。「全員死罪」とかなり激怒していたらしいです。ニコ〇コにある葵徳川三代でこの事件を扱っているので興味ある人は見ては如何でしょうか?

葵徳川三代も面白い




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