『信長の庶兄として頑張る』   作:零戦

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第二十一話

 

 

「……怪しいやろ」

 

 郡山城で興福寺の僧兵が合流して色めき立つ城内で筒井家の将である島清興(通称左近が有名。以後は左近)はそう呟いた。

 からくり好きで南蛮の部品を使って製作したカラクリ左近という武器を使う左近であるが戦略、戦術にも精通していた。

 

「僧のハゲどもが救援に来るかいな」

 

 左近は嫌な予感を覚えつつ順慶に具申をした。あまり興福寺を信用するなと。しかし順慶はそれを一蹴した。

 

「元々興福寺は大和の守護を担うような事をしていましたわ。織田なんぞに興福寺が屈するわけありませんわ」

 

 だが順慶の予想は否定されていた。興福寺は既に織田家に頭を下げていたのである。いくら興福寺でも朝廷や畏き所の圧力を受けてツルピカの頭を織田に頭を下げるものだ。しかも二万石あまりの領地を朝廷からお墨付きも効いていた。

 興福寺の僧兵が合流してから二日後、信広軍は郡山城を包囲していた。

 

「……どうなっても知らんで……」

 

 左近はそうぼやきつつ城内を警備する事にした。そして大手門に行くと数人の興福寺の僧兵が門に何かの箱を置くと直ぐに何処かへ行った。

 

「何やあの坊主ども……」

 

 左近はそう愚痴りつつ箱を見た。箱の傍に火が付いた紐があり、火は徐々に箱の中に入ろうとしていた。

 

「……アカン!!」

 

 左近は直ぐにその場を離れようと今来た道を引き返した。その瞬間、箱が爆発して左近は吹き飛ばされて気絶した。気絶した左近を尻目に大手門の門は破壊されていたのであった。

 

「信広様、合図です!!」

「全軍、掛かれェ!!」

 

 大手門の爆発に好機と判断した信広は全軍に攻撃を開始させた。そして破壊された大手門に忠勝の部隊が斬り込みをかけた。

 

「てやァァァァァッ!! 忠勝の槍の味、存分に味わうで御座る!!」

 

 忠勝は馬上から得物の蜻蛉切を振るいつつ筒井兵を吹き飛ばしていく。また、小太郎達忍びも火薬箱を使って他の城門を爆破させていた。

 

「小太郎殿、南門等を爆破させてきたで御座る」

「よし、なら他の部隊の援護に回ろう。死者は一人でも少なくしないとね」

「御意」

 

 忍び達は再び闇に潜む。一方で筒井順慶は城門爆破に焦っていた。

 

「織田家……城門を爆破するとはやりますわね。急いで防戦するのです!!」

 

 筒井兵達は信広軍に負けじと応戦するが、味方だった筈の興福寺の僧兵が突如、筒井軍に攻撃を仕掛けて来たのである。

 

「順慶様、興福寺の僧兵どもが裏切りました!!」

「何ですって!?」

 

 家臣からの報告に順慶は驚愕していた。

 

「おのれ興福寺!! 直ぐに対処しなさい!!」

「はは!!」

 

 しかし、僧兵は前もって郡山城に入城していた事もあり何処の場所にでも僧兵が点在していた。そのため僧兵に二の丸が占拠される事態も起き、遂に僧兵は本丸と天守台を占拠してしまう。

 

「この裏切り者!!」

 

 縄で捕らわれた順慶は僧兵達を睨み付けるが僧兵達は知らぬ顔である。僧兵達は此処で直ぐに順慶を信広に渡せば良かった。

 

「五月蝿いなこの女」

「まぁ落ち着け。それにこの女、中々の持ち主じゃないか」

 

 僧兵達は順慶の身体を見つめる。その身体は一般の女性より豊かな物であった。

 

「まぁ……ちょっとばかりな」

「あぁ。頂いても構わんだろう」

 

 僧兵達の視線に順慶は背筋が凍った。

 

「な、何ですの……」

 

 順慶は思わず後退りをするが僧兵の手が順慶の服を破いた。その破いた衝撃で順慶の豊満な胸が見え僧兵達の性欲を増長させる。

 

「キャアァァァァァ!?」

「暫くは楽しませてもらおうか」

「イヤ……イヤァァァァァ!!」

 

 順慶に僧兵達が群がり、その悲鳴は虚しく天守に響き渡るのであった。

 

 

 

『………』

 

 織田の陣営は異様な雰囲気に包まれていた。信広の御前には順慶と気絶していたのを捕縛した左近の二人がいた。しかし、順慶の様子はおかしかった。

 

「(明らかにレイプ目じゃねぇか……)直虎、直ぐに風呂を用意して筒井殿を綺麗に差し上げろ」

「御意」

 

 直虎は順慶を連れて下がる。そして信広は左近に頭を下げた。

 

「島殿、此度は申し訳なかった」

「……いや戦で破れたらああなる事もあるとウチは認識してたわ」

「いやそれでもだ島殿。此度は申し訳なかった。彼女に取り返しの付かない事をした」

 

 そして信広は左近に土下座までした。土下座までした信広に流石の左近も目を見開いたのである。

 

「……あんた織田の大将やろ? そんな易々と土下座までしてええんか?」

「信長が天下を取るためなら俺は土下座までしてやるよ」

 

 信広の態度に左近は好奇心を覚えた。

 

「……さよか。そんならええよ」

 

 左近は好奇心を覚えつつ一旦はその場を後にするのであった。そしてそれを見ていた久秀はクスクスと面白そうに笑っていた。

 

「軽蔑したか久秀?」

「いいえ、改めて貴方は面白い人物だと認識したわ。それで順慶に乱暴した僧兵はどうするのかしら?」

「無論、生まれて来た事を後悔させるまでよ」

 

 久秀の言葉に信広は殺気を周囲に出しつつそう言う。久秀は信広の殺気を浴びても気持ち良さそうにしていた。

 

「外道にまで堕ちない事を祈るわ」

「そこまでするかよ」

 

 久秀の言葉に苦笑する信広だった。そして順慶を強姦した僧兵達は縄に縛られながら信広の前に引き摺り出された。

 

「……四の五は言わん全員の首を刎ねろ。地獄に落ちろ糞野郎ども!!」

 

 太刀を抜いた信広はそう言って一人の僧兵の首を刎ねた。それを合図に足軽達が僧兵の首を刎ねたのである。

 

「刎ねた僧兵の鼻を削いで興福寺に送ってやれ」

 

 削いだ鼻は直ぐに興福寺に送られ、翌日には興福寺から別当自らが謝罪に来た。

 

「申し訳有りませぬ。我等は織田に逆らうのは本意には有らず!!」

「……郡山城の攻略を支援してくれたのは確かだ。それに順慶に乱暴した者は既に我等が首を刎ねた。それで水に流そう」

「あ、ありがとうございます!!」

「だがな別当。次にいらぬ事をしてみろ……興福寺という物が大和国から無くなるからな? それを覚えておくのだ」

「は、はは!!」

 

 これ以後、興福寺が織田に逆らう事はなかった。後に発生する一向一揆では大和国の一揆を直ぐに押さえて大和の安全を図るまでする事になる。

 それは兎も角、一先ずの戦を終えた信広は具足を外してとある部屋に赴いた。その部屋は筒井順慶がいた。

 

「……気分はどうだろうか? いや、やはり優れんか」

「いえ、左近から事の顛末を聞きました。ありがとうございました」

 

 順慶はそう言って信広に頭を下げる。

 

「いや俺は何もしていない」

「そんな事ありませんわ。わたくしのためにして下さったのです。感謝しますわ」

「いや俺は……」

「いえいえ……」

 

 そんな会話が数回繰り返すと不意に二人で笑い出した。

 

「おかしいですわね」

「そうだな」

「……信広殿、いえ信広様、筒井家は織田家に降伏します」

「……あい分かった」

 

 順慶が正座して信広に頭を下げ、信広はそれに頷いたのであった。

 

「何か望みはあるか筒井?」

「わたくしは陪臣で構いませんが、左近は直臣にして下さい。彼女は貴方の策をある程度読んでいましたわ」

「(やはりか……流石は島左近か)そうであるか。俺もまだまだよの」

「必要ならわたくしからも一筆書きましょう。左近はわたくしのような者より信広様のような壮大な方に付くべきですわ」

「クク、褒めても何も出んぞ」

 

 そして二人は暫く談笑するのであった。

 

 

「どうだろうか? 俺の直臣にならないか?」

 

 信広は順慶と談笑した後、左近の部屋に訪れていた。来訪の用件は直臣への誘いである。

 

「………」

 

 しかし左近は正座したまま黙っていた。信広はあれこれ言ってみるが左近は反応を示さない。

 

「(やっぱ引き抜きは無理か……)分かった。そなたに感状を出すので好きにしたらいい」

 

 信広は左近に頭を下げて部屋を出ようとする。

 

「……信広殿」

「ん?」

「貴殿は天下を取れる御方やと思う。何故に信長に託そうとするんや?」

「……あいつは人付き合いが苦手な奴だ。直ぐに上から目線になるけどな、それでも根は優しい奴なんだ。だから俺が裏から支えてやるんだよ。あいつのためなら俺は土下座もしてやるし虐殺もしてやる」

 

 信広は照れくさそうにそう言った。その仕草に左近はアッハッハッハと笑い出した。

 

「ヒー、ヒー……やっぱ面白いなあんた」

「そんなに面白いか?」

「あぁ、面白いわ……よっしゃ、あんたの家臣になったるわ」

「どういう風の吹き回しだ?」

「まぁええやん。俸禄はこれくらい頂戴や」

「……多くないか?」

 

 左近が示した額は他より多かった。

 

「カラクリ左近の維持費や購入費も含めてや」

「……まぁ良いか」

 

 そして島左近及び筒井順慶は織田家に臣従するのであった。

 

 

 

~~~おまケーネ~~~

 

「あら筒井順慶じゃないの。生きてたの?」

「あーら松永久秀じゃないですの。相変わらず貧相な身体ですわね」

「……なまくさ坊主どもに襲われたくせに」

「貧相な身体で言わないで下さるかしら?」

「……何だかんだで仲が良いな」

 

 二人のやり取りにそう思う信広だった。

 

 

 

 

 




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