『信長の庶兄として頑張る』   作:零戦

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お久しぶりです。アルファポリスの作品に集中していました。


第二十七話

「……三好が織田に負けた……ですか」

 

 甲斐国の躑躅ヶ崎館、甲斐を治める戦国大名である武田信玄は畿内からもたらされた一報に目を細めた。

 

「は、その後三好長慶は織田に降伏した模様です」

「……どう思いますか勘助?」

「……三好は畿内は元より四国の阿波、讃岐を所有しております。その三好が織田に頭を下げたとなると兵力、資金はかなりの物になりますな」

 

 軍師として信玄を支える山本勘助はそう分析した。実際にほぼその通りであり織田は三好を取り込んでいた。しかし思い通りにならないのもある。それが四国であり前話でも記載したが四国の三好長治は異父兄の細川真之と手を組み、讃岐の国人・香川氏、香西氏らと共謀して三人衆に反旗を翻し、瞬く間に讃岐を手中に治めた。それに呼応するかのように阿波の国人までもが三好家から離反してしまい、三好家の本拠地である阿波、讃岐は敵対していたのだ。

 信長は三度の降伏を書状で促したが阿波と讃岐は降伏を拒否して徹底抗戦の構えを見せて淡路島を攻略した。

 

「降伏しないなら攻撃するまでよ」

 

 二国の対応に信長は素っ気なくそう言った。信長は三好三人衆に淡路島の奪還を命令、三万五千の兵力を得た三好三人衆は淡路島に強襲上陸して三好長治の軍勢を淡路島から追い落としたのである。

 

「……織田信長……備えなければなりませんね。ですがやはり今の当面は謙信ですね」

 

 信玄はそう呟くのであった。その一方で織田側はどうしていたかというと……。

 

「畿内で残っているのは一色か……」

「それより浅井を片付けたい」

「そうですね~美濃尾張からの道は伊勢伊賀を通して行けれますが難所もありますし近江は平らげてはと思います」

 

 信広の意見に半兵衛が賛成をしていた。場所は二条城の隣、妙覚寺で評定をしている。

 

「近江となると……高虎、首尾は如何に?」

 

 信広は視線を高虎に向ける。向けられた高虎は一礼してから口を開く。

 

「水面下での交渉で磯野員昌、宮部継潤、朽木元綱が降伏を打診してきました」

「うむ、領土安堵はしてやろう。寝返りはいつか?」

「織田が浅井を攻める時にです」

「デアルカ。なら浅井攻めを最優先とする」

「一色はどうする?」

「向こうから仕掛けてくるまで放っておこう」

 

 信長は一色の対応は向こうが仕掛けてくるまでは何もしない事にし先に浅井を片付ける事にした。そして信長は五万四千の兵力を以て佐和山城を拠点に北近江攻略に乗り出すのであった。

 

「織田が来るだと? 朝倉と組んで返り討ちにしてくれるわ!!」

 

 織田侵攻を小谷城で報告をうけた浅井久政はそう激昂した。

 

「でもお父様、織田は三好をも組み込んでいるし勝ち目はないよ」

「何だと? 貴様は黙っておれ長政!!」

「うぅ……」

 

 激怒する久政に長政はそう言われ、その場を後にする。そこへ家臣の宮部継潤が長政に声をかける。

 

「殿」

「あ、継潤。ごめんね、お父様を説得させれなくて……」

「構いませぬ。それより殿に朗報があります」

「朗報?」

「は、此処ではあまり……」

「分かった。あたしの部屋で聞くよ」

 

 二人は長政の部屋で話し合う。

 

「先に謝罪致します。申し訳ありませぬ」

「……その様子からして継潤は織田に降ったんだね?」

「……はい。久政様には……」

「それ以上は言わないで継潤。あたしがお父様の幽閉を解いたのが間違いだったんだ。お父様は悪くないよ」

「……は。それで織田側は降伏すれば長政様、久政様は助命すると……」

「……継潤。織田が攻めて来たらあたしはお父様を連れて出陣するよ。継潤はその間に小谷城を占拠して」

「殿……」

「……あたしが出来るのはこれくらいだよ」

 

 長政はそう言って笑うのであった。そして織田軍は浅井・朝倉連合軍と姉川の河原にて対陣した。朝倉は朝倉景健を総大将にした八千の援軍を送り、三万の兵力となっていた。

 

「朝倉が援軍として来るなら問題ない。この戦は勝てるぞ!!」

 

 久政はそう近習に漏らしたが当の朝倉はそんな気はなかった。

 

「三好を吸収した織田では朝倉に勝ち目はない」

「そうなの宗滴?」

「えぇ。我が朝倉は越前一国のみ。織田はそれ以上です」

「うーん、宗滴がそう言うなら仕方ないよね。でも浅井に援軍を送ったよね?」

「頼まれたので出しただけです。景健には危険と判断したら撤退しろと言い含めています。それに水面下で織田に密使を送りました」

「分かった。それなら宗滴に任せるね、それじゃ蹴鞠してくるよ」

「あ、義景様……はぁ」

 

 後を任された宗滴は溜め息を吐きながら今日も政に励むのである。それは兎も角、信長は隊を二つに分けた。

 

「浅井・朝倉連合軍の側面を突く。光秀、やれるな?」

「御意」

 

 信長は光秀に一万の兵力で側面攻撃をさせる事にし、光秀を総大将に忠勝、道三、西美濃三人衆の武将も参戦し夜半のうちに信長隊から分離して姉川の上流付近に待機した。一方で信長の本陣は信広の他に三好長慶、高虎、直虎、島左近、筒井順慶が布陣していた。

 

「掛かれェ!!」

『ウワアァァァァァァーーーッ!!』

 

 信長の号令と共に足軽達は雄叫びを上げて浅井・朝倉連合軍に突撃していく。対して浅井・朝倉連合軍も同様で両軍は姉川で激突した。

 

「押せェ!!」

 

 織田軍は数を頼りに浅井・朝倉連合軍を攻め込むが連合軍は攻勢を凌ごうと必死である。

 

「種子島を織田軍に放て!! 中央突破してやる!!」

 

 浅井家家臣の遠藤直経が種子島隊に指示を出して二百丁の種子島が織田軍の中央部隊を蹴散らす。遠藤をその隙を逃さなかった。

 

「行くぞ!! 目指すは信長の頚だ!!」

 

 遠藤直経は手勢二千を率いて中央突破を計ろうとする。しかし、織田軍もそれを許さない。

 

「敵が中央突破を仕掛けてくるぞ!! 鉄砲隊構えェ!!」

 

 信広の鉄砲隊八百がすかさず新種子島を構えて攻め込む遠藤隊に照準を合わせる。

 

「撃ェ!!」

 

 距離三百で八百発の弾丸が次々と発射されて遠藤隊に襲い掛かる。そしてその内の一発が遠藤の左太股を貫通した。

 

「グハァ!?」

「直経様!?」

 

 馬に跨がっていた直経は落馬こそしなかったものの、得物の槍を手放してしまう。直経の負傷に気付いた近習達が直ぐに直経の周りを囲み直経を守ろうとする。

 

「俺に構うな!! 突撃するんだ!!」

 

 近寄る近習達に直経はそう叫ぶ。その間にも遠藤隊は織田軍に突撃していくが信広の種子島隊に阻まれてしまう。

 

「直経様、お味方の被害は甚大でございます!!」

「ぐぐぐ……」

 

 伝令の報告に直経は顔を歪めた。突撃する機会は既に失っていたからだ。

 

「……直ちに引き退く」

「はは!!」

 

 直経は悔しそうな表情をしながら後退するのであった。

 

「何!? 直経が後退しているだと!!」

「は、伝令によりますれば突撃はしましたが織田軍の種子島で直経様が負傷して後退したとのございます」

「えぇい腑抜けめ!!」

「お、お父様。押さえて、負傷したんだから仕方ないよ」

「黙れ長政!! 御主は黙っておれ!!」

「………」

 

 久政の怒号に長政は口をつぐんだ。今の久政は激昂して判断が付かなかった。

 

(このままじゃ……)

 

 意を決した長政が口を開こうとした時、本陣に一人の伝令が雪崩れ込んできた。

 

「も、申し上げます!!」

「何じゃ?」

「そ、側面から織田勢が攻めて参ります!! その数凡そ一万です!!」

「な、何じゃと!?」

 

 伝令からの報告に久政は驚愕した。そして徐々に聞こえてくる雄叫びの声。

 

「ふ、防げ!! 防ぐのじゃ!!」

 

 久政は慌てて迎撃の命令を出すが、それはあまりにも遅すぎた。

 

「我は本多忠勝でござる!! 雑魚に用は無いでござる、将は出合え候でござる!!」

 

 一番槍は忠勝であり、光秀の側面隊は浅井軍と激突するのであった。

 

 




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