『信長の庶兄として頑張る』   作:零戦

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第十七話

 

 

「逃げると申すのか織田信広よ!?」

「その通りであります義輝様。観音寺城には我が方の武将が守護しておりますのでそこで信長様の援軍を待つべきです」

「漸く京へ舞い戻ったというのに……わらわにまたも京から逃げろと?」

「その通りですが何か?」

「………」

 

 光秀は義輝に一歩も引かない信広に唖然としていた。

 

「貴女が怒っただけであの軍勢に勝てると思いですか? そんなふざけた事は厠に捨ててさっさと引きますぞ」

「お、御主は……わらわは将軍であるぞ!! 猫のようにするなど……」

「黙らっしゃい!! 問答無用!!」

「ガフ!?」

 

 義輝は自身を引きずる信広に文句を言おうとしたが、信広が問答無用で腹に一発叩き込んで気絶させた。

 

「………(;゜Д゜)」

「さっさと引きのくぞ光秀。それと済まぬな幽斎」

「いえ、義輝様なら駄々を捏ねるのは想定内でしたので黙らしてくれたのは私としては有りがたいです」

 

 頭を下げる信広に幽斎はそう告げるのを尻目に光秀は思った。

 

(信広様……貴方も人の事言えないと思います)

 

 それは兎も角、義輝や信広以下の生き残りは本圀寺から南近江の観音寺城を目指した。

 この時、観音寺城には森可成と佐々成政の両武将と四千の兵がいた。

 

「何、信広様が!?」

「はい」

「承知した。この森可成が救援に向かおう。そなたらは急ぎ殿に知らせよ」

「では此れにて御免!!」

 

 撫子と彗星、佐助は両武将の前から消えた。

 

「森殿、某も参ろうか?」

「いや、佐々殿はこの城を御頼み申す。儂らが行けば六角の残党がこの城を乗っ取るかもしれん」

「成る程……なら半分の二千の兵で」

「うむ、必ず信広様や義輝様はお救い致す」

 

 森可成は直ぐに軍勢を整えて観音寺城から急ぎ本圀寺に向かうが道中の大津で後退する信広の部隊と合流出来た。

 

「御無事で何よりです信広様」

「うむ、長秀達を救いたいが此処は観音寺城に向かう」

「御意」

 

 こうして一応ながらの危機を脱した信広だった。

 

 

 

 

「何!? 義輝公が襲撃を受けているだと!!」

「御意」

「(……兄様!!)恒興!! 直ぐに二万五千の軍勢を整えて出陣させろ!!」

「あ、信長様どちらに!!」

「無論京だ!!」

 

一方、撫子の報告を聞いた信長は直ぐに小姓の池田恒興に二万五千の軍勢を整えて向かわせろと言うと馬廻衆十騎ばかりだけを率いて岐阜城を飛び出したのだ。

 

「の、信長様!?」

 

 恒興から信長の出陣を聞いた藤吉郎は前田慶次に連絡して自身も丁度集まっていた三百騎を率いて信長の後を追った。

 

「んもぅ、あたしばっかり貧乏くじを引かせて……覚えておきなさいよヒロちゃん」

 

 慶次は溜め息を吐きながら後詰めに回り、残りの軍勢を率いて観音寺城方面へと向かうのであった。

 

 

 

 

「兄様!?」

「ん、来たか信――ぐへッ!?」

 

 信長は二日かけて観音寺城に到着して、信広を見つけると思わず人目を無視して抱きついた。(史実の六条合戦でも三日かかる行程を二日かけて到着している。その時には信長の陣夫が数人凍死したりしている)

 

「お、おい信長……」

 

 抱き締めてくる信長の身体は冷えていた。それも無理はない、今の月日は一月八日であり何処かの幻想の世界では氷の妖精とふとましく黒幕で白岩さんが元気に遊んでいる冬である。

 

「……とりあえずは湯に浸かって身体を暖めてこい」

「……兄様もだ」

「は?」

「私を心配させた罰として私と湯に入れ」

 

 信長はそう言って信広を掴んでズカズカと出ていったのである。一連の行動に側にいた成政と可成、光秀はというと……。

 

「……漸く世継ぎが出来ますかな?」

「いやどうですかなぁ。信広様は奥手の方ですからなぁ……」

「(;゜Д゜)……それで良いんですかお二方?」

「「あの二人の仲の良さは尾張中の者が知っとるよ」」

 

 呑気な事を話す成政と可成を他所に光秀はまたも唖然としているのであった。

 

 

 

 

「心配させて済まなかったな信長」

「……兄様が無事なら構わん」

 

 信広は信長と風呂に浸かっていた。湯船に浸かる信広の右隣には信長が座っており、身体を信広の方向に向けていた。

 

(今なら総統閣下の気持ちが分かるな。信長のおっぱいぷる~んぷるん!! だな)

 

 遥か未来のベルリンに総統官邸の地下壕に籠るちょび髭の総統閣下を思い出しつつ信広はそう思っていた。

 

「長秀や道三達を近衛やかしこき御方の警護に回せたのは上出来だ。だが……」

「……織田信広は戦を放棄して逃走した……と思えるな」

「……あぁ。無論、兄様がそんなつもりでしたとは思えない」

「ハハハ、信長からそれを聞けて俺は安心したよ」

「だが家臣達はどう思うかだな」

「処罰は?」

「……大垣城を取り上げ、佐和山城に移動。一月の謹慎……私が出せる最大の譲歩だ。第一、兄様を討てとなると今川が我々に反乱するぞ」

「……まぁそんなところだな」

「それに兄様は貴重な戦力の一人だ。易々と追放など出来はしない」

(史実だと戦死するけどな……)

 

 信広はそう突っ込もうとしたがやめた。

 

「それは兎も角、背中を洗ってくれ兄様」

「あぁ」

「あぁそれともう一つ罰を追加しよう。此方を向け兄様」

「何だ信――んむ!?」

「ん……ちゅっ……はむ、ちゅく……」

 

 信長は一瞬の隙を突いて信広に口吸い(キス)をしていた。なお、舌を入れてる模様。

 

「……信長……」

「……兄様、今は答えを言わないでくれ」

「……分かった」

 

 そして二人は何とも言えない雰囲気の湯であった。ちなみに、信長はなおもあらゆる手で信広に色仕掛けをした。信広はその色仕掛けに性的欲求が生まれたが き あ いで捩じ伏せた。

 

「……兄様は衆道なのか?」

「違うわど阿呆」

 

 そう思う信長に断じて違うと反論した信広だった。そしてその夜中、信広は撫子を呼び出した。

 

「心配かけたな撫子」

「いやなに、信広君が無事で何よりだよ」

「そうか。それで一つ御主ら忍に仕事を頼みたい」

「は、何なりと」

「烈風や紫達の誰でも良いが、堺に赴き南蛮人の商人と接触して『―――』『―――』の設計図若しくは現物を購入……最悪盗んでも構わん」

「……魚の餌でも構わないか?」

「構わん。酒に酔って転落死はよくある事だ」

「御意、直ぐに人選に掛かるよ。堺の魚はたらふく御馳走が食えるかもね」

「今回は汚れで済まぬ。三貫を特別に出すから皆と飲んでくれ」

「御意。ありがとうございます」

 

 撫子はそう言って屋根裏から消えていくのであった。

そして慶次の軍勢が観音寺城に到着してから翌日、信長は義輝を伴い再び京に上洛した。軍勢は少し荒れている本圀寺に陣を張った。

 

「信広、先日はそなたに申し訳ない事をしたのぅ」

「いえ、気にしておりません義輝様」

 

 義輝に呼ばれた信広は本圀寺の一室でそう話していた。

 

「……信広、一つ御主に聞きたい」

「何でありましょうか?」

「わらわは二条御所、本圀寺と命に危機があった……本来、将軍を暗殺するなど到底有り得ぬ事じゃ」

(鎌倉幕府の三代将軍源実朝、室町幕府の六代将軍足利義教等は暗殺されてますよ)

 

 信広はそう思ったが義輝の前なので口には出さなかった。

 

「最早……室町の権威は無いと思えるか? 御主の言葉が聞きたいのじゃ」

「さすれば……もう商人が店を閉じようとしているくらいです」

「……そうか」

 

 信広の言葉に義輝は目を閉じた。幾分か時間が経つと義輝は目を開けると信広に視線を向けた。

 

「……あい分かった。大儀であった」

「……はは」

 

 そして信広は部屋を出ると、廊下には細川幽斎が控えていた。

 

「これは幽斎殿」

「……信広殿、義輝様に正しく教えて下さりありがとうございます」

「……後は気付くかどうかです」

「もう室町は気付いているので?」

「そこは気付いているでしょう。某が言いたいのは『返還してその後をどうするか』です」

「……そういう事ですか」

 

 信広の言葉に幽斎は合点がいったように頷いた。

 

「私はその日まで立ち合いましょう」

「……分かりました」

 

 信広は幽斎に頭を下げた。そして信広は信長から下された処分のため佐和山城へ戻った。

 

「長秀、道三殿、忠勝、苦労をかけて済まなかったな」

「いえいえ、かしこき御方の警護が出来ましたので拙者の良き思い出になりましたわい」

「そうよねぇ」

「あの時は仕方ないでござる」

 

 三人は信広の謝罪のそう答えた。

 

「ま、一月は暇だからゆっくりしてくれ」

『御意』

 

 信広はそう言って城の座敷牢を訪れた。座敷牢には一人の浅井側の武将がいたからだ。

 

「久しぶりだな藤堂高虎」

「……織田信広……大将自らお出ましとはな」

「カッカッカ、今は暇だからな」

 

 信広は笑いながら床に座り高虎に視線を向ける。

 

「なぁ藤堂。四の五は言わん、織田家に降らんか?」

「……浅井を裏切れと申すのか?」

「その通り。隠居したのに口を出す者の家に未来があると思うか?」

「!? ……よくご存じで」

「某の手元には優秀な忍がおるからの。どうだろう支えぬか?」

「………」

 

 信広の言葉に高虎は目を瞑る。幾分か経つと目を開き正座をして信広に視線を向けた。

 

「……お仕えします。ですが少々御願いがあります」

「聞こう」

「浅井久政様、長政様の助命を願います」

「それは織田が浅井に侵攻すると見越してか?」

「その通りです」

「……あい分かった、そうしよう。念のために書名しておこう」

「感謝致します」

 

 こうして藤堂高虎は信広の家臣となった。

 

「信長の家臣じゃなくて良かったのか?」

「直臣より陪臣の方が楽です。それに信長殿は会った事ないので」

「……あ、そう」

 

 なお、高虎は非常に優秀な人材であった。

 

「政は高虎に任せようかな」

「それは駄目です」

 

 信広の呟きに頭を押さえながらそう答えた長秀であった。そして謹慎処分になってから三日後、信広は鉄砲鍛冶を呼び寄せた。

 

「騎兵銃……じゃなくて騎馬でも持てる鉄砲を作ってくれ」

「今の鉄砲では駄目なので?」

「俺自身がやってみたが長い。銃身を短めにやってみてくれないか?」

「分かりました」

 

 そして後に完成するのが永禄式騎銃であった。この永禄式騎銃は射程距離は新種子島より短いが従来の種子島よりかは長いので騎馬隊は元より足軽鉄砲隊にも使用されるのがしばしばあるのであった。

 

 

 

 




とりあえず信長とは一歩前進したかな。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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