『信長の庶兄として頑張る』   作:零戦

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第二十六話

 

 

 

 

「実はな、今日二人を呼んだのは他でもない」

(……何だ?)

「……わらわは今日を以て将軍の位を退く。わらわの代で室町幕府を終わらせる」

「「……はい?」」

 

 義輝の言葉に二人は思わず同時にそう呟いたのであった。

 

「言葉通りだ。室町幕府は今日で滅亡だ!!」

「「……はあぁぁぁぁぁーーーッ!!」」

 

 義輝の宣言に二人の叫び声が二条城に響き渡る。

 

「……いやいやいや、ちょっと待ってくれません義輝様。頭が追い付いてません、えっと将軍の位を退くと?」

「うむ。退いて幕府を消滅させる。最早幕府に力が無いのは分かったからのぅ。それならば今のうちに将軍職を返上した方が良い。あぁ、既に畏きところには伝えておいたのじゃ」

「~~~」

 

 信広は頭痛がしてきたと思った。そして信広が次にとった行動は……。

 

「この……大馬鹿野郎!!」

「あいた!? な、何をするのじゃ!!」

 

 義輝を殴る事だった。なお、傍らにいた信長は信広の行動に唖然としている。

 

「何をするもないだろ!! 何で今の段階で将軍職を返上するんだ!! 今、将軍職を返上してみろ、織田家が幕府を潰したと他の大名から認識されて織田が包囲されるかもしれないだろ!!」

「それは承知済みじゃ」

「何……?」

 

 信広はジロリと義輝に睨む。

 

「三好を撃退したのじゃ。畿内の支配は織田に移り変わったと見て良い」

「それで何で将軍職返上に繋がる?」

「……羨ましかった」

「ん?」

「わらわは小さな頃より逃げ回り、いつしか人を信じられなくなった。だが御主達はいつも仲良く笑いあうほどの主従関係じゃ。羨ましくて憎いと思ってしまうほどじゃ」

「……それで?」

「織田なら日ノ本を任せられると思った。だがただで退くわけにはいかん。ならせめての抵抗をしたまでじゃ」

「……兵を挙げるとかは考えなかったのか?」

「阿呆。今の幕府の力で兵を挙げれるわけなかろう」

「まぁ、そうなるな」

「だから将軍職の返上なのじゃ」

「理になっている……のか?」

「まぁ良いじゃないか兄様」

 

 納得しない信広に信長は苦笑しながらそう言う。

 

「室町最後の将軍からの試練だ。受け取ってやろうではないか」

「……気楽で良いよな……」

 

 ハッハッハと笑う信長に信広は溜め息を吐いた。それは兎も角、義輝は陛下に将軍職を返上して室町幕府はその日を以て消滅するのであった。

 

「ところで信長よ。わらわを雇わぬか?」

「ほぅ、足利を織田で雇うのか?」

「わらわは剣の腕前は上手いからのぅ」

「腕前だけだろ……ちょっと待て。まさか今回の事は剣を振りたいだけじゃないだろうな?」

「……何の事かのぅ? わらわは前線で刀を振り回したいとかは思ってはおらぬのじゃ」

 

 信広にそう指摘された義輝は視線を明後日の方向を見て素知らぬ顔をする。

 

「……ちょっとこいつ琵琶湖に沈めようか。撫子達は手伝ってくれ」

「任された」

「そんな事をしたらわらわは死ぬじゃろ!?」

「心配すんな。お前の事は三日で忘れてやるから」

「忘れるな!!」

「まぁ良いじゃないか兄様。織田を拒む者がいるなら踏み潰せば良い!!」

 

 信長は豪快に宣言をする。そしてなし崩し的に義輝は身分を隠して信広の元で仕える事になる。なお幽斎は信長の直臣となっている。

 

「忠勝と組ませると暴走して収拾がつかなくなるから馬廻衆にしておくか」

 

 悩みの種が増えた信広は深い溜め息を吐いたのであった。そして信広は清水寺で一人の武将と会った。

 

「怪我の具合はどうかな十河一存?」

「まぁまぁって具合だな」

 

 信広は捕縛した三好の重臣である十河一存と面会していた。一存は白の寝間着を着ていたが、部屋に風が吹いて一存の左腕部分がヒラヒラと靡く。

 

「左腕が無いが不自由は無いか?」

「そうだな……静養しているから鍛練が出来ないのが不自由だな」

「ククク、そうか鍛練はなぁ……」

 

 一存の言葉に信広は苦笑する。

 

「それで……三好はどうなっているんだ?」

 

 先程までとはうって変わって一存の表情が真剣な表情に変わる。

 

「……はっきりと言えばガタガタだな」

「……そうか」

 

 織田との戦い後の三好は家中内でガタガタであった。長慶は十河一存が生死不明な事もあり心労で飯盛山城で寝込む日々が続いている。

 政康達三好三人衆は長慶に代わって取り仕切っているが、家中内は寝込む長慶に愛想を尽かし次々と離反が相次いだ。

 特に四国の三好長治は異父兄の細川真之と手を組み、讃岐の国人・香川氏、香西氏らと共謀して三人衆に反旗を翻し、瞬く間に讃岐を手中に治めた。それに呼応するかのように阿波の国人までもが三好家から離反してしまい、三人衆は本拠地阿波の援軍を得られなくなって畿内で孤立していた。

 

「三好長治の父親は三好実休は姉さんの弟でもあり俺の兄だ。長治は心の中で姉さんの事を恨んでいたかもしれないな……」

 

 一存は溜め息を吐きながらそう言う。

 

「それで織田は三好をどうする気なんだ?」

「俺としては降伏を促して三人衆とかを確保したいけどな。うちのは頭が固いのが多すぎる」

「あぁ、俺とやりあった柴田は固そうだな」

(忠勝とかもだけど言わんとこ……)

 

 口には出さない事にする信広である。

 

「それで姉さんの身柄はどうなる?」

「別に?」

「……は?」

「いやまぁ織田で将として働きたいなら登用するぞ。勿論お前もな」

「……それで良いのか?」

「筆頭の信長があんなんだからな」

「……苦労してそうだな」

「随分と苦労してる」

「そうか……俺も久秀には苦労したな……」

 

 何故か愚痴る話し合いになる。

 

「まぁそれはさておき、俺としてはちゃっちゃと畿内を確保したいわけだ。そこでだ十河一存、お前飯盛山城に俺と行かないか?」

「……降伏を促すのか?」

「お前の顔を見たら長慶も元気になるだろ。そうなると戦局も理解出来て素直に織田に頭を下げるだろう」

「まぁ姉さんは頭の回転が早いからな。それにこれだけの状況なら下げるのが適格だ、俺も普通に下げる。ただし、条件がある」

「……謹んで承ろう」

「俺を織田の武将として前線に出す事だ」

「……今のお前は片腕だぞ?」

「片腕だからどうした? 俺は武人だ、死ぬなら戦場で死ぬ。左腕が無くてもまだ右腕がある。右腕がやられようとも口に得物を加えて戦う。例え断られようとも俺は戦場に出てやる!!」

「……それを聞きたかった」

 

 信広はニヤリと笑う。

 

「十河一存の身柄は俺が預かる。お前の武勇を俺に見せろ」

「おうよ!!」

 

 両者は互いに笑いあうのであった。そして信広は信長に飯盛山城に行く事を告げる。

 

「兄様自ら赴くのか?」

「あぁ。長慶は一度会っているからな」

「頭を下げる勝算は?」

「……五分五分だろうな。上手く行くとは限らないからな」

「……分かった。出陣の用意はしておこう」

 

 信長はそう言った。そして信広は一存や護衛の撫子達と共に飯盛山城に向かうのであった。

 

 

 

 

「一存さん!? 生きて……いたんですね……」

「おぅ長逸。済まなかったな」

 

 十河一存生存を聞き付けた三好三人衆の一人である三好長逸が大手門まで駆けつけた。

 

「今までどちらに?」

「織田の捕虜になっていてな」

「捕虜……まさかその後ろの方々は……」

「織田信広だ。三好長慶に会いに来た」

「……一存さん」

「うん……姉さんはいつもの部屋だな?」

 

 何かを察した長逸は頷き、一存は飯盛山城に入城する。信広もその後に続く。

 

「姉さん!!」

 

 一存が勢いよく長慶がいる部屋の障子を開ける。寝込んでいた長慶はいきなりの声に首を動かして視線を一存に向けて目を見開いた。

 

「……一存……?」

「おぅ、十河一存だ。戻ったぞ姉さん」

「……一存ァ!!」

 

 長慶は飛び起きて一存に飛び付く。そして左腕が無いことに気付く。

 

「左腕が……」

「織田の鉄砲でな。それで姉さんに会わせたい奴がいる」

 

 一存はそう言って信広に視線を向けた。

 

「お前は……」

「会うのは二度目だな三好長慶。織田信広だ」

 

 信広は一旦は別の部屋にて待機して改めて呼ばれた。

 

「……お前が此処にいるということは織田に頭を下げろという事だな?」

 

 少し窶れてはいるが、覇気が戻った長慶は信広にそう問う。二人の他には三好三人衆に一存がいる。

 

「あぁ、三人衆や一存達から情勢は聞いたと思う」

「長逸達には迷惑をかけたと思う。済まない」

「大丈夫ですよ~長慶様~」

「ちょっと大変でしたが……」

「あたしはいつも通りよ」

「政康は政が出来ないからですよ~」

「何ですって!?」

 

 そう言い合う三人衆に信広は苦笑する。長慶も苦笑していた。

 

「三好長慶、降伏……してもらえないか?」

『………』

「………」

 

 信広の言葉に場は静まり、視線を長慶に向ける。

 

「……一存はどうだ?」

「……ここいらが潮時だと思う。現に俺は織田側の使者として来てるからな」

「まぁ、そうだな」

「長逸達は?」

「残念ながら……」

「四面楚歌ですから~」

「あたしも仕方ないと思います」

 

 長慶は視線を信広に向けて姿勢を整える。

 

「織田信広、三好家は織田家に降伏する」

「御英断……感謝致します」

 

 畿内を押さえていた三好家は織田家に降伏した。その報は諸国に巡るのであった。

 

 

 

 




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